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144話 銀風



 会場にはいくつもの小さな竜巻が現れる。

 ひび割れた舞台の破片や、小さなゴミなどが巻き上がり飲み込まれる。


『な、なんだー!? 突然、竜巻が現れました。会場は大嵐によって荒れ狂っております!』

『嫌な予感がするのぉ……』


 あぁ、こうなる事は予想出来ていた。

 周りの極範囲の環境すら変化させる技なのだから。

 そうなって必然だろう。



「いやいや、シャルロット君も使ったのだから、いつも一緒にいる君たちも使えるだろうと予測してはいたんだけど……改めて実感するよ。君たちを敵に回したくないと」


 冷や汗を流しながらレオンはそう告げる。

 先の余裕など一切ない。

 いや、余裕はなかった。

 あったのは少しの勝機と数呼吸する時間。

 だが実際に肌で感じて実感した。

 次は自分が喰われる番だと、一瞬の気のゆるみが奈落の底へ突き飛ばすぞ……と。


 露わにしたのは銀繊の舞い踊る巫女。

 踊り子のような装束に身の丈はあるであろう扇子を片手に持つ。

 中等部にしては不釣り合いな大きさの胸がお披露目されて、縦ロールは黄金に輝くストレートヘアー。

 黄金と白銀のコントラストが舞い降りる。

 

 その美しさと変わりようにその場を目視していた人物たちが息をのむ。



「…………美しい」


 

 自然に発した無意識の言霊。

 王子レオンが発した初めての女性に対するほめ言葉になったのかもしれない。

 それほどにロゼッタの舞踏は美しかった。


「レオン様、先に謝っておきますわ」

 

 何が……?

 そう口に出そうとしたが、


 空気の圧、大砲が体に直撃したかの様な衝撃がレオンを襲いかかる。

 見るとロゼッタの扇子が開かれて振り上げた格好をしていた。

 遠距離からの弾道、それも空圧だ。

 目で感知するなど並大抵の者に出来る所業ではない。


「かはっ……」

「……迷いましたわ」

「何がだい?」

「あなたはこの国の王族、そして公爵とはいえ私は一介の貴族。この戦いで負ける……いえ、勝ってはいけない」


 この国の勢力図に関係する話だろう。

 王子はこの国を担う将来の王。

 そんな人物が人前で負ける羞恥など普通ならば晒さない。

 ましてや、年下の女の子にだ。

 間違いなく貴族たちの反発も出てくるだろう。

 それを考慮した上での戦い。


「あぁ……確かにそうかもしれないね」

「本当はこの姿にもなるべきではない……そう思っていました」

「…………」


 何やら意図が汲み取れたのか、レオンはその場で思わず苦笑する。


「でも……」

「あぁ、君の選択肢は間違ってない。王族? 平民? 違う。ここは学園だ。みな平等に戦い競い合う場。それが本来あるべき形。そうだろう?」

「ええ、その通りですわ。だから……」

「あぁ、始めよう。ようやく出会えたんだ。本当に身近にいるものだ。君みたいな人が」

「だからこそ、ここであなたを倒しますわ!」

「はははっ、いいねぇ! 本当に感謝するよ、涼太! ようやく僕は……いや、は1人の……王子としてではなく1人の男として戦うことが出来る!」





 王子として、学園の生徒会長として、上に立つ者としての鎖がようやく外れた。

 1人の戦士として、一匹の男として、全てのリミッターが解除され猛獣と化した男がそこに居た。


 俺はロゼッタへ警告しようとした。

 本当にこれは想定外中の想定外。

 偶然がもたらした奇跡といっても良いのではないだろうか。

 それはレオンが天賦の才を持て余していたからかもしれない。

 クリス以上の才を持つ人物。

 異端、異色、天才、どの言葉を当てはめても納得が出来てしまう。



 今、レオンにかかっているスキルは2つ。


【限界突破】と【狂化】


 グラムンという副作用をもたらす武器に加えて2つのステータスを強制的に上がるスキルを併用している。

 普通ならば不可能だ。

 俺も重ね掛けのリスクは過去の経験から分かる。

 間違いなく後遺症を数日間は残す。

 下手をすれば魔力で体がズタズタになり、全治数ヶ月という結果にもなり兼ねない。



 そして、レオンの雰囲気が変わった事をロゼッタも感じ取る。

 今までの彼ではない。

 お遊びではない・・・・・・・、今できる最高の戦いをしようと。


 司会者もその場の萎縮した雰囲気に解説が止まる。

 ただ、刃を鞘から抜くまいと、睨み合う2人を見つめるのみ。


 静寂、



 数万人を許容できる会場が一瞬静まる。

 それが邂逅になったのだろう。


「【烈風】!」

「【破軍】!」


 数百の敵を一振りで薙ぎ払う風の暴力と鉄をも砕く剣撃が同時に繰り出される。

 カマイタチが発生して舞台に無数の爪痕を残す。


 扇子と剣がぶつかり合い、ロゼッタは右足をレオンの腹にめがけて撃ち抜く。

 しかし、それを読んでいたのかヒラリと躱して逆にロゼッタの脇腹にレオンの左アッパーが襲う。


 うめき声が微かに響くが、勢いを殺すため敢えて派手に後ろへ吹き飛ぶ。


「ガァァァァァァッ!」


 獣の咆哮に似た叫びとともに追撃。

 明らかなバーサーク化したレオンが襲う。


「涼太さんのために! 何よりーーッ! 私を応援してくれたみんなのためにも負けられないんですのよ! 全てを飲み込む嵐、暴虐の風、吹き荒れろ! 【大嵐テンペスト】!」



 今のロゼッタが使える最強の魔法。

 風魔法の中でも人類最高位し、使える者も僅かにしかいない超級魔法が放たれる。

 ロゼッタを覆う魔法は何者をも通さぬ城壁と化す。

 目の前にいたレオンは直撃だ。


「はぁはぁはぁ……」


 アルマモードに加えて超級魔法。

 膨大な魔力を消費する故に、ロゼッタの魔力とスタミナは蛇口を全開にした水の如く勢い良く流れ出る。


 当然、アルマモードは切れ普通の姿に戻る。

 片膝をつき、心臓の鼓動を落ち着かせようと胸を抑える。

 流石に勝った、そう思って意識が途切れそうになった瞬間、

 背筋に悪寒が走った。

 恐る恐るロゼッタは前を向くと、意識を離した狂戦士がそこにいた。


 俺でさえ有り得ないと言葉に出す。

 体に傷はない、しかし精神からくる疲労が体に現れている。

 足を引きずり虚ろな目。

 それでもなお敵を倒さんと前に進む戦士だ。


「本当に、本当にしつこいですわ!」

「…………」


 もう意識はないのだろう。

 レオンを動かす要因は一つ、勝つことに対する執念。

 その鬼気迫る執念には観客も喉を鳴らす。

 さらに狂戦士の紅いオーラがレオンから爆発的に流れ出している。

 恐らくは枯渇した魔力を生命エネルギーから補って動いているのだろう。

 それは自殺行為に等しい諸刃の剣だ。


 

(こんなの……どうすれば良いんですのよ)


 思わず歯噛みしてしまう。

 魔力の底が尽きたロゼッタが取れる方法はない。

 いや、現実的には一つあるがあまりにも危険な手段だ。

 俺もクリスたちには使うのは最後の最後、負けられない戦いのみ、かつ俺がいる時ではないとダメだと言いつけてある。

 


 その時、試合が終わり俺の横に立っていたシャルが涙目になり舞台の方へと近づく。


「がんばっでぇぇーーーッ! ロゼッタぢゃあぁぁぁん!! 負けるなぁぁぁーーッ!」


 喉が張り裂けそうなほどに大きな声援をシャルは送る。

 鼻水を垂らして目からは大粒の涙が止まらない。

 その心には思わず俺も心を動かされてしまった。



「ロゼッタ!」

 

 俺の声に反応したロゼッタは限界までに使った体を無理矢理俺の方へ向ける。

 コクリと頷くと、それを理解してのか安心した表情を作る。



「まったく、涙が出てきますわね。レオン様、あなたには敬意を表しますわ。でも私もあなた同様に勝つ執念と意地だけは捨てたくないんですわ……」


 ロゼッタは立ち上がり手元にある剣を両手持ちに変え、その矛先を天高くへと掲げた。

 レオンも同じくグラムンを天へと掲げる。



 変化は突如として起こった。


 

 レオンからは眩い光の剣が立ち上り、光の粒子が明かり一帯を明るく染め上げる。

 


「【魔力自食(マナオートファジー)】」


 あふれ出す魔力、

 自己の生命エネルギーを喰らって限界を超えた魔力を得る。

 危険性もあるがゆえに奥の手として閉まっておいた技だ。

 風はロゼッタを包み込み、その力を刀へと譲渡させる。

 圧縮した空気がプラズマを発して辺り一帯に雷鳴が鳴り響く。




「これで最後ですわぁぁーーッ!」


 振り下ろされは二つの属性が重なり合い魔力の波動が肌を震わせた。

 観客は思わず目を瞑ってしまう。


 しばらくして光と怒号が収まり二人の姿が見える。


 両社とも地に倒れ伏しピクリとも動かない。

 力を使い果たし意識を手放したのだろう。




『し、試合終了!凄まじい、感動、2人の全力がぶつかり合った戦いでした!思わず私も解説をするのを忘れていました!』


 パチパチと誰かが手を叩く。


 それから波の様に広がり、闘技場全ての人の心を掴んだ2人には大きな拍手と歓声が送られた。


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