129話 闘技場案内
本日は晴天。
この様子では数日はこの晴れ模様が続くでしょう。
なお、雨天の場合は魔法で雲を塵一つなく消し飛ばします。
という俺は現在闘技場のVIPルームにいる。
昨日の神界での事後処理はオーディンがするという事なので、俺は計画通り魔法聖祭の案内のために朝早くから出張ってます。
「それで、どうするの?」
「どうするとは何だ」
「クリスとミセルはここには来られないのでしょう?となると私とフィルフィーは一つ部屋を借りるわ。その他はどうするのか気になるのよ」
リクライニングチェアに座ったエリスは片膝を上げてそう告げてくる。
スカートが捲れて純白の肢体が姿を現わす。
「王どもはいつこちらへ来るのだ?」
「フィルフィー、王様なんだから少しは……いや何でもないよ」
変に反応すれば、天然属性を持つフィルフィーは神界の事を口にする可能性がある。
流石に今はそれは大いに困る。
「それは私も気になるわ」
「午後からだよ。だから2人には先に案内する事にした」
「あなた、学校はいいの?教師なんでしょ」
「もともと週一の勤務だし、あとは自主練でそこらの有象無象には勝てる」
決して俺がサボっている訳ではない。
非常にうちのクラスは優秀なので俺が口かを出すまでもないというだけだ。
なんせ、現役の二つ名を持つ、冒険者でいうSランク相当の実力者が1人と、宮廷魔導師をフルボッコにできる青目金髪の氷使い、宮廷魔導師級の力を持つ魔法戦士が2名。
その他にもジャッファルや、学生の域を超えた生徒はゴロゴロいる。
なんなら全校生徒VSうちのクラスでも勝てる自信しかない。
王子であるレオンは間違いなく強いが、それでもうちのクリスとミセルには遠く及ばないだろう。
「あの子たちは?」
「学校だよ。通常授業だ」
「学校ってめんどくさわ」
「本来ならエリスも行くべきだと思うんだがな」
「ケイオス学園は今の私に必要?」
「それは……いらんだろうな」
「そうよねっ!」
あいも変わらず、突然エリスは炎の魔法を俺に使ってくる。
今回はバーナーのように伸びた炎は俺の方へめがけて振り下ろされるが、炎が当たったと同時にその魔法は搔き消える。
「あなた、本当に規格外だわ。1日空けたようだけど、なにをしに行っていたの?」
「まぁ、経験はしたな」
何のと聞かれれば、神界でのロキとの戦闘としか言いようがないが。
「魔素というよりは、大気中の精霊が涼太の体を覆ったと見えたぞ」
「フィルフィー、お前も相当に凄いと思うが」
「私はこの目が例外に過ぎん。普通以上のものまで見えるだけだ」
「【神眼】ってやつ?聞いたけど凄いわね」
神眼の機能はステータスの閲覧や、大気中の魔素の流れ、発動するであろう魔法の術式の解読などだ。
俺には見えなかったが、どうやら神界の一件で精霊などが俺の支配下に入ったらしい。
オーディンの話によれば、【神化】を使用した際に起こる後遺症らしい。
しばらくすれば人と同じように戻るとの事だ。
「私など取るに足らんよ」
「だれ基準で言っているのかは知らないけど、比較なら私やクリスとしなさい。本当なら私も戦いたいのに、なぜ出禁なのかしら。私も迷宮に行きたいわ」
「仕方ないだろ。魔法聖祭が終わればダンジョンってところに連れて行くつもりだ。その時にフィルフィーやクリス、ミセルと行こう」
「約束よ?」
「あぁ、約束だ」
♢♦︎♢
さて、時間は過ぎて正午を跨いだ時間帯。
約束通り、セリア王国王族の方々とグリムさんとジグルさんたちが足を運びに来た。
ラバン王国の方は忙しくて午後から案内する予定となっている。
俺は部屋の前に待機し、その姿が見えるまで暇な時間を過ごす。
暇なので部屋の前にソファーを出して、本を読んでいると小さな足音が響く。
「ユミルちゃん、まってー!」
「ソフィーア、早く早く!」
頭にマシュマロウサギを乗せた2人のお姫様だ。
スッカリ打ち解けた様で何よりである。
ソフィーアちゃんとの約束もこれで守ることが出来た。
ラバン王国のメイドらしき人物らが2人を追いかけていく。
「涼太よ、お主の規格外さにも慣れたわぃ」
ガイア陛下が俺に声をかけてきた。
格好は薄着であり、いかにもな王族とはかけ離れたほどにラフである。
プリシラさんたちも同じく、薄着のワンピースを着ただけだ。
ジグルさんたちもそれに慣い堅苦しい格好ではない。
「ガウス陛下、そんな服装でよろしいのですか」
「ふん、こんな暑苦しい日中になぜ厚着をせねばならんのだ」
「うふふ、涼太さんがくれた景品の服を早速着ているのだけれど、こんなにも涼しい物なのね。羽のように軽い服なんて素晴らしいわ」
「ご満足いただけたのならば何よりです」
「そんな事よりも早く案内してはくれまいか?出来れば飲み物も欲しい」
気を紛らわせるためか、手で扇子を作り扇ぐ。
しかし、涼しさは全く感じ取れていない。
「はい、分かりました。では移動しましょう」
俺は立ち上がって、正面にある部屋から違う場所へと足を踏み出す。
「待て、なぜこの部屋に入らんのだ?」
「あー、いや少し立て込んでまして……」
この目の前の部屋にはフィルフィーとエリスが立て込んでいる。
案内するなら別の場所がいいだろう。
しかし、なにを察したのか興味津々にあえて逆の行動をしようとするガイア陛下。
「ええぃ!秘密をさらけ出さんか!」
「あっ」
俺が口を開く前に扉を開けた陛下。
中にはなぜかエリスにワシャワシャと胸を揉まれて顔を赤らめているフィルフィーの姿がそこにあった。
ガイア陛下の思考が停止して、その姿を凝視している。
それに気がついたフィルフィーとガイアの目が合った。
「あぁ?」
「ヒッ!」
フィルフィーから発せられた殺気が直にガウス陛下の体を貫く。
悪寒が体の神経を逆だたせて思わず声を出してしまう。
反射的にドアを閉じ目を泳がせて、まるで俺に助けを乞うかのような視線を向ける。
いや、知らんがな。
人の話を聞かなかった陛下が悪いだろ。
「あなた、乙女の部屋に無断で入るなんて信じられないわ」
「いや、しかし……」
「あら、言い訳?」
「すいませんでした!」
陛下は目の前にいる自身よりも圧倒的な強者に土下座をする。
グリムさんたちは見慣れているせいか、眉ひとつ動かさずに苦笑するのみだが、一般人からするととんでもない光景であろう。
完全に首輪に繋がれた犬の状態である。
「謝る相手が違うのではなくて?」
「うっ……」
どうやらガイア陛下はフィルフィーが苦手らしい。
まぁ、シュテム帝国の最重要人物と言っても過言ではないから、国王の身ではあるが彼女に対しては慎重な態度を取らないといけないのだろう。
「フィルフィー、エリス、開けるぞ」
「いいわよ」
「問題ない」
許可も出たことだし、扉を開けるとそこには椅子に腰掛けて膝をついているフィルフィーと、ベットの上に座っているエリスの姿が腰掛けてそこにあった。
「フィルフィー殿。先ほどの非礼を詫びる。すまなかった」
「ふむ、謝罪を受け入れる」
「じゃあな、悪いが俺は陛下らを案内しに行く」
「分かったわ」
と言うことで、俺は陛下たちの案内を開始する。
「こちらで移動になります」
「これは……エレベーターか。しかし、お主の家にある物よりも立派であるな」
そう、目の前には黒塗りのエレベーター。
その周りにも高級感が溢れる装飾が施されている。
「ではどうぞ。このまま部屋へ移動します」
「うむ」
「涼太よ、まさかとは思うが、先ほどの部屋以上の物を用意してるとは言うまいな?」
流石はグリムさん。
実によく分かってらっしゃる。
「それはご自身の目で確かめて下さい」
俺は認証用のカードキーを差し込んで1から10まである数字の1を押す。
すると、エレベーターが移動する時にかかる圧がほんの一瞬感じたが、数秒後にはその感覚が消える。
『一番のお部屋に到着しました』
そんなアナウンスとともに扉が開く。
「ほうほう、見事であるな」
「ガイア、その俺は慣れたぜ、という感覚が私は怖いぞ」
「考えても無駄であろう」
「まぁ、涼太だしな」
「ありがとうね、涼太さん。こんな快適な空間を用意してくれて」
すっかり慣れたガイア陛下。
相変わらずの俺にため息を吐くグリムさんの姿がそこにあった。




