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第五話 魔法

2016.5.28に、加筆・修正いたしました。

 ヴァルカンは、暇を見つけてはカオルに色々な事を教えた。

 驚いた事に、この世界の動植物はカオルの居た世界とあまりかわらない。

 魚だっているし、野菜や果物もほぼ同じだ。

 ただ、魔物といわれるファンタジー世界のモンスター?や魔法と言われる力があるという...


(これはアレですね? ボクが夢見た、勇者様が居る世界ですね?)


 実際、ヴァルカンが初めて魔法を見せてくれた時は、カオルは飛び上がるほど驚いた。


火炎球(ファイアーボール)と言ってな...」


 説明してくれるのは嬉しいのだが、ヴァルカンの周りをびゅんびゅん火球が飛びまわっている姿は、さすがにどうかと思う。


 魔法と言っても色々あるらしい。

 手から火を出したり、空気中から水を作り出したりと用途は様々だ。

 簡単な魔法は、魔力があり経験さえあれば誰にでも使えるらしい。

 さすがに攻撃魔法を使える、所謂『魔術師』の類は数が少ないそうだが。


「師匠は、魔法で攻撃できたりするんですか?」


「もちろんできるぞ。こう見えても私は魔法剣士だからな」


 魔法剣士という言葉に、少年であるカオルはワクワクしていた。


(カッコイイ....しかも、師匠みたいに美人だったら、きっと絵になるんだろうなぁ)


 手に持つ剣に炎を宿し、数多の戦場を駆け巡るヴァルカンの姿。

 大小様々な魔物を相手に、一陣の風と成り振るわれる剣撃は、さぞや美しい放物線を描き出すだろう。

 なによりも、金色の髪を靡かせるその様は――カオルにとっての女神そのもの。

 それを想像しただけでカオルの頬は赤く染まり、羨望の眼差しでヴァルカンを見詰めるのも仕方がない。


「師匠! 美人なだけじゃなく、やっぱりカッコ良かったんですね!」


 厳しくもあり、優しくもあるヴァルカン。

 少々自堕落が過ぎる点を差し引いても、カオルの憧れる英雄なのだ。


 そんなカオルの視線を直視したヴァルカン。

 薄々ヴァルカンも気付いていた。

 

 "カオルの笑顔には魔性の魅力がある事"に。


 同性だとは頭で理解しているつもりなのだが、(何と言うか...こう....照れるな...)などと思ってしまうのもこれまた仕方がない。

 そして、ヴァルカンが頬を染めている事にカオルも気付き、小さくほくそ笑む。


(これはアレですね? ツンデレというやつですね? もう! 師匠ってば...性格が『残念美人』でさえなければ完璧なのに...)


 師弟2人のなんとも微笑ましい光景。

 ただ、ヴァルカンはまだ気付いていなかった。

 カオルが男の子だという事に。




















 この世界の原初より存在し、巨大な魔法文明を築いた魔法だが、栄華を極め過ぎた故に衰退した過去がある。

 もちろん、何千年も昔の話しであり、伝聞程度で伝えられている事なので、今を生きる者達には過去の遺物。

 そして、遺物であるが故に時折古代の兵器『聖遺物(アーティファクト)』が発見されたりしているのだが、それは後の話し。


 

 さて、魔法である。

 ヴァルカン曰く、魔法を使うには魔力が必要らしい。

 生命力とは違った天賦の才。

 それは、あたかも生誕した瞬間に人の優劣を左右するというとんでもない代物であった。

 さらに魔法という物は、使いすぎると『魔力減少(マジックダウン)』という現象に陥り、意識を失う。

 最悪死ぬこともあるという....


「まぁ、とりあえずはそんな感じだな。ところで、カオルも魔法を使えるんじゃないか?」


 唐突に告げられた言葉に、カオルはポカンと口を開いた。


「ボクが、ですか?」


「そうだ。魔法は空気中を漂うマナを起点に魔力を使って発動させるものだ。初めて出会った時、カオルの周りにマナが集まっていたからな」


(ああ、なるほど。風竜が居た場所....そこのマナというのが濃かったのかな?)


 ヴァルカンの言葉に合点のいったカオルは、ヴァルカンと出会う前に風竜と出会った話しを伝えた。

 すると、ヴァルカンは大きく目を剥いて驚愕の表情を浮かべ、次の瞬間「信じられん」と首を横に振りだした。


「するとあれか? カオルはあの場所で風竜....いや、おそらくドラゴンだな。それに出会い、意味(わけ)もわからず契約をしたというのか?」


 呆れてものも言えない、という状況だろうか。


「はい...何か問題があったのでしょうか?」


 ヴァルカンは頭を抱えて「おまえなぁ...」と前置きをすると、語り出した。


 ドラゴンというのは魔物の一種なのだが、人語を話すのは最上級竜種という天災レベルの物らしい。

 出会ってしまったら逃げるすべなく、即死亡。

 普段は地下迷宮(ダンジョン)の奥深くに座し、けして出てくるような者ではないらしいが、カオルが居た場所はまさにそこ、ダンジョンの最深部。

 ヴァルカン自身、あの場所でカオルと出会った事に何か意味があるとは薄々感じていたのだが、まさかの展開に動揺を隠せない。


「....地下迷宮(ダンジョン)というのは、『聖遺物(アーティファクト)』目当てで貴族連中が派兵したり、財宝目当てで冒険者達が行ったりするもんなんだが、カオルは1人であそこに居たよな?」


 訝しげなヴァルカンの視線に、カオルは思わず目を逸らした。

 なぜならば、風竜の話しをしただけでこの有様なのだ。

 もし、カオルが異世界人だと気付かれれば――ヴァルカンに気味悪がられる可能性だってある。

 いや、そんな事は無いとは思っているものの、まだ1月しかヴァルカンと共に居ない。

 自身を家族と言ってくれた大切な人を、カオルは2度と失うわけにはいかないのだから。


「えっと、気がついたらあそこに居たのでなんとも...」


 そうして誤魔化してみせた。

 だが、そんな浅知恵はヴァルカンに通用しない。


(....何か隠している、な)


 不自然なカオルの態度。

 少なくともヴァルカンは、"人を見る目がある"と、自負している。

 なにせ王立騎士学校を卒業後、難関と言われた誉れ高き頂――『剣聖』の座に着いていたのだ。

 私利私欲に塗れた者。強欲な権力者の争い。王国の宝である民に重税を掛けて圧制を敷いた辺境伯など。

 数えきれない程の愚か者を数多く見てきた。

 だからこそ、子供であるカオルの嘘など簡単に見抜ける。

 

 だが――

 

(カオルの事だ。何か深い事情があるのだろう)


 いつかカオル自身の口から明かされるまで、ヴァルカンは目を瞑る事を選ぶ。

 まだ少ない時間しか共にしていないが、ヴァルカンにとっても、カオルは大事な宝物なのだから。


「はぁ...もしその話が本当なら、カオルの身体のどこかに契約の証、『音素文字(ルーン)』が刻まれてるはずだぞ?」


 (仕方がない)とばかりに頭を掻き、ヴァルカンはそう教えた。

 カオルはホッと息を吐きながら、自身の身体を調べる。

 姿見の1つでもあればとっくに気付いていただろう。

 しかし、物臭なヴァルカンの家には、女性だというのに鏡のひとつもありはしない。

 『残念美人』とカオルが命名するのも頷ける。


 そして、まじまじと自身の身体を探っていると、左胸。

 ちょうど心臓の真上あたりに黒い文字のようなものが刻まれていた。


「師匠? なんだか胸のところに文字が...」


 それは紛れもない風竜との絆の証。

 あの時風竜が言った「力を貸す」とは、真意であった。


「どれどれ...」


 同性であると勘違いしていたからこその不覚。

 お下がりの麻のチュニックを捲くり上げ、カオルは胸を露出させた。

 実に大胆な行為にヴァルカンも、(...まだ子供だしな)と納得した――のだが....


(....ん? 胸が、無い...?)


 停止する思考。

 まだ10歳の子供なのだから、胸が無くても当然だ。

 だが....無さ過ぎではないだろうか?

 自分が10歳の頃はもう少し膨らみがあった。

 そして、同性だから気付く。

 骨格の違いに。

 つまりカオルは――


「お、男の子だったのか!?」


 『音素文字(ルーン)』など眼中になく、ヴァルカンの顔は茹でダコの様に真っ赤に染まった。

 おそらく、脳内でこの1ヶ月の出来事が思い出されている事だろう。

 なにせ同性だと思っていたのだから、スキンシップの類は頻繁に。

 それも、とても口には出せないくらいの行為(セクハラ)をした。

 戦闘の修練も、鍛冶の鍛錬も。

 手とり足とり腰とりと...

 家事について教える事は一切無かった事に同性として戦慄したが。

 唯一の救いは、一緒にお風呂に入らなかった事だろう。

 どちらかが火の番をしなければいけなかったのだから。


(師匠....なにをいまさら....)


 カオルはガックリとうな垂れ、軽蔑するかの様な目をヴァルカンに向けた。


「師匠? もしかして、ボクを女だと思っていたんですか? この1ヶ月も...?」


 そう。1ヶ月も共に暮らしてきたのだ。

 ひとつ屋根の下で男女2人が。

 年齢こそ一回りは離れているが、そんな事は些細な事。

 問題は、"異性だ"という一点である。


「い、いや、チガウヨ? お、男の子だと思っていたゾ?」


 あきらかに動揺しているヴァルカン。

 どう取り繕ってもカオルにはお見通しだ。


(冷や汗ダラダラでそんなこと言われても...)


「いいですよ、別に。どうせボクは女みたいだって事でしょ」


 カオルは、生まれた時から間違えられてきたので、もう慣れっ子だ。


(なれ....っ....こ......だ....)グスン


 思い出されるのは、まだカオルが無視される以前の話し。

 小学校でも、近所のおばちゃんにも、ずっと女の子だと勘違いされてきた。

 小学1年生の頃なんて、同級生の男の子が「大きくなったらお嫁さんにしてあげる」なんて言ってきたくらいだ。


(あの屈辱は忘れない....)


 カオルは、小さな拳を強く握り、あの時の悔しさが込み上げてくるのを感じていた。


「いやいやカオル! そんなことは思っていないぞ? ほ、ほら午後の修練の時間じゃないか? 今日は大剣の使い方を教えてやろう!」


 不器用なヴァルカンはそうはぐらかそうとするが、カオルの悲しみは止まる事を知らない。

 『音素文字(ルーン)』の話はどこへいったんだろうか.....


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