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128話 強敵



 逆立った赤髪に極限の集中力を纏ったヘファイストスは目を瞬きする間もなく目の前の敵へ突き進んでいた。

 いや、実際はまだ戦いすら始まっていない。

 ただ一歩、敵を倒すが為踏み込んだ第一歩。

 しかしヘファイストスとフェンリスボォルフとの間では既に数百の交戦のやり取りが行われていた。

 強者と強者。

 本能と本能のやり取りでどちらが上か競い合う。


「ハッハー!いいぜ、いいぜ!本能同士のやり取りか!」


 ヘファイストスは涼太から渡された武器、ヴァジュラを右手に持つ。

 握り潰そうとせんばかりに力を入れた神具はヘファイストスの腕と一体化したかのような錯覚を見せられる。


 敵の攻撃が来る。

 爪を立てた攻撃を上段からヘファイストスを真っ二つにしようと襲いかかる。

 空間が割かれ、4本の亀裂が浮かび上がり、地には底が見えない四つの谷が生まれた。


「ヘファイストス!」


 アポロンが大声を上げた。

 その理由は目の前の光景にある。

 仲間であるヘファイストスが今の攻撃をまともに喰らったからである。

 亀裂の中心にいるヘファイストスは間違いなく致命傷。

 タダでさえ【神殺し】なんていう天敵のスキルを持っているのだ。

 擦り傷さえも数倍の痛覚に変換される。


「落ち着くのであーる」

「トール」

「奴がこの程度でくたばるはずがないのであーる」


 アポロンは失念をしていた。

 仲間であるヘファイストスは神々の中でもトップの実力者と言っても過言ではない。

 普段はその好奇心に隠れているが、ただの戦闘好きというわけではない。

 これまで最前線で戦い、勝ち続けてきた圧倒的な戦闘センスを。


 フェンボスウルフは何かの違和感に囚われていた。

 自分の斬撃は間違いなく目の前の雑兵を倒した。

 しかし本能的に拭いきれない危機感。

 この雑兵には何かが起きていると。



「ラッシャァァァァッ!」



 どこから?

 その声が聞こえたと思考を再び始めたと同時にフェンボスウルフの体がくの字を描いて上空へと吹き飛ぶ。


「ほら、我らも行くのであーる」

「ああ!」


 2人は目を閉じて己の内を下がるように体を脱力させる。

 深い呼吸を行い、肺にある空気を吐き出し新しい空気を肺に入れ息を止める。



「「【限定解除リミットブレイク】【神羅】発動!」」


 先ほどのヘファイストスと同じく、体から火花のようなオーラが弾け出る。

 極限の集中モードに入った2人の瞳孔は敵を凝視する。


「まだまだであーる。【雷神】【不屈】」


 トールの体からスパークが弾け出る。

 髪の毛が逆立ち、いわゆるスー◯ーサイ◯人状態だ。


「ヘファイストス、邪魔なのであーる」


 その声にヘファイストスはその場から仰け反る。

 残されたのは上空に舞い上がったフェンボスウルフのみ。

 奴はすでに姿勢を直し、着地の姿勢に移っている。


「【落雷ナラク】ゥゥゥ!」


 雷雲などどこにもない。

 しかし、周りには雷鳴が響き渡り一筋の光がフェンボスウルフの体を貫くのが分かった。

 煙を上げて崩れ落ちたフェンボスウルフは白い体を地べたに這いつくばらせるように倒れこむ。

 数秒間の沈黙が続き、トールが禁断の言葉を告げた。


「やったのであーる」

「「バカ!何フラグを立ててやがんだ!」」

「フラグとは何なのであーるか?」


 日々、涼太と過ごしているヘファイストスとアポロンは無論の事ながら涼太の部屋でゲームや漫画などをそれなりに嗜んでいる。

 その中で毎回出て来るフラグが成立するセリフなど嫌なほど頭の中に入っている。


 ザワザワと辺りの空間が薄気味悪い音を上げる。

 まるで何か良からぬ事が起こる前触れであるかのように。


四柱方結界ししほうけっかい


 いち早くアポロンは上空に4本の矢を放つ。

 その矢は自分たちを囲むように正方形の魔方陣を描く。



 グルヴォォォォォォォッ!



 鼓膜が張り裂けるかの様な唸り声が響き渡る。

 目を赤くしたフェンボスウルフは毛を逆立たせながらゆっくりと立ち上がる。



「おいおい、ラージャ◯かよ。しかも第一形態を吹っ飛ばして第二形態とはな」

「先ほどから何を言ってるのであーる?」

「とりあえず攻撃には当たるなよ。割とすぐに死ぬ」

「む、分かったのであ……ッ!」


 一瞬たりとも気を抜いたつもりは無かった。

 しかし、会話の中で生まれる本当に極小はスキをフェンボスウルフは逃さなかった。

 大きな口を開けて結界に噛み付く。

 アポロンの張った結界はいとも容易く砕かれ、3人は別方向に散開する。


「ガハッ!」


 体を丸め大車輪をしたフェンボスの尻尾が腕を交差させたヘファイストスに直撃する。

 大きなクレーターが生まれる。

 想像を絶する強打に武器を手放し口から吐血した。


 まだ息があるのを理解してか、フェンボスウルフはヘファイストスの目の前に来て下からその様子を見定める。

 片方の前足を上げて、そこにオーラを漂わせる。

 確実に息の根を止めようとしているのは言わずとも3人には理解できた。


「ふんぬぅぅぅ!さぁ、来るのであーる!」

「バガやろぅ!」

「私も逃げるわけには行きませんねぇ!」


 2人はヘファイストスの前に立ち、武器を交差して上からの攻撃を防ぐ。

 圧倒的な重圧が2人を襲い、身体中の筋が悲鳴を上げる。


「ヘファイストス!私たちも!」

「テメェらは邪魔だ!」


 助けに入ろうとしたアテナをヘファイストスは怒号で戦いに参戦さすまいとする。



「「「グァァァァァ!」」」



 3人は横から薙ぎ払われて水面切りをしたかの様に吹き飛ぶ。


「くっそ、強すぎんだろ!」


 歯切りをするが、圧倒的な強さに苦渋の表情を浮かべる。


「ヘファイストス!」

「涼太、終わったか……」

「なにボロボロ……って何あれ、ラージャ◯?」

「あぁ、ラージャ◯だな」

「負けそうか」

「クハッハッ!舐めるなよ。俺がこの程度でやられる訳ねぇだろ!だが状況が悪いのは変わりねぇ。手を貸しやがれ」

「偉く正直だな。だが、分かった。任せろ」


 俺は3人に回復魔法をかける。

 すると3人はすぐになにもなかったかの様に立ち上がる。


「だが、何か決定的なものが足りねぇ」

「おっし、なら勝ったら特上の酒とワイン風呂を用意してやるよ」

「「それは素晴らしい」」

「よし、行ってこい」

「「シャァァァァッ!」」


 ヘファイストスとトールは意気揚々とその場から駆け出す。

 心なしな体が先ほどよりも軽い気がする。

 トールも以前に酒好きだと聞いたが、予想以上に効果が強いようだ。


「涼太よ、お主は神のあしらい方でも会得したのかのぉ?」

「日頃からの付き合いでな」

「それで人間とは、世は面白いのぉ」


 オーディンは高々に笑う。

 実際、こういうのは実力も大事だがモチベーションが一番大切だと思う。

 3人を見ていたが明らかに体が固まっている。

 それを俺はほぐしたにすぎない。


「涼太、私にはないのですか?」

変態おまえにはこれを授ける」


 俺がアイテムボックスから取り出したのは超現代的物資。

 Bluetoothイヤホンである。

 一応は何なのかは知っているアポロンは、それを耳に付ける。

 なにをするかイマイチ理解していないのは見て取れる。

 そして俺は禁断のボタンを押した。









『がんばって!……アポロンおにいちゃん!まけるのは……ヤだよ……?』✳︎(パンドラ似萌えボイス)










「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」


 空間が凍りつく。

 それは今起きた現状が、この場にいた全員に理解できなかったからだ。


 目の前には敵であるフェンボスウルフ。

 そのフェンボスウルフはすでに息の根が止まっていた。

 何しろ首から上が胴から離れていたからである。

 アポロンの手には弓矢。

 正確には無限に伸びた糸のような物が絡まっていた。


「ふぅ……」


 アポロンはなぜか満足げな表情であった。


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