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112話 翡翠の騎士として出発



 雲一つない澄み切った青空。

 早朝の涼しげな風が肌を撫でる。

 こんな日には、狩りにでも行きたいものだ。

 だが今日の俺には大切な使命がある。

 

「涼太さん、私も一緒に行きたいです!」

「いや、ダメだろ」

「でもお父様も一緒に行くのでしょう?」

「それはそうだけど」

「行きたいです!」

 

 今日の正午過ぎに、国王誕生祭の配送のために俺は陛下やグリムさんたちと一緒に行かないといけない。

 行くとは言っても、翡翠の騎士としてワープホールを設置して送るだけだ。

 そして王城までの護衛。

 国王を送るだけあってラバン王国では城門から王城までパレードが行われる。

 道は騎士たちがガードマンとして舗装した長い道に人が入らないように目を光らせる。


 ついでにグリムさんも、その一員に加わる予定だ。

 そこにハイゼット家令嬢のクリスも便乗して混ざりたいらしい。


「グリムさんに聴いてこい」

「了解です!」


 期待を胸にクリスはセリア王国につながる扉から猛ダッシュで実家へ向かう。

 ミセルはハイゼット家の騎士なのでグリムさんの護衛につく。

 そういうわけで前日から学校を休みハイゼット邸へ帰っている。


 ここに住んでいるみんなには事情を既に話しているので、わざわざ置手紙を書く必要もないだろう。

 俺も向かおうか。

 護衛の任に関しては、必要なものは何もない。

 しいて言うならば、暗殺などを防ぐための警戒心くらいかな。

 どこの国でも、お偉いさんを狙う馬鹿どもの出現という可能性はある。

 今までそんな話を聞いたことはないが用心するに越したことはないだろう。

 

 俺はクリスの後は追わずに王城へ向かう。

 陛下たちに便乗して行く人たちは正午に正門前へ待ち合わせになっているから、最初から王族側にいた方が俺としても楽だ。

 

「あら、涼太さん。まだ時間はありますよ?」

「プリシラさんこそ、もう着替えているんですか」

「王妃は大変なのよ」


 いつも以上に気品にあふれた格好をしているプリシラさんに最初に出会う。

 恐らくパレードに参列するための格好なのだろう。

 本当に1女を生んだ人なんだよな。年齢よりも若く見えることから、思わず疑い深くなってしまう。


「あなたのくれたシャンプーは本当に助かったわ。いつも以上にサラサラだもの。今からでも他の夫人のうらやむ顔が目に見えるわ」


 手入れされた自分の髪を手で透く。

 シャンプーだけではなくトリートメントもされているので、周りの女性と比べると宝石を己の髪に宿しているようにも受け取れる。

 妖艶な微笑みがいっそう色香を強めている。

 しかし、それほどまでに執着する理由がいまいちピンとこない。

 いつも適当にシャンプーして終わりだもん。

 湯シャンで終わらせる日も多々ある。

 

「そこまで髪にこだわるものなんですかね」

「分かってないわね、これは一種の革命よ。売れば間違いなく完売よ」

「そこまでのものですか」


 シャンプーやリンスに関しては、こちらの世界で造れるであろう。

 そう考えるのであれば、特許という形で販売するのもやぶさかではない。


「良ければ他にも試してみますか」

「まだあるの!?」

 

 近いですって! 顔が近距離に迫ってきたよ。

 もう少し近ければ顔同士がくっつきそうなくらいだ。

 おっとりとしたから獲物を狙うハンターの目つきに変わったんですけど。


「髪の質に合わせた品質の物がいくつか……」

「ぜひ譲ってちょうだい!」

「わ、分かりました。ラバン王国から帰ってきたら提供します」

「うふふっ、楽しみがまた一つ増えたわ」


 更に上機嫌な表情へ変わる。


「あ! おにいちゃん!」


 ソフィーアちゃんが俺に気が付いたのか、全力ダッシュで俺へめがけて飛び込んでくる。

 以前から気になってたんだけど、ソフィーアちゃんの身体能力っておかしくないか?

 約二倍の身長差を持つ相手の胸に三メートルほど離れた距離からジャンプするのだ。

 普通ならばトテトテと歩いて来て、可愛らしく俺の足に抱き着くところだろう。

 

「ソフィーア、服が乱れてしまいます。もう少しおしとやかにしなさい」

「うぅ、ごめんなしゃい」


 プリシラさんに怒られて少し身を縮める。

 こうしてみると、やはりプリシラさんってお母さんなんだなと実感が湧いてくる。


「ソフィーアちゃんはラバン王国に行くのは初めて?」

「うん、たのしみ!」

「それは良かった」

「それでねっ!ソフィーアはおともだちがほしいの!」


 友達欲しいか。

 ソフィーアちゃんはまだ幼すぎるから王城から出たことがないんだよな。

 歳からすると来年あたりから学園に通うのか。

 こんな遊び盛り真っ先な子供に友達がいない。

 それは耐え難い欲求でもあるんだ。

 なら俺が一肌無ぐしかないな。


「ソフィーアちゃん、絶対に友達作れるよ」

「ほんと?」

「本当だよ、約束だ」

「うん!」


 俺を信用してなのか、ソフィーアちゃんの瞳には一切の疑いがない。

 

「涼太さん、本当に大丈夫?」

「絶対に約束は守りますよ」



 それから俺としばらく話しているうちに、ついに移動の時が訪れた。

 たかだか移動、されど移動だ。

 大統領の就任式に行うパレードみたいなもの。

 王族を乗せた馬車を中心に位置させて歩兵と騎兵がその周りを守護する陣形。

 

 俺はというと、翡翠の騎士になって登場した事により、セリア王国の住民が喚起し騒ぎ立てているのを騎士団の方々に守られながら集合地点まで移動している最中だ。

 すでに陛下たちは集合場所に向かい、置いてきぼりの俺。


 こんなにも翡翠の騎士が人気だとは思わなかった。

 まるでヒーローの登場じゃないか。

 あっ、英雄だからあってるね。

 

「ちょっ、月宮さん。何ですかこれは」

「知りませんよ! 急がないといけないのに。あと名前は禁止です」

「すいません、英雄殿」


 王城で陛下の近衛騎士の方々ともみくちゃにされながら討論をしあう。

 近衛騎士という事で事情を陛下から聞かされた数少ない人物だが、本名は言わないで欲しい。月宮という異世界名字で人物特定されるでしょうが!

 

「仕方ない、俺に捕まって下さい」


 俺の言葉にその場にいた騎士の全員が俺にしがみつく。

 そのまま転移により緊急離脱をする。

 転移した先は正門前だ。


「ようやく来られましたか、りょ……翡翠の騎士様」

「やあ、ミセル。待たせたね」

「凄かったですよ。翡翠の騎士の登場にここら一体にいた住民の多くもそちらへ行かれたのですから」


 周りを見渡すと陛下とグリムさんの馬車と騎士以外には人らしい人は見当たらない。

 国の長を送るには寂しい光景だ。


「これでいいの?」

「陛下はどうでも良いから待たせるなと」

 

 なるほど、陛下らしいと言えば陛下らしいな。

 

「クリスは?」

「あちらに」


 ミセルの指さす方向を見ると、ハイゼット家の馬車の窓から顔を出してこちらに手を振っている。

 グリムさんに許可は貰えたんだ。

 

 そして陛下の乗っている、ひときわ大きな馬車から呼び出しが出る。


「翡翠の騎士よ、出発だ」

「御意に」


 さて、事前に説明されていたマニュアル通り事を運ばせますか。


 俺は馬車や護衛の先頭に立ち、手をまっすぐに突き出す。


「【ゲート】ラバン王国正門」



 ゲートを初めに俺が通る。もちろん出口はラバン王国の正門前。

 通った先には数万はいるであろう民衆が迎えてくれる。


 続いて護衛の兵に馬車などが現れ、常識的にはあり得ない現象にざわめきが起こる。

 すべての兵が通ったのを判断し、ゲートを閉じて王族の馬車の隣へ移動する。


 ようやく来客が自国に来た事を認知したのだろう。

 数秒の沈黙の後に爆発的な歓声が舞い上がる。

 チラッと窓の方を除くと、ソフィーアちゃんがあっけに取られてプリシラさんに抱きかかえられている。

 想像以上の活気に委縮してしまったのかな。


「キャー! 騎士さまー、こっち向いてー!」

「英雄よ! 本物の翡翠の騎士よ!」

「どこから現れたんだ」

「すげー、ん?先生……か?」


 流石英雄、俺への歓声も多いな。

 そして何やら知った声が聞こえてきたのでそちらを向くと、学生服を着たウチのクラスの連中が横から俺の事をじっと見つめている。

 

 まずい、非常にまずい。

 なんで俺だと分かったんだ。


「ねぇ! ジャッファル君、クリスちゃんとミセルちゃんだよ!」

「本当ですわ、こちらに手を振ってますわね」

「おお、本当だ」


 クリスたちの存在に気が付いた者たちは大きく手を振り、それに応える様にクリスも窓から笑顔で手を振る。

 そのおかげともあって、こちらへの認識が外れる。


 そのまま、パレードの道中では何も起こらず王城へと到着した。


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