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第四十二話 いざ帝都へ向けて

朝、息苦しさを覚え目を覚ます。


目を開けて見ると、師匠の顔が目の前に。


昨夜はボクに抱き着いて寝たようだ。


うん、バラの良い香りがする・・・・


匂い袋でも持ってるのかな?


とても落ち着く香りだ。


ほんのり師匠の体臭もするけど、それがまたいい。


っと、朝から変態的な事を考えてしまった。


そっと唇に口付けし、腕をどけて起き上がる。


ここは宿屋のようだ。


4つのベットで、かすかな寝息が聞こえる。


まだみんな寝ているみたいだ。


う~ん、昨日は騎士団詰め所で夕食会をして・・・そこからどうしたんだっけ?


騎士達に挨拶されて・・・カルアが来て・・・・・ああ、師匠が飲み比べを始めたんだっけ。


それでボクが怒って・・・ノンアルコールのお酒を飲んじゃったんだ。


そこから覚えてないや。


う~ん、倒れたのかな?


まぁいいか。


きっと師匠が運んでくれたに違いない。


優しいからね、師匠は。


さてと、起きてみんなの朝食でも用意しますか。


そういえば、昨日の食材余ってたなぁ・・・それを使おう。


洗面所へ行き、仕度を整える。


そっと扉を開けて食堂へ。


食堂では既に数人の宿泊客が食事をしていた。


会釈をしつつ通り抜けると、料理長に挨拶をする。


「おはようございます。料理長」


元気良く挨拶をすると「おう!おはようさん!おめぇさんも、相変わらずはえぇな!」と、元気に挨拶を返してくれた。


お互いに「あはは」と笑い合い、調理場を貸して貰えるように頼む。


快く承諾してくれ、調理場の奥へ。


朝食だから、軽めの物がいいだろう。


簡単にパンにレタスとトマト・ハムを挟んでサンドウィッチを作る。


スープは・・・・ポタージュスープもいいけど、今日はビシソワーズにしよう。


じゃがいもを細かく刻み鍋の中へ、手早くビシソワーズを作る。


粉ふるいがあったので、裏ごしをしフライパンへ。


煮立てたジャガイモを氷で冷やし、熱が取れたら生クリームを入れて混ぜ合わせて完成。


さて、みんなを起こしに行きますか。


部屋へ戻るとみんなまだ寝ていた。


奥に寝ているエルミアから順番に起こす。


「おはよう。朝だよ、起きて」


肩をゆさゆさ揺すると、眠そうに目を覚まし「おはようございます。カオル様」と挨拶を返す。


師匠とカルア、それにエリーにも声をかけて起こす。


順番に洗面所へ行き、なんとか全員起きた。


食堂へ行き朝食を食べると、カルアは礼拝堂へ向かった。


うん、真面目さんだね。


今日は帝国から召喚状の返事が届くはずなので、4人揃って冒険者ギルドへ行く。


大通りを歩いていると、相変わらず道行く人が挨拶をしてくれる。


お年寄りが拝んでくるのもいつもの光景だ。


ボクを拝んでも、ご利益なんてありませんけどね?


そういえば、最近メイド服を着てって師匠に言われないなぁ・・・・飽きたのかな?


最初は嫌だったけど、慣れると動きやすいんだよね。


掃除するときとか便利だし。


そんな事を考えながら、元気に前を歩くエリーを見る。


猫耳族の尻尾が、右へ左へかわいく動き回る。


なんだろう・・・掴みたくなるよね。


怒られるからやらないけど・・・たぶん。


それにしても、エリーはせっかく可愛いんだからもっと似合う格好をすればいいのに。


麻のシャツに革のベスト、麻のズボンなんて穿いてるから男みたいだよ?


う~ん・・・今度、服でも贈ってみようかな。


そういえば装備も頼りない物が多かったよね。


革の防具にあの鋳造(ちゅうぞう)品の剣・・・・・


これからも冒険者を続けるなら、もう少し良い物にした方がいいと思うんだけどな・・・・


怪我とかしてほしくないし。


それとなく聞いてみよう。


やがて、冒険者ギルドの建物が見えてくる。


エリーを先頭に中へ入ると忙しそうに働いていたヤームが声をかけてくる。


「こんにちは、エリー。それと剣聖様」


丁寧にお辞儀をしたヤームに続いて、こちらも挨拶をした。


「こんにちはヤーム」


「ヤームさん、帝都から返事来た?」


エリーは早く返事を聞きたかったようだ。


ヤームは苦笑いを浮かべ「ええ、さきほど届きましたよ」と言って、カウンターから羊皮紙を持ってくる。


ボクは羊皮紙を受け取り早速中身を確認する。


「カオル様、明日の朝迎えの馬車を送ります。楽しみにお待ちしております。」


と、簡潔に書かれていた。


ふむ、明日の朝ですか・・・


読み終わった羊皮紙をエリーに渡し、師匠に話しかける。


「明日の朝迎えが来るそうです。」


そう話すと「そうか、それじゃぁ今日は・・・」と師匠が羊皮紙を見ていたエリーに目を向ける。


ん?


エリーがどうしたのかな?


エリーも師匠の視線に気付き「どうしたの?」と見詰めてくる。


妖しい笑いを浮かべ「それじゃぁエリー、今日は訓練をしようか」と師匠が提案する。


エリーは嬉しそうに「ぜひお願いします!」と元気に返した。


エリー・・・かわいそうな子・・・・・師匠のこの笑顔は『しごく』って意味だよ。


ボクも、さんざんこの笑顔にやられてきたからわかるよ・・・・・


ヤームにお礼を言って、ギルドをあとにする。


そのまま騎士団詰め所へ向かう。


詰め所では、そこかしこで騎士達が訓練をしていた。


師匠に気付いた騎士が「おはようございます!剣聖殿!」と、訓練の手を止めて迎えてくれた。


ボクがその様子を見ていると「か、カオル殿もご一緒でしたか!昨晩はありがとうございました!これからも精進を続けます!」とキリッとした敬礼をしてくれた。


うん?食事のありがとうはわかるけど、精進ってなんの話し?


ボクが首をかしげていると、エリーが「カオルは、それだけすごいってことよ。私には劣るけどね!」となぜかツンデレしてきた。


なんなのだろう・・・・ボク何かしたの?


エルミアに目を向けると、いつもは無表情のエルミアがニッコリ笑顔を向けてくれた。


うん、意味がワカリマセン。


まぁいいや・・・・どうせだれも教えてくれないんでしょ。


ボクはそのままうなだれた。


訓練所の一画を借り、師匠はエリーと訓練を始めた。


ボクはヒマなので、アイテム箱から布の端切れと針と糸を取り出し、ずっと出来なかったパッチワークを始める。


エルミアはボクの隣に座り、訓練の様子を見ていた。


「エルミアはやらないの?」


と聞くと「今日は見学をさせていただきます」と無表情のまま答えた。


う~ん・・・まぁお姫様だもんね。


師匠とエリーは木剣で打ち合いをしている。


というか、エリーが一方的にしごかれていた。


まぁ、師匠はかなり強いし・・・ボクも一度も勝てたことないしね。


それにしても、エリーはちょこちょこ動き回るんだけど、なんというか片手剣むいてないんじゃないの?


間合いとか理解してないし・・・・


う~ん・・・・武器が合っていない感じ。


大剣の方がいいんじゃないかな?


師匠に声をかける。


「ししょー!」


ボクの声を聞いた師匠が、訓練を止めてこちらに向かってくる。


「どうした?カオル、何か用事か?」


汗ひとつ流さない師匠と対照的に、エリーは汗だくになり肩で息をしていた。


エリーにタオルを渡し、コップに水を入れてあげる。


師匠もコップを受け取り一息つく。


「師匠、エリーって大剣の方がいいのではないですか?動きが片手剣にむいていないような・・・」


ボクがそう言うと「たしかにな。力がありあまっているようだしな」


どういう意味でありあまってるんだろう・・・・


剣を握る力って事かな?


師匠はそう言い、大きめの木剣を持ってくる。


エリーはそれに持ち替え、具合をみていた。


「エリーは大剣使った事ある?」


聞いて見る。


「ないわ。ずっと剣と盾でやってきたもの。」


ふむふむ・・・・


冒険者になって1年ちょっとだったっけ?


ずっとカイとメルの3人でやってきたから、色々な武器を試す機会がなかったのかな?


でもエリーの動きを見てると、大剣のほうがしっくりくると思うんだよね。


師匠は休憩もそこそこに、訓練を再開する。


片手剣から大剣に持ち替えたエリーは、初めは戸惑っていたが次第に勘を掴みうまく大剣を操っていた。


うん、思った通りだ。


「エリー!もっと重心に意識しろ!」


時折師匠の叱咤(しった)が飛ぶ。


「はい!」


元気よく答えるエリー。


既に足はフラフラだ。


「もう半歩前に!手数で来る相手にそれではダメだ!!」


師匠も熱が入ったのが、かなり熱く指導していた。


うん、ああなると長いんだよね。


まぁ怪我してもボクが治すし大丈夫だろう。


エルミアの隣で、パッチワークをのんびり続けた。


お昼近くなったので、エルミアと2人で出店に買い物へ。


今日も沢山の人で賑わっていた。


「エルミア、食べてみたい物とかある?」


手を繋ぎながらボクは聞いてみる。


「カオル様が食べる物ならなんでも」


エルミアがそう返す。


うん・・・・あのね?いつまで様付けなのかと、ボクの全てを肯定するように言うのはなんでかな?


う~ん・・・何と言えばいいのだろう。


「エルミア、ボクはエルミアの事が知りたいんだ。だから、エルミアの気持ちを教えて欲しい。」


うん、これならいいだろう。


エルミアの顔を見詰めていると「私は市制やこの国の情勢に疎いのです。ですから、私は全てをカオル様にお任せいたします。」と頬を赤くして返された。


予想の斜め上どころか「私は全てお任せします」って言葉がなぜか、いやらしく聞こえるよ!?


何!?なにごとですか!?


ボクはどうしたらいいのですか!?


慌てるボクの手を、エルミアはそっと握りなおす。


細くやわらかい手に包まれて、慌てていた気持ちが静かに落ち着いた。


うん・・・・とりあえず、考えるのをやめよう。


子供らしくしよう!


屋台の一角を指差し「エルミア!アレ食べよう!」と言って、エルミアの手を引っ張る。


エルミアは嬉しそうに笑顔を作りそれに従った。


鳥の串焼きやそのほかにも色々と買って、詰め所へ戻った。


カエルの串焼きだけは「お許しください」と言われて買っていない。


う~ん、結構おいしいんだよ?身が引き締まってて。


まぁ無理して食べる物でもないか。


詰め所に戻ると、エリーがボロボロになっていた。


うん、ボクも通った道だ。


がんばれエリー。


エリーを抱き上げて食堂へ向かう。


騎士達が食事をしている一角を借りて食事を始める。


「師匠、エリーはどうですか?」


エリーは食事をささっと食べて仮眠をしている。


「そうだな・・・・大剣の才能はある。あとは本人のやる気次第だが、私は良い線行くと思うぞ」


と、師匠の太鼓判を貰った。


すごいな。


師匠がこんなに褒めるなんて。


「そうですか。それはよかった」


ボクがそう告げると、師匠も満足そうな顔をした。


あとは装備か・・・


「師匠、午後も訓練を続けますか?」


そう聞くと「ああ、そのつもりだ」と答える。


それじゃぁ、ボクは装備でも作ってあげようかな。


この前のオークキングの鉄が残ってるし。


喜んでくれるかな?


「それでは、ボクはレギン親方の所へ行ってもいいですか?」


ボクの意図を察したのか「やさしいな、カオルは。」と言い頭を撫でてくれた。


嬉しくなって、つい顔がにやけてしまう。


寝ているエリーの採寸を、こそこそと済ませる。


ぐっすりと寝ているようで、多少揺すっても全然起きない。


「エルミアはどうする?」


ボクが聞くと「私はカオル様の傍にいます」と言われた。


うん、予想通りの答えです。


師匠が「カオルを頼む」と言うと「おまかせください。ヴァルカンの分もお傍にいます」と、なぜか睨みあいが始まった。


あれ?いつもは仲が良いのに、突然どうしたの?


しばらく目で戦っていたが、エリーが起きたのでそこで終了となった。


う~ん・・・わからん!


「それではあとでな」と言って、ボクの頬を撫で訓練所へ向かって行った。


エリーも慌てて師匠の後を追う。


テーブルを片付け騎士にお礼を言い、鍛冶ギルドへ向かった。


普段は無表情のエルミアが、少し力強く手を握ってくる。


どうしたんだろう?


顔を向けると目が合い、やわらかく微笑んでくれた。


よくわからないので、微笑み返す。


恥ずかしいやらなんやら、気まずい雰囲気で工房まで歩いた。


扉をノックし中へ入る。


「こんにちは!レギン親方はいらっしゃいますか」


ボクが中へ入ると、いつものようにニールが出迎えてくれた。


「おや、いらっしゃいませ。ちょっとお待ちくださいね」


そう言い、奥へむけて「親方、カオルさんですよー」と大きな声で叫ぶ。


ドスンドスンと音を立てて、レギン親方がやってきた。


「おう、じょうちゃん!よく来たな!ん?そっちの連れはだれでぃ?」


エルミアを見てそう聞いてくる。


「彼女はエルミア、ボクの友達です。」


そう告げると、ジッとエルミアに目を向ける。


やがて「そうか、あんまり身なりが綺麗だからよ、どこぞの姫さんかと思ったぜ」と言った。


うん、大正解だけどあまりバラすのもよくないのでだまっていよう。


ボクが愛想笑いをしていると「エルミアと申します。よろしくお願いいたします」と会釈をした。


優雅な仕草を見て慌てたのか「お、おう!おらぁレギンってもんだ。こいつは弟子のニール。」とニールの背中をバンバン叩いていた。


なんか前にも見た光景だ・・・・


「い、いたいですよ!」ニールがそう言い、ガハハ!とレギン親方が笑っていた。


一頻り笑ったあと「で、どうたんでぃ?今日も炉を使いにきたのか?」と本題に入る。


「はい。たびたびすみませんが、本日もお借りしてよろしいですか?」


丁寧にお願いすると「おう!じょうちゃんなら、いつでも使ってくれてかまわねぇぞ!」と快く貸してくれた。


良い人多いな・・・・・助かります。


「ありがとうございます」


頭を下げてお礼を言う。


「いいってことよ!」


がはは笑いをするレギン親方に案内され、一番奥の炉へ向かう。


エルミアは、壁の前に椅子を用意されそこに座った。


いつもの部屋へ行き、麻のチュニックとズボンに着替え革のエプロンを着ける。


アイテム箱から鉄板を数枚と紅茶のセットを取り出し、紅茶をエルミアに渡す。


「ありがとうございます」とお礼を言われ、そっと頬に手を当てられる。


細くて長い綺麗な手だ。


凄く落ち着く。


ボクは目を瞑り考える。


エリーの防具・・・・どんなものにしよう。


元気なエリー。


男の子のような姿をしているエリー。


でも、もっと可愛らしくしてほしい。


せっかくあんなに可愛いんだもの。


目を開けると、エルミアの顔が目の前にあった。


濃く青いラピスラズリのような瞳、細く煌く銀色の髪。


落ち着く・・・ずっと見ていたい。


自分の腕輪に目を落とすと、風竜がくれた蒼い魔宝石が輝いていた。


エルミアの手を取り「ありがとう」と伝えて手を離す。


そのまま炉に向かい火を入れる。


イメージできた。


エリーの鎧が、大剣が・・・・


師匠と風竜がくれた武具・・・・


ボクもエリーに作ってあげたい。


あの鉄の腕当てのように・・・・


喜ばれるものを作りたい。


気付けば、力強く槌を振るっていた。


叩かれるたびに飛び散る火花。


不純物が取り除かれ、徐々に小さくなる赤い鉄。


何度も、何度も折り返す。


硬く強く、エリーを守る防具を作る。


エリーを守る防具。


今のボクにできる精一杯の物を・・・・


エリーが・・・振るうたびに勇気が出るような武器を・・・・


エリーの大切な物を守る武器を・・・・


ただ、打つ。


ひたすらに・・・


いつのまにか精霊が舞っていた。


いつも人懐っこい風の精霊もいる。


クルクルと・・・・・


踊っているかのように・・・・


あの時、ボクの防具を作っているときも・・・


ボクのバゼラードを打っている時もこの子達はいた。


楽しそうに・・・


ボクと遊んでいるように・・・・・


やがて打ち終わる。


それまで、一緒に遊ぼう・・・・・


精霊達はクルクル回る・・・・・


踊るように・・・・・遊ぶように・・・・・
























工房の中に静けさが訪れる。


打ち終わった武具に飾りを入れる。


飾り職人に教わった技術を全て使う。


剣の柄や鞘に・・・・・


防具は、実用的な中に見栄えを意識して・・・・


エリーのかわいさを引き立てるように・・・・


戦場の中に咲く、一輪の花をイメージして・・・


そして銘を切る・・・・『香月(こうづき)』と・・・・・


どれくらいの時間、そうしていたのだろうか。


鍛冶をするといつもそうだ。


時間を忘れ、槌を打つ事に熱中してしまう。


周りの声も聞こえなくなり、ただ槌を振るう音だけが聞こえる。


完成した姿を思い浮かべ、ただひたすらに槌を振るう。


辺りはすっかり暗くなっていた。


出来上がった武具に手が触れる。


よかった・・・・思った通りに出来た・・・・・・・


なめした猪の革に鉄の胸当て・鉄の腰当・グリーブ。


エルミアの防具からイメージし、猪の革と赤い布地を縫合し、短いスカートのように仕立てた。


きっと、エリーの可愛らしさを引き立たせてくれる。


「エリーを守ってね・・・・お願いだよ・・・・・」


武具にそう告げる。


淡く光を反射した、鉄の武具が「わかった」と告げたような気がした。


ああ、疲れた・・・・このまま倒れて眠りたい。


そこへ「カオル・・・」と声が聞こえた。


ゆつくりと振り返る。


そこには師匠とエリーとエルミア、そしてレギン親方が心配そうにこちらを見ていた。


待たせてしまっていたのだろう、力なく「すみません」と言うとよろめいてしまった。


慌てて師匠が近づき、ボクを支えてくれた。


「大丈夫か?」と声をかけられ「はい、少し集中しすぎてしまったようです」と答えた。


エリーに顔を向けて「これはエリーの為に作りました。受け取ってくれる?」と聞く。


エリーは涙を流し、喜んで受け取ってくれた。


満足そうな顔をする師匠。


よかった、喜んでくれた。


笑顔を向けると、エリーに抱き締められた。


「ありがとうカオル・・・・私、大事にするね・・・・・」


そう言ってギュッと抱き締めてくれる。


レギン親方が話し出す。


「じょうちゃんがここへきてこれで3回目だが、少し気をつけた方がいいぞ。じょうちゃんは、魂を込めて打つ傾向がある。頻繁にそんなことしてたら、いつかぶっ倒れるからな」


と心配した声色で教えてくれた。


そうなんだ・・・・


師匠はボクの顔を見詰め「そうだな・・・今後は気をつけよう。ありがとうレギン親方」とそう答えた。


「まぁ、俺も人の事言えた義理じゃねぇんだがな!がはは」


と笑った。


エリーは、さっそく防具を身に着けていた。


よほど嬉しかったのだろう。


ボクも着てくれて嬉しいよ。


防具を纏ったエリーは、とても可愛らしかった。


姿見でアレコレ見終わってから一言「ねぇカオル。なんで私のサイズ知ってるの?」と不審そうに言われた。


苦笑いを浮かべて「寝ている隙に計ったんだよ」と伝えると怒り出した。


「えっ!?ちょっとカオル!そういうのはちょっと・・・・・・・胸小さいのがばれちゃったじゃない」


最後の方は小声で聞き取れなかった。


「でも、エリーとても似合うよ」


笑顔でそう言うと、顔を真っ赤にしていた。


「とても良い装備だな、剣もエリーの身長にあっている。これは・・・・もうカオルには鍛冶の技術を抜かれたな」


師匠がそう言い、頭を撫でてくれた。


いつか師匠の為に何か作りたいな・・・・


そんな事を考えていた。


疲れ果てて、うまく歩けないので師匠と寄り添って宿屋へ帰る。


エリーはよほど嬉しかったのか、エルミアとアレコレ装備の話しをしていた。


エルミアも、自分の防具を参考にエリーの防具を仕立てたのに気付いたのか、なぜか嬉しそうにしていた。


だって、エルミアの防具綺麗なんだもの。


宿屋へ着くと、エリーの装備を見たカルアが頬を膨らませて怒っていた。


「なんでエリーちゃんにばっかり!ずるい!」


プンスカ怒っているカルアは、あまり恐くないのだがだまっていてもしかたない。


アイテム箱から腕輪を取り出す。


以前、カイとメルそれにエリーに鉄の腕当てをあげた時にねだられ、作った物だ。


「カルア、これあげる」


布に包まれた腕輪を渡す。


受け取ったカルアがしぶしぶと包みを開けると「カオルちゃんありがとう!」と盛大に抱きついてきた。


既に立っている力もないボクはそのまま押し倒され、頬を擦り付けてくるカルアを押しのける事が出来ない。


「カオルは私のものだ!」


師匠がそう叫びボクとカルアを引き剥がす。


いや、師匠は大好きですけど、ボクは物じゃないですよ?


引き剥がされたカルアは嬉しかったらしく、エリーと見せ合いっこしていた。


いつの間にか、傍に来ていたエルミアに言われる。


「カオル様、私にも何か作ってはいただけませんか?」


おずおずと目を向けて聞いてくる。


いや、そんな子犬のような目を向けられたら作るしかないじゃないですか・・・


「うん・・・・わかった」


ボクがそう言うと、パッと花が咲いたように笑顔になり頬に口付けられた。


えーっと・・・・やばい、何も考えられなく・・・・


え?なに?キスが最近流行ってるの?


それともあれですか?


仲間内ルール的な?


あ、いけない・・・・思考が追いつかない。


ボクがワタワタやっていると「私にも!」と強めの声で師匠に言われる。


おおう・・・もうわけが・・・・


「作りますよ!」


元気いっぱいにそう答え、ボクの思考は停止した。










気がついたのはベットの上だった。


どうやらかすかに記憶しているが、食堂ではボクに食べさせるアーン合戦が起こりお風呂には誰かが入れてくれたようだ。


うん、だって覚えて無いんだもの。


もういいよ、今日は寝よう。


明日はお迎えが来るらしいし。


そのまま目を閉じ、ぐっすりと寝た。




翌朝、騎士団の詰め所前に帝国からの馬車が来ていた。


すごい豪華な作り。


なんというか、税金というものがあるなら無駄使いするな!と怒りたくなるくらい高そうな馬車だ。


迎えに来た、ヒュームの御者(ぎょしゃ)さんに挨拶をして馬車に乗り込む。


もちろん行くのは、ボクと師匠とエリー、それにエルミアの4人だ。


司教のニコル、カルア、レンバルトそして・・・・多くの騎士団員が見送りをしてくれた。


いやいや、すぐそこの帝都に行くだけなんですけどね?


まぁいいか。


カルアにお土産をお願いされた。


いやいや、だからすぐそこなんですって。


苦笑いを浮かべて「わかりました」と答えた。


馬車が出発して気付く。


この馬車、全然揺れない・・・・・


ソファーのような椅子が豪華なのでそのためかとも思ったが、どうやら車軸に細工がしてあるようだ。


車でいうサスペンションかな?


衝撃をうまく吸収しているようだ。


すごいな・・・・


馬車はゆっくり走り出す。


一路、エルヴィント帝国の帝都へ向けて。

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