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てのひらに星雲を  作者: Q7/喜友名トト
シーズン1~ 転入編~
16/70

お前が僕に勝てる要素がどこにある?

「バーロー! 細けぇことはいいんだよ!! 乗ってみればできらぁ!!」

 

 コックピット内の空中に表示される美人さんの顔とイキの良い声。

 

 操能力マシンコントロールの担当教官、フィディック先生は若くて美しい女性なのだが、かなり極端な性格のようだった。というか、どうもアカデミーの教官はクセのある人が多いようだ。

 


 が、響はこういうタイプも嫌いではない。弩星どせい訛りの公用語も気風きっぷがいい感じがして好感が持てる。 


 いいよいいよ! フィディック先生、ぞくぞくするぜ!! 


と、思っている。

 

 初の操能力マシンコントロールの授業なのに、いきなり実機に搭乗することになったのは彼女の性格によるものなのだろう。


 それも響にとっては都合がよい。予習もいいが、機械というのはやっぱり扱って慣れるものだ。それになによりそのほうが面白い。


 PP打倒は響の目標の一つだが、それはそれ。


充実した楽しい学園生活を送りつつ女の子にもモテモテになるというのは大事なことだ。それにそうすれば必然的に必要な能力や要素を準備することにもつながる。


 先日の買い物では操能力マシンコントロール初級用の機体と特別性のコントロールレバーも購入してあるしアカデミーに搬入済なので問題ない。


「しかし、第四グラウンドというのが宇宙空間だとは思わなかったぜ」


 響は自機のコックピットと、ウインドウから見える宇宙空間を確認した。なにやらワクワクしてしまう。さっき一人でビームを発射するごっことかをしてしまった。


 ここはアカデミーのあるタートル周辺の宙域であり、響が乗っているのは小型の宙間移動マシンだ。

 

戦闘機とハイテクカーの中間のようなデザインだな、というのがマシンに対する響の印象だった。


「ほれ。動け」


 ためしに、ペンを浮かせるときと同じようにサイキックウェーブをコントロールレバーに伝えてみた響だったが、機体は微動だにしなかった。


 テレキネシスとはやり方が違うのか、それとも単純に出力が不足しているのかはわからない。


「ふむ。無理だな」


「よし! 全員マシンに乗ったな? じゃあレースでもすっか。スタート位置につけ」


 フィディック先生の声とともに、マシンのコントロールパネルに宙域の地図が表示された。ウインドウから見える宇宙にも光でルートが表示されている。どうやらそこを飛べということらしい。


「仕方ないなー」


 さすがに一人だけ停止しているわけにはいかないので、響は操作方法を『マニュアル』に切り替えた。このためにわざわざ高価な専用コントロールレバーを購入したのだ。


 ペダルを踏み、コントロールレバーを倒すと一応マシンは動き始めた。思考をサイキックウェーブにのせて直接操作する方法に比べればだいぶ面倒くさいと思われる。


「ほっ!」


 一応予習はしてあったので響はマシンを動かし、宇宙に引かれた光のスタートラインに移動した。


「まさかマニュアルか? ミヤシロ」


 隣の位置についているクラスメートの銀髪の男からモニタ通信が入った。なにやら嘲笑うような口調なので、どうやらバカにしたいらしい。


 さらに、彼の取り巻きらしき数人の笑い声が聞こえてきた。全体的に鼻につく連中である。

 

「全員位置についたな!? ああ、言い忘れたけど、このレースは校内放送で流れるし、好成績だったヤツのうち何人かは来週の惑星探査実習にリーダーとして参加できるからせいぜいしっかりやるこった」


 続いてフィディック先生の怒鳴るような声と、それを受けてざわめくクラスメートたちの声が聞こえる。


「四年で惑星探査って聞いたことないぜ」

「いや、でもすごいぞ! 行きたいな」

「リーダーってことはもちろん成績にかなり影響するよな?」


 響にはよくわからないが、惑星探査実習というのはなにかすごいことのようだ。


「……惑星探査実習?」


「なるほど。以前から父に話していたことが実現したようだ。……心配するなよミヤシロ。間違ってもお前には関係ない話だろう?」


「図々しいヤツだな。身の程をわきまえたらどうだ?」


「誰が選ばれるかはもう決まっているも同然なんだぞ」


 さっきの銀髪とその取り巻きからまたもプライベートチャンネルでの通信が入った。彼の口調から察するにどうやらそれは、みんなが望むことのようだ。


「先生。どうして四年生の参加が? 今年の四年生のレベルを考慮してのことでしょうか?」


 たとえば僕のように優秀な学生がいるから、と男は言いたげだった。ふふん、というオノマトペが聞こえてきそうなほど得意気な表情をしている。


そういえばコイツはたしか、身体強化バイタルブーストの授業でも好成績を残していた。名家のご子息様で、エリートなのだろう。


「さあな。学長の指示だから私は細かいことは知らないね。ただ」


「ふん。まあいいさ。アカデミーは優秀な人間のためのものであるべきだというのが僕の考えだからな」


 最後の言葉はプライベートチャンネルである。どうやらこの男は、自分が父親におねだりしたことが実現し、そしてその権利は自分が貰うことが確定していると思っているようだった。


 少し興味が湧いたので、響はこの男の相手をすることにしてみた。


「へー。俺にはよくわからないけど、君ってすごいの?」

「ふん。勘違いするなよ? 僕は君と違って親の七光りだけじゃないぞ」


「七光り? 俺が?」

「違うとでも言うのか? ロクにサイキックスキルも知らないくせにアカデミーに入学できたのはヨイチ・ミヤシロの名前のおかげだろう」


「あー……」


 ああ。なるほど。響は唐突に理解した。


 要するに、こいつは俺のことが気に食わないんだな。


 多分コイツは家も有名で、本人もそこそこ優秀で、周りはそれを知っていてコイツを持ち上げてくれている。だから自分に自信があるのだろう。


 で、アカデミーを我が物顔で闊歩しているところに突然俺、地球人の宮城響が出てきた。しかもちょっと目立っていて、自分に敬意を払わない。だから絡んでくる。


 この前のSフットクラブの体育会系とは違い、ボンボンエリート系のムカツクやつだ。


 ほんと、飽きないガッコーだぜ。


 少し迷った響だったが、素直に今湧き上がった感情のまま答えることにした。


 この銀髪のお坊ちゃまをへこませてやりたい。

 さて、そこからはより効果的な言動を考える。

こういうのは、要するに相手をより不快にさせたほうが勝ちなのだ。


 したがって『実技は編入試験になかったし、俺満点とったし!』とか『うるさい! 親父は関係ない!』とか『地球人だからって馬鹿にするな!』とか、ムキになってそう答えるのは悪手だ。多分、こっちを貶めたことに満足し、ニヤニヤするだろう。


なので、響が口から出す言葉はこうだ。


「うらやましいの?」


「なっ……!? お、おいおい。聞いたかよコイツ、な、情けなくな」

 

 取り巻きに同意を求める前にさらにかぶせる。


「ところで君、誰?」


「ぼ、ぼくを知らないのか!? 華星のオプティモ家を!!」


「ごめんな。俺、親父も有名だし、俺自身も超優秀だし、いつも人気者だから。俺のことを一方的に知ってる人って多いんだよ。俺のほうはイチイチ覚えてないんだけどね」


 心底申し訳なさそうに言うのがこの台詞のミソである。

 効果は抜群らしくオプティモというらしい彼は、怒りで顔を赤くしている。


「ミヤシロ! オプティモ! いつまでくっちゃべってやがる!! 50秒前だぞ!!」


 再び先生の耳に心地よい男勝りの声が聞こえ、スタートカウントが宇宙に表示された。


「……くっ、まあいい! 実力の差をみせてやる!!」

「ははは。バカバカしい」


「笑わせるなミヤシロ。お前が僕に勝てる要素がどこにある?」


「顔」

「!?」


 即座に答え、それから先は完全に無視。


彼がなんだかんだと言っているが、通信のボリュームを下げたのでよく聞き取れない。苛立っていることだけはわかるのでかなり面白い。


「……さて、じゃあサクッと勝ちますかね」


 校内放送もされるとのことだし、勝てば成績も上がるしモテるだろう。

惑星探査実習というものにも興味があるし、学長がわざわざ今年から四年生を対象にいれたというのもなにやら理由がありそうだ。PPが活動を始めたことは学長も知っているし、偶然とは思えない。ならば、響としてもこれに係わる理由がある。


つまりは、勝たない理由はない。あとは、どう勝つか、ということだけだ。


響は首と肩のストレッチをしつつ、徐々に小さくなる光のカウントに視線を向けた。


「GO!!」

 

 スタートの合図とともに、マニュアル操作のコントロールレバーを勢いよく傾け、機械仕掛けの(そら)の舟を加速させる。


 


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