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てのひらに星雲を  作者: Q7/喜友名トト
シーズン3~夏休み編~
62/70

ただいま、アマちゃん

通信機の類を除けば、宇宙空間では基本的に音は聞こえてこない。それは振動を伝える大気がないからだ。

 だから、響にもローゼスにも迫りくるデブリまでの距離が音でわかることはない。

 響は概算で衝突までの時間を計ってはいたが、それはあくまでも概算であり誤差はある。

 つまり、今この瞬間に無数の破片が衝突してくることも理屈としてはありえる話だ。


 だが、響はそれを恐れてはいない。

 迫りくるデブリのほうに視線をやることも、レーダーを使うことも、空間認識パーセプションのサイキックスキルを使うこともしない。

 ただ、ブレードをあわせたローゼスだけに集中していた。


「……くっ……離れたまえ……!」

「やだね」


 即答する。もちろん、ローゼスがこの宙域から離脱する動きをみせれば、つまりは対戦相手である自分から注意をそらすようなら即座に斬るつもりだ。あわせて、鍔迫り合いをやめて攻撃してきたときに対応するべく神経を集中している。


 一方ローゼスは響だけに集中することは難しいようだった。目の前の子どもよりも、まもなく飛来するデブリの破片のほうがよほど危険度が高いのだからそれは当たり前だ。


「ほらほら、自慢の予知能力を働かせといた方がいいんじゃないの? あと何秒で俺たちは死ぬわけ?」


 あとどの程度の距離でデブリが衝突してくるのか、どのくらいの距離まで迫っているのか。響はそれを確認する必要はない。何故ならば、それはローゼスがやってくれるからだ。


 ローゼスには予知能力がある。だからこのままいけば何秒後にどうなるのか、ということが明確にわかるはずだ。そのローゼスが『まだ』動いていないのなら、それは『まだ』大丈夫だということだ。


「こういうのをさ、地球ではチキンレースっていうんだぜ。どっちがより命のギリギリまで行けるか」


 先に動けば、つまりは逃げようとしたりデブリに対応しようとすればそれは隙になる。さらせば、目の前にいる相手に斬られる。これはそういう勝負だ。


「この、野蛮人が……!!」

「集中しないでいいのかな?」


 冷たい表情が崩れ、殺気をぶつけてくるローゼスに対して響は口笛を吹いた。

 ローゼスは絶対に動く、絶対だ。


 未来が読めるのなら、自分と響きが死ぬ光景がみえるはずだ。そしてそれはそのままいけば確実に訪れる未来であるとローゼスは知っている。自分の予知能力に自信があるからだ。


 ローゼスは予知能力を駆使して戦ってきたはずだ。だから『未来を読まずにはいられない』。


 このまま行けば死ぬ未来がみえたのなら、そのままにしておくはずがない。プライドが高いこの男が、野望を果たせないまま下賤で野蛮な劣等人種と心中することを良しとするはずがないのだ。


ローゼスは自身の行動によって予知した未来を避けることができる。だから強かった。

 道の先に穴がみえたら、そこを避けて通る。こいつはそういう男だ。

 優秀であるがゆえに、決断が間に合わずふたりとも死ぬ、ということはありえないはずだ。


 だから響は穴を避けた先で討つ。そのつもりだ。

 

「いいのかなー? このままだと高貴な血とやらがもうすぐ失われちゃうけど?」

「貴様……!!」

「はっはっは。焦りが出てきたね。だいぶ近くなってきたみたいじゃん」


 かく言う響自身にも緊張はある。その一瞬を逃がさないために、備えておかなければならない。


 ローゼスは動く、絶対に動くはずだ。っていうか動いてくれ。

 ほら、早くしろ。早くしろよ。


「……観念しなよ。ローゼス。あんたはもう、詰んでる」


 早く動け、このままじゃ俺まで死ぬだろふざけんな。


「ヒビキ・ミヤシロ……貴様の思う通りになど……!!」

「へー。まだ余裕あるんだ」


 やばいぞこれ。もう概算での衝突予想時間を過ぎてる。やばい、やばい。


 響は自身の鼓動が早くなってきたのを感じていた。冷や汗がヘルメット内で無数に浮遊しているし、口元が乾く。いつ死ぬかわからない状況は初めてではないが、ただじっとそれを待つというのは精神的にかなりの負担だった。

 

「……戦闘を停止して一度離脱しようではないか……」

「やだ」


 早くしろ。


「本気で死ぬつもりなのか?」

「悪くはないよね。愛のために死ぬならカッコいいじゃん」


 早く動け。俺はここで死ぬわけにはいかないんだ。


「私が引くとでも思うのかね?」

「引くと思うよ。でもひかないなら一緒に死のうぜ」

 

 お前、ちゃんと予知能力使ってるよな。ほんとにまだ大丈夫なんだよな? もう喋るな。


「この……や」

「野蛮人が、って? それ二度目だよ。ボキャブラリーが貧困だなー」

 

 もうギリギリのはずだろ? 意地をはるなよ。俺は張るけど。予知能力者がチキンレースに勝てるわけがないんだから、さっさと諦めろ。


「デブリの直撃よりは俺にさっくり攻撃される方が生きてる可能性は高いと思うけどなー」


 みえるんだろ。グチャグチャになって死ぬ自分の姿が。それを回避できる時間はどんどん減っていってるんだぜ。


 

「……」


 ローゼスが口を閉じた。接近しているからわかるが、その目の色が変わったのがはっきりとみえる。



 きた。


「……くっ……! おのれぇ!!」 


 ローゼスは響と鍔迫り合いをしていたサイブレードを引いた。そして即座に横を向き、左手をかざす。左手は青く光っていることからテレキネシスを放っていることがわかる。


なるほど、デブリに力を加えて、衝突軌道をそらすわけか。


 へー。すごいね。俺はテレキネシスでそこまでの出力は出せないよ。でも結構なエネルギー使うみたいだし、あっちに集中しないといけないみたいだね。


 おかげで、助かったよ。これであんたも見た、二人とも死ぬ未来は変わったわけだ。


ありがとう。そして

 さようなら。


 響は心の中でローゼスへの感謝と別れを述べた。


身体強化過剰使用バイタルブーストオーバーフローによる響の超反応は、ローゼスがデブリのほうを向いた直後にはすでに王手をかけていたのだ。


スラスターを軽く吹かし、ローゼスの背後に飛び込む。同時に、ローゼスの機動宇宙服アーマースラスターのウイングを切り裂き、さらに返す刀で背中に一撃。


「ぐっ……はっ……」

 ローゼスの声が漏れた。ウイングが破壊されてはもう宙間機動は不可能であり、背後からのダメージは彼のテレキネシスを乱す。


「へえ、結構そらしてくれたんだね。さっすが!……これならまあ、死なないんじゃない?」


 軽口をいいつつ、響は片手でローゼスの首を握り、彼の位置を固定する。


 盾としてつかうためだ。


「よせ……離せ……離したまえ……!」

「んー。俺さぁ、今回はちょっと怒ってるんだよ。だから……」


 ぐい、と指先に力をこめてローゼスを締めあげる響。


「ダメかな?」


告げた言葉と同時に、無数の飛来するデブリがローゼスに衝突した。


「ぐああああああああああっ!!!」


 直前に放ったテレキネシスでデブリの速度は落ちていため、ローゼスが即死することはなかった。が、連続で激突するデブリの流星群がもたらすダメージは半端なものではない。


 それは『盾』ごしに伝わる振動から響にもよくわかった。


マシンガンの連射のような一撃一撃が、高貴らしい男の体に降り注ぐ。その様はまるで地獄の罰であるかのようにみえた。


「ふう、終わったかな」


 8秒にも及ぶデブリ片の衝突は、ローゼスの機動宇宙服アーマースラスターを半壊させていた。


「……」

 そして、ローゼスはもう声も出せない状況のようだ。

「仕方ないから外部操作で生命維持モードを起動してあげるよ」


 実は、これも計算していたことだった。ローゼスにはまだ生きていてもらわなければ困るし、さらに言えば生きている状態でありながら響に生殺与奪の権がなくては困る。


 そうじゃないと、自分『たち』が安全圏に離脱するまでの人質にならないからだ。


「さて、じゃあ、俺は行くよ。姫様プリンセスを、救いにね」


※※


 スーズは冷たい宇宙空間に浮かび身動きも取れなかった。通信も使えず、方向転換も出来ないから周囲がどうなっているのかもわからない。

 しかし、スーズは不思議とそれほど怖い、とは思わなかった。


「……ヒビキ様」

 

きっと、来てくれる。だって、彼は約束してくれたから。

 好きだと言ってくれた。助けてくれると言ってくれた。


 そしてそんな彼を信じることができた。

 その気持ちが温かくて、とても暖かくて。冷たい宇宙空間のなかでも凍えずにいられた。


 ローゼスや他の者に縛られていた自分が初めて一緒にいたいと思ったあの少年。


 きっと、彼とともに素晴らしい未来を歩いていける。

 予知能力なんか使わなくても、そう思えた。だから目を閉じてただ彼を待っていた。


 こつん。

ふと、スーズのヘルメットが軽く音を立てた。そして、優しく手を握ってくる誰か。


「お待たせ。スーズちゃん」


 通信回線は閉ざされているはずなのに声が聞こえる。それはヘルメットが触れ合っているから伝わる振動によるものだ。

 瞳をあければ、そこには、あの少年のヒビキの笑顔があった。どこかイタズラっぽくて、少しだけヤンチャそうで、でも、大好きな笑顔だ。


「はい……! スーズは、貴方をお待ちしていました。きっと……ずっと……ずっとです!」


 気が付けばスーズはヒビキに抱き着いていた。


無機質な宇宙服越しでも、温かさが伝わってくる気がして、そしたらこの胸のドキドキも彼に伝わるのではないかと少しだけ恥ずかしくもなる。でも、離れたくはなくて、宇宙空間を二人でふわふわと漂う。


「うん。ありがとう。えっと、華星まで一回戻るけど、それから俺が住んでるタートルまで連れていくよ。そしたら、一緒に学校に通おうか。大丈夫大丈夫。ダルモア先生っていう便利な……いや優しい先生がなんとかしてくれるよ」


「はい! スーズは、とっても嬉しいです!」


 スーズは普通の生活や学校というものに憧れていたし、たくさんの知らない世界をこの目で見たいと思っていた。ヒビキが一緒なら、きっととても楽しい。


「よし行こっか」


「えっ、このまま、ですか?」


「そーだよ。航宙機まで行って、それからさっさと逃げよう」

「でも、ヒビキ様が持っていたクリスタルは、まだローゼスたちの船の中に……」


 あれはヒビキの大事なものだったはずで、スーズはそれだけが気がかりだった。 

 しかし、ヒビキは片目を閉じて笑って見せた。


「さすがに船に潜入するのは無理だしね。けど、あれはもういいんだ」


 ヒビキはスーズの手をもう一度強く握って、やさしく言った。


「俺は、もっと大事なものを手にすることが出来たから」


※※


 夏休みも中盤に差し掛かり、オリオンタートルの環境設定はまさに夏真っ盛りのものとなっていた。


「……はぁ」


 アマレット・アードベックは暑いのが苦手である。

基本的にはインドア派だし、夏だからといって馬鹿みたいに騒いで遊んだりはしない。


 多分、『だから』だ。『だから』今年の夏休みはなんとなくつまらないのだ。とアマレットは自分で結論を付けていた。

 去年までの夏もオリオンタートルは暑かったし、アマレットはこれまでも静かな夏休みをそれなりに充実して過ごしていたので、今年が特別つまらない理由にはならない、という気もしないではないけど、とりあえずそうなのである。


 だって、そうじゃなければ説明がつかないじゃない。

 アマレットはそう思っていた。


 自由な時間はたくさんあるから、好きな勉強だってできる。

 友達と過ごすこともできるし、宇宙猫と遊ぶこともできる。

 たまには夜更かししたり、朝寝坊だってできる。

 地球からやってきたあの迷惑な隣人の姿もない。


 だから、夏休みは楽しいはずで、そうじゃないのは暑いから。


「うん、そう!」


 ぐっと、小さな拳を握り、不意に大きな声をあげたアマレット。


「? いきなりどうしたの? アマレット」


 するとちょうど戻ってきて横に座った友人のミードがきょとんとした顔で聞いてきた。


二人が並んで座っていたのは、オリオンタートル内のビーチだ。青い海も白い砂浜も人口のものだが、それは本物と遜色ないほど輝いている。


「え? あ、その……なんでもないわ」

「変なの。あ、コスモソーダ飲む?」


「え、ええ、ありがとう」


 ソーダを受け取り、口をつけると冷たく爽快な刺激が喉に伝わった。普段はあまり飲まないこれも、ビーチで飲むと美味しい気がする。ほんのちょっとだけ、彼がこれを好きな理由がわからないでもないな、とアマレットは思った。


「しっかし、みんなはしゃいでるねー。青春ですなぁ」


 ミードはビーチのあちこちで楽しそうにしている同級生たちをみてそんなことを言った。

 本日は同級生の一人が主催しているビーチパーティだ。


ビーチスポーツに興じたり、音楽をかけて踊ったり、多分ほんとは飲んじゃダメな飲み物を飲んだり、不純異性交遊のきっかけづくりをしたりと、かなりの数のオリオンアカデミーの学生が思い思いに夏の砂浜を楽しんでいる。


「……そうね」

「さっきアマレット、男の子に声かけられてたよねー」

「あれは……」


 たしかに、ついさきほどアマレットはあまり話したことのない同級生の男子に『二人でどこかに行こう』と誘われていた。丁重にお断りはしたのだけれど、ちょっとだけきまりが悪い。


「私はてっきり、ついにアマレットもこの夏は彼氏作る気になったのかな、と思ってたんだけど?」


「そ、そんなこと!」

「だーって、珍しくパーティに参加してるし、水着も着てるし、あ、それ可愛いよ!」

「あ、ありがとう。……でも! 別に彼氏なんて作る気はありませんから!」


 アマレットは真っ赤になって否定した。


 ビーチパーティに来たのも、水着を着ているのにも深い理由はない。別に、このパーティに来そうな誰かに逢いたかったとか、その人にか可愛い姿を見せたいとか、そういうわけで断じてなく、なんとなくなのだ。


 ちゃらちゃらしたパーティはあんまり好きじゃないけど、それでもなんとなく誘いにのっただけなのだ。


 でも、やっぱりアッパー系のみんなのノリにはついていけず、こうして砂浜で友達とゆっくり過ごしているアマレットだった。


 そんななか、背後で飲んでいた男の子たちの声が聞こえてきた。


「お、ミヤシロじゃねーか!」

「お前、見かけなかったけどどうしてたんだ?」


 びくん、とアマレットのなかのなにかが弾んだ、気がした。多分気のせいだ。

 横にいるミードがなにやらニヤニヤしているけど、それは彼女の勘違いだ。


 だから、振り向かない。意地でも振り向かない。けどまあ、なにかまた不良なことを言うかもしれないから、耳はそばだてておく。


「ああ、華星にバカンスに行ってた。で、今朝戻ってきたらパーティやってるみたいだから来てみた」


 すごく久しぶりに聞いた気がするあの飄々とした声。いつも楽し気でなんか腹が立つ口調。ヘラヘラと不真面目なくせに、なんかたまに一生懸命で、でもそれを隠している変な男の子。


「へー、華星か。そういやなんか旅行行くっていってたな。それで、そうなったってか。流石だな、ミヤシロ」


「色々あったけど、最高だったぜ。とりあえずコスモソーダ俺たちにも……と、もしかして、アマレット?」


 不意に名前を呼ばれた。呼ばれたからには振り返らないと失礼というものなので、アマレットは仕方なくあの不良男子に挨拶をしてあげることにした。彼の宇宙での後見人はアマレットの父親だし、隣人だし、彼が旅行に行っていたことも知ってるから、まあ、おかえりというくらいは言わなくてはいけない。

 

 アマレットは何故か緩みそうになる口元を引き締め、一度意識して顔をキリっとさせ、前髪を整えてから振り返った。


「あら? 帰ったのね、ミヤシロくん。おかえりなさ……」


 アマレットは途中でセリフを止めてしまった。というか、固まってしまった。


「ただいま。アマちゃん。おー、すげぇ、水着だ! 今日は一段と可愛いね!」

「ほんとうですね! ヒビキ様! あの方がお話されていた、アマレット様なのですか?」

 ヒビキの隣には知らない女の子がいた。それも、品があって、純粋そうで、なによりもとても可愛い女の子だ。


彼女は柔らかな表情で、夢見るような瞳でヒビキを見上げていた。


 見れば、わかる。誰でもわかる。あの知らない女の子はヒビキに恋をしている。


「み、ミヤシロくん?」


 何故か、アマレットの頭は真っ白になった。


「ん、なに?」

「……そのかたは?」

「最近知り合ったスーズちゃん」


「あなた、華星に行ってたのよね?」

「うん。華星で知り合ってさ、可愛かったから攫ってきた。来学期からはオリオンアカデミーの一期下に編入だよ」


 意味わからなさすぎ。光年単位で遠くの惑星で女の子と出会って、そのまま連れてきた?

 可愛かったから? なにそれ? なんなのこの人?

 

 他の男子たちはヒビキがいつもの冗談を言っているのだとして、笑っているが、アマレットにはわかる。ヒビキは嘘を言っていない。この少年は、そういうやつなのだ。腹立たしいことに。


「スーズ・マッケンジーです! よろしくお願いします! アマレット様!」


 アマレットはまだ混乱していたが、スーズと名乗ったこの少女はいい子にみえた。無邪気な笑顔にこちらも優しい気持ちになる。好きになれそうに思えた。


「ええ。アマレット・アードベックです。……あら、マッケンジー?」


 それはオリオンアカデミーの副学長ダルモア・マッケンジーと同じ姓だ。


「そ。スーズちゃんはダルモア先生の姪だよ」


 多分、これは嘘だ。とわかったアマレットだったが、ここで追及するのも難しい。


「ヒビキ様! あれが海ですか!?」

「うん。本物じゃないけどね。でも案外悪くないよ」


「スーズが波に当たってみたいです! いってきてもいいですか?」

「あはは。もう誰にもそんなこと聞かなくてもいいよ。いってらっしゃい」

「はい!」


 と、スーズは砂浜を駆けだしていってしまった。その姿はとてもうれしそうで、ほほえましく見える。


「いい子だよ。でも、ちょっと世間知らずなところもあるかもしれないから、アマレットも仲良くしてあげて」


 そう言ったヒビキの表情はときおりみせる(と、言ってもアマレット以外の人は気づかないかもしれないが)真剣なものに一瞬だけ変わった。


 だから、アマレットもなんとなく事情がありそうなことを察する。そのうち、絶対話してもらうから! と決意する。


「わかってるわよ。……はぁ、それにしても貴方ってホントに……」


「ナイスガイ?」

「バカじゃないの!?」


「お、コスモソーダ飲んでるの? 一口ちょうだい」

「! ……い、いやよ!!」


「そうか、間接じゃ嫌なんだね。大丈夫、なら直接もするから」

「バカじゃないの!!??」


 アマレットは自分の顔が紅潮して、頭からは湯気が出そうな状態になっていることはわかったが、それがいかなる感情によるものなのかは、よくわからなかった。


 でも、なんだかその気分は悪くなくて。暑い夏が、それほど嫌じゃなくなっていた。

 これから夏が過ぎて秋になって、アカデミーはまた始まる。そこにはこの変な男の子がいて、あんまり望ましくはないと思うけど自分はまた彼と一緒に過ごすのだろう。


「ふう」


 漏れた吐息は、ため息の割には穏やかだった。


※※


どこかの宙域のどこかの星で、一人の男が長い眠りから目覚めた。


それは、彼を信望する者たちが一人の少年から奪い取ったクリスタル、『ミンタカ』の作用によるものだ。


 大事な姫は失ったが、その代わりに三つのキークリスタルのうちの二つが『男』のものになった。


 それはある者にとっては福音、ある者にとっては絶望の始まり。

 宇宙に生きるすべての人間を覆う黒い影。

 『男』のそばには高いレベルの予知能力者はもういないが、近い未来において騒乱が起きることは事情を知る者であれば予想できることである。


 が、『少年』は訪れる未来を漫然と読むことはしない。彼にとって未来とは、読むものではないのだから。



更新遅い中、ここまで読んでいただいてありがとうございました。これにてシーズン3完結です。



シーズン4『二大アカデミー対抗体育祭編』は、たぶんそのうちやりますので、その際にはまたお付き合いいただければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] だんだん敵が超人になってきましたね。知恵と度胸で超人を倒してのける。女の子のほうが秘宝より大事。タフガイかくあるべしですね。
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