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138話 試合中の危機



 シャルは先の一戦から、予選が免除されて先にクリスたちの元へ帰った。

 残った俺の教え子はロゼッタのみとなり、その予選も残り1試合となっている。

 レオンは余裕の表情で予選通過だ。


「涼太さん、本当にみんなは本気を出しているのか気になりますわ。先程から、型にハマった動きに長文詠唱による魔法発動。その際にも場を動かずに平行詠唱も出来ない。魔法聖祭を舐めてるんですの?」


 いやいや、ロゼッタさん、それは違いますよ。

 学生なのだから実戦経験も何もないから普通はそうなるんですよ。

 実際に戦って戦闘技術とかは身につくんだから。

 すっかり、俺たちのレベルが基準だと勘違いしているお嬢様は先程から燃焼不良で愚痴をこぼしている。


「所詮は学生のお遊び……とは言えたもんではないが、レベルはそうだからなぁ」

「高等部の方には期待したのに無意味でしたわ」


 先程の戦闘を思い出す。

 ロゼッタは高等部2年の先輩と戦っていた。

 相手は槍使いで、うちのクラスが調子に乗っていると制裁をすると公言したのだが、見事に秒殺に終わった。

 開始と同時にロゼッタは敵の懐に入り、強烈な蹴りを腹にぶち込み、そのまま場外まで吹き飛ばした。

 あまりにも呆気なく終わり、ロゼッタの相手が弱すぎたのではないのかという疑惑すら浮上したくらいだ。


「明日から本戦のトーナメントなんだから勝ちは確定しているが、油断はするなよ」

「分かっておりますわ、敵は倒す。それだけですわ」



『えー、ここで緊急の連絡が入りました。高等部3年C組のグミ選手が体調不良により倒れられましたとの報告が入りました。そこで代理としてC組からはザッハル選手が出場します』



 俺は眉をひそめた。

 今放送に入った相手はロゼッタが戦うべき相手であった。

 確かにやむ得ない事象ならば、代理出場が許されるはずだったが、ザッハルなんて選手は名簿には居なかったはずだ。

【完全記憶】が間違っているはずがない。

 隣のロゼッタは仕方がないと納得した表情だが、なんだこの違和感は。

 C組は例のビュッフェのクラスだから、ジャッファルもどんな汚い手を使ってくるか分からないから注意するように言われている。

 確か、あちら側も全勝しているから、ロゼッタに勝てば問題なく予選は追加だが……。


「どうしたのですの?」

「ロゼッタ……ザッハルって奴を知っているか?」

「すいません。分かりませんわ」



 ……この拭いきれない不安はなんだ?

 頭から離れないモヤと疼きが引かない。

 俺の経験から、相手を見ずとも何かあるとしか言えんのだが。

 ビュッフェはグロテウス帝国のそれなりの爵位を持つ貴族だと聞いた。

 そして俺たちの恨みと代理出場。


「気をつけろ、何かあるぞ」

「大丈夫ですわ! この程度は負けませんわ」


 笑顔でガッツポーズをとるロゼッタだが。


「何もなければいいが、何かあれば俺が出る」

「……分かりましたわ?」

「俺は少し陛下たちのところへ行ってくる」





『さぁさぁ、今日最後のカードです! 高等部3年C組の代理出場のザッハル選手と中等部2年A組のロゼッタ選手。ロゼッタ選手はすべての試合を一撃で終わらせてきました! この試合も一撃で終わらせるのか!? 対して……ザッハル選手はフードを被っていて分かりませんね』


 ザッハルという選手はフードを被って、その素性が全く分からない。

 だが、ガタイの良さと身長から男だということはすぐに分かる。


「それで、涼太よ。何様だ? ロゼッタの試合はどうしたのだ」

「ケネス陛下、ジグルさん。何か違和感があります。あのザッハルという選手には何かある」

「根拠は?」

「ありません」

「ふむ……お前の言うことだから冗談ではなかろう。警備を増やすか」

「お願いします。俺の予想が正しければ魔王軍が関わっています」

「それは誠か!?」


 俺の言葉に驚愕を示す。


「その際には俺が対処をします。その際の観客の動揺を沈めて下さい」

「あい分かった。お主も気をつけろ」

「はい」


 俺は深くお辞儀をしエリスたちの元へ行く。




「あら、涼太じゃないの。どうしたの?」

「エリス、緊急事態かもしれない。フィルフィー、あのフードの男を視てくれ・・・・


 俺は隣に座って、紅茶を飲んでいるフィルフィーにお願いをする


「分かった」

 

 フィルフィーは立ち上がり、テラスに身を乗り出して、フードの被った男を視る。

 すると、見る見るうちにフィルフィーの顔は険しくなる。


「どうだ?」

「当たりだ。あれは魔族だぞ」

「ちっ……やっぱりか。魔族とグロテウス帝国となれば」

「魔王軍の手の者か!」

「分からないが、会場全体から魔族が他にもいるかもしれない。把握できるか?」

「これだけの人数。少し時間がかかる」

「頼む」



 ♢♦︎♢



「あなた、何者ですの?」

「どう言うことだ」

「涼太さんはあなたが普通でないと言われましたわ」


 ロゼッタは俺からの警告を早速目の前の人物に投げかける。


「ククッ……」

「何がおかしいんですの」

「いやはや、こんなクソガキにいきなり見破られるとは。いや、見破ったのは別か」



『試合開始です!』

 

 司会の合図に会場の歓声が上がる。

 しかし、2人は一向に動こうとしない。


「やっぱ、こそこそと隠れてやるのは俺の趣味じゃねぇな。だがいたぶるのは趣味だ。可愛がってやんよ」

「ぶっ潰して差し上げますわ」


 ロゼッタが先に動く。

 先の試合と同じく懐に入り、魔力を纏った蹴りを入れる。


「なっ!」


 しかし、その攻撃は男に当たることはなかった。

 ロゼッタの足は止められたというよりも、横から掴まれたという表現が正しい。


「おっと、こんな結界じゃ、殺し合いは楽しめねぇよな」


 男は懐から紅い石を取り出す。

 おれは以前にも見たことがある。

 フィルフィーと出会った時に魔王軍が使ったステータスを弱化させる魔道具だ。

 と言うことは、こいつは黒で確定。


「フィルフィー! まだ把握出来ないのか!」

「待て、あと少しだ」


 やはり観客内にも紛れていた。

 俺が飛び出せば、ロゼッタを助けることは出来るが、他にも魔族がいるのであれば、手を出した時点で他の魔族が観客で暴れ出す可能性がある。

 そのためには会場すべての魔族の座標を把握して、転移させて一気に叩き潰すしかない。

 俺の索敵は魔力の強い人物とそうでない人物を見分けられるが、種族までは分からない。

 全てはフィルフィーの神眼に頼るしかない。

 それまで俺は動くに動けない訳だ。

 男が石を砕き、魔力の結界が張られる。

 精神ダメージ変換の結界はその影響で機能を停止した。


「おらよ!」

 

 男はロゼッタの足をそのまま振り上げ、地面に叩きつける。


「ガバッ!」


 魔力を全身に覆い、とっさのガードをするが舞台はひび割れ、その衝撃が直に伝わる。

 ロゼッタは吐血し、その場に倒れる。

 間違いなく背骨が折れていることは分かる。


「お、やるじゃねぇか。なら手加減なしだ。死にな」


 片足をロゼッタの胸を踏みつける形で押さえ込み、拳には魔力が集中する。

 あれはマズイ!

 わずか数十秒でロゼッタに死の危機が直面している。


「フィルフィー!」

「把握した!全員で5名」

「悪いが視るぞ」


 俺はフィルフィーの頭に手を置く。

 そこから会場内の魔族の座標を把握。


「私も行く」

「おう」

「任せたわよ」


 俺とフィルフィーはその場から転移する。



 ♢♦︎♢




「死ねや」

「させると思ったか!」


 フィルフィーの攻撃が男に直撃し、男は転げるようにしてロゼッタから離れる。

 俺は翡翠の騎士の格好で現れ、観客席にいる5人を上空へ転移させる。

 地に膝をつけている6人の敵。

 すぐにロゼッタのそばに駆け寄り、回復魔法をかける。

 会場は一体何が起こったのか分からずに混乱する。



「聞けェェィッ!」



 ケネス陛下の声が聞こえる。

 見上げると、テラスから大声で話している。

 このバカ広い闘技場全てに地声で響き渡らせるとか肺活量凄すぎだろ。


「そやつら6人は魔王軍の者だ!」


 会場には悲鳴が響き渡る。

 逃げようと席を立つ者もいれば、戦闘に備える騎士の姿もそこにある。



「安心しろ! 目の前の人物たちを見よ! 翡翠の騎士よ、そして守護者フィルフィー殿がそこにいる! 今こそ魔王軍に我ら人間の強さを見せつけようぞ!」



 うわぁ、上手い返しだなぁ。

 魔王軍の襲撃を1つのエンターテイメントとして片付けようとしやがる。

 翡翠の騎士だから、月宮涼太だとは分からない。

 それは一向に構わない。

 むしろ、そう処理してくれる方が後日の魔法聖祭にも影響を及ぼす。


 さて、どうしてくれようか。

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