132話 しっぽ取り(圧勝)
『何という事だー!なんと中等部2年J組が高等部1年B組を圧倒しています!高等部に加えて成績優秀なB組、一体どうした!中等部との戦いに手を抜いているのか!?』
司会の慌ただしい解説が鳴り止まない。
俺たちのクラスの前の試合には、2年J組。
レナちゃん先生のクラスがしっぽ取りをして、高等部を圧倒している。
落ちこぼれと名高いJ組が、高等部の優等生が集まる組に牙を剥くだろうと誰が予想できただろうか。
ちなみに、このテイルラバーだが、武器など鋭利な物の使用は一切の禁止。
殺傷性のある魔法も禁止とされている。
つまり、魔法と格闘のみで相手の腰から生えたしっぽを抜かなくてはならない。
(くっそ、何が手加減しているだ!マジで何なんだよこいつら。本当に中等部なのか!?)
(あり得ませんわ!相手は高々中等部の落ちこぼれ。なぜ私たちが手も足もでないのです)
(ていうか、奴らの目は何だよ。しっぽ取りなんてガキ臭い競技で見せる目つきじゃないだろ!マジで俺らを喰らいにきてる)
高等部の学生の心境は全くもって穏やかではなかった。
それほどまでに目の前にいる雑兵と思っていた学生に畏怖している。
縦横無尽に動き回る2年J組の生徒。
後ろに回り、しっぽを取ろうとすれば目の前にはその影がもういない。
気がつけば背後を回られてしっぽを狩られている。
圧倒的な強さを見せつけている。
『司会の学園長。これは一体どういう事でしょうか』
『これは魔法による身体強化じゃな。魔力を消費する代わりに通常の数倍の力を得られる。普通は一流の冒険者や国の近衛兵くらいにしか使えんはずなんじゃがな……』
『という事は持久戦になれば、分が悪いと?』
『そうじゃな、しかしそれは普通の場合じゃ』
『どういう事ですか』
『見た所、中等部2年J組はほとんど魔力を消費しておらん。おそらくは元の身体強化が格段に上昇していると見受ける。いやはや、レナちゃん先生の賜物なのか……それとも……』
観客の全員の視線が試合のコートの隅にいるレナちゃん先生へ向く。
多くの視線に平然にする様に頑張っているが、目が完全に泳いでいる。
観客側、主に貴族たちの方へ視線をやると、家族が騎士たちと何やら話をして騒がしい。
もしや、スカウトの相談でもしているのだろうか。
『試合終了!圧倒です。中等部2年J組の完封勝利です』
高等部は膝をつき、中等部は勝利に歓声を上げる。
流石にうちのクラスとの合同練習をしていただけの事はある。
♢♦︎♢
『さぁ!やってまいりました。次の試合は同じく中等部2年A組と中等部2年B組の試合です。先ほどの戦いもあります!素晴らしい戦いが期待できますね』
『う、うむ。まぁ、加減だけはしてほしいのぉ』
『おっと、ここで新情報です。どうやら魔法聖祭開幕前に担任講師の月宮先生は大会の完封勝利を宣言されたそうです。これほどの自信は一体どこから現れるのか見ものです』
『学年主席から3位までが固まっとるからのぉ。ズルいと言われるかもしれんな』
学園長がこちらに身もふたもないことを言ってくる。
確かにクリスとかミセルのチート勢なら1人でも勝てるからなぁ。
うちのクラスがどうするかと俺に視線を向けてくる。
「よし、プランBでいく」
「「「「「「了解です!」」」」」」
そう告げるとクリスたちは舞台へ上がっていく。
全員がしっぽであるハチマキを腰から生やし、準備万端である。
『それでは試合開始……って、ここで予想外の行動を2年A組が始めました』
予想外な行動。
それすなわちBプランでもある行動。
誰もがふざけているのかと問いかけたくなるような行動である。
『四人の学生がその場で自らしっぽを抜き取りました。これは一体どういう事でしょうか』
『クリス君にミセル君、ロゼッタ君にシャルロット君。主戦力ともいえる四人を抜いてきたのぉ』
『それは諦めたという事でしょうか』
『いや……逆じゃろう。四人を抜いても勝てるからそうしたんじゃ。いやはや、クリス君の実力はワシでも畏怖するからのぉ。出なくてホッとした』
『学園長、不敬な発言になるのでは』
『試合を見れば分かるのじゃよ』
試合に戻る。
しっぽを抜き、舞台から飛び降りた四人は俺の傍に寄る。
相手方は完全に舐められている事と、主戦力でもある四人が抜けたことに好機だと思ったのか闘争心をあらわにする。
「よっしゃ、先生。全力を出してもいいんだよな」
「あぁ、開幕に度肝を抜いてやれ。速攻で決めてもいいぞ」
「うっし、俺の全力を見せてやんよ。【限界突破】!」
ジャッフャルの中から魔力が渦を巻いて溢れ出てくる。
その行動に会場全体が驚愕に包まれる。
「いいんですか? 見せびらかして」
「これは開幕の宣誓みたいなもんだよ。それにうちの最終兵器はここにいるだろう?」
「えへへ、ありがとうございます」
「さて、あいつらの|勇士(蹂躙)を見るとしようか」
会場にいる理解できる限られた人物たち。
例を挙げると、上からその風景を眺めていたとある人物が驚愕に立ち上がる。
ケネス陛下だ。
VIPルームのテラスから観戦していたのは知っているが、J組の時にすら薄っすらと半開きで見ていた陛下が驚愕に腰を上げる。
それもそうだろう。
【限界突破】
俺は普通に使っているので違和感はないのだが、このスキルは普通ではない。
魔法による身体強化ではステータスは上昇しないが、これは文字通りのステータスが倍加する。
そのスキルを会得できたものは本当の強者である証拠。
過去の勇者が所有していたスキルでもあるがゆえに、その域に到達した者は英雄の領域に踏み込む資格者と文献で書かれていた。
俺との訓練以外にも自主練で限界まで魔力制御を成したジャッフャルがつい先日会得したスキル。
それに加えて、魔力のブーストもある。
並大抵の人物たちではジャッフャルを倒すことは不可能に近いだろう。
正直に言うならば、クリスとミセルは除くとして、レオンだろうがロゼッタとシャルですら今のこいつを止められるのは難しい。
それほどの成長をこの短期間で見せた。
間違いなく戦いに置いての天才だと断言できる。
「発勁!」
突き出した右手は直線にいた学生たちを吹き飛ばす。
「行くぞ、殲滅だ」
「「「「「「了解」」」」」」」
それと同時にAクラスは地面に手を付ける。
変化はすぐに訪れた。
地面から土の壁がまるで深い森林をイメージするかのようにそびえたつ。
『おっと! ここで土の壁が出現しました!』
『無詠唱とはのぉ。凄いとしか言えんの』
『さてさて、一体どうするのか……って……え?』
すでに試合は終わっていた。
山のように積み重なったB組が一か所に集められていた。
意識は失われており、動かぬ屍となり果てている。
その傍にはハチマキを握ったジャッフャルたちの姿がいる。
『し、試合しゅーりょー! 圧倒です。何をしたかすらも理解できました。A組の完封勝利です』
「やはり勝ちましたか」
「あぁ、この調子なら後は任せていても問題は無いだろう。俺は先に戻ってるよ。しっぽ取りはあいつらに任せようか」




