100話 店の説明
祝100話。
登場人物を更新しました。
三連休の最終日、昼が過ぎた辺りで俺たちは転移でラバン王国へ帰った。
4人は魔法聖祭のための訓練をしに行くと図書館裏へ向かう。
俺は冒険者ギルドに依頼の報告と、商業ギルドにフード店を造る報告と武器屋を開く報告に向かった。
ここまでは別に良い。
これはただの業務報告のため、また他のお客様も相手にするのであろうから、無駄な時間を一般人にさくはずがない。
俺なんてEランクの登録したての新人。
「涼太よ、なぜワシに報告せんのだ。報告すれば来たぞ」
「現に言わずとも来てるじゃないですか」
ギルドの一室。
俺とゲイルさんはチェスをしながら、来るべき時まで時間を過ごす。
まぁ、その来るべき時ってのは、商業ギルドの営業終了時間なんだけど。
本当に腹立たしい。
何で報告をしに来ただけなのに、こんな状況になってるんだよ。
「お待たせしました」
扉が開かれ、入って来たのはギルド長のエルザさん。
「それで、何で待たされたのでしょうか」
「涼太さんは人員は確保されていますか?」
「それは後ほどギルドに人員確保をして貰おうかと思いました」
「ではこれを」
エルザさんが大きな紙の束を渡す。
手に取って読んでみる。
「ほぅ、準備が早いではないか」
「ゲイルさん、これは強要ですよ」
内容は俺の店を出すに当たったの志願者名簿だ。
ご丁寧に志願理由も長文で書かれている。
「そもそも、どこからの人員ですか?」
「主にギルドの役員とその親族です。ご安心を。すでにこちらで面接などは行い、信用に足る人物か否かは判別した者たちです」
まぁ、知らない間にそんな事までしてくれていたんだ。
大体の動機は美味しいお菓子が食べたいか。
料理人でもないし、レシピを盗もうとする輩ではないな。
甘いお菓子に目を奪われて、賄いでも期待しているのか。
「すいません、これもですか?」
手元にある5枚の紙を見せる。
その人物は孤児院にいるルリーを含めた年長者の名簿だ。
まさか孤児院の子供たちまで志願していたとは思わなかった。
「はい、住民から以前に涼太さんが購入された土地周辺が一夜にして変貌したと噂が流れておりました。その視察で涼太さんが店を出すかもしれないと言ったら、自分たちも働きたいと申し出ました」
なるほど、確かに子供たちは今後どうするか分からない。
あと数年すれば成人だ。
そうなれば1人で生きていかなくてはならない。
俺の店で働きたいのであれば、何の問題もなく採用出来る。
よし、この子たちは全員採用だ。
「エルザさん、孤児院以外の人物は仮雇用でも構いませんか?」
「無論です。みなさんにも、そう伝えてあります」
「分かりました。では店の前に連れて来て下さい」
「今からですか?」
「あまり時間が取れません。今日を逃すと店の開店は先延ばしになりますよ」
「分かりました。直ちに連れて参ります」
エルザさんは立ち上がり、駆け足で部屋から出て行き、何やら大きな声でギルドにいる役員たちに話をしている。
「ワシらはどうする?」
「俺たちも向かいます。腕に捕まって下さい」
「うむ」
俺たちは転移し、店の前に降り立つ。
辺りは10メートル感覚に置かれた街灯が街並みを照らし出している。
店の扉を開け、中に入る。
「ほぅ、立派であるな」
「二階はスタッフルームとなっています」
「中々の剣だが、お主にしては普通だな」
ゲイルさんは樽に置かれている剣を手に取り眺める。
俺の規格外さを考慮しているのだろう。
若干の期待が損失している様に見える。
「これは一般人向けです。本当に見せたいのはこちらですよ」
「地下か」
店の奥にある地下へ繋がる階段を指差す。
俺たちは地下一階へ降りる。
「ほうほう、高級品を分けておったか!」
「はい、ですがもう一つ下の階がメインです」
「何だと……案内してくれるか」
「当然です」
俺は関係者以外立ち入り禁止のカーテンが仕切られている中へ案内する。
中はエレベーターと休憩室が設けられている。
「ほぅ、何とも言えん雰囲気じゃ」
地下二階は壁から床まで黒塗りで、中央にいくつかのソファーと壁面にショーケースウインドウ。
光は四方の壁とそのショーケースからのみだ。
「ここは聖剣クラス以上の武器を置きます」
「なるほど、美しい。この波紋は見事じゃ」
ゲイルさんは俺の造った刀が飾られているケースを覗く。
ヘファイストスに聞いたが、以前に神界で造った傑作レベルは聖剣を遥かに超える性能らしい。
という事でここに置く事にした。
「値段はどの程度で販売すればいいでしょうか」
「そこらはワシらに任せよ」
「お願いします」
「うむ、それではお主は上に行った方が良いのではないか」
「そうします。ゲイルさんは?」
「ワシはもう少し眺めていよう」
「分かりました」
さて、上の方はどうなっているかな。
外を出てみると既にエルザさんたち商業ギルドと孤児院組のルリーを含めた数人が隣り合う二店舗のうち、プリンなどを出す店の前で集まっている。
「あ、涼太さん!」
こちらに気がついたルリーが手を振る。
「働きたい様だけど、本当に良いのかい」
「はい! 自分の将来のためにも働かせて下さい!」
「よろしい。では中を案内する」
俺は集まった人たちにそう呼びかける。
すると元気な返事が返ってくる。
やる気に満ち溢れている事は良いのだが、そうそう開店当初にお客さんなんて来るわけでもない。
飛ばしすぎて、ガス欠にはならないで欲しいな。
「わぁ、凄い」
「綺麗な床だわ」
「お貴族様が住まわれているみたい」
女性陣はキラキラと目を輝かせながら辺りを物色する。
中は木をベースにした造りになっており、オシャレかつ落ち着いた雰囲気が出ている。
2人がけのテーブル席が20と、4人がけのテーブル席が10。
上には大きなプロペラが回っている。
レジは計3つあり、1つは客が増えた時用で実質は2つで稼働させるつもりだ。
そして、冷蔵付きのガラスケースがある。
やはり、持ち帰りの方は実際に目にした方が良いだろう。
「上にはスタッフが休憩する場所を設けている。一応は何人かは寝泊まり出来るスペースはある。では厨房に案内しよう」
俺は厨房に案内する。
中は6つの作業台があり、どれも大理石で造られている。
これにより、生地を作るときなどに大変便利である。
そして大きなオーブンが2つと家にある冷蔵庫のふた回り大きいサイズの冷蔵庫を2つ設置。
棚には使うであろう器具が置かれている。
「凄い設備だわ」
「見た事のない器具がこんなに……」
今にも手に持って確かめたいのか、うずうずしている。
「今日中に器具の使用用途といくつかのレシピを作って貰う。俺が時間を取れるのは今ぐらいだ。レシピは用意するので、明日から自分たちで作ってくれ」
「旦那、俺たちはあくまで家事が出来る程度の料理しか作れねぇぞ」
「お菓子にしろ、料理にしろ、レシピ通りに忠実に従って作れば基本的に失敗しない」
「でも明日から開けるんじゃないのか?」
「そんなわけないでしょ。数日は作り方に慣れて貰う。材料はいくら使っても構わない」
そりゃ、いきなりお店に出す料理を作れる訳ない。
効率もあるし、ひとまず作り慣れて貰わないと困る。
「消費はどうするんだ?」
「試作は商業ギルドか冒険者ギルドの連中に食わせとけ。金は取らないし、喜んで来るぞ」
それに宣伝にもなる。
美味いと認知され、客が噂をすれば人は寄ってくる。
あとは雪だるま式に客が客を呼ぶ。
上手くいくかは分からないが、大体の流れはこれで良いだろう。




