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てのひらに星雲を  作者: Q7/喜友名トト
シーズン1~ 転入編~
9/70

俺が止める

 幼馴染とも再会したし、授業登録も終わった。それなりに目立つことも出来たし、おかげで異星人の剣術小町とも親しくなった。

転校初日としてはまあまあだ。あとはあれを一応確認しておこう。


響は下校前にふたたびアカデミー中を回ってみた。何人かの学生にも声をかけ『それ』があると思われる場所にあたりをつけようと思ったが、意外とすぐにわかってしまった。


学生立ち入り禁止。


とされる場所はアカデミーには一箇所しかなかったのだ。そこは本校舎の裏、人口の森の一部だった。


自由な校風をもち、学生の自主的な成長を支援するオリオン・アカデミーなので、施設の大半が許可を取れば学生にも使用できる。宇宙探査用の小型船を借りることができるし、星雲連合のデータベースの一部にもアクセスができる。重力制御ルームというのも使用可能らしい。


そんなアカデミーのなかで、立ち入り禁止区域というのはただ事ではない。


しかも、ためしに近づいてみると、森にはバリアのようなものが張られていた。


「……なるほど」


 響にでもわかったのだから、事情を知るものであれば誰でも理解できるだろう。そこに何が安置されているのか、ということを。


ヘタに隠すよりも、はっきり居所を示した上でしっかりくっきり完璧に守っている、というわけだ。まだ見ぬ学長の判断は、多分正しい。


「それならそれで別にいいや」


 響はとりあえず安心した。簡単に手出しが出来ないようになっていればいいのだ。少なくとも響はあんなものには用はない。ただ、人の手に渡るのがまずいだけだ。


※※


「アマレットちゃん! 俺と放課後デートしないかい!?」

 いい加減帰るか、と思って校門に向かっていた響は廊下で知っている顔をみつけた。他の生徒の多くとは違い白く品のある制服を着用し、黒のハイソックスを履いている彼女は夕方にみても素敵であった。夕日を反射し暖かく輝いている亜麻色でサラサラの髪も実に良い。


なので、響は条件反射的にそう口にした。


「無理ね」


 鈴の音のような可憐な声で、だが一瞬で断られた。

アマレットは胸元に書類の束を抱え、足を止めもしない。


「なにゆえ?」

「あなたとデートをする理由がありません」


 すたすたと歩くアマレットの横に並び、響は会話を続けることにした。


「理由? 恋に理由なんていらないんだぜ」

「こ、恋なんてしていません」

「楽しいよ」

「バカじゃないの!?」


 けんもほろろである。でも少し赤くなってムキになるところはなかなかポイントが高い。


響はアマレットの隣を歩きつつ、その間にもすれ違う女生徒には『バイバイ』とされたので、そこはニコヤカに手を振り返す。


「……初日から、騒ぎを起こしたそうね」


 そんな響の様子をみたからか、アマレットがそんなことを言ってきた。多分、カフェテリアの一件を誰かから聞いたのだろう。


「あれは俺のせいじゃないよ。それに悪いことはしてないしー」

「……そうね。少し驚いたけど、あなたは間違っていないと思う。Sフットクラブの人たちの差別的言動は私もあまり好きじゃないもの」


 アマレットの言葉は本心であると感じられた。品行方正で気も強い彼女のことだから、諌めたこともあったりするのだろう。なので、響の行動は多少なりとも評価してくれている感じがする。


「でしょー?」

「でも、無駄に騒ぎを大きくするのはどうかしら。次からは生徒会執行部か先生に言いなさい」

「執行部? 誰それ?」


 やはりアカデミーも学校なので、そういう委員会もあるようだった。だが少なくとも響は知らない。

「私でもいいわ」


 なるほど。アマレットはイメージどおり生徒会役員らしい。多分、バリバリ働いていて、不正には毅然と文句を言うのだろう。


「素敵だったという子もいたわよ。地球人の男の子に興味をもっている子も多いみたいだし、デートなら、その子たちを誘えばいいんじゃないかしら」

 

「それは明日以降順次やってくからいいや」


 響はアマレットの言葉に即答した。響はやることやっていく主義なのだ。


「じゅ、順次って、あなた……!! はぁ……もういいわ」


 信じられない、というような表情を浮かべたあとはついに呆れられてしまった。


「どっちにしろ、私はこれから委員会があるから」


 アマレットが胸元に抱えている書類は委員会で使う資料のようだった。このご時勢に紙媒体とはなんともクラシックである。


 響はその書類をちらりと見てみた。


 あちこちに赤ペンでチェックがされており、付箋などもはさまれている。どういうことをしているのかは知らないが、彼女は一生懸命なようだ。


「そっか。それは気がつかないでごめん。頑張ってね」

 詫びの言葉を述べた響に、アマレットは少し意外そうな顔をした。


「え、ええ。……ありがとう」

「んじゃ、また明日」


 手を振る響に、アマレットは不思議そうな視線を向けてくる。そしてさきほどまでよりは少しだけ温かみのある声でさようなら、と言ってくれた。


「ん。デートは暇なときでいいや。週末とかどう? 俺自分のサイブレード持ってないから買いに付き合って欲しいんだよね。検討しといてちょ」


「えっ……、あの……」


 戸惑いを見せるアマレットに対し、響はぱぱっと言いたいことを告げると、今度こそ下校することにしたのだった。


※※


 下校後、響はまず、今後世話になるアードベック氏への挨拶を済ませた。続いてカクと一緒に夜の街に繰り出す。


 宇宙に浮かぶタートル内でも繁華街はやっぱり存在した。3Dモニタを駆使したイベントが行われるライブハウスや、不思議な輝きを放つドリンクが並んでいるバー、意識をフルダイブして行うシミュレーションゲームのおかれたゲームセンターなどいずれも面白そうだ。


とりあえずIDの偽造が今後の課題の一つであるといえるだろう。


一通り楽しみ宇宙での初日を終えた響が自宅であるプールハウスに戻ったのは大体22時だった。

それから日課を済ませ、シャワーを浴びて就寝準備に入る。


「ニュース出して」


 無人の室内でそう口にすると、部屋の天井に設置されているアーム(執事のしー君と命名)が作動し、空中に画像が投影されていく。今日一日で学んだことだが、星雲連合の標準的な生活レベルは本当に高い。


 びしょ濡れになった体を温風と遠赤外線のシャワーを浴びて乾かしつつ、響は空中に投影されているニュースの項目のなかから気になったものをクリックした。


ニュースの内容とそれに対する星雲ネットワークの人々の書き込みが次々に表示されていく


『PP実行部隊の脱獄事件相次ぐ』

『潜伏先は不明』

『連合の対応には謎が残る』


〈またかよ〉

〈連合なにやってんだよ〉

〈俺は当時から密かに応援してたし、PP壊滅を残念に思ってるよ。華星人なんだから当たり前だろ。お前ら正直になれよ〉

〈通報した〉

〈何時代の人間だよお前。バカじゃねぇのか?〉

〈俺は杢星人のロリ可愛い女の子と付き合いたいから断じて許せんね。嘆かわしい〉

〈オラ、杢星人でも12才以上は無理だ〉


「……思ったより、事態が進んでるな」


響はそう口にした。

この分だと、事件が起きるのはそう遠くはないだろう。ヘタをすれば、響のアカデミー在学中かもしれない。


誰かは知らないが、手引きするものがアカデミー内にも、そしてこのタートル内にもいるのは間違いない。もしかしたら今日響が見かけた人物のなかにもいるのもしれない。


 響が宇宙に上がってきた年に彼らが動き出したのは、なにか意図があってのことなのか、ただの偶然なのかはわからない。


だが、これは響にとってはラッキーだったといえる。本当は卒業するまで待っていて欲しかったが、在学中も悪くはない。少なくとも自分が当事者として関われるからだ。


「んー……」


 響は空中に表示されるニュース横の書き込み覧に触れてみた。どうせ特定できはしないのだろうし、仮にされたとしても大きな問題は起こらないので、書き込みをしてやろうと思ったのだ。


『PPは壊滅していない。かならず再起を図ってくる。ちなみに、かなりの人数の実行部隊が星雲連合100番目の加盟星地球圏内のタートルに潜伏している。目的はオリオン・アカデミー内にある』


そうだ。彼らは、華星人至上主義者連盟は死んでいない。銀河のすべてを自分たちの主張で満たし、他くの異星人を隷属させるべく今でも蠢いている。



「さて、寝るか」


 響は自分の書き込みについてのレスポンスは確認せずベッドに入った。どうせ妄想だと思われるのがオチだ。


だが、あとから見返すと楽しいかもしれない。


「今日も一日、お疲れさんでした」


 響は目を閉じて二つのことを考えた。


 事件は起きるかもしれない。でも、俺が止めるし最後は勝つ。

 アマレットちゃん可愛い。週末はなんとしてもデートをしよう。


 でも、さすがに疲れていたので、わりとすぐに眠ってしまった。


質問があったのでお話はしますと、この物語は前作とはストーリー上の繋がりはありません。



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