106話 長い眠りからの目覚め
豪鬼たちにはお礼として酒瓶を大量に用意する。
3人はまんべんの笑みで部屋に戻る。
俺と陛下は王城へ戻る。
「父上! 涼太! どこへ行っていたのだ! あの悪魔らはどうなったのだ!」
レオンは俺たちの姿を目視した瞬間に近づき質問責めを繰り出す。
「安心せよ、あの悪魔らは涼太が倒した」
「本当なのか!?」
「大丈夫だって、現に戻って来たのが証拠だろ」
「そうか……良かった」
俺の肩に手を置いたレオンは、その場にズルズルと倒れ込む。
少しの間だったが、何も言わずに消えたから心配はするか。
申し訳ない事をしたな。
「それで、王妃らはどうしたんだ?」
「そうだ、今すぐに来てくれ! 姉上の衰弱が激しい! 王宮の魔導師が回復魔法をかけているが間に合わない!」
「分かった」
確かにあの方法でしか取り出す事は出来なかったが、強引に取り出した事も事実だ。
あれだけ暴れたのだから、身体への負担も大きいはず。
悪魔の事で頭がいっぱいだった自分の落ち度か。
陛下と俺はレオンの後に続いて走る。
どうやら、王女はあの後にどこかへ運ばれた様だ。
そして案内されたのはユミルちゃんの部屋。
「母上! 涼太が帰って来ました」
扉を開けるとそこは静かな空間だった。
「レオン……エリスが……」
「姉様……ヒグッ……」
涙を流しながら、王女の手を握る王妃とユミルちゃん。
魔導師たちは陛下の前へ跪き、こうべを垂れる。
間に合わなかった事が一目瞭然だ。
「そ、そんな……」
「間に合わなかった……のか」
悲しみの空間がよりいっそう濃くなる。
深妙な空気の中、俺だけが動き王女の様子を伺う。
「陛下、魔導師たちを下がらせて下さい」
「何を……まさか」
「そのまさかですよ」
「分かった。私たち以外は部屋から出よ」
陛下は俺の言葉を察して魔導師を含めて、家族以外を部屋の外へ追いやる。
残されたのは俺と陛下たち。
今からやる事は、本当であれば見せたくない。
だが、これは俺が招いた原因の1つでもある。
使わざる得ないだろう。
クリスにも厳守をして貰った事だ。
魔導師たちならば、察するかもしれない。
それを見れば俺への面倒ごとが間違いなく起こる。
下手をすれば国中に存在が知られる可能性だってある。
だから最低限の人数にさせて貰う。
「少し離れていて下さい」
「涼太、一体何をするんだ」
「レオンよ、涼太の言う通りにせよ。2人もだ」
陛下の言葉にレオンと王妃は下がる。
泣いて離れないユミルちゃんを王妃は無理やり離す。
子供の泣き声って辛いな。
さて、始めるか。
これを行うのは二度目か。
俺は眠りについた王女の両手を腹の上に交差させて置き、その上から自分の手を乗せる。
「【時間回帰】」
ミセルに以前同じ様にした事を繰り返す。
王女の体が宙に浮き、薄い膜の様なものが包み込む。
戻す時間は俺が王女から悪魔を取り出したすぐ前。
時間を巻き戻し終えると、王女の弱々しい鼓動が俺の手に伝わってくるのが分かる。
しかし、すぐに鼓動はゆっくりと静まり帰ろうとする。
「なるほど」
悪魔が長く住み着いたせいで、呪いが体全体を侵している。
それも飛びっきりの強力なのがだ。
許容量を超えて溢れ出た呪いにより、王妃までもが感染という形で移ったのか。
魔導師がいくら回復魔法を使おうと無意味だ。
「【解呪】【天使の息吹】」
呪いの解呪と腕の欠損すら治す回復魔法。
暖かな光が王女を包み込む。
よし、鼓動も少しの弱いが安定している。
後は痩せ細った体をどうにかするだけだな。
「うぅ……ここは……」
「おはよう、お姫様。長い夢からは覚めたかな?」
「あなたは…夢の中で助けて……そう……あなたが私を……」
悪魔を取り出した時に少し、俺も精神体になったからそれを察知したのかな。
何にせよ、お早い目覚めだ。
「ねぇざまぁぁぁぁぁぁッ!」
「わっ、もしかしてユミル? 大きくなったわね」
ユミルちゃんが鼻水を垂らしながら、大泣きをして王女に抱きつく。
王女はそっと抱きしめて、久々の温もりを肌で感じ取る。
「姉上……本当に良かった」
「心配させないでよ……」
「全くだ。だが、良かった……本当に良かった」
「あら、レオンは随分とイケメンになったのね。お父様とお母様は老けたわ。まるで私だけを置いて時間が過ぎたかの様な」
「お前は5年も眠っていたのだ」
「そう、そんなに眠っていたのね」
王妃とレオンは王女の手を握り、陛下は涙を拭う。
その光景は微笑ましいほどに暖かさが包み込んでいる。
いやぁ、本当に良かったよ。
感動の再会だね。
俺もやった甲斐があったものだ。
「涼太よ、お前には感謝しきれん。ありがとう」
あろう事か、陛下は俺へ頭を下げる。
「国の長が頭を下げないで……」
「違う、これは1人の父としてだ。娘を救ってくれた恩人に感謝しての事だ」
あぁ、前にもあったなそんな事が。
俺としてはどちらでも良いから気にしないんだけどね。
「涼太、本当にありがとう」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「感謝の言葉もないわ」
一度にそんな事を言われるのは中々ない経験だ。
こんなにも迫られると、こちらとしても気恥ずかしい。
思わず顔を背けたくなる。
少しの間、俺は部屋の外に出て久々の家族の対話を待つ事にした。
部屋の外にいた魔導師たちは、王女の安否を知りホッとすると同時に、俺が何かをしたのかと質問を迫られる。
俺は人間は死んで間もない状況ならば、適切な処置を施す事により、生き返る可能性があると告げる。
それでも納得しないだろうから、奇跡が折り重なったと付け加える。
王城内の兵士たちは、先ほどの惨事にもかかわらず、慌てふためく様子もなく崩れた塔の瓦礫を撤去していた。
魔法で手伝おうかと思ったが、目立つのは嫌だから見て見ぬ振りをする。
数十分が経過したが、お話は続きそうなので暇になってしまった。
ユミナちゃんの部屋に置いておいたバームクーヘンが無くなっている事を思い出し、どこへやったのか聞けば、厨房にあるとの事なので移動する。
そのには料理人の方々とメイドたちが食べて良いのか悩んでいる状態だったのでみんなで仲良く分け合う。
数時間経ち、料理人の方々と打ち明けた中で陛下から呼ばれたのユミナちゃんの部屋に行く。
「すまんな、待たせた」
「楽しまれましたか?」
「うむ、それでお主には先の件で褒美を渡したい」
「いや、別に……」
「それは許さん!」
物凄い勢いで断られたよ。
俺としては悪魔を狩りまくった事により、ストレス発散出来た事が自分へのご褒美だと思ってたので必要ない。
「では何なら貰えますか?」
「私の出来る範囲なら何でも」
「……ならこれでどうですか?」
俺はアイテムボックスから布生地を取り出す。
そこにはグリムさんたちから貰ったバッジが付けられている。
以前は服の裏に付けていたが、戦闘で服が破けてしまい無くしそうになっので、今は別に保管している。
「ははっ、既にセリア王国の後ろ盾があるのにまだ望むか。強欲なやつめ」
「どうですか?」
「分かった。それで構わない……が、こちらとしては足りないな」
「いや、十分でしょ」
国の後ろ盾以上に大きな褒美はそうそう無いと思う。
「エリスに巣食っておった悪魔。それが居続ければ、我が国は滅んでおった。あの悪魔の軍勢が証明だ」
確かに、あの……もう既に名前を忘れた悪魔は、あと少しでエリス王女を支配できると言っていた。
支配したその後に何か不吉な事が、この国に起こる事は推測出来る。
となると今のがその分か!
どうしよう、何も浮かばない。
「ほ、保留という事でどうですか」
「金はどうだ?」
「あいにく困ってません」
「欲が無い奴だな。何かあれば言ってくれ」
「そうさせて貰います」
「では今後の話だ」
陛下は神妙な顔つきになる。
「悪魔の対策についてとエリスの今後の方針についてだ。涼太よ、お主には迷惑をかけるがエリスを貰ってくれないか?」
「はひゃあ!?」
え、何を口走っているんだこの人は。
貰うって、つまり貰うって事だよな。
「しばらくは王城で過ごせないのだ。先の悪魔の件で、一部の連中が早くも呪い子のせいだと口に出した」
「あぁ、そういう事ですか。それなら別に構いませんよ」
サラリと了承した事にエリス王女は驚く。
「えっと……呼び方はどうしよう」
「別に名前で構わないけど」
「じゃあ、涼太。あなたは…私が呪い子だと知って怖がらないの?」
どんな事を聞かれるかと思えば、随分とバカバカしい質問だな。
「呪い子なんて存在しない。あなたはエリスという1人の人間だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「ほ、本当にそう思ってるの?」
「目を気にしているのであれば、むしろ愛嬌のある目だと思う」
何でそんなデマを信じるのだろうか。
彼女の右目は髪の色と同じ桃色、左目は光り輝く金色の瞳だった。
それにオッドアイなら、以前に俺もヘファイストスとの神化でなった。
それと先ほどの発言のソースは地球の旅行先で、偶然見かけた猫が金と翡翠のオッドアイだった。
非情に人懐っこかった思い出が、この王女さんから鮮明に浮かび上がる。
「で、でも……それは気遣って……」
あー、もう鬱陶しい事この上ない。
クリスの様なバッサリ感があってもいいだろうに。
いや、今までそんな扱いを受けて来た影響もあるのだろう。
家族以外には心を開けない一面があるのかもしれない。
現に、俺が視線を合わせようとすると反射的に目を晒す。
身体の傷は癒えても、心の傷は癒えないか。
なら荒療治で試してみるかな。
俺はエリス王女の目の前に立ち、視線を同じ高さにする。
すると、やはり反射的に目を背ける。
気恥ずかしさよりも恐怖心が浮かび上がっているのは一目瞭然だ。
こういう場合は軍式とかの強引な手段の方が効果的だ。
俺はエリス王女の顔を両手で持ち、無理やり自分の正面へ向ける。
「俺の目を見ろ!」
「はひぃ、やぁ! 見ないでぇ!」
「俺はお前に恐怖もしないし軽蔑もしない」
「あ……ああ……あぁ」
「呪いだろうが悪魔だろうが、俺の敵じゃない。もしお前に災厄が降りかかろうとするならば、俺が根こそぎ吹き飛ばす!」
「あぅ……ぁ……」
あと一押しか。
「誓え、自分は呪い子じゃないと! お前は誰だ!」
「わ……わたしは……ェリス?」
「そうだ、お前はただのエリスだ! 分かったか!」
「は……ぃ……」
「大きな声で!」
「はい!」
エリス王女の大きな声が部屋に響き渡る。
お互いが数秒の間、瞳が交差し合う。
そして、エリス王女から大粒の涙が容器から溢れでる。
エリス王女は俺の胸に顔を埋めて大泣きをする。
お姉ちゃんという立場もあったのだろうか、今まで溜め込んでいた物を全て吐き出そうとせんばかりだ。
俺はそっと後ろから抱きしめて、泣き止むまで付き添う事に決めた。
「ヒグッ……ありがとね…うれしい」
自分で涙を拭ったエリス王女は、曇りのない眼と飛びっきりの笑顔でお礼を言う。
元気になってくれて何よりだ。
俺は王女から離れて後ろを振り向く。
するとユミナちゃんはキラキラとした目でこちらを見ている。
王妃は微笑ましそうに、陛下とレオンは必死に笑いを堪えている。
「何だよ」
「くくっ、いや…素晴らしい演説だ。のぅ、レオン」
「ええ、ここまで心に響いたのは……クッ」
「おいコラ、喧嘩か? 是非とも買わせて貰うぞ」
「涼太」
「なんだよ、レオン」
「これからも、よろしくな」
「んあぁ、よろしく」
意味深げな気もするが気のせいだろう。
問い詰めるのもバカバカしい。
学園にいる限りは顔を合わせる機会もある。
きっとその事だな。
「お兄ちゃんはお兄ちゃんになるのです?」
「ユミナ、そこは口を慎むのが礼儀ですよ」
同じ言葉を繋げて使う意味が分からない。
「まぁ、これで1つ問題は解決した。次の話に移る。悪魔の件についてだ。何か対策はないだろうか」
「それなら、俺が1匹渡しましょうか」
「何をだ?」
「ちょいとお待ちを」
俺は目を閉じてイメージを構築する。
魔法陣が浮かび上がり、小さな毛玉の様な物がポワッと生まれてユミナちゃんの頭の上に乗る。
「かわいい!」
「あら、こんなにも愛着のある……魔物かしら?」
「どちらかと言えば精霊に近いと思います。これは悪のオーラなどに敏感で、主人やその仲間に危機が迫ると守ってくれると思いますよ」
「名前はなんと言うのかしら」
「マシュマロウサギとでも呼んでください」
キュキュー! キュ!
マシュマロウサギはユミナちゃんの上でモフモフと飛び跳ねる。
なんとも癒される。
「よろしくね? マシュマロ」
「キュ!」
大きさはメロンほど。
しかし重さは小さな女の子が手に持つことが出来るくらい軽い。
ユミナちゃんはモフモフな生物を大事に抱きしめる。
「それじゃあ、エリス王女。君は今日からウチに住む事になるけど良いかい」
「涼太、あなたは私に言った言葉を忘れた?」
「悪かったよ、エリス」
「ふふっ、よろしい」
「それでは涼太よ、エリスの事は任せたぞ」
「はい、お任せ下さい」
*
マシュマロウサギ(白) LV.1850
攻撃:60000
魔力:102400
俊敏:5000
知力60000
防御:200000
運:500
スキル
【幸運LV.24】
【モフモフLV35】
【敵感知LV.64】
【回復魔法LV.52】
【時空魔法LV.42】
【結界魔法LV.64】
【兎の逆襲LV.ーー】
*




