間話 副長レオンハルト
2016.9.16に、加筆・修正いたしました。
その日の俺様は浮き足立っていた。
初めは気乗りしなかった大遠征軍。俺様はそこで運命的な出会いをした。
艶やかな長い黒髪。黒水晶の様に透き通った無垢な瞳。穢れを知らない白い肌。紛うことなき超絶美少女。
一目見た瞬間にビビビッと全身に駆け巡る想い。
出会ったその場でわかっちまった。
俺様は"恋"をしたんだって。
「キミは.....?」
「初めまして。ボクの名前はカオル」
「カオル....素敵な名前だ....」
可憐な少女の名前はカオル。
見詰められただけで意識が遠のく。帝都でこんなに麗しい女性に出会った事なんてない。
任務へ赴いた先でもそうだ。
皇帝陛下の護衛で各種晩餐会へ出張る事も多い。だが、あんな化粧を塗りたくった醜い女達が彼女に敵う筈がない。
武装しているというのに気品が溢れ、微笑むだけで誰もが見惚れる。
なんて可愛い少女。将来は絶世の美女間違い無し。できる事ならこのまま一生見続けて居たい。
だというのにだ!
【カムーン王国】の元剣聖――まぁこいつも美人だが気に食わん――が、彼女を連れて行きやがった。
斥候だとよ。軍馬に相乗りして駆け始め置き去りだよ。クソが!!
あの時折はにかんだ笑顔。向けられただけで俺様の心は鷲掴み。念願の"恋"だぜ? しかも一目惚れだ。親父とお袋もこんな感じだったのか....
「聞いてますか? 副長?」
「ああ?」
補給物資を載せた荷馬車を引き連れ【オナイユの街】を出発。
騎馬した俺様に部下が色々情報を寄越した。
「黒巫女様?」
「ええ。なんでも【聖騎士教会】に所属する治癒術師だそうです」
「暴れ馬に轢かれた子供を回復魔法で救ったとか」
「屋台で手料理を振舞って、それを食べたら腰の調子が良くなったジィさんが居たとか」
「俺は『拝んだだけでご利益があった』って聞いたぞ?」
「今じゃ【オナイユの街】に住む者達で黒巫女様を知らない者はいないとか」
「まぁあんだけ可愛いからなぁ....」
「ただ、元剣聖殿がなぁ....」
「....なんかあるのか?」
「いえね? 超過保護で囲ってるらしく、近付く男は全員叩きのめされるらしいんですよ」
なるほどな。可憐な美少女だ。その気持ちはよくわかる。
だが独り占めだと!? ふざけんな!! 俺様の行く手を阻もうって魂胆か!?
「お? 副長...もしかして念願の恋ですか?」
「悪いか!?」
「いえいえ。やっと副長にも春が来ましたねぇ?」
「まったくだ。あんだけモテてるくせに誰にも靡かなかった副長ですからねぇ?」
「これで俺達にも女が回るってこったな!」
「ウルセェ!! さっさと任務に戻れ!!」
「「「「「はいはい」」」」」
茶化しやがった部下を遠ざけ思い浮かべる。
あの可愛らしい容姿。屋台で料理を振舞ったってことは....手料理じゃねぇか!?
甲斐甲斐しく世話を焼く彼女。笑いながら抱き寄せる俺様。最高じゃねぇか!!
料理も出来て戦いも出切る。つまり俺様の仕事に理解があるって事だ。
こんな最高の嫁がこの世に居たなんて....知らなかったぜ.....
「ククククク.....」
思わず笑みが零れる。
野営地に辿り着くまで俺様は脳内で色々な妄想を膨らまし続けた。
野営地に着き愛しの黒巫女ちゃんと合流。
猪頭鬼と緑巨人が出たらしい。
手筈通りそっちはレンバルトに任せて俺様は陣営の指揮。
まぁ冒険者ギルドの職員でホビットのヤームにほとんど任せた。
俺様が冒険者の指揮を取るのは政治上不味い。あいつ等は独立したギルドに所属する者達だからな。
皇帝陛下直属の俺様達近衛騎士の指示を利く理由もない。
「レオンハルト殿!」
「これはレンバルト殿」
見張りの相談を軽くして、聖騎士と近衛騎士で分担。
冒険者からも数人交代要員を確保。段取りは決まってる。
見事な采配だけどよ? 全部の草案を出したのがあの元剣聖だって言うんだからたまったもんじゃねぇ。
手際も良い。第二陣の受け入れ態勢までしっかりした代物だ。
奇襲を受けた際の退路確保まで考え尽くされてやがる。
立派過ぎて釈然としねぇ。やっぱり元とはいえ剣聖か。
剣士として秀で、騎士として秀でた数少ない才能の持ち主。
俺様も時間さえあれば同様の戦術を出せるが....これをたった数日で纏めたのか? 信じられねぇ。
夜も更けた時間。配給を受け取った冒険者がひと騒動。
『量が多い』だの『黒巫女様手作り』だのといがみ合い喧嘩寸前で――黒巫女ちゃんの手作りだと!? 俺様も食べてぇ!!
が、そんな事を指揮官の俺様が言えば近衛騎士の品性を貶める。我慢だ。
とうとう殴り合いの喧嘩が――
「はいそこまで。喧嘩はいけませんよ?」
一瞬で両者の拳を掴んだ美少女。
超絶じゃねぇ。悶絶だ。
なんて可愛いメイド服姿なんだ.....あの姿で給仕されて落ちない男は居ない。
「もう喧嘩したらダメですからね?」
「「(コクコク)」」
あっという間に場を収めた黒巫女ちゃん。
《魔法箱》が出現したのにまた驚く。
ただの治癒術師? とんでもない。武術の心得のある者だ。元剣聖が仕込んだんだろ?
アレは只物じゃない気配がビンビンしてるぜ。
そして可愛い。もう、超可愛い。
思わず小躍りしそうになっちまった。
夜の20時。軍議の為に天幕へ集まった主要な人物。
その中にメイド服姿の黒巫女ちゃんが!?
しかも"俺様の為に"紅茶を淹れてくれた!!
「...どうぞ」
ボソリと呟く黒巫女ちゃん。
俯いて照れてやがる。ハハハ!! まぁ俺様の容姿は優れているからな!! これはもしかするともしかするかもなぁ!!
「ありがとうございます」
「っ!?」
差し出されたカップ微笑んで受け取る。
紳士としての俺様がソッと手を取りお礼の口付けを――しようとしたら逃げられた....なぜだ!?
元剣聖の影に隠れ姿を隠す黒巫女ちゃん。
忌々しく視線を上げれば元剣聖の野郎が鼻で笑いやがった!!
邪魔をする気か!! 俺様の恋路の邪魔を!! つぅかなんでてめぇはそんなに背がたけぇんだよ!!
俺様に劣るとはいえ、170cm越えてるんじゃねぇか!? 気にいらねぇ....
「それでは軍議を始める。まず、ヴァルカン殿に感謝を。おかげで【オナイユの街】に程近い場所で、猪頭鬼王に始まり緑巨人までもが出現した事がわかりました」
「そうだな」
「はっきり言って異常事態だ」
「間違いない」
「確かに街の近くでこれほど多くの魔物が出現する事はあまり無いな」
「そ、そうですね!」
淡々と始まる軍議に俺様も適度に相槌を打つ。
とっくに魔鏡の存在なんて気付いてるぜ? 対魔だろうが親父から散々仕込まれて育ったんだ。今更同じ話しを繰り返してなんにな――
「ああ、悪いがカオルに説明させてくれて。皆の再確認に役立つだろう」
「わかりました」
「俺様も問題ない」
「は、はい!」
おっと? 黒巫女ちゃんは知らねぇのか。そりゃ一大事だ。俺様が護ってあげないとな?
それにしても、さっき触れた手の感触....俺様の手が未だに熱い。
やっぱり運命か? 紅茶を啜って感激。丁度良い温度。さすがわかってる。可愛いぜ? 黒巫女ちゃん.....
「魔族と呼ばれる人に仇名す人外の――」
おい、元剣聖? 今ワザと俺様から黒巫女ちゃんが見えない様に移動しやがったな?
ゆるさねぇ....ゆるさねぇぞ!! 俺様はとっくに気付いてるんだからな!!
てめぇが黒巫女ちゃんに邪な感情を抱いている事をな!!
女同士だと!? 俺様も"そういう輩"は散々見てきて知ってるけどよ!! 黒巫女ちゃんはダメだぜ!!
待っててね? 黒巫女ちゃん!! 俺様が必ず元剣聖の魔の手から救い出してみせる!!
軍議も進み俺様の予想通り黒巫女ちゃんが不憫な思いをしている事が発覚。
元剣聖が黒巫女ちゃんを酷使していやがった!
命懸けの戦場に連れ出しただけで大罪だぜ!? 黒巫女ちゃんは確かに強そうだ。あの冒険者達の一件で認識できなかった速度。只者じゃない事くらい見ればわかる。
問題は"報酬"だ。
無給で修練だと? 完全に実戦じゃねぇか!! 舐めてんのか? 戦場の恐ろしさを元剣聖のてめぇなら嫌って程わかってるだろうが!
これは一刻も早く黒巫女ちゃんを救わねぇと....そうだ! この遠征軍が終わったら新婚旅行に行こう!
親父とお袋は温泉がある土地に行ったらしいからな....ここからだと....一番近くて【アンエ村】か?
何もねぇ寂れた村だが....つまり"一日中そういう事をし放題"って訳か!! ククク....任せてくれよ? 黒巫女ちゃん!
翌朝。夜間警戒もこなして部下達を激励。
こういう小さな配慮の積み重ねが人徳を産む。親父も言ってたからな。
レンバルト殿と装備の手入れや陣形の相談をして元剣聖の下へ。
チョコンと座った黒巫女ちゃん。
思わず溜息が出るくらいに可愛い。目が合うと微笑んでくれるんだぜ? やっぱり俺様に気があるんじゃねぇか? そうだよね? そう思うだろ?
しっかしこの元剣聖が邪魔だな!!
美人の癖に美少女趣味だと!? 天幕も2人きりで特別待遇だ。俺様は部下達と同じ天幕で雑魚寝だっていうのによ!!
ぜってぇいつか倒してやる....黒巫女ちゃんを離しやがれっ!!
「ヴァルカン殿! 我等聖騎士は右翼を担当します」
「俺様達は左翼を」
「そうか。わかった」
聞いているのか聞いていないのかすらわからない飄々とした態度。
黒巫女ちゃん手作りのパンに挟んだ食事を口にし食べてやがる。
俺様達は配給の不味い固焼きパンと野菜の端切れが入ったスープだけだったんだぜ?
やっぱり気にいらねぇ.....
「がんばってください!」
立ち去り際に愛しの黒巫女ちゃんが『べーぐるさんど』とか呼ぶ料理をくれた。
さっき元剣聖の野郎が食べてたヤツだ。
しかも俺様を激励してくれたんだぜ? なんっつう優しさ! 可愛い事を言ってくれるじゃねぇか!
「美味ぇ....」
脳内で黒巫女ちゃんと色々妄想しながら食べてやったぜ!
俺様と2人で小さな天幕。朝までしっぽりと....
あ、やべぇ....鼻血出そうだ....
『あなた? 朝ごはんできましたよ?』
『ハハッ! 今日も美味しそうだな?』
『もちろん♪ 私の愛が詰まっていますから♪』
『まったくおまえは...』
『うふふ♪』
『朝食の前に――』
『も、もう! あなたったら♪』
なんてな!! ウヒャァァァ!! たまらねぇぜ!!
「....副長は病気か?」
「いや....発作だろ?」
「とてもじゃないがこれから戦地へ行く顔じゃねぇな」
「ま、いいんじゃないか? イライラしてるよりかはマシだろ」
「おうおう? 子爵家の三男坊様は余裕だな?」
「その呼び方いい加減やめろよ!」
「ははは! 冗談だよ! 頼んだぜ? "戦友"!!」
「ああ。基本を忠実に、だな」
「相変わらず真面目だなぁ」
「正しいからな。生き残るぞ?」
「「「ああ!!」」」
俺様が居なくても立派にやれるじゃねぇか。
そうだ。士気を落とすなよ? それは命を落とすと同義だ。
俺様達は誇り高き皇帝陛下直属の騎士。
エリートの近衛騎士だ。こんな場所で死ぬんじゃねぇぞ?
帰ったら酒の一杯も奢ってやろう! なんたって俺様は最高の気分だからな!
ファオーンと出陣のファンファーレが鳴り俺様達は進軍を開始。
最も危険な中央に陣取った元剣聖と黒巫女ちゃん。
正直、超心配だ。
いや強いのはわかってる。忌々しい元剣聖は俺達よりも格上だ。義兄妹の剣騎達よりずっと上のな。
そして黒巫女ちゃんも恐らく強い。近衛騎士団副長の俺様がそう思うんだ。俺様と同格か、あるいは....
「(お前達、俺様の後に続けよ?)」
「(何するつもりですか?)」
「(いいからやればいいんだよ)」
「「「「「(((((へいへい)))))」」」」」
部下へ小声で告げて突剣を抜剣。
高く掲げて視線の合った黒巫女ちゃんに誓いを立てた。
「貴女の為に勝利を!!」
大声で叫び部下も続く。黒巫女ちゃんも笑ってくれて大満足だぜ!!
「来るぞ! 第一列前へ!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
進軍を始めてまもなく、猪頭鬼の集団と遭遇。
所詮は下等な魔物。俺様達の敵じゃねぇ。
いなして斬り付け隙を見て突き殺す。
疲労したら片手で合図。第二列と交代させて戦闘継続。
やる気が漲って来るぜ!!
今の俺様に敵う魔物はいねぇ!!
邪魔をするんじゃねぇ!! 下等な魔物風情が!!
「ちょっ!? 副長!?」
「ウォォォォォォ!!」
突き出した錆だらけの鋼鉄の槍を蹴り上げ心臓を一突きに。
そのまま蹴り付け吹き飛ばし次の相手も突き崩す。
「俺様に続けー!」
突剣の護拳で殴り前進。
しばらくして第一戦闘も終了。
所詮は雑魚。此処から先が俺様の本領を発揮――
「っ!?」
頬に奔る激痛。囚われていた思考が戻り周囲を見回す。
一人の部下が倒れ傍に黒巫女ちゃんが!?
「俺様は何を!?」
「さっさと謝れ」
元剣聖――ヴァルカン殿が俺を正気に戻してくれたらしい。
どうやら舞い上がっていた。いや、久々の実戦で興奮しちまったか。
くそぅ!! 副長の俺様がこんな状態でどうする!!
「....すまなかった」
頭を下げて部下へ謝罪。
悪いのは俺様だ。俺様が調子に乗ったから怪我した。
黒巫女ちゃんが――黒巫女様が居なければ、こいつは戦力外で本陣へ戻り治療を受ける羽目になっただろう。
ひいては皇帝陛下の風評も悪くなる。聖騎士達は無傷。そのくせ近衛騎士が真っ先に敗走なんてしたら....
「いいですよ、副長。おかげで黒巫女様に治して頂けました」
「なんだと!? 俺様も怪我を――」
「ワザと負傷するなら、野営地へ戻って他の治癒術師の方に治療して貰って下さいね?」
「すみませんでした!!」
つい羨ましいと思っちまった。
だってよ? 可憐でキュートな黒巫女様が俺様を癒してくれるんだぜ?
しかもだ! 白銀製の防具が良く似合う....生太股を剥き出しとか....作ったヤツは天才じゃないか!?
触りてぇ!! あの絶対領域を俺様の手で汚してぇ!! 無垢な黒巫女様を俺様が!!
「はぁ...副長?」
「...なんでもない。すまねぇ」
「信頼してますからね?」
「ああ。任せろ!!」
小休止で妄想が爆発しかける。部下が気付き忠告してきた。
本当にどうかしちまってるとしか言い様がねぇ。
だがもう大丈夫だ。ここは戦場。黒巫女様は確かに超絶に可愛い。今すぐ食べちまいたい。
平気だぜ。それは後の"お楽しみ"だ。まずは生き残ろう。当然お前達も生き残れよ?
再び進軍を開始し基本原則に則った戦闘を繰り返す。
下級な魔物しか出て来ない。森も奥深く日差しも届かない。
昨夜のヴァルカン殿と黒巫女様の言葉が思い出される。
『疼く感覚』『そうですね』
確かに何かありそうだ。既に魔境へ到達している。
斥候役に今朝到着した第2級冒険者達も順次報告を寄越す。
皆一様に『怪しい』と言いやがる。俺様もその通りだと思うぜ?
「フフフ....」
その時だ。ヤツの声が聞こえ上から降りて来やがったのは。
白い髪に赤い双眸。黒いドレスに蝙蝠の羽を生やして尻尾まで着いてやがる。
コレが魔族。俺様達の天敵。
ビンビン伝わって来やがる。本能が『逃げろ』と叫んでる。
「(副長....)」
「(いつでも動ける様にしておけ。何があるかわからねぇ)」
「(わかりました)」
レンバルト殿がヤツと会話中に小声で応答。
人を見下した視線。バカ貴族にソックリで吐き気がするぜ。
「喧しいぞ」
「いいわ...アナタ....とてもいい....フフフ....退屈していたところよ? さぁ!! 始めましょう!!」
なんだと!? どういうことだ!? 周囲の警戒をしていたはずなのに、いったい何処からこいつ等は現れやがった!?
不味い....お前達!? 呑まれるなよ!?
「「ウッ!?」」
案の定恐怖に囚われ吐き出す部下が数名。
恐怖は伝播する。エリートだろうがなんだろうが、身内が一人でも呑み込まれたらたちまち――
「騎士達よ!! 騎士の誓いを思い出せ!! 我等が護る者の為!! 死力を尽くせ!!」
その時だ。危うく俺様も呑まれそうになった瞬間、ヴァルカン殿の叫びが、勇気を、希望を齎したのは。
元剣聖。勇ましい姿に力強い鼓舞。心が、魂が奮えた。
そうだ! 俺様達は騎士! 弱きを助け悪しきを挫く強き誇りを胸に宿す皇帝陛下の剣!
さぁ! 行くぞ! ここで奮い立たなくてどうする!
「「「「「オォォォォォォォォ!!!!」」」」」
即座に円陣を組んで各個迎撃。大物の緑巨人をレンバルト殿が引き付けた。
ありがたい。俺様達の武器は突剣と突槍。後者ならば太刀打ちできるだろうが基本的に対人の訓練しかしていない。
大物相手は荷が重い。わかっていてレンバルト殿が買って出てくれた。
「突槍は温存しておけ。聖騎士達に回す」
「「「「「ハッ!!」」」」」
囮部隊の聖騎士達が一番消耗するだろうからな。
長方大盾と突槍の連携が崩れれば、俺様達は一溜まりもない。
すまない....だが、感謝する。一番辛い役目を頼んだぜ!!
「グッ...アアアアア――」
やべぇ!! 盾持ちの聖騎士が暴食人鬼の餌食に!!
不味い! 不味い! 不味い!!
「ふざけんな!!」
上空に投擲された突槍。激高した聖騎士だ。
暴食人鬼に突き刺さるもヤツはまだ健在。外皮が硬い。数本投げたくらいじゃダメだ。せめて急所を――
「ウゥオオオォォォォ....」
風を斬る音が聞こえた瞬間、暴食人鬼の頭が吹き飛び後続の緑巨人を巻き込んで薙ぎ倒す。
何が起きたかわからねぇ。見れば黒巫女様が悲痛な顔で涙を流し伸ばしていた手を握り締めた。
アレをやったのが黒巫女様か? ありえないだろ....何をどうやったらあんな事ができるんだよ....
「行くぞカオル!」
「...はい!」
立ち止まる黒巫女様を引き摺り走り始めたヴァルカン殿。黒巫女様もすぐに持ち直して駆けて行く。
尋常じゃねぇ。少女になんて事をさせてやがる。悲しむヒマがねぇのはわかる。
ここは戦場で戦死者が出た。俺様だって悔しい。だけどよ....ヴァルカン殿.....あんた....黒巫女様に何を教えてんだよ....
「ハァァァァ!!」
「シッ!」
息の合った2人の攻撃。黒巫女様はまたあの吹き飛ばし技を連発し、行く手を遮る魔物を殲滅。
向かう先は合成獣。体躯10m越えの一番ヤバイヤツ。
俺様が知る知識で中級の魔獣。大昔から存在し、地下迷宮の階層主なんかしてる。
初めて見たが...アレは強い。だからヴァルカン殿が向かってるんだろ? でもよ。やっぱり納得いかねぇよ。黒巫女様....泣いてるじゃねぇか....
「副長!?」
「....数名連れて突槍を聖騎士に渡して来い。この場は俺様が死守する」
「「「はい!!」」」
聖騎士の一人がまた殺られ、遊撃役のレンバルト殿も苦戦している。
指揮に専念してる場合じゃねぇ。俺様もやる事やらねぇと。
突剣を抜いて醜悪鬼と猪頭鬼を血祭りに上げる。
さっさと終わらせて緑巨人を殺るぞ。ヴァルカン殿の姿を見てみろ。炎奔らせる魔法剣。噂通り、魔法剣士だったか。
「立ち止まるな!! 行くぞ!!」
「「「「「おうっ!!!!」」」」」
続く激戦。部下も何人か殺られた。アルがよく言ってやがったな。『攻撃3倍の法則』。
『物量の前に個人の力量は関係ない』とかよ!!
「知った事か!! こっちの方が士気は高けぇんだよ!!」
突き刺し折れた突剣片手に護拳で殴り武器を奪って斬り殺す。
ボロボロの片手剣は数回打ち合わせただけで折れやがった。
「クソッ垂れ!!」
投げて猪頭鬼の顔面に刺さり怯んだところを蹴り付ける。
落ちてた突剣....借りるぜ? お前の想いを背負うからよ!
「へへ....副長がキレた...」
「勝つぞ!」
「ああ....これ以上仲間を失う訳にいかねぇからな....」
「ルフレオ....仇は任せろよ!!」
「オラァァァアアア!!」
魔物1体に対して2人で連携するように指示。
聖騎士達と合流させた部下はそのまま向こうで戦闘開始。
いける!! もうすぐだ....もうすぐ終わる.....
「ギャァァァァアアア!!」
何処かから飛んできた矢に射られ、醜悪鬼共が崩れ落ちる。
見上げれば斥候役の冒険者。来てくれたのか? ありがてぇ!
「押し切れ!!」
「「「「はい!!」」」」
好機を逃がさず殲滅。緑巨人もどうにか倒せたか。
聖騎士....片田舎の騎士風情だなんて思って悪かった。今では微塵にそんな事を思っちゃいねぇ。
あいつらは騎士だ!! 俺達と同じ誇り高い騎士!! さぁ殺ろうぜ? 残りはその合成獣だけだ――
「アハハハハハハ!!」
声高に嗤う女の声。見上げた先に魔族の女が。
忘れちゃいねぇよ。忌々しい天敵め。
待ってろ? すぐにてめぇも殺してやるからよ!
「楽しい余興だったわ.....死になさい....」
うそ...だろ? これが魔鏡か? この薄汚れた灰色の鏡が魔鏡だって言うのかよ!?
「フフフ....さようなら」
そうして姿を消した魔族の女。残された魔鏡が皹割れていく。
何かが映り込む。なんだ? 遠くて見えねぇ。
魔鏡のすぐ近くに居る黒巫女様の顔が真っ青だ。いったい何が見えるんだよ。
「ドラゴン!?」
ヴァルカン殿が叫び、同時に魔鏡を割って這い出た魔物。
20mを越える巨大な存在。赤い鱗に翼を生やし、蜥蜴によく似た成りをしてやがる。
ははは....嘘だろ? おとぎ話じゃねぇんだからよ。ドラゴンなんて居るはずねぇ。
上級の地下迷宮の奥深くに座し、決して出てこねぇ存在だろ?
こんな街近くの魔境に現れる代物じゃねぇんだよ。せいぜい小翼竜がいいとこだ。
誰か....嘘だと言ってくれよ.....
「グォォォオオオオオオオオオオ!!!!」
耳を劈く咆哮。紛れもなくアレはドラゴンだ。
ふざけんじゃねぇ! 万全な状態で人数集めて勝てるかどうかわからねぇのに、疲弊した俺様達で相手なんてできるはずねぇだろ!?
くそっ!! せめて黒巫女様だけでも生き延びて――
「カオル!! 追え!! アイツは街へ向かった!!」
は? ヴァルカン殿は何を言ってやがる? アンタが合成獣すら倒せていないのに、黒巫女様がドラゴンに勝てる訳ねぇだろ?
冗談は止めてくれよ。そんな事、黒巫女様にできるはずがねぇ。
「うああああああ!!!!」
大絶叫して"空を飛んだ"黒巫女様。
飛び去ったドラゴンを本当に追い掛けた。
「真剣かよ....魔術師じゃねぇか!!」
希少で貴重な存在。【聖騎士教会】が抱える治癒術師なんて目じゃない。それが"魔術師"。
あの吹き飛ばした技の正体も魔法だろう。ヴァルカン殿が弟子にしている理由がわかる。
だがよ? 黒巫女様はまだ子供だ。人死にを見て泣いていたじゃねぇか。
そんな状態でドラゴンを相手にしろ? 無理に決まってるだろ? 死んじまう。俺様の黒巫女様が死んじまう。
追わねぇと....俺様が黒巫女様を護らねぇと....誓ったんだよ....『貴女の為に勝利を!!』ってよ....
騎士の誓いは守る義務があるんだ...しかも街に向かってる? 【オナイユの街】の先に....帝都があるじゃねぇか!!
「やばい....やばい....やばい!!」
ギリギリと鳴る握った拳。
ボロボロの突剣の柄が砕け、血を垂らしながら震える。
部下のアンソニーが慌てて止めるが.....
「しっかりしてください!! 今は目の前の敵を殲滅しましょう!!」
部下の叱咤で意識を戻した。
今の俺様がどんなに走って追い掛けても間に合わない。
わかってる。わかってるけどよ。それでも俺様は何かしなきゃおかしくなっちまいそうなんだよ!!
「....合成獣倒すぞ」
「「「「「おう!!」」」」」
亡き戦友の武器を手に、俺様は走り出した。
サブキャラの方が筆の進みが速いという・・・・・
まぁ、ノリノリで書くからなんですがね。