第四十三話 エルヴィント帝国
ボク達は今、豪華な馬車に揺られている。
馬車の中にはボクと師匠とエリー、それにエルミアがいる。
今向かっているところは、オナイユの街から半日程度の距離のエルヴィント帝国の帝都。
人口50万人というから、かなりの大都市だ。
エルヴィント帝国は砂糖と塩の貿易で成り立っており、食料自給率もそれなりに高い。
それでもカムーン王国と同盟を組み、鉄と小麦だけは輸入をしているそうだ。
もちつもたれつなんですね。
大陸の西方に位置する、エルヴィント帝国の最大の特徴は他種族の多さだそうだ。
皇帝は任命制で、5種族から選抜される。
選抜された者は、その命が絶えるまで皇帝となり帝国を支える。
1度なったら辞められないとか、ちょっと残酷だよね。
師匠曰く「カムーン王国に比べて魔境が多く、冒険者の数が多いため諍いが絶えない」との事。
ふ~ん・・・・・
と言う事は、魔物がいっぱいで稼ぎやすい?
おお、これは何やら胸が躍りますね!
時間があったら、のんびり散策でもしたいところだ。
のんびりと馬車に揺られて帝都に到着する。
そこで問題が発生。
この馬車、全然揺れないから逆に気持ちが悪く・・・・
オナイユに来る時の荷馬車は、心地よくガタゴト揺れていたもんだから・・・
エリーと師匠が先に馬車を降り、続いてエルミアとボクが降りる。
気持ちが悪くなったボクへ、師匠がそっと手を差し伸べてくれた。
「ありがとうございます。師匠」
お礼を言うと「いいんだよ。カオルは私の妻だからな」といつも通り訳のわからない事を言っていた。
本当に、いつのまにボクは妻になったのですか?
いい加減説明してほしいところだ。
馬車が着いたのは迎賓館の前。
ホビットの男性が迎えてくれて、今日はここで一泊し皇帝には明日謁見するとの事。
ほほう・・・それまでは、自由に帝都観光を楽しんでくださいということですね?
荷物らしい荷物もないので、4人で連れ立って観光をする。
いつのまに観光旅行になったのやら・・・・楽しいからいいけど。
さいわい、師匠は何度かこの帝都に来た事があるらしく、色々と案内してくれた。
これだけ広い所だ。
道案内が無ければ、絶対迷子になる自信がある。
「ねぇ、師匠あれはなんですか?」
物珍しさから、そこかしこのお店や屋台に興味が沸く。
迷子にならないように手を繋いだ師匠は、嬉しそうに説明してくれた。
いいなぁ・・・・こういうデートも・・・・・
はっ!?
デートとか、ボクにはまだ早いよね!
12歳だもの!
恥ずかしくて顔を赤くしたボクを、師匠が見詰める。
うぅ・・・そんなに見ないでください・・・・
なんとかごまかすように1軒のお店へ入る。
そこは魔工技師が経営するアイテムショップだった。
中には、見た事無いような品々が並んでいる。
オーブンやポットなどの生活用品から、なにに使うかわらからない壷まで・・・
この壷なにに使うのさ・・・
ボクがいぶかしげに壷を見ていると
「いらっしゃいませ、ご用命の際はぜひ私に」
と、ヒュームの男性が声をかけてきた。
店主だろうか?革のエプロンを着た長身の男性だ。
せっかくなので魔工技師について聞いてみた。
「魔工技師というのは、魔宝石を使い魔力を持たない者でも魔法が使えるようになるアイテムを開発・製造・修復する職業の事を言います」
そう教えてくれた。
「魔宝石は高級品で、あまり数がとれないのでは?」
突っ込んだ質問をしてみる。
「外からいらっしゃったようですね。おっしゃる通り、本来はそれほど産出されません。ですが、ここエルヴィント帝国では魔境が数多くあります。前時代の遺物『アーティファクト』や上級の魔物から魔宝石を入手出来る機会が、他の国より桁違いに多いのですよ」
ニッコリ営業スマイルでそう説明してくれた。
ほほー!
『アーティファクト』とか、なんかカッコイイですね・・・・人工遺物ですか。
「そうなんですか、詳しく説明してくださりありがとうございます」
頭を下げ感謝を伝える。
「いえいえ、見たところ冒険者の方もいらっしゃるようですね。もし魔宝石を入手できましたら、ぜひ当方へお持ちください。買取から修復まで喜んで引き受けさせていただきます」
おおう、ここにも商売人が・・・・宿屋の主人とどちらが上ですかね!
再度お礼を言って店を出る。
日も落ちてきて、そろそろ夜になろうとしていた。
のんびりと歩いて迎賓館へ帰る。
エリーはエルミアと仲良くなったようで、色々と話をしていた。
エリーは楽しい事があると身体全体で表現してくれるからわかりやすいけど、エルミアは無表情だからわかりにくいんだよね。
近くで見てるとなんとなくわかるんだけど・・・
師匠と手を繋ぎ、そんな2人を見ながら帰った。
迎賓館で出された料理は、とても豪華な食事だった。
喜び勇んで食べようとしたところ、師匠に止められた。
エリーと一言二言話しをし、エリーが味見をしてからみんなで食べた。
なんだろう?
気になったときは聞いてみる!
「師匠、さっきのアレはなんですか?」
渋い顔をした師匠がボソッと話した。
「・・・・毒味だ」
え・・・・
ボクは驚いて師匠の顔に目を向ける。
気まずそうにしている師匠。
ボク達を毒殺しようとする人がいるということなのだろうか?
でも、なにもエリーがそんな危険な役をやらなくても・・・・・
言いずらそうにしている師匠から目を落とし、料理を見詰める。
おいしそうに湯気を出している料理。
ボクはまた、みんなに守られているんだ・・・
ここで何かを言う事は、みんなの善意を無碍にすることになるだろう。
何も言わずに料理を食べた。
おいしそうだった料理も、どこか味気なく感じた。
迎賓館では1人1部屋用意をしてくれた。
部屋へ戻り1人考える。
師匠は料理を警戒していた。
ということは、何かあるかもしれないということだろう。
守られてばかりじゃいけない。
ボクだって、何かお返しをしたい。
大切な人を守りたい。
それには強くならなければいけない。
みんなを守れるくらい強く。
がんばろう。
師匠みたいに強くなろう。
そう心に誓い、ベットに横になる。
眠りに落ちそうになった時、扉をノックする音が聞こえる。
扉に近づきそっと開けると、師匠とエリーとエルミアが立っていた。
「どうしたんですか?」
そう聞くと「寂しいからみんなで寝よう」と提案された。
ボクは嬉しくなり、クスリと笑って受け入れた。
明日は皇帝と謁見だ。
それまで、大切な人とぐっすり寝よう。
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