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133話 アイス



「ヒェー! 忙しいですー」

「泣き言言わないでよ、コニー。ご主人様に怒られちゃうよ」

「うぅ、頑張りますー」


 せっせと暑い中、周りの店の注目を浴びながら5人のメイドは家の前で必死に店番をしていた。

 今回に限り、猫っ子のシェイと狐っ子のファラは涼太の手によって人族に見える様に魔法をかけられている。

 その理由は亜人差別のこの世で店を開く事に不快感を持つ客がいるためと、トラブルにメイドたちを巻き込みたくないためである。


「ニャー! 完売だにゃ」

「お疲れ様です、シェイ」

「もう休んでいいかにゃ?」

「ダメに決まっているでしょ。こんな状況でよく言えますね。ホットキャットにしますよ?」

「うにゃぁぁぁッ! ファラが鬼畜だにゃー!」


 容赦のない狐っ子の言葉に膝から崩れ落ちる。

 それも仕方がないだろう。

 目の前には長蛇の列が出来ており、商業ギルドの人員が整備しなくてはならないほどである。

 お金を貰っては、アイスの入った冷凍ボックスの中から取り出す作業を永遠と繰り返す。


「ファラ、グレープ味の在庫がワンボックスを切りました!」

「ええ!? たしか、ワンボックス200本が4ボックスありましたよね」

「どうしましょう」

「張り紙を作って、無くなり次第終了だと言いましょう」

「了解です!」


 コニーは小走りで家の中へ張り紙を作りに行く。



「おい! いつまで私を待たせる気だ!」


 1人の業腹な青年の貴族が列を割って受け取りのカウンターまで押し寄せてきた。

 見るからに苛立ちでのぼせそうだ。

 小太りした肢体は不規則な生活の現れか、実に汚らしい。

 周りの並んでいる客は納得いかないものの、相手が貴族が故に不満を口にできずに黙っている。


「申し訳ございません、そう言った事は……どうか列にお並びください」

「並んだ! そして我慢ならん! とっとと寄越せ!」

「しかし……うぅ……」


 会計をしていたメイドのランは貴族の圧に萎縮する。


「ごめんなさいにゃ。でも列は守って欲しいにゃ」

「あぁ? メイドごときが貴族に逆らうのか」

「にゃ、にゃふ……」

「坊ちゃん、いくら何でも」

「うるさい、うるさい!」


 隣にいた執事が流石の言動に痺れを切らして口を出す。

 それだけではなく、揉めている中で問題を起こしている事に焦りを感じているのだろうか。



「おーい、問題ごとか?」

「凄い列ですね、涼太さん」

「アイスはこの気温では天からの恵みですからね」



 手を振って、自分の家に帰ってきた、というよりもメイドたちの様子を見にきた俺。

 ついでに、その付き添いとしてクリスとミセルも同行している。

 早速、揉め事の臭いがプンプンする。


「ご主人様!」

「貴様が此奴らの主人か」

「何かうちのメイドが不手際を?」


 そんな粗相をする様に教え込んだ覚えはないが、本当にそうであるのならば一大事だ。


「お貴族様が順番を守らないのにゃ」

「なるほど、把握した」


 もう、最近では貴族を見慣れたせいか、一目で傲慢貴族か、雰囲気で察する事ができるからな。

 こいつはそのタイプだ。

 一応の確認が取れてよかった。


「申し訳ありませんが、列にお並び下さい」

「うるさい、貴様が今私にアイスを渡せば解決するであろう」

「それは他のお客様の不満を買いますので了承しかねます」

「貴様ぁ、貴族に逆らうのか?」


 はぁ、本当にめんどくさい貴族だな。

 それが必然なのか、

 使いたくはなかったが、奥の手を使わせて貰おう。


「逆に返そう。お前はこの店に喧嘩を売ろうというのか?」

「喧嘩ではない。制裁だ」


 その言葉が聞けただけでも幸いだ。

 いや、奴らにとっては災いだろうが。


 俺は後ろを向き、アイテムボックスから四つの紋様が入った飾りをテントの端に貼っていく。


「では再び聞こう。お前たちは誰に・・喧嘩を売ろうとしているのか理解出来ないのか?」

「なっ! 坊ちゃん、謝って下さい。これは本当に許容できません! 此度のご無礼、申し訳ございません」


 執事の方は状況が理解出来たのだろう。

 オドオドとした顔が蒼白になり、必死に俺たちへ謝る。


「爺、なぜ貴様が謝っている!この男に臆したか」

「だまらっしゃい! アルマス公爵家にハイゼット公爵家の家紋ですぞ! それだけでも恐ろしいのに、王族直々の紋様ですぞ! それもラバン王国とセリア王国の!」

「この店はラバン王国とセリア王国の共同の元行われている出店です。下手に手を出せば分かってますよね?」

「はい、当然です。フンッ!」


 執事の拳が青年貴族の腹に直撃して、その意識を易々と奪う。

 この爺さん、かなりの使い手だな。


「ありがとうございます、ご主人様」

「気にするな。それより朝からご苦労さん。疲れただろう、遅いが飯の準備をする」

「でもお店が……」

「あー、それに関しては」


 指パッチンをする。

 すると、十名近くのメイドたちが家の中からゾロゾロと現れた。


「後は頼んだぞ、ガブリエル」

「はい、承知しました」

「師匠なら百人力だにゃー!」

「あなたたちも後から手伝って貰います」

「ふにゃぁ!?」

「当然です、主様のために働きなさい」

「まぁ、そう言ってやるな。少しの間頼んだぞ」


 俺はクリスとミセルとメイドたちを連れて、家の中へ入っていく。

 突然の美人揃いのメイドたちの登場と、その主人だという俺への嫉妬的な視線が痛いが無視する。




「ふにゃー! 疲れたにゃー!」


 早速、シェイはリビングの涼しい空間に着くと冷えた床に体を付けて体温を冷ます。

 ファラたちも椅子やソファーに座って、仕事の緊張から解放されたのか、グッタリとした表情になる。


 クリスとミセルは冷蔵庫から冷えたジュースを出して、渇いた喉を潤す。


「さて、飯は悪いが今日はお手頃そーめんだ。その前にご褒美を上げよう」


 俺は冷凍庫からブロックの氷と凍ったイチゴや、ココアとコーヒーと砂糖を用意する。

 作るのはフラペチーノだ。

 イチゴ味とコーヒーにチョコをアクセントした少し大人な味。


「イチゴフラペチーノとコーヒー&チョコフラペチーノ、どっちがいい?イチゴの人」

「はい!」


 大きな声とともに手を高く上げたクリス、それとラン、アイ、シェイだ。

 となるとコニー、ファラ、ミセルはコーヒーの方ね。


 二つのミキサーを出して氷と材料、砂糖を入れてスイッチオン。

 氷が砕かれる音が聞こえる。

 数秒後、それを止めてカップの中に注いでストローをさして完成だ。


「キャッホウ! やっばり涼太さんについて来て正解でした」

「さいですか」

「涼太様、お運びします」

「ありがとう、ミセル」


 俺はコーヒー派なので、カップを一つもらって椅子に腰掛ける。

 粒状の氷が喉を冷ますように流れていき心地よい。

 更に部屋の冷房も完備しているので快適である。

 闘技場のエリスたちがいる部屋から来ただけだけどね。

 ちなみに、エリスたちは部屋から離れたくないらしいので引きこもってる。


「それで、今日の手応えは……ってクリスとミセルは出てないか」

「今日のメインは初等部ですからね。初等部のほとんどの競技は今日に終わって、私たちの本番は明日。明後日が高等部とトーナメントの予選、四日後がトーナメントの本戦と最終の演舞ですから、ミセルの出番は明日で、私は四日後ですね」

「なんや感やでノンビリしてるな」


 学校の体育祭といえば、1日で一気に終わらせるのが普通であるはずなんだが、この世界は余裕があり過ぎだ。


「仕方ありません。この暑い中、多くの観客が見ているのです。長時間の拘束は観客にとってもストレスなのでしょう」



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