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108話 闘技場視察



 魔法聖祭とは、そこまで重要な行事なのか疑問に思わずにはいられなかった。

 確かに年に一度の大行事だ。

 各国の将来を担う希望の若者が、己の力量を各国の代表に晒せる唯一無二の機会だから。

 学園側も魔法聖祭において、不甲斐ない結果を各国の重鎮に晒す様な愚かな真似は断固としてしない。

 団体競技は除くとして、個人種目で生徒を選抜するのもそれが理由だからだ。


 また、魔法聖祭と国王誕生祭という2つの大イベントが重なっている事から商業ギルドも忙しい。

 祭りとあって、屋台もいつも以上の稼ぎ時だからだ。


 また当日は観客も増える事から、学園で競技を行うにはあまりにも訓練場は小さい。

 そこで毎年、競技に関してはラバン王国にある闘技場を使う事になっている。

 大きさは甲子園より一回り小さい程度だろうか。

 何にせよ、万単位の観客を収容できる。


 まぁ、そこはどうでもいい。

 毎年の行事なので、俺が口を挟む事では断じてない。

 だからって、ここまでするかな。


「涼太よ、ヘルプじゃ。緊急で頼みたい事がある」

「お断りします。どうせろくな事じゃないでしょ。時間外勤務はしたくない」

「涼太さん、事情だけでも聞いて貰えないでしょうか」


 今回は、普段口を挟まないパルメラさんまでお願いしてきた。

 これだけでも、かなりの重要な事態だと分かる。

 本当にピンチなんだね。

 俺からしてみれば、だからこそ受けたくないんだけど。


「分かりました。簡潔にお願いします」

「魔法聖祭がヤバい」


 ガウスさんがキリッとした表情で答える。


 簡潔過ぎるのも問題だな。

 何がどう問題なのか、こちらに一言も伝わってこない。

「ヤバい」という、どんな会話にでも適応出来る言葉を使われても困る。

 あんたは未来人か何かですか。

 テンションが上がり過ぎてヤバいのか、画期的な事が起こってヤバいのか、危機的状況においてのヤバいなのかはっきりして欲しい。


 まぁ、ガウスさんとパルメラさんの表情と場の雰囲気から察するに、危機的状況のヤバいなのだろう。


「簡潔に申しますと、魔法聖祭のために新しく新設しようと考案した設備が未だ完成していないのです」


 なるほどな、確かにそれはヤバい。

 もうすでに魔法聖祭まで1週間を切っている。

 なのに会場すら完成していないとなれば、焦りも感じるだろう。


「何が完成していないんですか?」

「まず、闘技場の劣化による全ての観客席の取替工事が終わってません。更に全面を芝で覆う作業も完成していないのです」

「それをなぜ俺に?」

「お主なら何とかしてくれるじゃろう」


 はい、認めましょう。

 俺は家事はもちろん、狩りも創造も出来る万能器具です。


「報酬は?」

「500万でどうじゃ、無論可能であれば他も手を加えて貰いたい」

「商業ギルドに確認を取りましたか」

「この闘技場はケイオス学園が所有している物なのじゃ。ワシが持ち主じゃよ」

「マジっすか」


 初めて知ったよ。

 これだけの大きさの闘技場を所有しているって、金持ちだなぁ。


「で、どうじゃ?」


 500万。

 人件費や材料費など、今まで大人数に出していた給料分を考えると効率的だな。

 俺1人で全てが解決するとなると、500万は出費としてはかなり抑えられている。

 お互いにとって妥当な報酬か。


「確か、魔法聖祭では指定した範囲では一定の物理的ダメージを精神ダメージへ変更する魔道具があるんですよね」

「うむ、正確には古代魔道具アーティファクトじゃがな」

「ならば、その魔道具の解析をさせて貰えませんか?」

「まさか造れるのか!?」

「いや、見てみないことには分かりませんよ」

「分かった、好きにしてくれ」

「では交渉成立ですね」


 よっし!

 物理的ダメージの精神ダメージへ変換する魔道具が作れるのであれば、戦闘訓練において超便利だ。

 解析してみたい。


「では行こうか」

「今からですか?」

「早いに越したことはないじゃろ」

「そうですね」



 俺とガウスさんとパルメラさんは学園から抜け出して闘技場へ向かう。

 辺りではすでに屋台を出すであろう場所が確保されている。

 ある人は木材から屋台を組み立てている。

 終わったら壊すのかな。


 中は思っていた以上に広い。

 所々に隔離された広いスペースが設置されている。

 やはり劣化しているのが見て取れる。

 床のコンクリートというか、石はひび割れている箇所が多々ある。

 良く言えば歴史を感じさせられるな。

 悪く言えば俺と豪鬼で模擬戦をすれば、平地になる事は間違いない。


「はぁ」

「どうした?」

「ボロボロですね」

「誕生祭と魔法聖祭がどちらもキリの良い周年だから大改装しようと調子に乗ったのじゃな」

「これなら全てを造り直した方がいいですよ」

「長い年月と改築費は億を超えるぞい」


 億単位ねぇ。

 俺からしてみれば払えるんだけど、普通の人から鑑みると大きいんだよね。


「創り直しましょうか」

「良いのか?」

「報酬は増やして貰いますよ」

「いくらじゃ」

「20倍」

「む、むぅ……」


 ガウスさんは腕を組み悩む。

 悩んでいる事から払えない金額ではない様だ。

 俺としても、この金額は安いと思う。

 創造なら、新品な上にハイテク設備が設けられるんだ。


「学園長、私は賛成します」

「その心は?」

「月宮さんが造り変えるのですよ? 値段以上の価値はある案だと思います」

「うむ……分かった。任せよう」

「なら、例の魔道具を先に見せてくれませんか」

「案内しよう」

「ではパルメラさんは作業員に闘技場から荷物を出して貰えるよ様にお願いします。大荷物はこれで運んで下さい」


 俺は即席で造ったアイテムボックスを十数個渡す。


「毎度の事ながら驚かされますね」

「よろしくお願いします」

「分かりました」


 アイテムボックスを受け取ったパルメラさんは一礼してその場から立ち去る。

 残されたのはジジイと野郎だ。

 絵柄としては全く美しくないな。

 もうちょいお姉さん枠が欲しいところだが、仕事だから仕方ないよね。


 俺はガウスさんの後をついて行く。

 案内されたのは地下だ。

 重々しい扉には魔道具が取り付けられている。

 盗難防止のための魔道具だ。

 高価だが、商業ギルドで売られていた。


 セキュリティを解除して中に入ると大きな機械の様な物が一台置いてある。


「触れても?」

「構わん」


 許可も取れたので確かめる。


「へぇ……」


 本当に凄いことが分かる。

 緻密な魔法が使い方を組み合わせて造られた一種の混合魔法がだ。

 古代魔道具アーティファクトと称されるのが納得だな。

 結界魔法は分かる。

 これは透過かな…次元魔法と精神系統の魔法が組み合わさって、ダメージを変換しているのか。

 あー、分からんな。

 複雑過ぎる。

 いっそのこと複製でもしてみるか。


 10数分にかけて複雑にかけられた魔法を脳にインプットする。

 これでいつでも複製は出来るな。


「ありがとうございます」

「もう良いのか?」

「はい」

「では戻るとするかのぉ」



 元の場所に戻れば、パルメラさんが待っていた。


「もう終わったんですか?」

「はい。どうやら改装に伴い、すでに多くの機材が倉庫に運ばれている様です」

「ふむ、なら頼む」

「分かりました」


 さて、始めるか。


 座標を確認。

 主材質はコンクリート、夜間のためのライトを設置、創造した席並びに機材には非破壊。

 グラウンドは人工芝で覆い、魔法や斬撃で破壊されても修復される。

 その他にも結界魔法が備えられた強化ガラスの窓から闘技場を眺められる高級ルームを15個室設置。

 更にその上の最高級VIPルームを10個室。


 創造により部屋を創る。

 高級ルームは観戦用の椅子とトイレ、試合風景が見えるモニーターを1つ設置。

 広さは20畳程度。


 最高級VIPルームはモニーターにソファー。

 冷蔵庫完備にトイレ、風呂とシャワールーム。

 その他にも3つ程部屋があり、ベッドルーム、会議用ルーム、娯楽設備。

 一種の最高級ホテルだ。


 俺が創るんだ。

 自重などしない。

 セキュリティは専用のカードを扉には差し込まないと承認されない。

 まぁ、基本的には王族のための設備だな。

 以前に陛下……。

 うーん、ラバン王国と混合してしまうな。

 ガイア陛下とでも呼ぼうか。

 そのガイア陛下が来る際にゲートを使う為、長旅にならないのでソフィーアちゃんも来ると言われた。

 小さな子供にとって、炎天下の外での空間はストレスになるだろう。

 出来るだけ快適な空間を提供したい。

 なので創る事に決める。


 俺が創造を開始すると、闘技場全てを覆い尽くす魔法陣が生まれる。

 中には誰もいない事は確認済み。


「おぉ、これは凄まじいの」


 ガウスさんを含め、作業員の方々も感嘆の声を上げる。

 下からゆっくりと上へ魔法陣が上がっていく。

 ボロボロだった闘技場はなんという事でしょう、周りの風景とは一致しない程にハイテク感のある建築物へ変貌する。


「どうですか?」

「ハハッ、本当に素晴らしい。実に良い買い物をしたな」

「報酬を更に2倍にしますか」

「いや……それとこれは別じゃろう……」

「まぁ、いいです。例の古代魔道具はそのままに、していますので」

「うむ、助かる」



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