さしずめ寿司づめってとこね(違う)
短めです
「…わたしの人生を音楽とするなら、今はきっと休符だろうな。次の音を奏でるまでの、たった少しの休み時間。だから、囚われの身なんていうカッコいい状況のわたしは、王子様が助け出してくれるでしょ?」
月明かりが、鉄格子の中をてらしてる。私は静かに呟いた。
自分で言っていて、そんなわけないとわかっていたけれど、そうでもしないと私は狂ってしまいそうだから。
無実の罪をきせられてから3年、あーあ、外の世界はどうなってるんだろうな。
朝と夜に薄いスープとカチカチのパンが送られてくる以外に特に変化の無い毎日で、もうすっかり飽きてしまった。
それにここのところ、数ヶ月、いや、数年は人の姿を見ていない。
皆と同じように魔法が使えるだけなのに、何がいけないんだろうなァと私は思う。
ただ、ほんの少し魔力の量が多くて、ほんの少し珍しい魔法が使えて、ほんの少し、無口なだけじゃないか。
まあ、そんなことを考えても何の意味も無いのだろう。
やることといえば、天井につくほど積み重ねられた本を読むことと、ただひたすらに魔法のレパートリーをふやすことぐらいだ。
部屋の中には電気は無くて、壁に穴を開けてそこに鉄格子をはめ込んだだけの窓は雪が降ったときや熱いときに本当に最悪だ。いくら真っ暗で心細くてもそこには誰もいなくて、自殺を考えたことも一度ではない。私の体には強力な魔法がかけられてあって、私は病気でも自殺でも寿命でも絶対に死ぬ事が出来ないのだという。あ、人に殺されるときは死ぬよ?でも、こんな状況でまだ狂っていないのだから褒めてほしいくらいだよね。
いや、実はもう狂っていたりして。
部屋だって、薄くてぼろぼろの小汚い布一枚(体を拭くために使っている)とひびの入った皿一枚とたくさんの本以外人一人入るのがやっとの広さで、絶望的。たぶん、普通の家の玄関と同じくらいの広さ。ちょっと狭いなー。
それに、床も汚いし。着ていた服を脱いでそれをやぶって床にしき、その上に寝てるんだけど、ほとんど下着姿だから虫(毒もち)がきたときが怖いね。
ま、死なないんだからいいけどさ。
ああ、もしあのときに私があの言葉を否定していたらこんなことにはならなかったのだろうな。
私はもう、何も信じられない。心から好きだった兄に、家族が死んでしまった今唯一血のつながりのある兄に、今現在でなおここに閉じ込められているのだから。
そういえば、生まれてから数年はとても楽しい生活を送っていたっけ。
私、なんでかは知らないけど前世とかの記憶持ちだったし、神童とか言われたりほんとしあわせだった。
楽しかったな。また戻りたいな。でも、もう無理なんだろな。ここから戻るなんて、そんなことできるなら3年まえにやってるよね。
死ねないってことはさ、私は死ぬまでここにいるってことでしょ?
ほんと、嫌になっちゃうよね?死ぬことさえも許されないなんて。
仕方ないから、本を読むんだよ。
実は、もう全部読んじゃったんだけどさ。
長ったらしくて意味不明な本でも少なくとも10回は読んでるね。
暇だなァ、真面目に王子様こないかな。こないよね。
このパターンは毎日考えてるなー…。
来る?こないー…みたいな…。一人だし、誰も見てないし、声にも出してないけど…なんか虚しい。
「あ、…雨だ」
雨の日、風がこっち向きだったときは思いっきり雨水が入ってくる。
雨漏りして本が濡れるし、飲み水にはなるけど……もっと綺麗で清潔な水が一日につきペットボトル一本分は配られるし寒いしあまりいいことが無い。
だから、雨は嫌いだ。
雨なんか、降らなければいいと思う。
こんな雨の日は、なんとなくお米が食べたくなる。
お米が食べたい。
毎日お米を食べないとか、(元だけど)日本人としておかしいと思うのヨ。
前世でも私みたいな米大好き人間はおやつにスーパーで売ってる米を買ってたからね。
…懐かしいなァ。
私の口癖って、いつも「ご飯ほど美味しい物は無い!欠点といえば、おいしすぎて食べ過ぎてしまうことぐらい!」だったんだもんね。
ふふ、テレビの中の芸能人が言ってた言葉をそっくりそのまま言っただけだったけど。
今頃、私の(今世の)妹はどうしてるんだろな。
兄は私を閉じ込めるくらい悪い奴なのに妹は兄のこと大好きだったし、もしかしたら真っ黒に染められちゃったかもな。
すっごい可愛くて、頭良くて運動できて記憶力抜群だし、…なによりいい子ちゃんだったから。
動物に好かれてて、学校でも彼氏がいて、遊んでるわけではないけど適度にのんびりしてて。
私は妹が大好きで誇らしかったけど、妹が虐められたときその主犯格の候補に私が上げられたときは本当に泣きそうだった。
妹が、そんなわけないといってなくなったけど、みんなの私への評価はそんなもんなんだと、心から思った。
まあ、それも当たり前かも知れない。
双子だったのに顔も似てないし、勉強はできない(できるけどやってない)し運動とか無理だし記憶力とかほんとゼロだし。彼氏なんていないしいつも部屋にこもってたし(他の人には勉強をがんばって妹に追いつこうとしているように見えていた)…ほとんど寝てたけど。
妹は…いわゆる癒し系?タレ目で口元は常に微笑でゆるゆるな感じな服を着て可愛い物が好きで…みたいな。
その点私はつり目でそれが嫌だったからそれを隠すために前髪を伸ばして…髪の手入れとかもしなかったからぼさぼさで爪とかも適当だし可愛い服も着なかった。
好きな人もいなかったし別にほしい物も無かったし、今の自分で満足してた。
これは噂だけど、人から見た私は魔女みたいで、恐くてずっとこっちを睨んでて恨めしそうな顔でじっとしてるらしい。ブスで馬鹿で運動オンチだからあんなやつほっとけみたいなそんな感じだったみたい。ちょい落ち込む。
そういえば、前髪が伸びすぎてもうほとんど顔が見えないや。
誰も見てないと思うとこれでも本読めたし放置してたなぁ。
こっそり持ってきたペンケースの中にはさみはあるし、洗面台のところに鏡はある。
切ったときにブサイクな顔が出たらすこしショックだから前髪のところだけを鏡に映して切ろう。
わ、本当に恐い。前に見たときは隠してるのが目だけだったけど今は顎のところまで来てる。
恐いてかむしろキモい。皆さん、こんな姿で本当にごめんなさい。こんなのだったら疑うよね絶対。
あー…妹がマジの天使だってことがわかったわ。こんな姿の姉を助けてくれるなんてね…。
足をついて、鏡でギリギリここまで切ろうってところまでを写して、きろう。
ちょき、ちょきちょき ぱらり
ちょきちょきちょき…
まさか、これってこの方法でやってたら30分とかかかるんじゃないの?
美容師さんみたいな方法だったらさ。
………。
ザクザクザクザク、ばらばらり
ザクザクザクチョキジョキジョキ…ばらりんちょ
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…虚しい。
ざくざく切りまくったら結構綺麗に切れた。
ぱっつんになったけど、可愛い。顔が出たら終わりかもだけど。
…恐いから、顔は出さないどこう。今まで3年も見ないで暮らせたんだからきっとこれからもできる。
てか、もしブスだったらどうしたらいいかわかんないし。
…小さい頃、鏡で見た自分は平均以下だった気がする。
妹は美少女、兄は美青年、父は美老年(?)、母は微笑の似合う女王(笑)。
ああー、どうして私だけ平均以下なんだー。
昔のことだからきっと今はもっとひどい顔なんだろうなー。
怖いなー、見るの怖いなー。
ていうか、生まれてから話した人といえば学校の友達(超絶美少女達)数人と家族と使用人だけだな。
それなのに…、それなのに、…。モブでさえも、あんなに整い過ぎた顔をしているのに…。
私は平均以下…。別に人は顔だけじゃないからいいんだけどさー。
でもでもー。でもさー。ほら、あるじゃん?
「あー、やだな。本当、心まで腐ってしまったら何もいいところの無い女だ」
ぱっちり目も覚めてしまったことだし、どうしようかな。
とりあえず、魔法で美味しい食事を作る高度な魔法を試してみるか。
〇
床のタイルが、一枚はがれた。
魔法の呪文を間違えて、爆発したら、うまくはがれた。
床は、穴が開いていて、隠れ部屋みたいになってた。
梯子があるってことは、人が使える場所ってことだよね?
ちょっと、ドキドキワクワクの予感。
ふふふ、前髪を切ったから運が入ってきたんだな。ま、これでモンスターとかいたら終わりだけど。
下に下りてみる。ジャンプで行ったら、結構高さがあって足がごきっといった。
いたい。
見たところ、埃まみれのソファーと変な小包が一つしかないな。あと縄と。
ほんと埃っぽい。嫌だなァ、くもの巣もたくさんあるし。
でも、ひさしぶりに広い場所に出た。
ラジオ体操もどきは毎朝してたけど、あまり走ったりとかは出来なかったから運動が十分できる部屋はとても嬉しい。
…毎日ここで寝ていたい。ソファーあるし。汚いけど。
まあ、一週間に一度人が見に来るからいないと困るんだけどね。
それにしても、何でこんな部屋があるのか。
…本当に、私の前髪が何かの幸運を呼び寄せたのか…。
どうでもいいや、ここで楽しむことをもっと考えよう。
結構暗いな……。もっと明るかったらいいのに。あ、魔法で明かりをつけるか。
「灯火」
いやぁ、いいねえ。
あとで水と布を持ってきて掃除でもするかな。
まだ浄化の魔法は覚えてないんだよね。
ここ数年は、ずっと戦闘系の魔法しかやってない。
しかも、呪いの…ね。
ふふふふふ、この塔と私にかかっている魔法の一つが無効化されるくらい強大な力を持つ呪いの呪文を見つける&開発してやるぜ。
あ、私の使う魔法が【外に影響しないように】っていうのがその無効化したい魔法ね。
ほんと、この魔法があるせいでわたしがどれだけ苦労しているか。知っているのかね?兄よ。
ここに閉じ込められてみればわかるだろう。私の苦しみを、悲しみを!
あれ、こんな小包さっきあったっけ?
あったか。
開けてみようかな。リボンまでついて、丁寧だ。
ずいぶん綺麗に包装されてるなぁ。
びり。
うわー、なんか綺麗な箱が出てきた。
真っ白な箱だよーなんかめちゃめちゃ、なんか、なんか。もうなんかしかいえない。
なにが入っているのか気になるねぇ。
かぱ。
説明書。注射器。粉。カプセル。お面。緑色の液体。
が、入っていた。麻薬みたい。麻薬にしか見えない。
何故麻薬を我に魅せようとするのだ。
理由があるならば、謝罪だけで許すが。
お面は、何のために~生まれて~?
何をして~生きるのか~?答えられないなんて~そんなのは~別にどうでもいい。
存在理由。求。教えてー。〇ル〇の、も〇の木よー。
とりあえず、寝るわ。今日はもう疲れた。
ZZZ.