125話 黄の迷宮・中ボス
俺は部屋の隅に腰を下ろして三角座りをして、目の前の戦っている天使たちの様子を見ている。
思った以上にガブリエルたちが戦ってくれているおかげ、こちらに襲って来ようとする魔物はほとんぼいない。
(暇ですね)
「暇だな。というかやはり高レベルになればなるほど、相手とのステータスの幅も無くなってくるんだな」
(はい。ついでに言うなら上限を超えた場合、レベルとステータスの数値が変化しますねぇ)
アテナがまた訳の分からない新情報をくれた。
ケタが増えるにつれて、Eの右側が増えていくんじゃないのか?
「具体的には?」
(レベルが50万を越えると上限突破になり、レベルが消えてステータスのみになります)
「以前のやつのようにか」
以前とは無論、紫の迷宮で死にかけたレベルエラーを起こしていたゲロ強モンスターの事だ。
(いえ、あればバグみたいものです)
「じゃあ、なんでそんな事が分かったんだよ」
(あー、ヘファイストスとかの男連中が超えちゃったんですよね)
またあいつらか。
どこまで強くなるんですか。
間違いなく人間と神の間に超えられない壁的なものが存在しているよね。
アテナでさえ異常なステータスなんだ。
ヘファイストスとかの普段から戦っている連中がどの程度成長したのか、正直な話知りたくない。
(というか、りょう君だって神化をすれば私たち以上の効果が出ると思うんですけどね)
「断る。俺はあの力を使い慣れていない。使うには体を慣らす必要があると思う」
(そういうもんですかねぇ)
「そういうもんだろ。神界でなら自由に使えるかもしれんが地上では出来るだけ使わない」
神化。
軽く話を流しているが、内容自体は異常なことを示している。
神の降臨。
それすなわち、天災であり、禍であり、奇跡である。
フィルフィーの時に無にも等しい神気を放ったが、地上の生命に携わる者。
木や葉っぱ、精霊や魔物さえも屈服させられる感覚が俺を襲った。
迷宮では空間を断絶していたので影響はなかったが、普通に行えば何が起きるかわからない。
「しかし、本当にやるもんだ。流石は俺の天使たちか」
(そうでしょう! なんせ神様が鍛えたんですから)
ふいに視線を目の前の天使たちに向ける。
大きな十二翼の翼を羽ばたかせ舞うその姿はまさに幻想という言葉を使うのに値する。
布陣は前衛がメタトロンとミカエルの二人。
目で追えないほどの一閃が突っ切ったと思えば、その周りを灼熱の業火が焼き尽くす。
司令塔のガブリエルはその行動パターンを全て把握して命令を出す。
そのついでに残った敵を遠距離攻撃で潰す。
後衛のウリエルとセラフィエルは主にサポート。
前衛の二人が避けられそうにない攻撃がくれば、結界を周囲に展開して攻撃を防ぐ。
その隙に前衛が敵を倒す。
気がつけば、25階層まで順調に来ている。
「よっゆうなのです!」
「神界と比べると骨がありませんでしたね」
「さて、次はどんな魔物でしょうか」
天使たちも順調な事が嬉しいのか、主人に貢献できる事が嬉しいのか、気分は悪くない感じである。
25階層の大きな扉を開け中に入っていく。
中は黄金に輝く宝物庫の様な輝きを放つ空間。
俺たちは思わず見とれてしまう。
しかし、
暇を持て余していた俺だが、ここで猛烈な違和感を感じる。
今までの魔物が出現する場所とは明らかに違う。
魔物が一匹たりともいない。
目を凝らし、五感をフル活用して警戒モードに入る。
それは天使たちも感じた突然の出来事。
「逃げなさい!メタトロン!」
「ッッ!!」
ガブリエルが一番先頭にいたメタトロンに警告する。
瞬間、どこからかは分からないが、槍、いや閃光と表現すべき投擲がメタトロンの脳天めがけて襲いかかる。
明らかに反応をするには遅すぎる。
「ウリエル、セラフィエル!」
「「ハッ!」」
メタトロンの頭上に結界を展開。
数百の薄い結界が重なり合い、超濃密な次元障壁が生まれる。
稲妻と業火が同時に降り注いだかのような破裂音が辺りに響き渡る。
散漫した稲妻は地を割り、一瞬にしてそこは死地へと変貌した。
すぐさまメタトロンは俺たちの後ろへ退避する。
そのひたいには一度では拭いきれない汗がビッショリとかいている。
「全員、俺の後ろへ」
その合図に、天使たちは言う通りにした。
(やっぱり来ましたか)
「あぁ、ハーフポイントってやつだな。中ボスの登場だ」
その合図に薄暗い頭上から何かが降り落ちてくる。
落ちたことから重量はあるものだと認識出来る。
「主様、あれは人間でしょうか」
落ちてきた何かは立ち上がった。
それすなわち、四肢を持った人に近い何か。
「あぁ、俺も神界での書物を見ていなければ分からなかっただろうな」
かの者は叡智に溢れていた。
祖父である邪眼バロールを討ち亡ぼした。
かの魔槍は一度放てば、稲妻となり敵を死に至らしめる灼熱の槍。
四秘法の武器であり、不敗必殺必中。
一度は聞いた事があるはずだ。
ブリューナクという言葉。
こいつは、その起源とも呼べる人物。
光の御子、クー・フーリンの父親。
「英霊ルー、あなたの槍は全て俺が頂こう」
*
光の英霊・ルー LV.45300
種族:###
性別:###
年齢:###
攻撃:9.65E6
魔力:4.74E6
俊敏:2.23E7
知力:5.78E6
防御:7.56E6
運:100
技能スキル
【全技能:LV.ーー】
【百芸:LV.ーー】
魔法スキル
【光魔法:LV.76】
【炎魔法:LV.MAX】
【雷魔法:LV.97】
【障壁:LV.77】
称号
【英霊】
【殺戮者】
【屠殺者】
【元・黄の王】
*
俺はアイテムボックスから一刀の黒刀と魔剣を取り出す。
長刀の天羽々斬はその刀身から、一対一には向いていない。
なので今回は自作した魔剣を使わせてもらう。
闘志を燃やして、いざ前に踏み込もうとする。
すると、アテナたちがなぜか俺の前に出てきた。
「どうした」
「主様、どうか私たちに戦わせてはくれないでしょうか」
何を言っているんだと、そう声を掛けようとガブリエルの顔を見るが、俺はその言葉をつむぐことになった。
天使たちの表情が好敵手、いや格上であろう敵を倒すべく立ち上がった戦士。
今にも虎を喰い殺そうという畏怖すら覚える顔つきだったからだ。
「……分かった。お前たちに任せよう」
(いいんですか?流石に荷が重すぎる気がします)
「いざとなれば俺が出る。好きにさせてやるさ」
(その時は私の出番でもありますね)
「ああ、その時はよろしく」
俺は再び、壁に体を預けて天使たちの行く末を見守ることにした。
♢♦♢
「陣形、3-2です」
「「「「了解!」」」」
ガブリエルの合図に熾天使たちは一斉に動き出す。
「敵は槍使い、属性は雷と炎。魔法攻撃に気を付けなさい」
「分かっている。先の二の前にはならない」
抜刀したメタトロンは超速でルーに接近する。
打ち合って数秒。
それだけで、数十の打ち合いがスローモーションの中で流れる。
「ハァッ!」
ステルスを使っていたガブリエルがルーの背後から襲い掛かる。
明らかに反応が遅れ、首元をガブリエルの短剣が突き刺さろうとした。
「チッ」
ガブリエルの攻撃は障壁にはばかれる。
スキルに乗っていた障壁だな。
見たところ常時発動しているというよりは、一定時間の常備発動及び削ると消えるタイプ。
「下がるです!」
ウリエルの合図に二人はその場から急いで離れる。
今度はこちらからと、ルーは前に足を踏み出そうとする。
『ガァ……?』
「フフッ、あなたの出番は来ませんよ」
ミカエルだ。
地形操作により、ルーの足元を地面に埋め込んだようだ。
上手い組み合わせだ。
「暗き無音の骸、光り輝く星々、祖は幾たびの滅びを地に与えた……」
ウリエルを中心に複雑に組み合わさった魔法陣が形成されていく。
その魔法陣はウリエルの頭上を通って、更に大きな魔法陣となっていく。
まるで発射台のように重なったそれはルーの頭上へ移動し、いつでも引き金を引ける状態へ。
「我が敵を滅する光線よ。発射せよ、無にして零の祠。『一雫の涙に濡れる黒き星屑』」
天から舞い降りる一雫。
その水滴が魔法陣に触れた瞬間、
超濃度の魔力砲が敵へめがけて発射される。
「私の必殺技なのです!死ぬがいいです!」
勝った。
そう誰もが確信したであろう矢先、俺はかすかに見えた。
鎧に身を包んだ奴のヘルムの隙間から薄気味悪い笑みが見えるところを。
ウリエルの放った攻撃が土埃を舞い上げる。
「マズイな」
(何がですか?)
刹那、
五里霧中の中から何かが飛んでくる。
警戒を緩めた天使たちは突然の事態に反応を遅らせる。
狙いはウリエル。
セラフィエルが高速で障壁を展開する。
しかし、その攻撃は水に濡れた和紙に指を通すように穴を開けていく。
「ふっ!」
俺はウリエルの前に出て、槍の矛先と剣の刃先を合わせるように突きを出す。
瞬間、辺りには人災らしからぬ天災によって引き起こされた衝撃が響き渡る。
「主様!」
「交代だ、2本目を取り出した」
「え?」
土煙が晴れ、姿を現した奴の手には2本の槍がある。
「ルーの槍、アッサルの槍。不敗と必殺必中の槍か」
ガキッ!
俺の刀と奴の槍が火花を散らす。
「神衣纏」
俺が力を発動したと同時に、アテナが憑依し容易に奴を吹き飛ばす。
「来いよ、英霊。いや、前王。どうせ、またロキがいじった結果だろう。なら俺はそれをことごとく粉砕していくまで」
『ガァァァァァァァァァッ!!』
奴は獣のような雄叫びを上げて立ち上がる。
「「さぁ、始めよう。ここからは俺(私たち)の蹂躙だ」




