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第五十二話 黒曜石

オナイユの街から帝都へ向かう。


行きと同じように飛翔術で飛んでいると、街道を走る荷馬車の集団を見掛ける。


見つからないように、木々の隙間を低空で飛ぶ。


なんだろう?


帆とかボロボロだ。


ま、今はいいか。


別に傷だらけの人が乗ってるわけじゃなさそうだし。


急いではいるものの、御者の身なりはそれなりにキレイでただ急いでいるように見えた。


やがて帝都にある迎賓館の前に降り立つ。


ふぅ・・・・ちょっと疲れた。


扉を開けるとメイドさん達に挨拶をし、宿泊している部屋へ。


ノックをして入ると、そこには疲れきった表情で床にのびている3人の姿が。


「ど、どうしたんですか!?」


慌てて師匠を抱き起こす。


虚ろな目をした師匠が「あ、カオルきゅんだ。クンカクンカ」とボクの胸に顔を近づけて匂いを嗅いだ。


うん、変態モードだ。


手遅れのようだ・・・・


抱き上げてベットへ寝かす。


続いてエリーのもとへ。


「エリー大丈夫?」


やさしく声をかけると「エヘ・・・カオルだ・・・・舐めてあげるわ、喜びなさいよね」と言い、ボクの頬を舐め始めた。


一瞬思考が止まるが、師匠で慣れてしまった為かそのまま抱き上げ同じくベットへ運ぶ。


あれだ、師匠の変態ウィルスはやっぱり伝染するんだ。


本当に名医を探さなければいけないかもしれない・・・・


呆れてしまったが、気を取り直して床にのびるエルミアの傍へ。


「エルミア、大丈夫?立てる?」


ボクがそう聞くと「カオル様・・・・本当にカオル様?ニセモノなら・・・八つ裂きにしますよ」と、虚ろな目でボクを睨む。


えっと・・・・背中がゾクっとしました。


どうしよう・・・・


抱き上げようとすると、首に手を廻し首筋の匂いを嗅がれる。


なんでしょう?


「エルミア?」


そう問いかけるが答えは無い。


やがて「ああ、カオル様・・・・里の教会で式をあげましょう。森の木々が祝福し・・・・精霊達と楽しく語り合い・・・そして、口付けを・・・」


そう言ってボクの頬に口付けをした。


うん・・・・大丈夫だろうか?


夢の中にいるのですか?


まぁいいや、とりあえずベットへ運ぼう。


エルミアをベットに寝かせ、3人にシーツをかける。


ベット傍にある椅子に腰掛け、3人を見詰める。


昨日から起きていたのかな?


う~ん・・・やっぱり心配かけちゃったよね。


起きたら謝らないと・・・・


アイテム箱から、端切れと工房を片付けた時にみつけた黒曜石の破片を取り出す。


端切れは縫い合わせて、黒曜石は飾りに使うつもりだ。


針と糸を巧みに使い、縫い合わせる。


3人が起きるまで、ボーっと作業をしていた。






昼過ぎになり、エルミアが起き出す。


「おはようエルミア」


ボクが声をかけると「カオル様!」と言い、座っているボクに駆け寄ってくる。


ビックリして身体を引くと、すかさず抱き締められた。


こんなに積極的なエルミアは初めて見る。


「ど、どうしたの?」


声をかけるが、返事はない。


しばらくそのまま抱き合い続けた。


あのね・・・座っているボクの上にエルミアが座ってる状態でね。


その・・・薄い布しか身につけていないから・・・・


そのね?


薄い布地越しに顔が直接胸に・・・・


いや、嬉しいんだよ?


嬉しいんだけど、さすがにね?


問題があると思うんだ。


色々とね?


ほ、ほらR15指定だしね?


その・・・・青少年保護的なね?


えっと・・・・


まぁいいか。


じっくりとエルミアの胸を堪能した。


やがて、名残惜しそうにボクから身体を離す。


ふぅ・・・


「エルミア、昨日はごめんね?」


ボクがそう話すと「いいえ、いいんです。でも、とても寂しかったです」と、瞳を潤ませてそう告げる。


おおう・・・かなりドキッとしました。


銀色の細くしなやかな髪が、ボクの頬を撫でる。


師匠よりも濃い、ラピスラズリの青い目がボクを見詰めてくる。


吸い込まれるように美しい青。


ヨハネス・フェルメールが、ラピスラズリを原料としたウルトラマリンに惹かれた理由がよくわかる。


出来ることなら、このままずっと見続けていたい・・・


そっと手を伸ばし、エルミアの頬に手を添える。


嬉しそうに目を細めるエルミアに「閉じないで」と呟いていた。


深い青・・・


「きれいだ・・・」


(ほう)けたように見詰めていたら、思わず声に出ていた。


エルミアは頬を赤く染め、恥じらいの仕草をする。


気付けば、唇が触れるほど顔を近づけていた。


口を開き、その甘い果実に吸い寄せられそうになった時・・・・・・正気に戻った。


ボクは慌てて顔を引き「ご、ごめん!」と謝罪した。


エルミアも顔を真っ赤にし「い、いえ・・・」とお互いモジモジしてしまった。


ボクの膝の上から下ろし、隣の椅子へ座るよう促す。


隣に座ったエルミアを確認し、アイテム箱から短剣を取り出す。


エルミアの手に優しく短剣を置く。


驚いたエルミアは「カオル様、これは・・?」とボクに尋ねる。


ボクはクスリと笑い「それは『マインゴーシュ』と言ってね。エルミアがレイピアで戦うようなことがあれば、きっと役に立ってくれるよ。」と、伝えた。


『マインゴーシュ』・・・・左手用短剣と言われる物だ。


相手の攻撃の受け流しに使える、便利な短剣。


ボクが普段使っている、バゼラードみたいなものだね。


黒く透き通ったガラスのような両刃の短剣。


エルミアの身を守ってくれると嬉しい。


ボクは、マインゴーシュに手を伸ばしそっと触れる。


「お願いね」


と呟くと、短剣が光ったように感じた。


「ありがとうございます・・・・とても嬉しいです。」


エルミアの顔に目を向けると、大粒の涙を流し喜んでくれた。


嬉しい・・・・


ありがとうエルミア。


ボクの為に遠く『エルフの里』から来てくれて・・・


ありがとう・・・・・


お互いに涙を流しながら笑い合った。









それからしばらくして、やっと師匠とエリーが起き出す。


まったく、いつまで寝ているのかと思いましたよ?


「おはようございます。もう大丈夫ですか?」


そう告げると、まるで兎の様に飛びあがりボクに抱き付いてきた。


「カオルきゅん!」


「うう・・・カオル~」


なんというか・・・・似た者同士?


エリーも、いつのまにこんな師匠みたいになってしまって・・・


はぁ・・・本当に医者を探した方がいいかもしれない・・・・


「とりあえず、師匠・エリーそこに立ちなさい。」


ボクがそう言うと、しぶしぶ従う2人。


アイテム箱から短刀を取り出し、師匠に渡す。


それを見た師匠が大喜びで受け取ると、おもむろに鞘から抜いた。


いや、あぶないですよ?


まったく・・・・


「カオル・・・これ・・・・すごいな・・・・・刀身が真っ黒で透けているぞ?私でさえ初めて見る・・・・」


驚いた表情の師匠。


フフフ・・・まぁボクが作ったわけじゃないけどね。


精霊さんのおかげですよ。


「ごほん!」と咳払いをひとつして、話し始める。


「そうですね・・・師匠の愛刀『イグニス』のように銘をつけましょうか。それは・・・・・輝きという意味の『ブレスク』と名付けます。ボクにとって、師匠はいつも輝いていますから。」


ニコッと笑ってそう告げると、感動した師匠はその場で泣き出した。


「うわぁああん・・・かおるぅ・・・・」


目元に手を当てワンワン泣き出す師匠。


ハンカチを取り出してそっと拭ってあげる。


「師匠、せっかく美人なんですか・・・いつまでも泣いていてはいけませんよ?」


ボクも瞳を潤ませながら、そんな師匠に寄りそう。


いつものようにバラの良い香りがした。


下着姿なのに、匂い袋持ってるのかな?


一頻り泣いた師匠は、短刀を鞘に戻し大事そうに抱える。


さて、最後は・・・


エリーに目を向ける。


エリーが嬉しそうにこちらを見ている。


尻尾がにょろにょろと嬉しさを表現しているようだ。


「エリー」


ボクが呼びかけると「ひゃ、ひゃい!」と緊張しているのか、噛んでいた。


クスリと笑う。


「師匠と、エルミアには渡しました。エリーはボクから武具を既に受け取っているよね?」


からかうようにそう言うと「え、ええ・・・私の宝物よ。」と、素直に答える。


宝物・・・か・・・・そんな風に言ってもらえると、嬉しいな・・・・


「エリーも、欲しい?」


意地悪そうにそう告げる。


尻尾が垂れ、悲しそうな顔をするエリー。


やばい・・・かわいい・・・・・


手を伸ばし、優しくエリーの猫耳を撫でる。


ふわふわの毛が手をくすぐる。


エリーを見詰めて微笑むと、シュンとした顔が嬉しそうに笑ってくれた。


意地悪はこれくらいかな・・・


エリーの病気がどうか治りますように・・・・


なんとなく祈っておいた。


アイテム箱から短剣を取り出す。


エリーの手を取り、そっと渡す。


嬉しそうにそれを抱き締め「ありがとうカオル!私、とっても大事にするね!」と飛び跳ねて喜び表現してくれた。


うん、たまに猫に見えるよね、エリー。


エリーが鞘から短剣を抜く。


透き通った黒い両刃の刀身。


「ねぇ、カオル。」


エリーがボクに話しかける。


「なに?」とボクが聞き返すと「この黒い刀身、カオルの水晶みたいに黒い瞳にそっくりだよね」と、感想を言ってきた。


そう?


瞳なんか、鏡の前でしか見ないしなぁ・・・


エリーの言葉を聞いた師匠とエルミアが、短剣・短刀を片手にボクを見詰める。


いやいや、見比べるのはいいですけど剣先がボクに向いてて怖いですってば・・・


そこへ「ねぇカオル。私のこの短剣には名前ないの?」とエリーが聞く。


エリーに向き直り「それはオブシアナダガーだよ。名前の通り、黒曜石の短剣」とボクが言うと師匠が慌てて割って入る。


「これ黒曜石なのか!?」


ずいっとボクに近づきそう言う。


驚いてうわずってしまった声で「そ、そうですよ・・・」と答えた。


師匠は顎に手を当て何かブツブツと言っていた。


なんだろう?


考え事をしていた師匠が、ボクを見詰めて話し出す。


「カオル。これの材料どこで手に入れたんだ?」


師匠にそう聞かれ「お城の倉庫にあった物をリアにお願いして譲って貰ったんですが?」と答えた。


アーシェラにはリアが話してくれるって言っていたしね。


すると「もしかして、黒曜石の鉄板じゃなかったか?」と言われ「はい、これですか?」


アイテム箱から使っていない黒曜石の鉄板を取り出す。


それを見た師匠は「な!?間違い無い・・・・」と、慌てていた。


なんなんでしょう?


師匠はメイドを呼び、なにやら言伝(ことづて)を頼んでいた。


う~ん・・・なんだろ?


首をかしげるボクに「カオル、明日は登城するぞ」とだけ言い、また難しい顔をした。


ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。

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