決断する強さ
彼は強さという概念を壊した。
「くっうぅ~、相変わらず楽しませるわね」
「灯、……まさかそれでへばったのか?」
”強者”
周囲にいる生物達の中で、自分自身を一番の強者にする能力。
「そんなわけないでしょ!行くよ、藤砂!」
「そうこなくちゃな、……む!」
”強者”である男の名は、藤砂空。
誰であろうが、どれだけの数であろうが、彼は能力というルールの中で、どの生物達の中で一番強くなる。人がこれまで歩んだ軌跡を遮断する絶望的な強さ。超えられない頂点を持つ。
今、彼は自分の彼女と戦い、定まった強さを持ってして、返り討ちにし、痛めつけてしまった。
そこから生まれた物語は、いかに強かろうが関係のない事だった。
◇ ◇
「なんとかならないか、……ミムラ」
「藤砂さんが私に相談するなんて、珍しい事もあったと思ったんですけど。私がどうしろと?」
後日。ファーストフードにて。
藤砂はこともあろうか、別の女性と会っていた。藤砂と灯の仲間だ。
「アカリン先輩のスカートを買って来てくれなんて、おかしすぎますよ」
「俺が買いに行くのは変だろう、……さすがにな」
「だからといって、アカリン先輩の彼氏は藤砂さんですよ。アカリン先輩の身体の大きさくらい知っているんじゃ?」
「知らん、……俺も服に興味などない」
彼女のプレゼント的な物を買おうとする優しさか
「あいつは戦っているとだな、……身体のことはもちろん、服が破けようが、下着が見えようが戦いに全てを注ぐんだ」
「あ、アカリン先輩らしいです……」
「俺の彼女ならその辺の身の振り方を考えて欲しくてな、……スカートとか履けば恥らって気を遣うと思っているのだが」
「アカリン先輩にスカートですか!ぶふっ、絶対に似合わないですよ。想像しただけで笑っちゃう」
そりゃまぁ、……俺も分かっている。
ヒラヒラした服はまったく、……灯には似合わない。短めの金髪、狐みたいな細い目の頭に、動きやすい格好が常にであり、……隠してるとはいえ、しかと厚い筋肉もついているし。幼馴染の記憶を辿っても、……まったく普段着でスカートを履いてた姿を見た事がない。
「そんなに似合わないかしら?」
「似合わないですよ!スカートは私とか、のんちゃんとか、裏切ちゃんは大丈夫ですけど、アカリン先輩はさすがにねー」
「アカリン先輩はさすがに?」
「!、……」
その殺意は一瞬にして、ファーストフードの中に居る人々を気絶させるほど、惨くおぞましく、ミムラも震える声を発する。
「に、似合ってますよ~きっと」
「へ~。後輩に嘘を言われると腹が立つわね」
山本灯は自分の悪口を言った、後輩に制裁を降す。失言を取り消せば良かったという反省をしろと、込めて。ミムラの顔に拳をぶち込んで、そのパワーを持ってして店の外へと吹っ飛ばした。
「何を話していると思えば、あたしにスカートが似合わないって?」
「当たり前だろう、……自覚してるはずじゃないか?」
「まぁね。でも、さすがに彼氏と後輩に言われるとムカつくんだけど?」
ご機嫌斜め。戦えばどうにかなる事はあっても、こーゆうことにはまるで強さが役に立たない。
「そうね。じゃあ、捜しに行きましょうか」
◇ ◇
そんなわけでこれから灯にピッタリなスカートを捜そうという事になった。言いだしっぺの藤砂が灯に合うスカートを選び、そのスカートを買うのがミムラである。
「私が財布役ですか~」
「別に良いでしょ。スカートだけしか金は取らないわよ」
酷い痣ができたミムラは半泣きながら、財布を出していた。一方でスカートを選ぶことになった藤砂は、初めてこーいった事をするのであった。
スカートといっても、色々と種類があるものだ。
「灯に合うスカートか、……かなり難しいな」
「彼女の前でその発言って酷くない?」
それは灯の普段着がいつもジーンズとか、ホットパンツばかり付けているせいだ。上はTシャツやら、ポロシャツ。迷彩服とか特攻服を選んだ方がよっぽどしっくり来る、体つきなんだ。自分でそーゆう体に鍛えているわけだし。
「むぅ、……ホント難しいんだが」
「男ならさっさと決めなさい!決断力がない奴は強くても、反応を遅らせるわよ!」
「決断しやすくないアカリン先輩の普段着が悪いですよ、藤砂さんの気持ちが分かります」
「あんたは言って良い事と悪い事の分別をつけなさい!」
そう思って言えるのなら、普段からスカートを履け。そして、少しは服が破けたり、パンツが見えることに恥じたりしてだな。
「!そうか、……お前にスカートを着けてしっくり来る格好があった」
全然、色気が皆無だが。よく考えれば3年間は、見た事がある格好があった。
「なによ?」
「身長はそんなに伸びてないし、……変わったのは体重くらいだよな?」
「増えました!」
そんなわけで1時間後。3人は一度、灯の家に行って。久しぶりに試着してみる。
懐かしいと言っても、2年ぶりくらいだ。これは見慣れた格好。
「高校時代の学生服、……今も着れるじゃないか」
「可愛いですよ、アカリン先輩!全然いけます!」
「うーっ、そりゃ。私もこれで行ってたけど。改めて思うけど、スカートで私。高校に通っていたのね。凄いわね」
「しかしだが、……それがお前に似合っている」
「……そ。ま、私はやっぱり、スカートなんて履かないわ。早々にはね」
どうやら、高校時代のスカートで納得してくれた。
「よかったです。それじゃ、邪魔者なミムラは帰りますね」
「あんたはダメよ。スカートを買わなかったけど、これから私達にお昼を奢りなさい!」
逃げようとしたミムラであったが、灯は簡単には彼女を許す気はなかった。