第五十三話 策士アーシェラ
投稿遅くなりすみません。
文章力が欲しい今日この頃・・・
翌朝、4人で寝ているとメイドさんに起こされる。
眠い目を擦り起き上がると、メイドさんは手に純白のドレスを持っていた。
えーっと・・・・マジデ?
そのまま洗面所へ連れていかれ、顔を洗われる。
姿見の前でコルセットをグイグイ締められ、内臓が持ち上がるかと思った。
部屋へ移り、純白のドレスに袖を通す。
というかこれ、Aラインキツクないですか?
スカート下のパニエがガッチリしすぎてて、ふわっふわなんですけど・・・
どこのお嬢様ですか。
靴も、なんかすごいディティールにこだわった白いパンプスだし・・・
ヴェールをかけたら、花嫁衣裳みたいじゃないですか・・・
師匠やエリー・エルミアも既に起き、身支度を整えていた。
椅子に座らされ、黒髪をまっすぐブラッシングされる。
今日はそのまま腰までロングですか。
薄く化粧を施され、いつもよりピンク色のルージュをひかれる。
鏡で確認すると、間違いなくウェディングドレスだ・・・・・
アーシェラは何を考えているんだろう?
ボクは今からどこかに嫁ぐのですか?
男なんですが・・・
着替え終わった姿を見て、3人は頬を染めてボクを見詰める。
いつもの猫耳メイドおばさんが「私はこの瞬間を生涯忘れません」と、涙ながらに語っていた。
嫁に出す母親の心境とでも言うつもりですか?
ボクのお母様は、そんなふさふさの耳はしていませんよ。
それにもっとスマートです!
きしゃーー!!
ボクが威嚇していると、師匠とエリー・エルミアがボクの手を取る。
うん?
どうしたんですか?
顔を見上げると「「「大切にします」」」と声を揃えて言い、笑顔を向けてくれた。
えっと・・・・
なんて返すべき?
う~ん・・・・・・
ボクは頬を赤くし「大切にしてください」と微笑み返した。
というか、これしか思いつかなかった。
なんだかとっても恥ずかしい。
本当にお嫁に行くみたいだ。
でも、家族のもとにお嫁に行くってなんか違くない?
みんなボクのおねぇさんじゃないの?
う~ん、よくわかんないや。
深く考えるのはやめよう。
師匠に手を引かれ、迎賓館を出ると馬車が用意されていた。
純白のドレスは裾が長いので、馬車に乗る時エリーが手伝ってくれた。
なんだか、本当にお嬢様になった気分だ。
師匠もエスコートする紳士のように手を引いてくれたし。
・・・・・あれ?
というか、普通ボクが紳士役じゃない?
ボク男だよ?
これは・・・・そろそろどこかで、カミングアウトするべきなんじゃないだろうか?
このままいくと、一生女の子扱いな気が・・・・・
機会をみて、いつか告白しよう。
信じるかわかんないけど・・・・
ほどなくして、4人が乗った馬車が走り出す。
アーシェラが待つお城へ向けて。
城門の前に到着すると、師匠とエリー・エルミアが先に降りボクが降りるのを手伝ってくれた。
1人じゃ降りれないし・・・・
スカートのパニエがキツすぎるんだよ!
馬車から下車すると、先ほどと同じように師匠が手を引いてエスコートしてくれた。
歩きにくいドレスのため、ゆっくりと進む。
3人はボクに合わせて歩幅を調整してくれた。
う~ん・・・このドレス、3人が着た方が絵になるんじゃないかな?
黙ってれば師匠は美人さんだし、エリーは可愛い猫耳~だし、エルミアなんか本物の王女様だし・・・
なんでいつもボクにだけドレスが贈られてくるんだろう?
あれかな・・・・ボクだけ召喚状が来た来賓だから?
いや、絶対アーシェラの策略だと思うんだけど。
リアも含めて、策略とか好きそうだし・・・
城門を守る騎士に挨拶をし、門をくぐる。
騎士はボクを見詰めると「天使・・・」と呟いていた。
いや、この3人の方が天使ですから。
そもそもボク男ですし。
もういいですけど。
城内に入ると、またしてもレオンハルトが待っていた。
ずっと笑顔だった師匠が、凄く嫌そうな顔をした。
この人も、変態だからね・・・・
『変態同士は相容れない』ということですかね。
あ、今何か凄く良い事言った気がする。
どうでもいいか。
ボクを見つけると一瞬驚き、ツカツカと真っ青な騎士服を翻しボクの前で片膝をつく。
その様子をジッと見ていると「黒巫女様。俺様と結婚してください」と言い、片手を上げて指輪を差し出した。
は・・い!?
なに言ってんのこの変態!?
結婚!?
ボク男だよ!?
キモッ・・・・
軽蔑の眼差しで見詰めると、耳まで顔を赤くするレオンハルト。
ドン引きなんですけど・・・・・
エリーに目を向けると、気持ち悪そうな顔をしていた。
うん、ボクと同じ心境ですね?
わかります。
キモイですよね。
その隣でエルミアが、ゴミでも見るような冷ややかな視線を送っていた。
はっきりと言おう!
超怖い・・・・・
エルミアはドSなんじゃないだろうか?
昨日も「八つ裂きにしますよ」とか言ってたし・・・・
本当に気をつけよう・・・・
ボク、配慮が足らないみたいだし・・・・
軽率な行動多いみたいだし・・・・
うん・・・・
気をつけよう。
改めて片膝をつくレオンハルトに目を向ける。
どうやって断れば穏便に済ませられるかなぁ・・・・
うむぅ・・・・
「男なんです!」って言っても、どうせ信じないんだろうしなぁ・・・
前にイーム村の兵士に言ったら、すっごく笑われて信じて貰えなかったしなぁ・・・
ちょっとムカっとしたんだよね。
師匠も考えあぐねいてるみたいし。
よし!
「申し訳ございません。お受けする事はでません。」
そう言い頭を下げる。
するとレオンハルトは「俺様に魅力が無いからですか!?」と諦めない。
ニコっと笑って「違います。レオンハルトさんはとても魅力的ですよ。ですが、既に心に決めた方がおりますので・・・お受けする事はできません」と断る。
ボクの言葉を聞いて、ガクっとうなだれるレオンハルト。
フフフ・・・・
必殺『実は片思いしている相手がいるんですよ』作戦!
常識無さそうだから、ちょっと心配したけど大丈夫だったね。
よかったよかった。
これでもう迷惑かけられる事はないだろう。
はっはっは!
今孔明と呼ぶがいい!
はっはっはっは~!
心の中で高笑いをしていると、師匠達がボクに詰め寄る。
「カオル、心に決めた人とは誰だ」
「まったくカオルったら、そんなに私の事好きなのね!し、しってたけど!」
「ああ、カオル様・・・そんなにも私の事を・・・・」
三者三様の受け答えでした。
とりあえず、師匠・・・ひさびさに鋭い眼光をボクに向けましたね。
正直、背筋が凍りそうでした・・・
3人に微笑みかけ「師匠もエリーもエルミアも、ボクの大切な家族ですよ」と言い歩き出す。
突然歩き出したボクを、頬を赤くした3人が慌てて追いかけてきてくれた。
アーシェラの部屋へ行くまで、とても幸せな時間を過ごした。
あ、レオンハルト置いて来ちゃった。
まぁいいか。
変態だし。
アーシェラの私室の扉をノックすると「どうぞ」と、中から声をかけられる。
師匠を先頭に部屋へ入ると、仕事をしていたのか執務机で作業をしているアーシェラがいた。
部屋へ入ってきたボクを見て「うむ」とうなづく。
ん?贈ったドレスでも見ているのかな?
アーシェラに促され、いつもの大きいテーブルへ向かう。
アーシェラと4人対峙する形で腰掛、師匠が話し出す。
「お忙しい所、お時間をいただきありがとうございます。既にお聞きいただいていると思いますが、黒曜石の鉄板の件です。」
師匠がそう言うと「うむ」とアーシェラが相槌を打つ。
「カオルはフロリア様からいただいたと申しておりましたが、事実でしょうか?」
いつもの飄々とした姿ではなく、今はカッコイイ真面目さんモードだ。
ずっとこうしていればいいのに。
そんなことを考えながら話しを聞く。
アーシェラはボクに目を向け「事実だ。わらわも、昨夜リアへ確認をしたところだ」と話してくれた。
よかった、ちゃんとリアは説明してくれたのか。
うんうん、真面目な良い子ですからねリアは。
そんなアーシェラの様子を見て師匠が「よろしいのですか!?あの品は、我がカムーン王国が『友好の品』にとお贈りした物ですよ!?」と慌てて言う。
え?
友好の品!?
そんな大事な物あげちゃだめじゃん!
ていうか、なんであんな倉庫に野ざらしで置いてあったの!?
どうしよう・・・・もう加工しちゃったよ・・・・
元に戻せないのに・・・・
慌てるボクを余所に話しは続く。
「よいよい。元々、カムーンでも作ってはみたが加工もできず、何十年も保管しておいた物じゃと言うておったしの。それに、既にエリーシャへ許可状を出してくれるよう文も送ってあるわ。一両日中に返事が来るじゃろうて」
さも、問題ないようにアーシェラは語る。
なんだ、問題なさそうだ。
よかったよかった。
そう語るアーシェラに、師匠は尚も食い下がる。
「しかし!友好の品をそう易々と手放されては困ります!」
鬼気迫る師匠の物言いに、アーシェラは意にも返さず態度を変えない。
「だから問題無いと申しておるじゃろう。そなたの弟子、カオルについてはエリーシャにも話しておる。とても芯の通った快き者であるとな。わらわは国賓待遇で迎えておるのがその証拠じゃ」
アーシェラがそう返すと師匠も納得したようで、それ以上の追及はしなかった。
というか、ボク国賓待遇なの?
たしかに、毎日豪華な料理をいただいてるけども・・・
しらなかったですよ・・・
「して、カオルよ。あんな黒い鉄の塊を何に使うのじゃ?聖銀でもかけて黒鏡にでもするのか?あれはなかなか趣きがあるからの。良い趣味じゃ」
嬉しそうにそう語るアーシェラ。
いや・・・黒鏡も興味がありますけど、みんなの武器にしちゃいましたよ・・・
う~ん・・・なんて言おう?
ボクが考えていると、師匠が短刀をアーシェラに見せる。
短刀を見たアーシェラは驚き「な、なんじゃと!?あの塊を加工したというのか!?」と、大きな声で言った。
師匠・・・どうするおつもりですか?
ちゃんと説明しないと収まらないですよ?
ボクの心配を余所に師匠は「カオルは特別な娘です。たとえ黒曜石であっても、このように加工することができます」と説明した。
えっと・・・・ボク娘じゃないよ?
今、絶対むすめって思いましたよね?
く・・・
これは死ぬまで見た目女として生きろということなのか・・・・
おのれ師匠め・・・
あとでオシオキですよ!
ボクのそんな想いを知ってか知らずか、アーシェラは様々な角度で短刀を品定めする。
やがて「さすがじゃのぉ・・・・『万能の黒巫女』という噂はホントじゃったか」と呟いた。
はい?
アーシェラまでボクを黒巫女呼ばわりですか?
まぁ、万能はなんとなくそんな感じがしますけど。
でも師匠に言わせたら、万能のメイドって言いそうだ。
くっ!
オシオキ2倍にしちゃる!
怒りを込めて師匠を見詰めると、ニコっと微笑んだ。
笑顔でかわすなんて・・・・
一頻り短刀を品定めしたアーシェラは師匠に短刀を返し「良い物を見た。やはりカオルに譲ったのは正解のようじゃな」と満足そうに笑った。
はぁ・・・・まぁいいか。
これ以上突っ込まれても大変だし。
アーシェラに向かい、にこやかに笑顔を向けると微笑み返された。
よし、それじゃぁ帰りましょう。
早く出ていかないと、なんかとんでもないこと言い出しそうだし!
『三十六計逃げるに如かず』ですよ!
席を立とうとするボクに、アーシェラは話しかける。
「まぁそう急くこともないじゃろ。実はな『万能の黒巫女』と言われるカオルに、頼みたい事があるのじゃ」
うわぁ!案の定ですよ!
絶対、無理難題吹っかけてくるつもりですよ!
黒曜石の鉄板の件だって、これを言う為にあんな物分り良いフリしてたんだ!
これだから策士は嫌いだー!
呪詛を込めた目でアーシェラを見詰める。
先ほどと同じように、まるで意にも返さず話し続けるアーシェラ。
「頼みたい事というのは他でもない。この帝都の北にある、魔境のダンジョンでな。最近なにやらキナ臭い噂が絶えぬのじゃ。そこの調査を頼みたい。」
顔をずいっとこちらに寄せ、そう話すアーシェラ。
そこへ師匠が「キナ臭いとは・・・?」と、もう断れないと悟ったのか神妙な顔をして聞き返す。
「うむ・・・」と言い、少し間を開けて「冒険者がな、魔族を見たというのじゃ」と真面目な顔をして話した。
魔族・・・・まさかあの黒い肌の少女?
だとしたら、またあんなひどい事を・・・
遠征軍で死んでいった騎士や冒険者が思い出される。
そして、傷ついたエリー・・・
隣に座るエリーを見詰める。
エリーは「大丈夫」と言い、ボクの手を握ってくれた。
またあんな事が・・・?
戦う術を持たない、この帝都に住む50万人に同じ事が起きれば、いったいどれほどの被害がでるか・・・
恐くなった。
足が小刻みに震える。
繋がれたエリーの手を強く握る。
ボクはどうしたらいいの?
・・・・・調べに行ったほうがいいと思う。
だけど、みんなを・・・家族を危険に晒したくない。
またエリーみたいに傷ついたら、どうしたらいいのかわからない。
じゃぁ、ボク1人で行けばいい?
そうすれば少なくとも家族は安全だ。
そう・・・・・・だね。
ボク1人で行こう。
アーシェラに目を向け「・・・・わかりました。ボク1人で」と話し出したところで止められた。
止めたのは、みんなだ。
「カオル。私達の事を心配したんだろうが、同じように私達もカオルを心配しているんだぞ」と師匠が言い
「そうよ、一方的に心配するだけが家族じゃないわ!私にだって心配させなさい」とエリーが言い
「私の、身も心も、常にカオル様のお傍におります。どうかご一緒に」とエルミアが話す。
正直、驚いた。
ボクが心配するように、3人もボクを心配してくれていたのだ。
嬉しくて涙が止まらない。
嬉しい・・・本当に嬉しい・・・・・・
ボクは「ごめんなさい。ありがとう」と、謝罪と感謝を伝えた。
エルミアが立ち上がり、ボクの後ろから涙を拭う。
エルミアへ顔を向け「ありがとう」と言うと「どういたしまして」と微笑んでくれた。
いつの間にか師匠もボクの手を取り、エリーと共に力強く握った。
その様子を見ていたアーシェラが「ごほん!」と大きく咳きをする。
4人で慌てて姿勢を直す。
なんだか気恥ずかしい・・・・
「ほんに、仲睦まじいの。妬けてくるわ」
と、なぜか不貞腐れていた。
いや、アーシェラにはリアがいるじゃないですか・・・・
そこへ「では、準備が出来次第調査に向かいます」と師匠がまとめてくれた。
「うむ、頼む。それと本人たっての希望で、グローリエルが案内するでの。調査完了の折には報酬も用意しておくでな。」
アーシェラが爆弾を投下してきた。
うわぁ・・・・ボク、グローリエル苦手なんですけど・・・
3人も同じ事を思ったのか、げんなりしていた。
「ハッハッハ!」
と高笑いをするアーシェラ。
なんだか、終始アーシェラの掌で踊らされているような・・・・
師匠が、女狐って言った理由が本当に良くわかる。
うなだれたボク達は、そのまま部屋を出る。
去り際に2枚のハンカチをアーシェラに渡すと、大層喜んだ。
1枚はリアへ渡してくれるようお願いする。
先日作った、黒曜石の鉄板の破片を縫い付けたハンカチだ。
黒曜石で黒いバラを描いてある。
黒曜石の鉄板をいただいたお礼のつもりだ。
はぁ・・・・グローリエルに会いたくないなぁ・・・・
お城の廊下を歩きながら、そんな事を思っていた。
ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。