第五十九話 ガーディアン
20層もあらかた歩き回り、いよいよ21層へ続く扉へ向かう。
ダンジョンでは20・30・40・50という区切りで、上層へ続く扉の前にガーディアンがいるらしい。
グローリエルはこのダンジョンへ何度も潜った事があるそうで、40層までなら完全に記憶しているとの事。
本当に冒険者だったんですね・・・
まぁ、今日のグローリエルは本当に頼もしい。
通路を歩いていると、やがて巨大なホールへと辿り着く。
そのホールこそ、21層へ続く扉がある場所だ。
ホールの中央には巨大な扉がありガーディアンが佇んでいた。
ゲームとかでおなじみのミノタウロスだ。
人と牛が交わった姿。
頭部には鋭い角を生やし、筋骨隆々の上半身に牛の脚を持つ魔物。
史実では、ミーノース王がダイダロスに命じて迷宮を建造しそこにミノタウロスを閉じ込めたんだっけ。
本当に番人って感じだよね。
10mほどの体躯に、石製の大槌を掲げている。
う~ん・・・・前にもっと大きなドラゴンを見ているから、小さく感じるなぁ・・・・
ボクがそんなことを考えていると、師匠の合図で戦闘が始まった。
俊敏な師匠とエリーがミノタウロスを翻弄し、エルミアが弓で牽制するとグローリエルが巨大な火球を放つ。
でっかい火球だ。
火系は、お湯を作るくらいしかできないからなぁ・・・
その様子をボーっと見ているボク。
だって、前へ出るとじゃまになるんだもの・・・
サボっているわけではないからね!
腰に2本の剣を下げているけれども!
ボクは治癒術師なのだ!
エッヘン!
ただ、出番がないだけなのだが・・・
はぁ・・・
それにしても、エリー強くなったなぁ・・・
ぴょんぴょん跳ねて兎みたいだ。
いや猫なんだけど、兎みたいだ。
ミノタウロスは、纏わり付く師匠とエリーを力技でいなし時には牛の脚を使い強烈な突進をしていた。
本当に牛なんだね・・・軌道修正とかしないで壁に激突してるよ・・・・
お、そろそろ終わりかな?
エルミアが放った矢がミノタウロスの片目を潰し、そこへ師匠が胴を一閃。
仕上げにエリーが大剣をミノタウロスの正面から切り下ろすと、真っ二つになり絶命した。
うん、本当にボク必要無い気がするね。
倒されたミノタウロスに近づき、アイテム箱へしまう。
「大丈夫?」と声をかけると「私をだれだと思ってるの!全然余裕よ!」とエリーは余裕の表情を見せた。
うんうん、本当に良く育ってくれたね。
ボクもなんだか誇らしいよ。
喜んでいるエリーを嬉しそうに師匠が見ていた。
そりゃそうか。
なんていっても、師匠がエリーを鍛えたんだもんね。
まぁ、一番弟子の座は譲らないがな!!
師匠に抱き付き「師匠の1番弟子は誰ですか?」と聞く。
きっとボクと答えてくれるはずだ。
だが・・・「ん?エリーだな」と師匠は予想外の人物の名前を答えた。
え・・・・ボクじゃないの・・・・・?
ボクは悲しくなり、師匠から離れてエルミアに抱き付く。
うぅ・・・ボクって言ってくれると思ったのに・・・・
エルミアに抱き付きながらボクは涙を流した。
<突然ですが、ここでヴァルカンサイド>
ちょっと聞いて欲しい。
さきほど21層への扉を守る魔物、ミノタウロスを倒したのだがそこでカオルきゅんがこう聞いて来たのだ。
「師匠の1番弟子は誰ですか?」
そりゃ、エリーに決まっているじゃないか。
元々大剣の素養があり、ここ最近は私が訓練でしごいた結果、目まぐるしい成長を遂げたのだ。
これも偏に、エリーがカオルきゅんへの恩があるから故成せたのだが。
そんなことはどうでもいいか。
そこで、私は一番の弟子は「エリーだな」と答えたのだ。
なにせ、いまやカオルきゅんは『私の嫁』だからな。
弟子などではない。
私だけの嫁だ。
それなのに、カオルきゅんは涙ぐんでエルミアに抱き付いてしまった。
私は何か間違った事を言ったのだろうか?
わからない・・・
私にはカオルきゅんの考えていることがわからないぞ!
ああ、どうしたらいいのだ。
21層へ上り夕食を食べる時も、いつもなら私に寄り添ってくれるカオルきゅんはエルミアにべったりだった。
うぅ・・・寂しいゾ・・・・・
仕方が無いので、交代で番をする時にこっそりカオルきゅんと添い寝をした。
いつもなら、私の腕枕で寝てくれるはずなのに・・・・
うぅ・・・私は寂しいぞー!
<失礼しました。本編のカオルサイド>
21層で交代で仮眠をしていたら、いつのまにか師匠が添い寝をしていた。
いつもなら師匠と抱き合って眠るんだけど、昨日はちょっとイヤな事があったからエルミアにお願いして一緒に寝て貰った。
嫌な顔1つせずに「喜んで」と笑顔で答えてくれたエルミア。
そんな優しさに甘えて眠っていたはずなのに・・・・
まったく師匠は自分勝手だ。
そりゃ『残念美人』なんだから、わかっていたけどさ!
でも・・・・ボクを1番だと言って欲しかった。
うぅ・・・我儘だってわかってはいるけど、ボクは誰よりも師匠が好きなのに・・・・
寝息を立てている師匠に近づき、こっそり口付けを交わす。
「ボクの一番は師匠ですよ」と小さく呟き離れると、師匠は「ん・・」と小さく呻き、しばらくするとまた寝息を立てていた。
金色の髪の美人さんは、ボクの気も知らずに眠り続けた。
まったく・・・本当に・・・・大好きです。
夜も明け、というか外が見れないのでたぶんだけど・・・
順番に仮眠をしたボク達は、ダンジョンを進む為に準備を開始した。
使った毛布やカンテラを片付け、食器やコップをしまうだけだが。
エリーは愛剣の手入れを念入りにしていた。
う~ん・・・あれ、ただの鉄だからそのうち折れるだろうなぁ・・・・
今回の調査が終わったら、何か素材見つけて作ってあげないと。
むしろ、使い捨てで何本も用意しておこうか?
でもエリーのことだから、折れたら折れたで悲しむよね・・・・
やっぱり、何か良い素材探しておこっと。
そんなことを考えながらエリーを見詰めた。
昨日師匠には悲しい思いをさせられたので、今日もエルミアとエリーに手を繋いでもらいダンジョンを進む。
時折、師匠がこちらへ目を向け悲しそうにしていたけど、今はオシオキ中なのでかまってあげない。
ふん!かまてほしかったら「ボクの事大好き!」って大声で叫んだらかまってあげるよ~だ!
なんて、言えないけどね。
はぁ・・・それにしても、師匠は今日も美人さんだなぁ・・・・・
う~・・・抱き付きたいけど、オシオキ中だから我慢だ。
ダンジョンを進んでいると、またしても大型の魔物と遭遇する。
トロールにギガース、ついには2本の短い角を生やし赤い皮膚のオーガまで。
すごいね・・・なんか赤鬼みたいだね。
棍棒じゃなくて、両手斧持ってるけど。
う~ん・・・敵が持ってる鉄製の武器ばっかり貯まっていくなぁ・・・
帰ったら、溶かして板にしておかなきゃ。
というか、レギン親方あたりに売ってしまおうかな?
それをみんなで山分けにすれば、ちょっとしたお小遣いになるんじゃ。
うん、そうしよう。
どうせ鉄なんていっぱいあるし。
出番がないので、エルミアの隣でそんなことを考えていた。
ボーっと歩いていると、ついに28層へ。
21層を越えてから、グローリエルの使う『ライト』の魔法でもフロア全体を照らしだす事が出来なくなっている。
とは言っても、全然周囲を見回す事が出来るので問題はない。
28層で初めて出会った魔物も、色が違うだけの大型の魔物だ。
トロールは緑色の体躯から青く変わり、ギガースは皮膚が薄黒く変わっていた。
少しは強くなっているんだろうけど、ボクの出番は相変わらず無いのでよくわからない。
なんというお姫様ポジション!
いいんだろうか?
なんだか、エリーの動きがどんどん良くなっていってるのが気になるんですが・・・
あんな鎧の隙間に、大剣を一突き出来るなんて技量が相当上がっているんじゃないですかね?
う~ん・・・ボクも訓練したい。
みんなに内緒でやるしかないかなぁ・・・
絶対止められるし。
それにしても、グローリエルは本当に生き生きしてるな。
冒険者の血が騒ぐというのかね?
魔力量がものすごいから、バンバン魔法使ってるし。
羨ましい。
ボクがあんなに撃っていたら、とっくに倒れているだろう。
なにかコツとかあるのかね?
『ライト』と合わせて教えて貰わないと・・・
パーティはどんどん進む。
のんびり歩くボクを残して。
ついに30層へ。
31層の扉の前には、ガーディアンがいるはずだ。
ヒマなのでグローリエルに聞いてみる。
「ねぇグローリエル。30層のガーディアンはどんな魔物なの?」
ボクがそう聞くと、グローリエルはこちらへ目を向けてニッコリ笑う。
「30層のガーディアンは、巨人のアルゴスだよ。身体中に無数の目がある魔物さ!」
そう話すと「あたいのとっておきの魔法を見せてやるよ」と嬉しそうに語ってくれた。
とっておきの魔法ってなんだろう?
グローリエルは火魔法が得意だから、それ系統だろうけど師匠の言う『奥義』とか『究極魔法』とかそう言う話し?
う~ん・・・今まで高位の魔術師に会った事がないからわかんないや。
アゥストリはなんか先生みたいだったし。
いいなぁ・・・ボクも風竜がくれた『シュトゥルム』があるけど、ボクがよわっちいからそこまで威力無いし。
『イカヅチ』は、ただ雷落とすだけだし『トニトルス』は、『イカヅチ』を横に撃ってるだけだしなぁ・・・
う~ん、本格的に魔法習わないとだめかも・・・・
家族を守るって決めたんだ!
ボクもがんばらないと!
決心も新たに、31層へと続く扉の前へ。
そこには、グローリエルの説明通りに黒い肌に無数の目を開いた巨人、アルゴスが佇んでいた。
なんだっけ・・・日本妖怪で百目とかいうのがいたけど、あんな感じなのかな?
レモンの汁とかかけてみたいね。
「し、染みる!」とか言って怯んだりして。
ちょっと面白そう・・・
アルゴスはボク達がホールへ入ってくると、その巨体を揺らしてこちらに殴りかかってきた。
師匠はいち早くそれを察知して、愛刀『イグニス』を抜き放つとアルゴスの拳を右へいなす。
それを合図に、エルミアが弓を抜き矢を放つ。
お腹にある無数の目に矢が突き刺さり潰れるが、アルゴスは攻撃の手を止めない。
エリーが大きく跳躍し、アルゴスの右肩へ回転切りを放つがビクともしない。
さすが、30層のガーディアンだ。
ボクもファルシオンを抜き、風を纏わせてアルゴスへ突進する
アルゴスの左腕を切り飛ばすと、師匠もそれに合わせアルゴスの右腕を魔法剣で切断する。
そこへグローリエルが「くらいな!『フリンダラ!!』」と大声で叫び、ボク達はアルゴスから離れる。
グローリエルの周りには小さな『光の蝶』が飛び周り、グローリエルが指差した方角へいっせいに飛び立つ。
アルゴスに向かって飛んで行った『光の蝶』は、身体に触れると爆発を起こした。
無数の爆発が繰り返され、ついにアルゴスは膝をつく。
そこへ師匠が飛びかかり、魔法剣で首を切断し絶命させる。
ボクは呆気にとられていた。
グローリエルの圧倒的な強さに。
もし、あの決闘の時にこの魔法を使われていたら、確実に負けていただろう。
やはりあの時のグローリエルは、ボクの力を試していたんだ。
グローリエルを見詰めていると「どうだい?あたいの力もたいしたもんだろう?」と勝ち誇った顔をした。
ボクはグローリエルに飛びつき、思いっきり抱き締めた。
「すごいよ!グローリエル!ボク、こんな魔法初めて見たよ!」
抱き付くボクに「そうだろう、そうだろう!あたいは、なんたって剣騎だからね!こんなことは朝飯前さ!」と豪気に構えていた。
ちょっと言いすぎな気もするけど、本当にすごい!
なんといっても、これは遠隔操作魔法だ!
指定した場所へ蝶を向かわせ爆発させる。
使用出来る範囲がわからないけど、使いようによっては遠く離れた敵をしとめる事だって出来るはずだ。
いいな~・・・・火魔法いいなぁ~
ボク使えないからなぁ・・・
うぅ・・・特訓してどうにかなるなら、やってみるんだけどな・・・・
グローリエルにずっと抱き付いていたら、3人が不機嫌そうにこちらを見ていた。
あ・・・やばいかも・・・・
慌てて離れて苦笑いを浮かべるが、3人の機嫌はなかなか治らなかった。
うぅ・・・喜んで、つい抱きついただけなのに・・・・・
仕方が無いので、3人に抱き付き首筋をアマガミした。
師匠には首筋をたっぷりと舐り吸い付いてあげた。
医学名『吸引性皮下出血』ようするに『キスマーク』だ。
これで、昨日の失言は許してあげる事にした。
だって『ボクのもの』って印もつけたからね♪
師匠はわからなかったようだが、エリーとエルミアは師匠の首を見て羨ましそうにしていた。
今はしてあげないけどね。
ボクの一番はずっと師匠だから・・・
グローリエルに案内され、ボク達はついに31層へ。
魔族を見かけたと報告があったのは40層。
いよいよ近づいてきた・・・
今までより一層、警戒しなければいけない・・・・
ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。




