135話 ミセルの舞踏
『ただいま、スピードシューティングが行われておりますが、これは言葉が出ません。一体彼女は何者なんだ!』
『戦姫か。彼女は有名だからな。それでも、これはあり得ない』
観客すら口を挟むことが出来ない。
文字道理の絶句という言葉が似あう状況だ。
この闘技場の場、舞台の半径数十メートルの中には俺とミセルしかいない。
競技の時間は一人五分。
A組からJ組の10クラスが行う。
「はぁぁぁッ!」
ミセルの周りに金属の粒が生成される。
そこに超高電圧を加え、熱された金属が超速で放たれる。
俺との訓練で編み出した【超電磁機関銃】。
放てる方向は360度全てであり、精度は落ちるが数で圧倒するえげつない魔法だ。
周りに展開していた数百の的が、一斉に崩れる。
しかし間を入れずに俺は魔法で的をさらに生み出す。
誤射とは言わないが、的から外れた球は観客の方向へ襲い掛かる。
俺は舞台を囲むように結界を展開する。
「あー、やばいな」
「射手せよ、【雷霰の牙】」
ミセルが右手を上空へ向ける。
手には小さな雷球が生まれ、それを上へ投げる。
変化はすぐに起こった。
巨大な魔法陣が空を覆い、雷の粒が地上めがけて雨のように襲い掛かる。
いや、マジでやめてください。
俺が舞台にいんのよ?
涼太さんならいいかな? とか、涼太だから問題ないよね? とか意味わかんねえし!
俺が教えた技だけど、マジで笑えないから。
って、ちょっと待てよ。
今の経過時間は2分、となるとあれをやるのか!?
ハイゼット家の主力として、その存在を見せることは出来るが……。
「涼太様、次をお願いします」
「あぁ、悪い」
少し、ボーとしていた。
今の数秒で舞台にあった的は全て壊れたからあっけに取られていた。
それからはちまちまと壊しているようだ。
『な、なんだー! 今のは一体何なのでしょうか!』
『あれは、上級魔法ではないな。超級魔法に位置してもおかしくないレベルだ』
『あれって、学生ですよね!?』
『しかし賞賛すべきはあの講師だろう』
『はぁ……舞台にいるあのヌボーとした方ですか』
ヌボーとした人で悪かったな!
これが俺なんだよ、となりのワイルドイケメンと比較すんなや!
『彼は数百の的を一瞬で展開した。それすなわち、魔法の同時展開を極めている。考えてみろ、目の前の相手から数百の氷の矢が展開されたらと。威力が弱くとも、数が増えれば危険度も高くなる』
『なるほど、盲点でした』
『そして先ほどの攻撃を無傷でしのいだのだ。普通ではない』
ありがとうございます!
素晴らしい人だ。
あとでアメちゃんをあげよう。
「涼太様、残り時間はどの程度でしょうか」
「あー、あと1分と21秒」
一応は時計を持っているので確認し時間が過ぎている。
「では、全力でいきます。【飛行】」
ミセルが空中へ舞い上がる。
むっつりな男性諸君。
残念ながら、ミセルは普段からズボンなのでスカートは履いていないよ。
てか、今までのは準備運動なのかよ。
あと、俺の安否も無視なのね……。
『おっと、ミセルさんが空中を飛行しています。その姿ははるか上空、観客全員がその姿を見上げています。一体何が始まろうというのか!』
「えっと、涼太様の言葉から、気体を圧縮。超臨界流体を生成。それを一点に集めると。原子同士がプラズマ化……うん、いい感じ」
「あのー、ミセルさん。何か不吉な言葉が聞こえるのですが……」
上空に両手を上げて、空気を圧縮していく。
会場には暴風が流れ、ミセルの上にはプラズマ化したエネルギーが漂っている。
「えい!」
「えいっ、じゃねーわ、とんでもないもん作り上げやがって!」
ミセルの奴、俺を殺す気か!
これは結界も増やす必要がありそうだ。
絶縁体なら電機は通さないというが、ただのエネルギーをぶつけられてはこちらの身が持たないし通じない。
地上に落ちた途端に、プラズマが爆散する。
的は粉々に砕かれ、蒸発をする。
♢♦︎♢
VIPルームにて、
一団が集結して目の前の光景を楽しみながら見ていた。
「ふむ、ジャッファルと言ったか。彼は我が国に欲しいな」
「ケネスよ、無理強いは涼太に怒られるぞ。それから彼は冒険者になるのが夢らしい」
「ほう、ガイア。確かにあの気質は冒険者のそれだ。となると、例のSSSランクのゼロスが取り入るか」
「お父様、おじさま、取り入るなんて無粋な真似はしないでね」
隣にいたエリスの言葉が2人の喉から言葉を発さない抑止力となる。
「それよりも、ミセルだ。私も興味がある」
「うむ、我が家の騎士がどれほどまでに成長したのか見ものだ」
フィルフィーとグリムさんは次の競技の相手が気になって待ち遠しい様である。
テラスに腕を乗せて、その様子を眺める。
「むっ、涼太がミセルを担当するのか」
「むしろ、涼太出なくては成り立たんだろう」
「どういう事だ、フィルフィー殿」
「お主は自分の騎士の実力を知らんのか?」
フィルフィーの言葉に何を言っているのか、いまいち理解できていない。
ミセルはグリムさんにとって、剣術と魔法を併用し、二つ名まである騎士だ。
魔法に関しては一級とまではいかないものの、それをカバーできる程の剣術の才能を持っている。
だから、フィルフィーは魔法の成長の予測を雑に考えているグリムさんに突っかかったのだ。
「ほれ、始まるぞ」
スタートの合図に舞台の至る所に的が設置される。
そして、その光景に驚く間も無くミセルが行動に移す。
金属が生まれ、雷の光線が放たれる。
それは縦横無尽に的を破壊した。
「ミセル、成長しているな」
「涼太の直轄で指導しているのだから当然であろう」
次に雷球が生み出され、それを上へ投げたと思えば、大きな魔法陣。
とてつもないエネルギー体の雷光が天から大嵐の如く降る。
下に入れば、間違いなく焼け焦げるほどの火力だ。
「お前のところの騎士、強すぎないか?」
「あぁ、想像以上だ」
地面に落ちた雷は煙を上げて、収まるまでミセルは動かない。
何やら、涼太と話している様だ。
された同時に飛行魔法を使う。
飛行魔法など、魔法を極めた者が使う複合魔法だ。
そして、文字通りの大嵐が吹き荒れる。
「あれは、魔法なのか!? フィルフィー殿、説明を頼む」
「ハイゼット家の当主よ、あれは科学だ」
「科学? 確か、涼太がそんな事を言っていた気がする」
「私もまだ知らんが、科学を理解した上での魔法は絶大な威力を発するらしい」
それは全ての人を釘付けにした。
学生風情では決して到達のできない領域、魔法を極めた者すらも立てるか分からない域に立っていたのだから。




