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147話 (一年と数か月の時が過ぎ……)

柚ちゃんサイドのサブタイトルには()をつけます。


また、前回の話でロゼッタのハーレム要員希望のご意見が想像以上にありました。

出来るだけ皆さんのご意見に近づけたいために軌道修正を試みます。

しばらくのお待ちを。



 〇〇〇〇年、3月1日


 私立〇〇高校、卒業。


 姫野柚。


 ミディアムの黒髪に長いまつ毛、スラッと伸びる足は同性を嫉妬させる。部活に入らずスタイルを維持しているのは柚の努力が現れている。しかし美人と称されるが故に孤独でもある彼女。


 あの出来事から一年と数か月。

 今でも鮮明に浮かび上がる絶望的なまでに私の心を蝕む記憶。

 月宮涼太。

 私が物心ついた頃から家族ぐるみで共に人生を過ごしてきた幼馴染であり、私が恋して止まなかった男の子。

 その男の子の姿はどこにもいない。


 あの後、涼君は救急車で病院に運ばれたが助からなかった。

 分かっていた。目の前で息絶えそうな彼の命を紡ぐ事など無理な事ぐらい、素人の私が見ても判断できる。

 それほどまでに酷く、そして憎い。

 全ての元凶の高橋蓮司。

 結論を言えば、主犯であるあの男は刑事裁判に掛けられ、逮捕され牢屋へ幽閉される結果となった。

 無論、学校は退学。一時期はトップニュースとして取り上げられる事にもなった。

 しかし私を含めた涼君の家族は納得出来ない。


 理由は高橋蓮司と言う害悪の親が、名の通った国家議員だった事。

 世界は不条理だ。

 どれだけの悪的行為をしようとも、巨額の金さえ積めば刑罰も軽くなる。

 所詮は力ある者が優遇され、弱くなんの力も者は事実を虚像へと変えられる。


「涼君。私ね、無事に卒業したよ」


 暗く、止む気配のない中で傘も差さずに濡れた黒髪と制服。

 果たして私はどんな顔をしているのだろう。

 果たして私は笑顔でいられているのか、

 それとも涙を流しているのだろうか。

 しかしこんな雨の中では実際に泣いているかなんて分からない。

 いや、それはそれで良かったのかもしれない。

 泣いている姿を見せるよりは、雨に濡れて混ざり合った水滴ならば誤魔化しも効くだろう。


 本当に嘆かわしい。

 全てがどうでも良い。


「やっぱり……嫌だよぉ……忘れる事なんて出来ないよ」


 両膝を地に着けてすがるかの様に目の前の石碑にもたれかかる。

 声を出すたびに嗚咽の声が脳髄に響き渡る。

 

「私には、涼君しかいないのよ」


 こんな姿じゃ、涼君も嬉しいとは思わない。

 でも、でも、無理だ。

 私には荷が重すぎる。


 

「くくくっ、よぉ」


 突如として背後から野太く、背筋が凍る声。

 背中の産毛が全て逆なでされたかのような不快感が私を包みこむ。

 心臓が跳ね上がり、鼓動が速くなっていくのが分かる。

 私は恐る恐る首を最初に、そして体をゆっくりとそれ(・・)がいる方向へ向ける。


「まさかお前に出会えるとはなぁ」

「なんで……なんであんたが……」


 体が、

 心が震え上がる。

 憎悪と憤怒、拒絶、そして恐怖が私の体を包み込む。

 

「なんでって、そりゃあな。今日が俺のシャバに出られる日だからだろ」

 

 あり得ない。

 早すぎる。


「クソォッ!」

「おっと、危ねぇな」


 煮えたぎる血が理性を飛ばし私は気が付けば反射的に目の前の憎悪に殴りかかっていた。

 しかし高橋は、まるで子供をあしらうかのように躱す。

 その勢いで私の体は地面に転げ落ちる。

 泥が私の制服を汚し、口の中に入った泥水はより一層の不快感を私にあたえる。


「何であんたがここにいるのよ」

「俺の人生をめちゃくちゃにした奴を憐みに来たんだよ」

「このゲスが!」

 

 涙が溢れ出てくる。

 こんな奴に私の涼君が殺されたのだと。

 

「本当に恨むぜ。こんな奴に俺の人生を潰されるとは」

 

 高橋は涼君の石碑の前に立ち、あろうことか足で踏みつける。

 上から見下ろし、居ない者を蔑む。

 三日月のように口を裂き、愉悦に浸ろその姿は、

 どうしようもないほどに、疑う余地もないほどに悪。

 なぜこの様な悪魔がこの世に存在しているのか。


「離れろ!」

「あん? 邪魔だ」


 私は足につかみかかるが、虫でも払うかのように蹴り飛ばされる。

 高橋は石碑に腰を下ろし、嘲笑し私を見下す。

 

「涼君に触るな」

「はぁ? ただの石に触るなとか、頭は大丈夫か?」

「うるさい」

「あー、現実が見えてねぇのか。なら俺が現実ってやつを教えてやるよ」


 ニヤリと不気味な笑みが私の体を貫き、腰が抜けて這いずる様に後退る。


「嫌ぁ! 来ないで!」

「ふへへっ、奴の目の前で犯されるんだ。乙じゃねぇか」


 唇が噛み切れて血が滴る。

 恐怖で体がすくみ、抵抗できない自分が悔しい。

 何より、涼君を侮辱された事。


 こいつにだけは涼君を語る事を許さない。

 そんな嘆きも通じない。

 いっそ、私も死んでしまえば良かったのかもしれない。

 こいつだけは心の底から憎み、恨む。


 私の肌に悪魔が覆い被さり、荒げている呼吸音が耳元に聞こえる。


「たすけ……て……涼君」

「クハハッ、すぐに俺色に染めてやるよ」


 暗く染まる絶望の中。

 突如の違和感。


「えっ……」

「何だ……こりゃぁ」


 突如として、私とこいつを包み込む光。

 涼君と昔にやっていたゲームにそっくりの、

 まるで魔法陣の様なものが現れた。


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