第五十四話 休息日
お城の廊下を歩く。
ただでさえ背が小さいので歩幅が狭いのだが、ドレスのせいでさらに歩くのが遅い。
文句も言わずボクに合わせてくれる3人。
嬉しいけど、やっぱりこういうのは男女逆じゃないですかね?
むぅ・・・・ボクだって、エルミアをお姫様抱っこできるくらい紳士なのに・・・
ボクが脹れていると「探索用に準備をしないといけないな」と、真面目な師匠がそう話す。
おお、今日はずっと真面目さんキャラでいてくださるんですか!?
うんうん。
やっぱりそっちの方がカッコイイですよ!
最近、酒飲みの『のんべぇキャラ』も出なくなりましたし、後は『変態』が治れば万々歳ですね!
嬉しくなり、師匠と繋いだ手をニギニギする。
それに気付いた師匠が、ボクの顔を見て笑顔になってくれた。
うんうん!
ステキなおねぇさんですよ!
カッコイイです!
ボクもニコニコ笑顔で返した。
そこへ「準備とは何をすればよいのでしょうか?」とエルミアが聞いてくる。
そうか、エルミアは探索とかしたことないのかな?
師匠が「そうだな、食料や水・・・武具の手入れとやる事は色々あるな」と説明してくれた。
さすが真面目モード!
いや、教師モード?
どっちでもいいか。
「そういえば、エリーはちゃんと武具の手入れできるようになったの?」
以前手入れは出来ると言っていたが、新しく大剣を持つようになったのだ。
ちゃんと勉強しているのかな?
ボクがエリーに目を向けると「あったりまえでしょ!私をだれだと思ってるのよ!」ツンデレ全開だった。
うんうん、さすがエリー。
いろんな意味でね。
「さすがエリー」と褒めると「エッヘン!」と薄い胸を誇らしげに張った。
ボクは何も言わないよ?
え?ちょっとだれ・・・・
ちなみに、胸の大きさはカルア→エルミア→ヴァルカン→|越えられない壁|→エリーの順に薄く・・・げふんげふん
いけない・・・誰かに何か言わされたような・・・
辺りを見回すがボク達以外に人影はない。
なんだったんだろう?
まぁいいか・・・
本当にこれ口癖になっちゃったなぁ・・・
そんなことを考えながら廊下をゆっくり歩く。
お城の出入り口に着くと、まだレオンハルトはうなだれていた。
誰か助けてあげればいいのに・・・・
門番の騎士は、気にも止めず放置しているようだった。
本当に近衛騎士団副長なんだろうか?
う~ん・・・・
師匠に目を向ける。
「師匠、アレどうしましょう?」
そう聞くと「ほおっておくのが一番なんだが・・・・いつまでもああしておくわけにもいかないな」と答える。
そうだよね・・・・お城の入り口でうなだれてる近衛騎士団副長とか、いい笑い物ですよね。
しょうがないにゃぁ・・・・・
ツカツカと歩み寄り、レオンハルトの頬に手を当てる。
うなだれていたレオンハルトがボクに気付くと、顔を真っ赤にして驚いた。
考える暇を与えず話し出す。
「レオンハルトさん、これは黒巫女として申します。貴方の愛する女性はあそこにいる侍女です」
そう言い、ちょうど通り掛った侍女を指差す。
レオンハルトはボクに促され侍女を見やると「わ、わかった!」と向かって行った。
必殺『通り掛る人へ押し付ける』の術!
うん、最低だね。
知ってた。
でも、めんどくさいんだもの・・・・
変態のレオンハルトだしいいよね?
ボクの行動を見ていた3人は啞然とし、驚愕の表情でこちらを見ていた。
ニコッと微笑むと「メルは正しかったわ・・・・・魔性の女ね」とエリーが言い、師匠とエルミアもうなづいていた。
いいのいいの!
レオンハルトに声かけられた侍女さんも、まんざらでもなさそうだし。
問題無し!
愛のキューピット作戦成功♪
・・・・初めて黒巫女と自分で名乗ってしまった。
まぁいいか・・・これでレオンハルトに邪魔されなくなるでしょ。
お城を出ると馬車が待っていてくれた。
そのまま馬車に乗り込み迎賓館へ送ってくれる。
御者さんに感謝を言い迎賓館の中へ。
部屋につくとメイドさんにお願いして紅茶を入れてもらった。
はぁ・・・
とんでもない事になったなぁ・・・
探索は好きだからいいんだけど、グロリエールには正直会いたくない。
まぁ、もう決定事項だからどうすることもできないけど。
紅茶を飲んで落ち着くと、ずっとサボっていたアイテム箱の整理をする。
中を覗くとあるわあるわ、いつもの装備に非常食にしまいっ放しのトロール4体まで。
ギルドで換金しないとね。
3人は装備の手入れを始めたので、ボクも一緒に始めようとして気付く。
こんなドレスのまま出来るわけがない・・・
汚すのももったいないし。
エルミアに手伝ってもらいドレスを脱ぐと、部屋に備え付けられているワードローブにしまう。
中にはこれで黒・赤・白の3着のドレスが納まった。
はぁ・・・・こうして見ると、本当に女の子みたいだ。
麻のチュニックとズボンを取り出し着替える。
うんうん、動きやすいね!
3人と並んで武具の手入れを始めた。
と言っても「『浄化』」をかけちゃえば済むんだけど、それじゃ味気ないしね。
白銀の鎧とサラマンダーの革もところどころ痛んでるし。
痛んでいる革は継ぎ接ぎをしたり、オイルを塗りこんで丁寧に修復する。
ファルシオンは相変わらずまったくキズがなく、室内の光を反射し鋭く輝いていた。
ミスリルってすごいよね・・・軽いし硬いのに傷つきにくいんだもの。
まぁ、だから高価なんだろうけど。
ああ、生産量も少ないって師匠が言ってたっけ。
いっぱいあればなぁ・・・みんなにも作れるのに。
そんなことを考えながら手入れをした。
手入れが終わり師匠と話す。
「師匠、非常食どうしましょうか?」
ボクがそう聞くと「ふむ・・・今どれくらい残っているんだ?」と聞き返される。
アイテム箱を覗きこみ「う~ん・・・・5人だと、だいたい4日分くらいでしょうか?」と答える。
アイテム箱の中には、遠征の時に作ったローストビーフや干し肉、パンやスープなどが入っている。
いつもの夕食のように種類は多くないが、量だけはかなり用意していた。
師匠は少しだまり「買い足しておいたほうがいいだろう。何があるかわからんしな」と言い、4人で買い物へ行く事に。
エリーは大剣を置き、ショートソードと短剣をぶら下げて仕度を終え、師匠とエルミアもいつもの装備で準備完了。
ボクもこのままラフな格好で行こうとしたら、師匠に止められた。
「カオル。それはいけない。さぁメイド服を着るんだ!昨日着ていただろう?」
目を輝かせてそう言う師匠。
なぜかエリーとエルミアも「うんうん」とうなづいていた。
なんでや!
なんか企んでいますね!
ボクにはわかるんですよ!
昨日はたまたま着るものがなくて・・・・って、昨日も『浄化』使えば麻のチュニック着れたじゃん!
なぜ気付かなかったんだ・・・
うなだれるボクを余所に、洗面所に連れて行かれ着替えさせられる。
まぁ、メイド服くらいならいいんですけどね。
魔のコルセットを着けなくていいんですし。
手早く着替え、4人で出かける。
途中で帝都の冒険者ギルドへ寄り、冒険者のエリーにお願いして買取官にトロール4体を買い取って貰った。
銀貨8枚の儲けだ。
非常食代で消えちゃいそうだけどね。
4人で連れ立って帝都の食料品店を回る。
さすが50万人の大都市だ。
見たことが無いような食べ物が所狭しと並んでいた。
お、フルーツも買っておこう。
疲れた時に食べたくなるしね。
エリーと2人ではしゃぎながら物色する。
師匠とエルミアはボクらを暖かく見守ってくれた。
引率の先生みたいだ。
散々食料品を買い込んむと、衣料品店へ入る。
新品の高級品から中古の衣服まで取り扱っていた。
ふむふむ・・・・古着ですか。
なかなか良い物が揃っていますね。
一番のおしゃれさん、エルミアに服を見立ててもらい色々と買いこんだ。
アイテム箱があるから大量の荷物も問題なく運べる。
本当に便利だね♪
こんなことにしか使えないんだけど。
まぁ女性ばっかり4人じゃ、たいした量も運べないもん・・・ね・・・・・
あれ?おかしくない?
女性ばっかり4人・・・・
いや!ボク男だから!
「ボクは男ボクは男・・・・」
呪詛のように唱え、自分を戒める。
おかしい・・・・本当にこのままでは女性になってしまう。
なんとかしなければ・・・
迎賓館への帰り道、ボクはずっと唱え続けた。
ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。