109話 リハビリ
パソコンを買ったので、フリックからタイピングに移行しました。
もしかすると、誤字脱字があるかも知れません。
慣れない操作は難しいものですね。
今まで、半角で打っていた部分を修正するので、ちょくちょくサブタイトルの横に(改)と付きますが、話自体は改正していません。
「ねぇ」
「何だよ」
ベットの上に座っているエリスが退屈そうに声をかける。
かく言う俺は、図書館で完全記憶した本を脳内に保管している棚から取り出して読み返しをしている。
全く動かずに外からは退屈している様に見える俺だが、全くそんなことはない。
「本当に何もする事が出来ないのも退屈よね」
「なら、本でも読んでおけば?」
「何か話してよ」
「何かってなんだよ、今でも魔法の理論とか教えてるだろ」
「確かに凄いわ、革命的だもの」
そう言い、エリスは人差し指を立てる。
魔力の発動する微弱な波動とともに、ガスバーナーほどに燃え上がる炎が立ち上る。
そこから炎は鞭のような形へと変わり、先頭部は裂かれた口に角。
ドラゴンの姿へと変わる。
【炎の竜】
この世界だと上級魔法にギリギリ位置している魔法だ。
魔導師でも発動できる人は少ないだろう。
今、エリスが発動したのは超小規模に展開されているので、実質威力はない。
だがその分構成している魔法の緻密な制御が必要になる。
それをやすやすとこなすエリスはいったい何者なのだろうか。
クリスとは別の意味で天才だ。
天才と表現するよりは、異端児と表現するのが正しいのかもしれない。
渦巻いた炎のドラゴンはエリスの肩をなぞりながら、俺へめがけて襲いかかる。
俺は飛び回るうっとうしい虫を払うかのように手で魔法を振り払う。
「例えば何がいい?」
「そうね...外の話がいいわ」
エリスは大変興味ありげな表情で聞いてくる。
そんなに大した事はないんだけどなぁ。
一度も城から出たことのないエリスからして見れば、真なる意味で未知に溢れている世界なのか。
そう考えると、エリスの生きてきた世界って本当に小さいんだなぁ。
「難しいな」
「王城に生えている花以外にも多くの花が咲き誇ってるのかしら」
「そりゃそうだろ、王城なんてたかが知れてる」
「私はそういう事を知らないのよ」
普段自分が見慣れたものには何も感情を感じないが、他所から来た観光客からして見れば驚嘆せざる得ないという事。
地球に居た頃に秋になれば、紅葉が素晴らしいと言われる所に住んでいた。
観光客も多かったが何も感じないあれね。
「そう言えば、エリスはどうするんだ」
「何がよ」
「一時的に今はうちに住んでいるけど、この前の事態が収集すれば帰るんじゃないのか?」
「帰らないわよ、第一私はすでに王女じゃないし」
「知ってたのか」
「お父様に知らされたわ」
あぁ、えらく長い間話していた時ね。
「変なことを聞いたな」
「むしろ清々したわ、王女って面倒だもの」
「一般人に話したら嫉妬しそうだな」
「あなたは違うでしょ?」
「まあな」
王子様なんて御免こうむる。
貴族のドロドロとした抗争に巻き込まれるわ、政略結婚させられるわで面倒ごとしかないイメージだ。
そう考えると、これから苦労するであろうクソイケメンのレオンは大変だな。
他人事だなと言われれば、実際他人事なので問題は何もない。
「じゃあ冒険者か」
「それは、私の力が強いからかしら」
ジト目でこちらを睨んでくる。
ごめんなさいね、以前に言ったことをまだ根に持ってたのかよ。
いい加減忘れてくれないかな、なんて嘘です。
心に刻んで再発防止に励みたいと思います。
「まぁ、これからはあなたと共に歩んでいこうと思うわ」
「いやいや、俺はエリスにプロポーズなんてした覚えはないぞ」
「あら、あれだけ熱烈な事を言っておいて言い逃れをする気?」
「あっ」
俺は思い出した。
ノリと勢いで話した部分がほとんどだったが、とらえ方によってはプロポーズした様にも受け取れる。
レオンと陛下がニヤニヤとにやけていたのと、ユミルちゃんが訳の分からないことを言っていたのが理解できる。
迂闊な発言だ。
いっその事、未来に行って警告をしたい。
いや、今更後悔しても遅いか。
「責任は取りなさいよ」
「俺は特殊だ」
「知らないわ、そんな事はどうでも良いのよ」
「はぁ、まいったな」
「私は自分が知らなかった世界を、この目で見てみたいのよ」
「どうなっても知らんぞ」
「楽しみだわ」
嬉々とした表情でそう答える。
「なら外に出る時は一応これを付けとけ」
「これは?」
「ちょっと待て」
俺は後ろを向いて、別に創造した物を付ける。
俺自身も初めてなので少しドキドキする。
「ほれ」
「ッッ!」
エリスは驚かざる得なかった。
俺の目が黒と赤のオッドアイに代わっていたのだから。
なぜ変わったのかと答えるならば、お察しの通りカラーコンタクトだ。
眼鏡ですら普及していない世の中だ。
コンタクトレンズなんて代物は存在しない。
まぁ、コスプレみたいなものだな。
やってる身としては楽しい。
「これで瞳の色は隠せる、外に出る時は着用したらどうだ?」
「そうね、ありがとう。是非付けさせて貰うわ」
そう言い、エリスはコンタクトレンズの入った容器をベッドのそばにある机へ置く。
「付けないのか」
「今はいいわよ。あなたに褒められたこの目を今はあなたに見てもらいたいの」
俺の目を見つめながらそう告げる。
その眼には恐怖は移っておらずに、自信と可憐さが写し出されている。
今にも飲み込まれそうな瞳で見つめられるこちらの身としては大変気恥ずかしい。
「さいですか」
「もしかして照れてる?」
「うっさいわ!」
「ふふっ」
「よっこいしょっ」
俺は座っていた椅子から空になったコップに飲み物を入れるために立ち上がる。
「何か入れてこようか」
「それよりも体を動かしたいわ」
「そうだな、早いにい越したことはないし始めるか」
「なら肩を貸してくれないかしら」
「ほら」
エリスの腕を肩に回す。
少しふらつきながらも自分の足で立ち上がる。
思っていたよりも動ける。
寝たきりの生活では起き上がっただけで吐き気が現れるのが一般的だと思っていたが、想像以上に元気だな。
ちなみにソースは俺。
手術後の入院でベッドから起き上がるたびに吐いていた。
胃液しか出てこなくて大変だったなぁ。
そのおかげで体からの毒素や体重も減って、一種の健康体ではあったよ。
「以外に動けるものね」
「予想外だよ」
「これなら、普通のご飯も食べられるんじゃない?」
「それはダメだ」
外側の回復が早くても、内臓を生活できる一般水準まで回復させるには時間がかかるだろう。
それでも回復が早かったら嬉しいな。
正直、介護はめんどくさい。
「涼太、私がご飯の時にどれだけの苦痛と共に過ごしているか知ってる?」
「飽きないように、別のものを毎回出しているだろ」
「確かにおいしいわ。でも違うでしょ」
「ん?」
「あんなにも美味しそうに食べているのよ。未知なる美味を目の前で食べられるのは辛いわ」
「あー、なるほどね」
「だから、ね?」
上目使いでお願いしてくる。
少し目を潤ませえるあたりが、あざとくも可愛らしい。
ふと良いんじゃないのかという感情が頭によぎるが、すぐさまその考えは捨てる。
「ハハッ、バカだなー。俺にそんな事が通じるわけないだろ」
「ちっ、食えない男ね」
「ほら、自分で立てるんじゃないのか?」
俺は手を外して、エリスを立たせる。
そのまま姿勢を正して歩く。
軸をしっかりと支えながら歩くことから、一般生活では支障のない程度には回復している。
「んじゃあ、俺はいらないな」
「きゃっ!」
エリスの傍から離れようとすると、バランスを崩したのか揺らめきながら煽れる。
間一髪で手を取り倒れないように支える。
わざとではないが、抱きしめる形になってしまった。
エリスの口元がニヤリと笑う。
「おいおい、元気だな」
「ふふっ、支えてくれると思ったわよ」
「そうだな、それだけの元気があれば問題ないかもな。少し外に出るか」
「いいの!?」
「街中じゃないぞ、下見だ」
「何でもいいわ。行きましょう」
おもちゃを貰えた子供のような無邪気さが見受けられる。
「それじゃあ、いくぞ」
「うん」
エリスの手を握り転移する。
転移した場所は闘技場だ。
緑の芝に競技をするためのラインが引かれてある。
すでに準備は終えたのか、観客席にも誰もいない。
貸し切り状態だな。
「わぁ、広いわね。どこなの?」
「魔法聖祭が行われる会場だよ」
「ここでレオンやユミルが競技を行うのね」
「初等部はお遊びみたいなもんだがな」
「私も当日は見られる?」
「あぁ、そのための部屋も用意したよ」
一度外に出るのもめんどくさいので、その場から最高級VIPルームに移動する。
中は冷蔵庫やソファーはあるにも、軽食用のお菓子やワインなどはない。
前日に陛下らを案内して、欲しいものをピックアップして貰う予定だ。
エリスは会場一面を見渡せる窓ガラスに張り付いて無言のまま腰を下ろす。
思っていた以上の風景に圧倒されている様だ。
「凄いわね」
「だろ?」
「レオンたちも来るのかしら」
「二人は学生だからな、生徒用に設けられた場所で見るのが当然じゃないのか?」
「そう」
少し残念そうな表情を見せる。
きっと、兄弟で魔法聖祭の協議を見たかったのだろう。
「まぁ、顔くらいは見せるだろ」
「涼太はどうするの?」
「俺は陛下の護衛と講師として、クリスたちが出場する競技くらいは近くで見るだろうな」
「忙しいのね」
「なんだ、寂しいの?」
「そうね、寂しくなるわね」
冗談で言ったつもりが、予想外の返答で帰ってくる。
思わず言葉に詰まってしまった。
「冗談よ、でも暇があれば来てね」
「時間が空いたら来るよ」
ただのリハビリ回になるはずなのにラブコメ?
二人の会話で終わってしまった。




