143 トーナメント決勝
『さあさあ、やってまいりました! 休みを挟んで再び魔法聖祭の再開です。今日からはトーナメント本線、中等部、高等部、総合の部に分かれ、各ブロックごとに8名ずつの戦いとなります。舞台を二つに分けての効率化を行います。ご了承をお願いいたします』
やはり、一日の休みを補えたわけではないのだな。
予定道理の日程で行い為に二日で行う本戦を、舞台を二つに割る形で早めたのか。
少し舞台は小さくなっているが、生徒同士が戦うには支障のない大きさだ。
「シャル、ロゼッタ。気を張り詰め過ぎるなよ、お前たちならば……どうした?」
なぜか不満げな表情をしている二人。
そっぽを向いて、顔を向けようとしてくれない。
「ふんっ、昨日のことを根に持ってなんてないですわ」
「ツッキー、ボクたちも誘ってほしかったとロゼッタちゃんは言ってるんだよ」
あー、昨日のことを根に持ってるよな。
結局プールに訪れなかったクリスたちは、その後にグリムさんたちからそのことを聞かされてショックを受けたらしい。
どうやら自分たちは訓練をしていたらしく、遊んでいた俺たちがうらやましかったらしい。
「分かったよ、今度に埋め合わせでもする」
「む、それならいいですわ」
♢♦♢
トーナメントは順調に進んだ。
シャルとロゼッタも全力を出さずに、ほとんどの相手を一撃で沈めている。
それに対抗するようにレオンも、その場から一歩も動かずに対戦相手をねじ伏せる。
やはり懸念材料と言えばレオンしかいない。
『さて、残すところもあと3試合! 総合の部は最後に取っておき、中等部の部と高等部の決勝が今始まろうとしています!』
シャルの相手は中等部3年の先輩だ。
同じAクラスでシャルと比べると巨漢が目立つ。
「試合開始!」
審判の合図に動き出したのは3年の生徒だ。
巨漢からは想像出来ないほどのスピードを出してシャルに突進してくる。
拳にはナックル、拳闘士か。
素早い攻撃がシャルに放たれるが、それを紙一重で躱す。
「せい!」
鋭い突きが3年の先輩を襲う。
「ぐっ……ウォォォッ!」
「うわっ!」
驚くことにシャルの拳を生身で受けた。
そして腕を強引に掴み体を180度に回転させてシャルを投げ飛ばす。
驚いたものの、バランスを立て直して着地する。
「シャルロット2年生、俺はお前の全力には勝つことが出来ん。本気を出さないのは余裕からだろう。その強さ、敬意に値する。だから少しでいい、本気で戦ってくれないか」
驚くことに男はシャルに頭を下げた。
この観衆の中で試合に関係ない行為をするなど……。
それだけ本気だということか。
「先輩の方こそ本気を出していないでしょう」
頭を下げた男の眉がピクリと動く。
「……なぜ分かった」
「ボクは弱かった……いえ、今も十分に弱い。上手なんかでも負けてばかりだ。だから、あなたから漂う余裕がある雰囲気。それを晒さない限り本気は出しません」
「くくっ、シャルロット2年生でさえ勝てない組手相手、凄い人物なんだな」
「はい」
「分かった。若輩者だが、これが俺の本気だ」
そう言うと3年のナックルが赤く燃え上がる。
これは魔法の属性付与か、よくクリスたちも俺との組手で使ってるやつ。
「なら、ボクも……」
深く深呼吸をする。
一呼吸、二呼吸。
三呼吸目、
その途端にシャルの目がゆっくりと見開かれる。
陽炎、
熱源から発せられたエネルギーが舞台全体を覆う。
審判は嫌な予測が的中してしまったかのように舞台から退避し、会場の隅で風魔法と氷魔法を自身の回りに展開させて熱さを紛らわせようとする。
しかし、熱風がより一層の熱さを体感させる。
「行くぞォォォォォォッ!」
体が震え上がるような圧倒的な存在の前に男は歓喜した。
咆哮が無意識に発せられる。
目は強者の喉元を食いちぎろうとする捕食者の目。
明らかに学生が放つ部類のものではない。
こんな生徒がいるとはな。
炎と炎の拳がぶつかり合い、火花と火炎が吹き荒れる。
心なしか、シャルも楽しんでいるように見える。
「はぁッ!」
「ぐあっ」
数分の打ち合いで一瞬の油断が男の判断を鈍らせる。
拳が腹にクリーンヒットし、舞台の外まで吹き飛んでしまった。
場外、試合の終了だ。
「試合終了! 中等部の部、優勝は2年A組シャルロット選手!」
シャルはアルマモードを解除して、天高く拳を上げる。
会場からは大きな歓声と拍手が送られた。
「シャル! おめでとうですわ!」
「えへへ、ありがとう」
「次は私の番ですわね」
「頑張ってね、ロゼッタちゃん」
「勝ちますわ、ここで負けては公爵家の名が泣きますわ」
「相手はレオン様だけどね」
♢♦♢
会場はシャルたちの戦いの余韻が残っており、いまだヒートアップして冷めていない。
「やあ、君と当たると思っていたよ」
「私もですわ」
「一昨日の傷は大丈夫かい?」
「涼太さんに回復してもらいましたわ」
「そういえば、彼は回復魔法もずば抜けていたね」
エリスの騒動のことを思い返しているのかな。
実際は回復魔法どころか蘇生魔法を使ったんだけど。
2人はなぜか意思疎通したかのようにクスリと笑う。
「そうだな、ここは騎士らしく名を名乗ろうか。ここからの戦いはお遊びではないからね」
レオンの顔つきが今までのものから豹変する。
他の試合では笑みを絶やさなかったが、すでにそんなものはない。
あるのは敵を倒す事にのみ意思を固めた戦士の姿。
「ラバン王国第一王子、レオン・ラス・フィルブ・ラバン」
「アルマス公爵令嬢、ロゼッタ・フォン・アルマスですわ」
『試合開始ィィィッ!』
それと同時に2人の姿が、その場から消え失せる。
金属同士がぶつかり合う音が耳を貫く。
目にも留まらぬ速さで、2人は己の武器を振り下ろす。
レオンは剣、ロゼッタは二本の短剣だ。
「手加減はしない、全力で行くぞ」
そう言うと、レオンの剣が光り輝く。
あれは属性付与、あいつも出来るんだ。
なんかラ〇イトセイバーみたいで綺麗だな。
それに対して、ロゼッタも風を剣に纏わせる。
剣同士が重なり合い、チェーンソーの刃同士が衝突し合ったかのような悲鳴が上がった。
『な、な、なんとー! 学生同士とは思えないレベルの試合が繰り広げられています。両者とも今までがお遊びだったかの様な動きです!どう思いますか、学園長』
『……ワシ、学園長としての威厳も強さもすり減って悲しい』
『ふむふむ、つまり両者とも卓越した強さを持っていると言う事ですね』
「ははっ、これで全力でないとは悲しいな」
レオンは全くの互角に苦笑する。
そう、現状で互角という残念極まりない状況だ。
「ギアを上げますわ」
瞬間、
ロゼッタの体が身体強化される。
「ぐっ……」
ブーストした速さと力に押し負け、レオンはこの試合で初めて後方に吹き飛ぶ。
純粋な魔力でブーストしている故に、女の力とは全く感じられない。
レオンは手のひらに痺れを感じる。
「全く……ここまで上回られると言葉も出ない。僕も涼太の元で修行に励みたいものだ」
「それは涼太さん次第ですわ。それが無くともレオン王子は強いですわよ」
「ありがとう、さて悪いが手段を選んでいる暇はない様だ。ズルイが使わせてもらおう」
そう言い、腰にある袋に手を突っ込む。
ちょい待ち、アレってビンゴ大会の景品じゃないか?
「この試合で使うかもしれないから借りたんだよ」
そう告げると一振りの魔剣を取り出す。
無駄に装飾の施された刀身1メートルほどだ。
あいつ、ビンゴ大会の景品を使う気かよ。
「行くよ……」
「……ッ!」
レオンの動きが加速する。
恐らく身体能力の強化も行なっているのだろう。
何より剣の能力があいつのステータスを上昇させている。
魔剣グラムン。
擬似聖剣エクスンカリバーと同等の剣。
エクスンが選ばれたものにしか使えない特異性ならば、グラムンはすべての人に使える汎用性。
その能力は一時的なステータスの3倍化。
魔力回路を無理やり広げてブーストさせているので、その無理やりによって後日、激痛が走るほどの負荷が自身に襲う。
それを考慮してだろうが、ロゼッタにとっては相手が悪い。
これなら、ロゼッタにもチートアイテムを渡しておくべきだった。
『おっとー、レオン王子の動きが変わった! 凄まじい速さにロゼッタ選手、ついて行けません! これは勝負の行く末が見えたか!?』
『いやいや、司会者くん。まだじゃよ』
『と言うと?』
『彼女の実力がこの程度なわけないじゃろう』
その言葉と同時に舞台が大嵐に包まれる。




