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てのひらに星雲を  作者: Q7/喜友名トト
シーズン1~ 転入編~
3/70

どこの星のヤツだ?

※※


 翌朝、宇宙に浮かぶ大型居住区『タートル』、そこに引っ越した響の一日はやっぱり『日課』から始まる。それを終えるとシャワーを浴びて、着替える。


 細身のパンツに脚を通し、洗いざらしのシャツの上からライダースジャケットを羽織る。

 制服はまだ出来ていないし、こっちのティーンエイジャーのファッションの流行なんて知らないので、いつもどおりの格好だ。


 髪の毛のスタイリングを済ませる。


鏡を見てうむ、なんというイケメンだ。などと自画自賛したあとに、響は窓兼ドアを開けてプールハウスの庭に出た。


「ほー。朝焼けまで再現されてるとは」


 モニタが映し出す朝焼けはとても人工物には見えない。波の音もまたしかり。


 おもむろにさきほど自動販売機で購入した謎のスプレー缶を開ける。『コスモソーダ』と書いてあるそれを噴射してみると、大変なことになった。スプラッシュマ○ンテンみたいになった。

ちゃんと説明書きを読んだあと、グラスを持ってきてグラスの中にソーダを噴射するとあら不思議。ひんやりと冷えた炭酸飲料がなみなみと注がれている。しかもスプレー缶の中身はまだまだ残っているのがまた驚きだ。


 どういう理屈か知らないが、すごいテクノロジーだ。これは飲料メーカーに勤めているサイキック技師の手によるものなのだろうか。


 朝食はここから、とメモが残されていたタッチパネルを操作し、小さなクッキーのようなものをいくつかプレートに乗せて電子レンジのようなものに入れると、解凍?されたのか、オムレツやらパンやらベーグル(の、ようなもの)に変わっている。


 うへぇ。

 響はそう思いつつもありがたくムシャムシャと全部食べる。意外と美味しかった。


 次に、プールハウスを出てガレージに向かう。

 移動手段はリクエストしていたので、昨日アマレットが乗っていたようなホバークラフトもあるが、多分運転できないだろう。

 

 後見人であるアードベック氏からのメッセージではこうあった。『ホバーバイクならサイキックウェーブ無しでもマニュアルに切り替えて運転できる。地球の文化に興味を持っているお金持ち用に開発されたレジャー用の新型なので、地球にあるオートバイとほぼ操作方法は同じだそうだ。君なら問題なく走れると思う。でもしばらくはバスで通学するのをオススメする』


 はっはっは。ありがたいなぁ、心配してくれて。そうだね。たしかに法的な免許の手続きとかは済ませてあるけど、慣れない土地で運転するのは難しいからね。


じゃあ、乗るね。


 響はガレージの端っこに置かれているバイクに近づき、動作を確認した。

 ハンドルの中央部にタッチパネルがあり、『マニュアル』『サイキック』と操作系を変更できるシステムであることがわかる。


 『サイキック』の場合は多分、イメージするだけでサイキックウェーブが駆動系を伝わり、より効率的にパワフルに走ってくれるのだろうが、あいにく響には使えそうにもない。だから当然選ぶのは『マニュアル』だ。


 クラッチ、アクセル、ブレーキ。デュアルCBSがついているかどうかはわからないが、たしかに地球のものと同じような作りだ。タイヤはついていないが、例によってなんらかのメカニズムによって宙に浮き、走るのだろう。


 バイクに跨り、エンジンを起動させる。

 ギアを入れてアクセルを回す。


 やっぱり問題なく走れた。

 海岸線をひた走り学校へと向かう。ちなみにアードベック氏からは昨夜、今日は案内しようか? とメッセージがあったがお断りしている。


せっかくの楽しい初日だ。自由にやるのが一番いいのさ。


「~♪~♪~!!」


 地球の日本で放送されているご長寿アニメ、その登場人物の日本一有名なガキ大将のテーマソングを自分風にアレンジした替え歌を熱唱しつつ、美しく整備された海沿いの道をひた走る。


 響はガキ大将ではないし、天下無敵というわけではないので、その部分は『ナイスガイ』『快刀乱麻』と言いかえる。


左手には未来的な建築様式で作られた住宅街、右手は人口の海。

 人工の海の上には人工の青空があり、本当はその向こうには星の輝く宇宙があるはずなのだ。


そのなかを疾走するのはなかなかに楽しいものがある。

 

「~♪~♪~」


 続いて、多分地球で一番有名なバンドが歌った、こんにちはとさようならだけで大部分が構成された名曲も熱唱。

響は別にこの二曲が際立って好きなわけではない。ただ思いついただけだ。なんでもいいから歌いたくなるほど気分だったということである。


「お、そろそろ着くのかな?」


ひた走るなか、これから通う学校であるオリオン・アカデミーに近づくにつれ、ホバークラフトが増えているのに響は気がついた。



しかも、見るからに高級そうな車種ばかりだ。


やっぱり、良家の子女が通うということで間違いないらしい。


いいねー。じゃあ将来的にはこの学校の優等生諸君は連合の幹部になったりするわけだ。そんで女生徒諸君の父親とかも偉かったりするわけだ。善哉善哉。


 響はそんなことを考えつつ、二・三回ほどホバーバイクによるウイリーやジャックナイフを試し、失敗し、今度もう少し練習しようと思いつつ、オリオン・アカデミーの駐車場に到着した。


 駐車スペースを探し、バイクを止め、あたりを見渡す。


 人工の明るい太陽が照らすアカデミーのキャンパスは、まさに異世界だった。


 楽しげにキャンパスを歩く学生と思しき人たちは、思ったよりずっと人型タイプの異星人が多い。犬のような耳が頭から生えていたり、染めてるわけではなさそうなのに緑色の髪の女の子がいたりと多様性はあるのだが、それはどちらかといえば非常にクオリティの高いコスプレをしているように見える。

 地球で言う『人種』程度の差異はあり、白人のような女子や黄色人種のような女子や黒人のような女子もいる。男子もおおむねそんな感じだ。


知的生命体というのはどのような環境で進化してきたとしても最終的にはこのような姿、つまりは『人型』に収束する確率が高くなるという仮説。響の何かの論文で読んだ記憶によると『知的生命体共通進化説』とかいう名称だったように思うが、その説は正解だったのかもしれない。


 そしてキャンパス内を歩く学生たちは思ったよりずっと、自由そうだ。


 エリート子女が通うという触れ込みのオリオン・アカデミーなので、まじめっぽい感じの学生ばかりなのかとも思ったがどうもそうではないらしい。


 やたら露出度の高い服を着たパツパツの女子生徒が、ムキムキの男子生徒と腕を組んで歩いていたりしている。スケートボードのようなものにのってなにかのトリックの練習をしているヤツもいる。ドリンクを片手にきゃっきゃきゃっきゃと楽しそうにはしゃぎながら連れ立って歩く女の子たちもイッパイだ。制服についてはそれほど厳密な着用義務はないらしい。


 なるほど。昨日会ったアマレットの『生徒会役員っぽさ』もあり、響のイメージしていたアカデミーは、イギリスの寄宿学校のような厳格なものだったが、それは間違いだったらしい。


 どちらかといえば、アメリカの青春ドラマ風だ。


エリートといえば聞こえはいいが、どちらかといえば、金持ちボンボンのティーンエイジャーが青春を謳歌する雰囲気に近いのかもしれない。週末にはパーティとかやって、テンションの上がる飲み物でも召し上がりながら騒いだりしているのかもしれない。


まあ、いかに異星人といえども思春期の少年少女なわけだ。

 

 というか、このタートルの環境設定がリゾート地のようになっていることやリッチであるという生活基盤を考えればこういう雰囲気になるのもある種当然なのかもしれない。地球人からみればSF世界の住人である彼らだが、彼らかすればここは普通の生活の場所で、青春時代を過ごす学校なのだから。


 もちろん、基本的には優秀な学生が集まっているはずなので、たとえばそこを行く頭の悪そうな体育会系っぽい生徒も強力なサイキックパワーを持っていたりするのかもしれないし、『やつら』が紛れているのは間違いないが、それはそれ。


 素晴らしい環境だ。俺もガッツリ、ビバリーヒルズみたいなことをやってやる。


 響は内心でそんなことを思いつつヘルメットを脱いだ。


「おはよ」


 バイクから降りつつ、すれ違う女生徒Aに爽やかに声をかけてみた。キラッ! という音が聞こえないのが不思議なほどの笑顔のはずだ、と響は思っている。


「ハーイ。そのマシン、素敵ね。新型?」


 どこの星の出身なのかもわからないが、女生徒Aはこれまた健康的でセクシーな感じだ。やや挑発的な、なんとも慣れた感じのリアクションが少し面白くもあった。

ふむ。彼女をみるに、こっちでもまあそこそこいけそうだ。


「でしょ?」


 響はそれだけ答え、笑って手を振ると、駐車場から校舎に向けて歩きだした。キャンパス内にはよく手入れされた芝生や噴水、なんらかのスポーツのコートなどもあり、そもそも広い。校舎もピカピカだ。

総合すると、オリオン・アカデミーは一般的地球人がイメージする『高校』と比べると随分リッチなものであるといえるだろう。


 陽光が少し暑くなったので響はライダースジャケットを脱ぎ、手に持って歩くことにした。

 

周囲の学生たちの視線が集まるのを感じる。


「……誰だアレ?」

「見ない顔だな」

「転入生か?」

「でも、ちょっと素敵ね」

「どこの星のヤツだ?」

「かっこいいじゃん」

「全然サイキックウェーブを感じないけど、ザコなんじゃん?」

「なんか気にいらねぇな。ゲイだろあれ」


 さすがに言葉は聞こえないが、多分そんなことを言っているであろう男女両方の生徒の雰囲気を感じつつも、響は特に気にするそぶりを見せない。細めのパンツに包まれた長い足で、弾むようなテンポで颯爽と歩く。色っぽい視線をやってくる女生徒には微笑み返したりもする。


大事なのは、堂々としていることだ。


 響は直感的に、そしてなによりも経験的に知っている。それも、嫌というほどにだ。


人は異端の存在に接したときネガティブ、またはポジティブどちらかの印象を受けるものだ。

そのときに対象が怯えていたりすると、無意識のうちに自分より劣等だと思ってしまう。


ならば逆もまたしかり。


 響はそんなことを考えつつ歩いていると、校舎の入り口あたりで知っている背中を見つけた。

 腰まである長い亜麻色の髪、そして白と紺を貴重とした制服をきちんと着ているところや凛とした雰囲気からも彼女であるということがわかる。


 響は少し速歩きをして彼女の横に並んだ。


「やっほー。アマレットちゃん」


 急に近くから声をかけたせいか、彼女は驚いたように大きな目を丸くした。


「今日も可愛いね!」


 前から見てもやはり可愛らしい。制服の胸元の細いリボンや、魅力的な太もものの下に見える黒いニーハイソックスも実に素晴らしい。どちらかというと派手目で露出度の高い私服ばかりの女生徒の中で、品のある彼女の姿は逆に目立っている。


 可愛い。可愛いと思ったから可愛いと言う。


響はアマレットに『グッ』と親指を立ててみせた。


「……おはよう。ミヤシロくん」


 一瞬の間が空き、アマレットはやや距離感のある声でそう答えてきた。いぶかしげな瞳は少し呆れているようにも見える。


「昨日は色々とありがとうでした。でさ、俺」

「ごめんなさい。私、生徒会室に行かなくちゃいけないから」


 話を続けようとした響を遮り、アマレットは再び背中を見せた。

 バッサリ、という表現がぴったりくるほどつれない反応である。


「……うーむ」

 

  取り残された響はアマレットの華奢な後ろ姿を眺めつつ、顎に手をやって考えた。が、彼女への接し方はやっぱり特に変えないという結論に達する。


 なにせアカデミーは6年まである。4年に編入した響は卒業まであと3年もあるわけだ。

 自分としても今はアマレットのことをさほど知っているわけではないので、時間をかけて親しくなったりするのも楽しいかもしれない。

 響はそんなことを思いつつ、当初の予定通り副学長室へ向かうことにした。


 用事を済ませなければならない。そのためには、アカデミーの副学長・ダルモアにはこっちの考えていることを三分の一くらいは明かしてもいいだろう。


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[一言] 新作からこちらを読みに来ました。主人公が面白い奴ですね。
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