第四十四話 皇帝アーシュラ・ル・ネージュ
翌日の朝、迎賓館ではバタバタと人が走り回っていた。
皇帝へ謁見するためである。
ボクは今、姿見の前で悪戦苦闘している。
それは・・・・・
皇帝から贈られた黒いドレスを着ているからだ。
なぜ男のボクが女性服を・・・・
多くのメイド達にコルセットを着けられギュウギュウと絞られる。
内臓が飛び出そうだ・・・
胸のルーンを見られないようにするのに必死でしたとも。
ふわふわのレースが付いたシルクの黒いドレスを着せられ、いつも流していたロングの髪を三つ編みにしサイドテールのように左側に縛ってある。
いいかげん髪を切ろうかと思ったが、師匠に「絶対に切ってはだめだ!最上級師匠命令だ!!」と力強く言われたので腰から下しか切っていない。
ロングの方が好きなんだろうね。
自分はセミロングのくせに・・・・
髪洗うの大変なんですよ?
たまに洗ってくれるからいいけど。
そしていつの間にか化粧の話しへ・・・
ああ、ボクはついに越えてはいけない一線を越えるのですね・・・・
師匠とエリーと、いつもはあまり何も言わないエルミアが積極的に口を出している。
いや、そんなキレカワとかユルフワとか言われてもわかりませんよ。
もう勝手にしてください。
結局素材を生かしたナチュラルメイクで落ち着いたらしい。
50代の猫耳族のメイドさんが「私の最高傑作です!」と息巻いていた。
いや、意味がわからないですし・・・
というか素材を生かしたって、ボクが女顔だということをバカにしているのですか?
身長も全然伸びる気配がないし・・・・
お父様、お母様、尊敬しておりますが身長が伸びない事は恨みます。
完成したボクを見て3人の一言。
「可憐だ・・・カオル、さぁベットへ行こう」
「可愛い・・・・・ねぇカオル、ちょっと跪いて上目遣いで私の事見てくれない?」
「カオル様・・・早く両親へ挨拶に行きましょう」
えっと、師匠はいつも通りだし、エリーはなんというかいつのまにSっ気が!?
エルミア、それボクになんて言わせる気?
はぁ・・・カルアがいないだけマシか・・・・・
うなだれるボクを連れて、お城へ登城した。
お城へは、ボク達を迎えてくれたホビットの男性がエスコートしてくれた。
門番の騎士は快く門を開いてくれ、中へ案内してくれる。
時折、頬を赤くしてボクを見詰め「ハァ・・・」とまるで見惚れていた。
いや、男ですからね?同性ですよ?
わかりませんか?
胸もパットですからね?
女装させられているんですよ?
助けてくれませんか?
騎士道精神的な何かで!
師匠に手を引かれて中へ入ると、見覚えのある人物がボク達を迎えてくれた。
「黒巫女様!お待ちしていました!!」
近衛騎士団副長のレオンハルトだった。
というか、ボク黒巫女じゃないからね!
名乗った事無いし!
だめだ・・・この国はダメだ・・・・
いや・・・どこの騎士もダメダメだ!!
うな垂れるボクを余所に、レオンハルトは話し続ける。
「ああ、よかった無事に目が覚めたんだね!!なんて綺麗なんだ!さぁ!俺様の胸にとびこ・・・・ぶはっ!」
話の途中で師匠が飛び蹴りを入れた。
ナイス師匠。
師匠に向かってサムズアップをすると、師匠もそれを返してくれた。
なんという阿吽の呼吸!
日本でしか通じないはずなのに・・・・さすが師匠!
崩れ落ちるレオンハルトを無視し、謁見の間へ続く大きな扉の前へ。
というか、レオンハルトはあんなキャラだったのか・・・
気持ち悪い視線を送られたのと「貴女のために勝利を!」と言ったイメージしかありませんでしたよ。
まぁ無視しよう。
うん、それがいい。
そんなことを考えていると師匠が呼び止める。
「エリー、エルミア、ここから先は騎士以外帯剣出来ない。カオルに預けておけ」
と師匠が話すとエリーとエルミアはそれに従う。
ボクは元々アイテム箱にしまってあるしね。
ドレス着てるし・・・・ドレス・・・・いいんだ・・・もう・・・
2人から剣を預かる。
エリーはボクが作った大剣と鋳造品の片手剣を。
エルミアからは豪華なレイピアを。
このレイピアいいなぁ・・・同じの作ってみようかな?
でも軽すぎてボクには使えないかも。
アイテム箱に武器をしまうのを見て、師匠が扉の前の騎士に話しかける。
「お待たせした。お願いする。」
師匠の言葉を聞いて、門番の騎士がラッパを吹く。
おお、なんか映画の中みたいだ。
ラッパの音が鳴り響き、大きな扉が一斉に開く。
ああ、ボク儀礼とか全然知らないや・・・師匠のマネをしておこう。
騎士にエスコートされ、赤絨毯を歩く。
壁には数多くの騎士や貴族らしき人々が控えていた。
う~ん、緊張する。
ふと後ろを歩くエリーに目を向ける。
右手と右足が同時に前に出ていた。
ボクの何倍も緊張しているようだ。
うん、そりゃそうだよね・・・
その姿を見ると可笑しくなり緊張がほぐれた。
エルミアと師匠は場慣れしている感じで、平然としている。
さすが、剣聖とお姫様だ・・・・
というか、師匠・・・いつもその顔でいればいいのに・・・・すっごくカッコイイですよ。
大広間の中央に辿り着くと、師匠が跪いた。
それに合わせボク達も跪く。
本当はエルミアは跪かなくていいんだろうけどね。
ボクに合わせてくれたのだろう。
ありがとう、エルミア。
やがて壇上から声がする。
「第18代エルヴィント帝国皇帝アーシュラ・ル・ネージュ様である。」
お付きの人が言ったのだろう。
ヒソヒソ話をしていた貴族達が静かになった。
すると、澄んだ声が聞こえる。
「わらわがアーシュラ・ル・ネージュじゃ、面をあげよ」
そう言われるが師匠は顔を上げない。
礼儀なのかな・・・?
なにかで読んだ事があるけど・・・・
ここ日本じゃないよ・・・?
まぁわからないから師匠に合わせよう。
「ヴァルカンよ。わらわとそちの仲ではないか、礼儀などはどうでもいい。顔を見せておくれ」
シビレを切らせたのか、皇帝はそう言うと師匠が顔を上げる。
皇帝のお傍に仕えていたヒュームの男性が「礼儀は大切ですぞ!陛下!」と慌てて進言していた。
それはそうだろう・・・・
でも、ボクが気になるのは「わらわとそちの仲ではないか」の一言なんですが・・・
師匠・・・・どういうご関係ですか?
あとで問い詰める事が今決定しました!
オシオキですね!
ボクがプンスカ怒っていると「カオル、お前達も顔を上げなさい」と注意された。
なにさ・・・ひとの気もしらないで・・・・
あとでいっぱい甘えてやるんだからね!
仕方なく顔を上げる。
皇帝と目が合う。
年の頃は30代だろうか?狐耳族の女性だ。
黄色い髪に豊満な胸、白い肌にふさふさの尻尾が特徴的だ。
モフモフですね・・・わかります。
値踏みするかのように見詰められたので、今年のスローガン『めんどくさい時は笑顔でかわそう』を実行する。
最上級の微笑みで返すと、驚いたように目を見開いていた。
う~ん・・・・なんか違和感を感じる・・・・なんだろう?
玉座に腰掛ける皇帝は、どこか違和感がある。
師匠は特に何も感じてなさそうだけど・・・本当になんだろう・・・・
「久しいなヴァルカンよ。息災であったか?」
親しげに師匠と話す皇帝。
「はい、皇帝陛下もお変わりなく。」
師匠の顔を見るに、おべっかですね!
わかりますとも。
師匠は当たり障りのない会話をする。
「して、そなたがカオルじゃな?」
急にボクに目を向けそう話す。
相手の目を見詰め笑顔を作り「はい、カオルと申します」と答えると、値踏みをするかのように全身を見詰める。
「黒いドレスを贈って正解じゃな。とても可愛らしい。瓶に詰めて飾っておきたいくらいじゃ。」
おおう、なんという残虐的な発言。
ちょっと怖いです。
ボクは苦笑いを浮かべるだけで精一杯だった。
「ごほん」と咳払いを1つ。
「カオルよ。この度のそなたの活躍、見事であった。おかげでオナイユも、そして帝都も難を逃れた。感謝する。」
と頭を下げてくれた。
お付きの人もびっくりしていたが、皇帝に合わせて頭を下げてくれる。
大勢にこんなことをされるなんて、思ってもみなかったのでボクは慌ててしまった。
そこへ師匠が「陛下、もうそれくらいで・・・・カオルはまだ子供です。こういうことには不慣れなものでして」
と助け船を出してくれた。
ありがとうございます、師匠。
オシオキのランクを下げておきますね。
心の中でそうつぶやく。
「ふむ・・・そうか。ならば何か褒美を」
皇帝がそこまで言うと
「おまちください。私には、そこの者が本当にドラゴンを倒したというのが納得できません」
と、間に割って入る猫耳族の男性が。
なにごとでしょう・・・?
「なんじゃ?わらわはそちを呼んだ覚えはないぞ?」
嫌そうな顔をして、猫耳族の男性を見やる。
「陛下、私は納得が出来ないのです。あのドラゴンをこのような少女に倒す事が出来るなどとは!」
声を荒げた猫耳族の男性に、とても疲れた顔をする皇帝。
しばらく無言になり黙っていると「ふぅ」と皇帝が一息つく。
「ならば、決闘でも何でも試すがよい。アゥストリ、そちも宮廷魔術師筆頭じゃ。それで納得すればよい!」
えーっと・・・
なんで当人ほったらかして話しが進んでるの?
しかも決闘とか、ものすごく穏やかじゃないんですが・・・・
師匠助けて!
師匠に目を向けると「あはは・・・」と空笑いをしていた。
うぉい!
師匠があてにならないとは・・・そうだ、ボクにはエルミアとエリーが残っている!
しかし2人は呆然としていた。
だめなのか・・・・
もういいよ・・・好きにしなよ。
ボクはあきらめた。
「ならば決闘だ!」
猫耳族の男性、アゥストリが声高らかに宣言すると、その場で決闘になる。
はぁ・・・意味がワカリマセン。
大広間の中央で対峙する。
師匠達は皇帝の傍で見守ってくれた。
「のうヴァルカンよ。そなたが来るといつもこうだの」
嬉しそうに笑う皇帝。
「そうですね、私が初めてここへ来た時もこうなりましたね」
と師匠が返す。
えっと・・・・じゃぁこうなった原因は師匠ってこと?
OK、オシオキランクがぐっとあがりました。
覚えててくださいね?師匠。
アゥストリは大きい革袋から数本の剣を取り出しその場に置くと、杖を身構える。
「どこからでもかかってこい!」
なぜか自身満々に話す。
というか、ボクはこのドレスで戦えと?
着替えさせてくれないの?
まぁいいけどさ・・・・
もうなんか、一足飛びに色々あって頭がついていかないよ。
とりあえず、お付き合いします。
「いきます」
そう宣言して、雷をイメージ。
アゥストリは、取り出した何本もの剣を魔法で空中に浮かべる。
おお、あれ便利そうだ。
箒とかで使えば掃除ができそうだ。
イメージした雷を剣へ落とす。
「『イカヅチ!』」
発生した雷は先駆放電を全ての剣に走らせ、主雷撃に貫かれた剣はドロドロに融解し床に落ちる。
すかさず雷の矢を5本イメージし、アゥストリの眼前に滞空させる。
威嚇されたアゥストリは腰を抜かし、その場にへたりこむ。
「続けますか?」
ボクがそう声をかけると「ま、まいった・・・」と降参した。
はぁ・・・めんどくさい。
滞空させていた雷の矢を消し、師匠に目を向ける。
満足そうにうなづく師匠。
どうせこうなるとわかってたんだろうなぁ・・・
「あっぱれじゃ!」
皇帝がそう言うと、成り行きを見守っていた騎士や貴族が歓声を上げた。
いや、そういうのはいいので・・・
恥ずかしいし。
アゥストリに近づき手を差し伸べる。
「すばらしい魔法でした。相性が悪かったですね。よろしければ、今度教えていただけませんか?」
と、声をかけると「カオル殿・・・ああ、なんと慈悲深い・・・・・私はなんて失礼な事を・・・どうかお許しください。」となぜか超低姿勢で話し出す。
変わり身早くないですか?
あと、手を掴むのはいいんですが、いいかげん離して下さい。
おじさん趣味はないんです。
ブンブン握手をしてから手を離される。
はぁ・・・痛かった。
皇帝と師匠達が、ボクに歩み寄る。
「さすがはヴァルカンの弟子じゃな!わらわは久方ぶりにワクワクしたぞ!」
興奮気味の皇帝。
どうでもいいんですが、あまり動くと胸がゆっさゆっさとですね・・・
まぁいいです。
最近この口癖多いなぁ・・・
師匠が頭を撫でてくれる。
「よくやったな、カオル」
ボクに微笑んでくれる。
嬉しくなり「はい」と言って微笑み返すと満足そうな顔をしてくれた。
「さて、褒美じゃな。なにが良いか・・・・魔剣でもなんでも好きなものを言うとよい」
おお!太っ腹だ!
まぁ決まっているんですけどね。
「では、贅沢を言って申し訳無いのですが、オーブンをいただきたく」
ボクがそう言うと、一瞬辺りが静まり返った。
え?なんか変な事言った?
だってオーブンですよ?
念願のケーキが焼けるんですよ!?
最高じゃないですか!
やっぱり最初はみんなで食べれるように、夢の3段ケーキいっちゃいますか!
にゅふふ・・・・
そんなことを考えていた。
「か、カオル・・・・ホントにそれでいいのか?」
師匠が啞然としていた。
「はい!欲しいのです!」
鬼気迫るボクの顔を見て、納得してくれたようだ。
すると・・・
「ははははは!ほんに欲の無い娘じゃな!よいよい、最高のオーブンを用意しよう!」
皇帝が大笑いをしていた。
周りの貴族達も、微笑ましく笑っている。
むぅ・・・・オーブンは最高なんだぞ!
ボクがむくれていると、エリーが「ねぇカオル。魔剣貰って売ればオーブンなんていくらでも買えるよ?」と悪魔の囁きをしてきた。
違うよエリー。
魔剣なんて、ただ魔法が出るだけの剣でしょ?
戦闘にしか使えないじゃないですか。
オーブンはね?
毎日美味しい料理とお菓子が作れるんですよ?
わかりますか?
生活の充実こそ至高なのですよ!キラーン
まったく、みんなわかってないんですよ・・・・ブツブツ
ボクは頬を膨らませてそんなことを言っていた。
その後は、皇帝の進めで昼食を共にする。
お城の一室へ案内されると、そこには昨夜のように豪華な料理の数々が!
先日の失敗を踏まえて、師匠に目を向ける。
コクンと頷いてくれた。
毒味とかの心配はいらないようだ。
皇帝が「それではいただくとしよう」と言い、昼食が始まった。
料理は見た目通り美味しかった。
特に燻製!
なんのチップを使っているのかわからなかったけど、香りがとてもすばらしい!
う~ん・・・・料理長に会わせてください。
って言ってみようかな?
まぁ、警護の関係上無理だろうけど。
それこそ、毒とか入れられちゃうもんね。
皇帝と色々な話しをした。
「カオル、わらわのことはアーシェラと呼ぶのじゃ。ヴァルカンは呼んでくれんのでな。他人行儀は好かん!」
と、なぜかとてもフレンドリーだった。
師匠も同じ事を以前言われたらしいが、剣聖としての立場があるので今でも皇帝陛下と呼んでいるみたいだ。
「カオルが呼びたいように呼べばいい」と言われ「アーシェラ様」と呼ばせて貰った。
アーシェラには娘がいて、あまり外へ出れなくつまらなそうにしているとの事。
よければ話し相手になってくれとお願いされ、快く承諾した。
師匠も「せっかくだからしばらく帝都に滞在しよう」と言ってくれたしね。
ご意見・ご想などいただけると嬉しいです。




