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第六十一話 新魔法

精霊の力が宿るバゼラードを使い、作り上げた漆黒の大剣。


カオルはエリーにそれを託し、調査団一行はダンジョンを進む。


薄暗い緑色の苔で覆われた31層は、水棲(すいせい)生物が(ひそ)む階層だ。


ふらつく頭を押さえ、エルミアに寄り添いながら歩く。


時折(ときおり)(つまづ)くが、エルミアは優しく(ささ)えてくれた。


「ありがとう」とお礼を言うと「どういたしまして」と微笑みながら返してくれる。


本当に優しい人だ。


たまに言動が過激になるけれども。


前を歩くグローリエルが「くるよ!」と叫ぶと、前方から巨大なヘビがこちらへ向かってくる。


師匠とエリーが身構えて対峙する。


巨大なヘビはボク達の前でその身をくねらせ尻尾で攻撃してきた。


左右に別れて回避すると、師匠は居合いで一閃!ヘビの牙を叩き斬る。


さすが師匠だ。


変則的に動くヘビの頭を的確に攻撃している。


エリーは漆黒の大剣を振るい、巨大な胴体へ攻撃を繰り返す。


エルミアはヘビの目を狙い矢を放つ。


ヘビはその不規則な動きで果敢(かかん)に回避を(こころ)みるが、エルミアはそれを読んで攻撃を加える。


3人の攻撃で疲労したのか、動きが鈍くなったところへついに矢が突き刺さる。


片目を潰されたヘビが、大きく奇声を上げてのた打ち回る。


そこへ、エリーが大剣を突き刺し絶命させた。


ボクとグローリエルは後方でその様子を見ていた。


通路が狭く戦いにくい事と、グローリエルは先の戦闘で大技を使っているので魔力を温存しているそうだ。


たしかにあの魔法『フリンダラ』は凄まじい威力を持っていた。


魔力の消費も相当だろう。


指定した相手に向かい『光の蝶』を飛ばし爆発させる魔法。


ボクもアレが使えればきっと・・・・


ん?指定した相手に向かう?


まてよ・・・


ボクの『雷の矢』って、指定した相手に飛ばすことが出来るよね?


ということは、爆発に似た何かができればボクもあの魔法が使えるのではないだろうか?


爆発かぁ・・・火薬とか使っているわけではないので、グローリエルが使っているのは『物理エネルギーによる爆発』だよね。


圧縮された酸素とか、水蒸気爆発とか粉塵爆発とかあるよね。


でも、ボクが使うのは風と雷だ。


ボクにはまだ、空気中から酸素だけを取り出すなんて芸当はできない。


出来るなら、この前の魔術学院での事故の時に使っている。


雷・・・雷かぁ・・・・


雷って電気だよね・・・


う~ん・・・・


ん?電気?


雷って落ちる時に音がすごいよね。


たしかあれって、電気によって空気が押しのけられるのと短時間で高温になった空気が膨張(ぼうちょう)して音が鳴るんだよね。


ってことは・・・・そうか『衝撃波(しょうげきは)』か!


衝撃波は圧力の一種だし、方向さえ指定できれば十分実用的だ。


音速を超えた音の壁が押しつぶすんだ、威力だって爆発に(おと)ることは無いはず!


これならグローリエルの使った『フリンダラ』のように凄まじい力を発揮してくれるだろう。


う~ん、あとはイメージか。


小さな蝶の形をした雷を作り、それを指定した相手へ飛ばす。


着弾と同時に小規模の雷を発生させ、それが衝撃波となり対象を押しつぶす。


うん、なんとなく理解は出来る。


イメージも・・・・うん大丈夫。


あとは訓練か・・・・


前を歩く師匠にお願いして、一緒に前線を歩く。


そこへ先ほどの大きなヘビがこちらへ向かってきた。


よしよし、練習台になってもらおう。


ヘビへ向けて雷をイメージ・・・


小さな蝶を・・・・


音速の壁を・・・


イメージ!


両手を掲げ「『フリンダラ!!』」と叫ぶ。


ボクの周りに3匹の蝶が舞い、ボクが「いっけー!」と叫ぶと3匹の蝶はヘビへ向かって飛んで行く。


ヘビの頭へ2匹、胴体へ1匹飛んで行くと強烈な衝撃波が起きボク達の耳へ鳴り響く。


壮絶な爆発音がダンジョン内で反響(はんきょう)する。


う・・・・これはダンジョンで使っちゃいけない魔法だ・・・・


たいした考えも無く使った自分に(あき)れかえりながらも、衝撃波に襲われたヘビはその身体を潰され絶命した。


うん・・・結果的には成功だね。


これからはもっと考えて使おう。


そんなことを考えていると、グローリエルが驚きの声をあげた。


「な・・・な・・・・・なぁー!?」


一足飛びにボクへ近づき、叫びながら聞いてくる。


「カオル!なんだこれ!?あ、あたいの魔法を一目見て覚えたっていうのかい!?」


ギャーギャーわめきながらそう話すグローリエル。


まぁ、正確には違うんだけどね。


ボクはあんな上級の火魔法使えないし。


グローリエルの頬に両手を当てて、落ち着かせる。


「グローリエル、ありがとう。おかげで新しい魔法を覚えたよ」


ニッコリ笑ってそう答えると「・・・・・まぁいいか!」と(ほが)らかに笑い返してくれた。


チョロイね・・・・


そこへ師匠が「カオル、凄い事は認めるがこんなところで試すな」と言い、ボクのおでこを小突く。


苦笑いを浮かべ3人に顔を向けて「ごめんなさい」と謝ると、驚いていたエリーとエルミアは「いいよ」「さすがカオル様」と許してくれた。


うん・・・とりあえず、この魔法はダンジョンでは封印しようと思う。


押しつぶされたヘビに近寄る。


小さな蝶が直撃した箇所は、丸い円錐(えんすい)のように押しつぶされて穴が開いていた。


なるほど・・・こうなるのか。


魔力量が少ないから3匹しか出せなかったけど、魔力量が上がればグローリエルのように沢山の蝶を出せるかな?


そうすれば、文字通り蜂の巣に出来るかもしれない。


これは訓練をしっかりしないとね。


巨大なヘビをしまい、そんなことを考えていた。


その後もダンジョンを突き進む。


いよいよ38層だ。


あと2層も行けば、魔族を見かけたというポイントへ。


本当に魔族がいるのだろうか?


もし出会うとしたら、慎重に行動しなければいけない。


あの遠征時に出合った黒い肌の魔族。


またあんなヤツだったとしたら、みんなの身が危険に晒される。


ボク達は一度休息を取り、交代で番をした。


グローリエルは周囲を警戒し、火を(とも)した焚き木の前で番をしてくれている。


エリーとエルミアは少し離れ、お互いに身体を拭いている。


そんな中、ボクは師匠に添い寝をお願いした。


昨日はオシオキで一緒に眠れなかったしね。


師匠は喜んでくれて、ボクに腕枕までしてくれた。


バラの香りがしてすごい落ち着く。


目を開くと、師匠がこちらを見ていた。


とても綺麗な顔だ。


金色の髪に青く透き通ったサファイアの瞳。


見詰めているだけで、吸い込まれてしまいそうだ。


そんな師匠に、そっと口付ける。


唇を離すと、優しく微笑んでくれた。


なんだか恥ずかしい。


師匠の胸に顔を埋めて、眠りに付いた。


ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。

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