間話 師匠回想その六
2016.9.13に、加筆・修正いたしました。
忌々しい魔族の女と対峙し、魔鏡を割ってドラゴンが現れた。
あの魔物図鑑が正しければ中級竜種の火炎竜。
この邪魔臭い合成獣より断然格上の相手だが――ハハハ! カオルならば倒せるさ!
なにせドラゴンの契約者。最上級竜種の絶大な力を持つ存在。実際魔法戦で私はカオルに敵わないからな。
そもそもの魔力量が段違いだ。足止めだけでも問題無い。
さて、私もやる事をやらないといけないな。
カオルの師匠として私の力を示さなければならない。
レンバルト達もよくやった。死した者の想いは私達が継ぐ。
国は違えど私も同じ騎士で元剣聖だからな。騎士の誓いは忘れない。
「クッ!?」
「グガァァアア!!」
ウザイ鬣だな.....魔法剣すら通用しないとは....
だが、鬣さえどうにかできれば私の攻撃も通じる。
鋼鉄製の武器ではダメだ。継ぎ接ぎの山羊の胴体すら傷付けられない。
しかしどうする? レンバルト達も合流したがたった1体の合成獣相手にこうも苦戦を強いられるとは。
「ヴァルカン殿!!」
「....わかった」
レンバルト達が囮をしてくれるそうだ。
ならば私は――
「毒蛇に気を付けろ!!」
「「「「「はい!!」」」」」
聖騎士の連携に呼応する近衛騎士。
なんだ? 立派に連携が取れるじゃないか。
対魔対人。基本は違うがこうして息の合った攻撃ができるならば両国は安泰だな。
「ウォォォォ!!」
「副長に続けー!!」
「「「おお!!」」」
突剣を手に突撃し注意を引き付けるレオンハルト。
レンバルトが毒蛇の相手をしている間に私の攻撃も開始だ。
白刃刀...我が愛刀....数多の戦場を共に駆け抜けてきた相棒。
また借りるぞ? お前の力を!
「《火炎球》」
無詠唱で放つ火球に隠れ、私は合成獣へ疾駆する。
《火の魔法剣》を発動し燃え盛る白刃刀で毒蛇を斬り落とす。
「「「「さすが!!」」」」
称賛の言葉は倒してからだ。油断するなよ? お前達。
「ハッ!? 咆哮が来るぞ!!」
「させるかっ!!」
「俺様も行くぜっ!!」
息を吸い込んだ仕草。次の瞬間、合成獣は炎を吐き始める。
そこでレンバルトが駆け込み顎を打ち上げ上空を焼く。レオンハルトが好機を逃がさず突剣で左目を突き刺す。
やるな...だが2人共武器を失った。大剣も突剣も限界だったか。
「団長!」
「ああ!」
「副長!」
「任せろ!」
死した仲間の武器を手にやる気を漲らせる2人。
お前達も受け継いだのか。私も答えよう。唯一覚えている技の名でな。
「数秒耐えてくれ!」
「「「「はい!!」」」」
引き続き囮を頼み精神統一。
息を吐いて呼吸を整え気と魔力を練り上げる。
久しぶりに使うな....いつ以来だろうか....カオルにすら見せた事が無い奥義。
抜刀術の<抜打先之先>。
数瞬の溜めが必要だからな。単身で使う為に習熟が必要だ。
ま、私ならば容易に使える。後が控えているしな。さっさと終わらせてカオルと合流しよう。
あの火炎竜をカオルが倒せているかわからない。私はできると踏んでいるがな!
「ウォォォォォォォ!!!!」
死角から地面を蹴り上げ疾駆する。
納刀状態で漲る力の傍流を纏い迫力に驚き騎士達が離れる。
それでいい。今更こいつが気付いても遅い。死ね! 合成獣!
慌てて振り向き上体を反らして威嚇する合成獣。
時既に遅く私は抜き放った。
辺りが明滅する程の閃光と吹き上がる炎。
気と魔力の融合技。魔法剣士にしか使えない奥義。
鬣が斬れない? 魔法剣だけならそうだった。
だがこれは魔法だけじゃないんだぞ?
お前はもう斬られた。さっさとその事に気付け。
「グォォォォォォ!!!!」
断末魔を上げ別たれる上半身と下半身。
グシャリと地面へ倒れトドメの唐竹。頭部から顎まで切り開き、合成獣は命を失った。
これでいい。まったく手間を掛けさせてくれる。
死した者も多いが良い教訓になっただろう。
無念を引き継ぎ強く成れ。私も決して忘れない。
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」
勝利の雄叫びをあげた騎士達。
涙を流し仲間と強く抱き合った。
そこに聖騎士や近衛騎士なんて垣根は無い。
共に死闘を乗り越えた戦友の姿。
命を落とした者へ触れ『仇は取ったぞ』と呟く者。
私が掛ける言葉は無い。威力偵察は重要な事だった。私が合成獣を抑えなければ被害は拡大していた。
必要な事だ。誰かが悪い訳じゃない。誰か一人でも欠けて居れば勝てなかった可能性もある。
『よくやった』
心の中で呟き、レンバルトとレオンハルトにこの場を任せた。
冒険者も来て居たからな。後衛の弓矢、助かったぞ?
「悪いな。私はカオルを追い掛ける」
「お任せ下さい。幸い周囲に魔物の気配はありません。我々も撤収します」
「あ、ああ」
何か言いたげなレオンハルトは無視だな。出会った時からカオルに熱視線を送っているヤツだ。
カオルも嫌そうに私へ逃げて来る。カオルは超可愛いからな。誰にも渡さん!!
《飛翔術》で空へ飛んで行き野営地の異変にすぐ気付く。
モウモウと上がる煙。やはり襲われたか。火炎竜の目的は【オナイユの街】ひいては【エルヴィント帝国】の帝都を狙ったもの。
あの魔族の女は帝国を狙った。同じ中級に属する合成獣と火炎竜だが、竜種は別物だ。
なにせドラゴンなんておとぎ話の代物。
上級の地下迷宮の奥深くへ行けば居るかもしれんが....そこまで辿り着ける者が居るかどうか....
私も中級程度は踏破できる。だが上級は格が違う。
単身の私では無理だろう。カオルが居て相応の準備をすればなんとかなるか?
フェイとロリババァが居ればまぁなんとか。そんな事はどうでもいいか。
今はとにかくカオルと合流しなければ。火炎竜がドラゴンゴーレム並の強さだとしたら苦戦しているだろうからな。
私が助けに――
「なんだこれは!?」
本陣のすぐ近く。そこに下半身を尾を残して焼け爛れた火炎竜だった骸が横たわる。
魔物図鑑によれば火炎竜は熱に強く竜燐は小翼竜を越える強度を持っていたはずだ。
その耐熱性に優れた存在を、こともあろうに焼き殺したのか!? いったいどうやって!?
「オイ!! なにがあった!!」
「け、剣聖様でしたか。驚かさないで下さい」
天幕の消火活動をしていたギルド職員を捕まえ事の顛末を聞いた。
突如飛来したドラゴンに奇襲されて何人もの冒険者が命を落とした。
迎撃もしたが歯が立たず、全滅すると思ったその時に黒巫女――カオルが飛んで来て戦闘が始まる。
紅蓮の咆哮を浴びて落とされそれでも必死に起き上がり再戦。
魔法で竜巻を起こし光輝く剣で翼を切り落として地面で対峙。
再び咆哮を喰らうもカオルは魔法で退け黄金色の雷線でドラゴンを倒した。
「本当か?」
「は、はい! 黒巫女様は泣きながら私達の為に戦って下さったんです!」
「そうか。それで? カオルはどこだ?」
「全身傷だらけでお倒れになりしばらく気を失われていて...今は野戦治療所へ運ばれたはずです」
「わかった。忙しい所悪いな」
「い、いえ!! 黒巫女様には感謝を。剣聖様もありがとうございます!!」
「ああ....」
目眩がしそうだ。咆哮を喰らった? いくらあの装備でも只では済まない。『落とされた』のではなく吹き飛ばされたんだろう?
見ればわかる。立ち木が一直線に薙ぎ倒されているからな。良くて火傷に骨折。悪ければ即死。私はカオルの力を過信していたか?
いや、再戦できたくらいだ。吹き飛ばされながらなんとか急場を凌げたのだろう。
『竜巻』は前にカオルから聞いた風竜の力か。『光輝く剣』も《雷の魔法剣》。咆哮を退けたのは《風の障壁》辺りだな。
最後の『雷線』。降り落ちる《雷鳴刃》を直接打ち出す《雷光線》。なんだ立派に戦えたじゃないか。
そして風竜....ドラゴンの契約者は流石に格が違う。最上級竜種が格下の中級竜種に負けるはずがないからな。
だが、怪我を負ったのは事実だ。きつく説教をしなければいけない。大方会敵後に咆哮を喰らったのは慢心していたからだろう? いや、頭に血が上って見失っていたか。初めて人死にを直接みたのだからな。
教えられた野戦治療所。
道中数えるのが嫌になる程の骸を見た。
焼け焦げ姿を維持できない者。出血から生気を失い青白い顔をした者。身体の部位が欠損し、死者達が身を寄せて並べられている。
何度も見た光景。剣聖時代は数多くの死者と対面した。私の手で殺した者も多い。
4桁を越える命を奪った私の手は、やはり汚れているのだろうか?
カオルの傍に居ると忘れてしまいそうになる。
あの笑顔がどれだけ私を癒してくれたか。
今では存在そのものが私の生きる理由。カオルの為ならなんでもできる。自らの命すらも....私は....
「カオル!?」
治療所の一画にカオルは居た。
傍にカイとメルの姿もある。そしてカオルが纏う柔らかな光。治癒魔法か? 対象はエリーだろう。簡素なベットに寝かされ治療を終えたばかりの様で静かに寝息を立てている。
まったく...人の心配をする前に自分の身体を治療しろ! 全身傷だらけで左上腕は特に酷い。動かないんだろう? 無茶ばかりして――
「あ、ああ、あああああ!!!!」
「どうした!?」
他の治癒術師がカオルを指差し震える。
私がカオルを見直した瞬間――カオルは吐血し倒れた。
「カオル!? おい!! 返事をしろ!!」
慌てて抱き起こしすぐにわかった。
冷たい身体。弱々しい鼓動。このままでは....カオルが死ぬ。
「治癒術師は!?」
「ま、魔力がもう無いのです。黒巫女様も魔力減少で....それなのに....禁呪を....」
「禁呪だと!?」
「知らないはずなのです。誰も知ってはいけない魔法なんです!! アレは高位の治癒術師のみに教えられ、『決して口外しないように』と【聖騎士教会】でも極一部の者にしか伝えられない禁断の魔術!! 高位の治癒術師にしか使えないはずなのです!!
私は母から始めの一小節のみを教えられて知っていました。けれど――黒髪の巫女様は治癒術師の登録を済ませたばかりなのに...いったい誰が.....」
「カルアか?」
「ありえません。カルアは確かに代々治癒術師の家系です。けれど高位の治癒術師なんて今は存在しないのです」
「そんなモノを何故カオルが....いや、今は詮索する余裕はない。その禁呪の効果はわかるか?」
「はい....命を魔力に変換させて補ったのです.....」
「『命を魔力に』? それでどうなる?」
「.....術者は死にます」
カオルが死ぬ? 笑わせるな。カオルはドラゴンの契約者。風竜の加護を受けた存在だ。死ぬ訳がないだろう? そうだよな? カオル?
「俺のせいだ...俺がカオルに無理を言ったから....」
「私がエリーを見失ったから....代わりにカオルが....」
「そんなバカな事があるか。カオルは死なない。私が死なせはしない」
私を置いてカオルが逝くものか。その時は一緒だ。私はカオルと共に居る。『ずっと一緒に』と誓い合った。
そのカオルが勝手に独りでなんて――
「カオルが救った命だ。必ずエリーを連れて来い。わかったな?」
「「は、はい」」
「では行こうか? カオル」
抱き上げてその場から飛び去る。向かう先は【オナイユの街】。まだ心臓は動いてる。彼の地には治癒術師が居る。カルアならばカオルの治療をしてくれるだろう。
その間に私はカオルを救う手段を模索する。死なせないからな? カオルはずっと私と一緒だ!
ありったけの魔力を消費して《飛翔術》で【オナイユの街】へ向かう。
死ぬなよ? カオルは私の全てだ。
速く....もっと速く.....私は倒れてもいい....もう少しだ....頼む.....
街の上空を飛び去る私へ多くの者達が驚きの声を上げる。
返り血を浴びて抱き抱えるカオルがこんな調子だからな。構っているヒマなんてないんだ。
「カルアッ!! カオルの治療をしてくれ!!」
礼拝堂の前に降り立ち扉を蹴破り叫んだ。
一刻の猶予もない状況。こうしている間にもカオルの鼓動が弱々しくなっている。
感じるんだ。私の腕の中でカオルが逝こうとしているのを。逝くなよ? カオルが逝くなら私も一緒だ!
「何事ですか!? か、カオルさん!?」
「ニコル司教!! カルアを呼んでくれ!!」
「あらあら~? いったいどうしたのかし...ら....」
併設された治療所から顔を見せたカルア。
普段は柔和な顔が凍り付く。ニコル司教が大慌てで治癒術師を掻き集め、カオルの治療は為された。
「....とりあえず奥へ。ニコル司教様?」
「わかっています。治療所を一時閉鎖します! 治癒術師は全員支度を! 休暇中の者も召集します! 遠征軍に合流しますよ!」
「「「はい!」」」
慌しく職務を行なう【聖騎士教会】。私はカルアと共にカオルを連れていつかの部屋へ。
ベットで眠るカオルは生気も無くいつ止まってもおかしくない鼓動。
身体的に治療はされた。そのはずなのにカオルは死に掛けている。
これが禁呪の効果なのか? 『命を魔力』に変えるとはどういう意味だ?
「なにがあったの?」
「....禁呪を使ったらしい」
「禁呪?」
「居合わせた治癒術師が言っていた。『命を魔力に変換させて補った』とな」
「命を魔力に....ありえないわ!? カオルちゃんが《生愛》を使えるなんて!? そんな!?」
「取り乱すな!! カルアは知っているのか!? 知らないと聞いたが!?」
「....ローレライちゃんね? おねぇちゃんは知らないフリをしていたの」
「アイツの名前は聞いていない。どうでもいい。知っているなら教えてくれ!」
「いいわ――」
そうしてカルアから聞いた話しは理解に難しい。
カルアの両親は戦場を駆け巡る治癒術師だった。当然多くの者達を治療して周り効率的な治療方法を探した。
辿り付いた魔法が《生愛》。生命力を魔力に変換し治療するという代物。
遠く離れた相手すらも治療できる高位の治癒術師が失われてから300年以上。
伝聞で伝わっていた禁断の魔法もカルアの両親の手で呪文は完成。同時に術者が死ぬ事も判明。
使い物にならない事がわかり封印を施し本棚へ隠した。
それを両親の死後にカルアが見付け危険性から『知らないフリ』をしていた。
「けれど使えないはずなの」
「高位の治癒術師ではないからか?」
「そのはず...なんだけど....」
カオルを見詰めるカルアの瞳。
どうやら同じ考えに到ったらしい。
「カオルちゃんが回復魔法を使うと風が吹くの」
「普通は光るだけだからな。おそらく...」
「ドラゴンの契約者の力」
風竜が力を貸しているんだろう。ドラゴンゴーレムとの戦闘でもカオルを護ったらしいからな。
「それに伝聞だと術者は砂のように消えてしまうって――」
カルアの発言を聞いた瞬間、辺りが暗闇に包まれる。
ベットを残し漆黒の闇。まるでカオルの髪に酷似した空間。
いったい何が起きた!? これはまさか!?
「グルル」
身震いする程の存在感。見上げればそこに頭を擡げた1頭のドラゴンが。
緑色の巨躯。50mを越える大きさ。
ベットで眠るカオルを護る様に身体を丸めて包み込み私達を黄金の瞳が見据える。
「お前が....風竜か?」
「そうだ」
発する言葉に重圧感が篭る。
火炎竜まして合成獣なんてモノを遥かに凌駕する存在。
これが最上級竜種。とてもじゃないが勝てるような代物じゃない。
全身の毛が総毛立つ恐怖。こんな感覚は産まれて始めてだ。
「我が姿を現した意味は察しているだろうな?」
「....カオルの命を繋ぎ止めてるんだろう?」
「そうだ。幼子のカオルは願った。『命を捧げてもいい』とな」
「バカな!!」
約束したはずだ!! 『ずっと一緒にいる』と!!
それなのにカオルは自ら望んだのか!? 私を置いて独りで逝くと!!
「嬉しかったそうだ。エリーという娘と、メルにカイ。『友人ができた』と喜んでいた」
「だからエリーを救う為に自分の命を使ったのか!?」
「そんな!? エリーちゃんの為にカオルちゃんが犠牲になるなんて!!」
「早まるな。我がカオルの命を繋ぎ止めている。今は"仮死状態"。生きているが死に掛けている。いつまでもこの状態を維持できぬ。
そこでお前達にカオルの命を託したい。他でもない妖精種のエルフのお前達にな」
頭が割れそうだ。仮死状態? 今は何とか生きているがそのうち死ぬのか? 私のカオルが?
「エルフの私達.....っ!? "霊薬エリクシール"!?」
「ふむ....どうやらカルアの方が冷静なようだな?」
「ふざけるな!! カオルがこんな状態で冷静で居られる訳がないだろう!!」
「ハハハ!! カオルが慕う訳だな? ロ――ヴァルカンよ。『家族』を救う術を見付けよ。それまで我がカオルを護り続けよう」
希薄になる風竜の身体。漆黒の空間も元に戻り、窓から夕陽が差している。
風竜がカオルを護るなら、私もカオルを護ってみせる。『家族』なんだからな!! 勝手に独りで逝こうだなんて、私は許さないぞ?
だから待っていろ。必ず起こしてやる。私のカオル。寝顔まで可愛いやつめ。
「剣聖様? いいえ、ヴァルカン! やるべき事をやりますよ! いつまでもカオルちゃんに触れていてズルイの!」
「なんだと!? 私はカオルの家族だからな! 当然の権利だ! たとえ眠っていようと――こうして口付けても問題無い!」
「ズルイ!! おねぇちゃんもキスします!」
「あっ...」
私の認識速度を一瞬超えて、カルアがカオルきゅんに口付けを!?
眠るカオルきゅんに卑怯だぞ!! 私はいいんだ! 家族で師匠だからな! 当然の権利だ!
「カルア!? おまえ!!」
「うふふ♪ おねぇちゃんもカオルちゃんの家族だもの~♪」
したり顔でおどけるカルア。
どうやらまたも同じ考えか。
「はぁ....私達はどうしようもないな」
「そうねぇ♪ カオルちゃんにメロメロよぉ~♪」
カオルの頬に触れて微笑む。希望がある。カオルが元に戻る希望が。
あの風竜が託したんだ。やろう。だが霊薬エリクシールは....
「【エルフの里】がどこにあるか知っているか?」
「おねぇちゃんの伝手を使ってみるわぁ....」
私達は何代も前に森を出たエルフ。
多くの恵みを齎す森への感謝を忘れた事はないが、神聖な【エルフの里】の場所を知らないで生きてきた。
遡れば祖先は【エルフの里】の民に辿り着くだろう。しかし私達は知らない。
カルアが言う『伝手』を頼ればわかるかもしれない。【聖騎士教会】の枢機卿ならばあるいは――
「まぁ私の方がカオルと長く暮らして来た。カルアよりもカオルの事をよく知り好意も上だな」
「おねぇちゃんだってカオルちゃんとお風呂にも入ったもの! 一緒のベットで寝た事もあるのぉ!」
「ハハハ!! 私はカオルきゅんから口付けをされたんだぞ?」
「おねぇちゃんも初めてを捧げたのぉ!」
「カルア....お前その歳で.....」
「べ、別に好きでこの歳まで結婚しなかった訳じゃないのよぉ?」
「私もそうだが.....」
睨み合いから一変して、お互いの傷を舐め合う雰囲気に。
機会はあったが私の琴線に触れなかった。告白やらラブレターやら散々されたり受け取ったが面倒臭かった。
中には大貴族の侯爵家から声が掛かった事もあるが――
「カルアも一応それなりに美形だろう? 言い寄る男が多かったんじゃないか?」
「そういうヴァルカンもそうでしょう?」
「まぁそうだが....」
「お互い様なのよ?」
「お互い様だな」
「うふふ♪」
「ハハハ!!」
緊張の糸が解けた私達。しばらくカオルの頭を撫でて自然と笑みが零れていた。




