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第二百九十五話 集めに集めて

「じゃーん! ボク登場! 早速だけど、オダン呼んで?」


 復旧中の宮殿の真ん前へ降りたボクとノワール。

 作業員の邪魔にならない様にど真ん中に降りた訳だ。

 何故ならそこしか円形浮遊型魔法具(エレベーター)で降りられなかったから!


「く、くく」

「九々?」

「黒巫女様だー!!」


 猛然とダッシュを始め宮殿内へ駆ける兵士。

 作業員達は茫然とし、数名足場から落ちて――《魔透帯(マジックラルテオビ)》で掴んで降ろした。

 危ない....危うく死亡事故に....安全帯を着けようね?


「カオルヮゥ!」

「あ、オダン!」


 ワッサワッサと尻尾を振って豪華な衣装をどこから持ち出したのかわからないけど....アラビアンな感じで似合ってるよ?

 孤高の種族、天狼族のオダンよ。王になっても武器を手放さない姿勢は尊敬だ! ボクも手放さないけどね。


「約束通り迎えに来たよ? それで従者は誰を連れてくの?」

「エリックとマレクだヮゥ」

「ふーん....」


 無能な武閥の軍務大臣マレク・ド・レイム。ボクが王なら即切り捨てる人物だけど、オダンは重用するんだ。

 そして隣に控える人間(ヒューム)の男性。内務大臣のエリック・ル・ファスね。

 サラッと読んだけど――ふむ。野心家ではないし従順だね。オダンを王と認めてる。

 ボクを見て怯えてるマレクよりは余程有能だよ。やはり文閥が力を持ちそうだ。


「ま、いいか。荷物は?」

「ココヮゥ」


 魔宝石付きの腕輪を指差し笑うオダン。

 第1級冒険者にしてボクと同じ魔法剣士だからね。《魔法箱(アイテムボックス)》を持ってる。


「お付きの2人も荷物はそれだけでいいんだね?」


「「は、はい!」」


 怯えてるなぁ...エリックも。ボクの格好は白い"ミリロリ"姿なんだけど。

 いや、ノワールに怯えてるのか? 朧月を擦りながらずっと嗤ってるし。

 抜かないでね? 危ないから。


「ん~――じゃ、行こうか。ノワール? 飛空艇出して」

「ふふふ....そうね♪」


 一瞬周囲に漂う魂を視て、まだ淀んでいない事を確認。

 紫苑の一件もあったからね。よーく視て読んだよ。この子達は愛する人を見守ってる。

 悪霊として括られる事を望んで居ない。来世で合おうね? みんな。

 だからあと1週間ちょっと傍で見守っていてあげなさい。

 別れの時は盛大にしてあげるから。


 影からヌプヌプと――いつ見ても沼みたい――飛空艇が現れ、オダンとマレク、エリックの2人も乗艇。

 ボクもノワールと共に乗って....ヤツはまだ動かないのか。


「お兄様?」

「いや、この前来た時に威圧しておいたんだけどね。どうやら『掛かって来い』って事らしいよ」

「そう....ふふふ....大した度胸ね?」

「そうだね...張っ倒してやらないと」


 偽りの火竜王バハムート。"魔王サタン"よ。もうすぐ倒してやるからな....





















 オダン一行を乗せて大空へ。王国民は手を振り見送る。事前にオダンと通信用魔導具で話しは着いていたおかげで混乱はなかった。

 それにしても砂漠地帯の熱気は凄いね。太陽神アポロンとして言います。照り返しが目に痛いです。

 ま、《聖闘衣(セントプグナクロス)》を着てるし飛空艇は障壁を張ってるから平気なんだけど。

 せいぜい眩しいくらいか。それも艇内へ入っちゃえば関係無い。

 ボクとオダンが歓談してても終始怯えるマレクとエリックはどうにかならないものか....

 そして怯えてる元凶はやっぱりノワールだった。なにせ朧月を抜いて手入れを始めてるから。

 拭い紙に打粉、油に油塗紙と....さては薊達に教わったな?

 試し斬りもまだしてないんだから汚れるはずもないのに....むしろ手入れ不要な緋緋色金(ヒヒイロカネ)なんだけど....


「ふ~ん。オダンが不在の間はジスランに任せてきたんだ?」

「そうだヮゥ。あいつは優秀ヮゥ」

「エリックも有能でしょ?」

「わ、私ですか!?」

「うん。オダンが連れて来たくらいだし。で、マレクは"今後に期待したい"って事かな?」

「あまり虐めるなヮゥ」

「オダン陛下....」


 ふむ....忠誠を誓い愛国心は強い。ただ無能なだけか? どれどれ《雷化(グロムアラギ)》と神力で深層意識を――


「なぬ!? マレクもエリックも嫁が4人も居るの!?」


「「エッ!?」」


 これはびっくり! アゥストリですら3人なのに....しかも子供の数が二桁越えてるぞ....

 野球チームか!? これはもっと働いて稼がないと子供がひもじい思いを....

 なにせ役職こそ在れ、職権も地位も剥奪済みだ。

 元の爵位に返り咲かないと将来大変な事に....


「文閥のエリックは大丈夫だろう。財務大臣のジスランが宰相ヨゼフより実権を握ってるし。問題はマレクだ....お前頑張らないと子供が飢え死にするぞ....」

「は、はい! 心を入れ替えて励みます!」

「だねぇ....オダンがなんで武閥をそのまま残したのかわかったよ。死んでしまったけれど、貧民街(スラム)の子供達に援助してたのマレクとオダンじゃん」

「そうだヮゥ」

「え、ええ....先王をお諌めできなかったばかりに、あんな事になってしまいましたが....」

「後悔と償う気持ちがあるなら今後に活かせ。今回の【エルヴィント帝国】訪問が終わったら、弔いは皆でするべきだ」

「はい! 必ず!」

「私もですぞ!」

「エリック殿....」

「私も子を持つ身ですからな...それに私も責はあります...」


 今後の【イシュタル王国】は当面安泰だねぇ。有能な文閥と無能な武閥。

 オダンが王で居る限り、彼等は手を取り合い王国を支えるだろう。

 となるとオダンの後継を考えないと...カーラに会わせてどういう反応をするか? かな。

 ノワールとボクの予言だと――


「ふふふ....楽しそうね? お兄様」

「まぁね~♪ ああ、ノワールの紹介がまだだったね? 彼女はボクの半身で妹」

「ノワールよ。カオルはオダンに敬意を払っているから名乗る事にするわ」

「オダン・エ・イシュタルだヮゥ」

「やっぱり王家名はそのまま継ぐんだ?」

「混乱が起きない為ヮゥ」

「それもそうか。で、エリーシャと"話し合いは着けてある"。【イシュタル王国】と【カムーン王国】の講和条約の締結。わかってるね?」

「もちろんだヮゥ。カオル? ありがとうヮゥ」

「お礼なんていいよ。ボクの盟友オダンだからね。【聖騎士教会】からの援助も――明後日には到着する感じかな」


 スフィアを起動して所在確認。

 【城塞都市アヌブルグ】を出発して総勢50名近い荷馬車の集団が砂漠地帯を横断中。

 早く飛空艇を巡航させられるようになるといいね。

 問題は山積みだけど.....大型化して燃費と乗員の確保に発着場を造らないと。

 その為に武術大会を利用する。

 各国の代表が一堂に会する良い機会だから。


「さてと、エリーシャ?」

「はいは~い♪ エリーシャよぉ~♪」


 通信用魔導具で繋げた相手。言葉が軽いなぁ...女王よ....


「もう見えてるだろうけど――って魔鳥2羽が飛んできた」

「うふふ♪ ブレンダちゃんとフェイちゃんよ~♪」


 剣聖2人でお出迎えとは....まぁいいんだけどさ....


「マレクとエリック。禍根は捨てろ。これから先、【イシュタル王国】と【カムーン王国】が戦う事は無い。万が一の場合はボクが許さないからな。わかったか?」


「「はい!!」」


「カオルちゃんったらぁ~♪ 私にも言ったつもりなのねぇ~?」

「当然。エリーシャならわかってくれると思っていたからね」

「もぅ~♪ そんな嬉しい事を言って~♪」

「何を勘違いしてるのかわからないけど、ボクはエリーシャを娶らないからな!」

「うふふ~♪」


 笑って誤魔化すな! ノワールも嗤いながら朧月をこっちへ向けるな! なんか怖いぞ!


 かくして魔鳥に跨る誉れ高き剣聖2人に誘導されて、飛空艇は【カムーン王国】の王都へ着艇する事に。

 しかも王城の真ん前。大通りを横切る感じで邪魔以外の何物でもなく....

 一瞬【オナイユの街】でボクがやらかした光景を思い出した。

 ブレンダとフェイの小言も....『まったくまた派手にしおって』『これが攻めて来たら....』なんてね?

 飛空艇に驚いてはいけない。むしろ背後からずっと後を着けて来てる香月夜(カグヤ)に驚くべきだろう。何故なら無音な上に魔科学迷彩で見えないからね! オソロシヤー!


「で、なんだこの歓待は」


 事前に来訪を告げていたとはいえ、雛壇のごとく3段重ねのオーケストラ達。

 王家の3人に煌びやかな赤いドレスを纏った女性が1人。おそらくオーケストラを背にしている事から歌い手なのだろう。

 というか、マリアが見つけ知ってる人物。

 首から提げた代物は"暗示(シグニフィ)魔導具(カーティオ)"で、歌姫(ディーバ)のレデリーヌ。

 王族貴族問わずファンが多く、鼻っ柱も強い。ボクを凌駕する"我が侭"さんである。

 自慢気に鼻を鳴らしやがりましたので、《雷衝撃(グロムイムプルスス)》で魔導具の内部を破壊。

 さーて化けの皮が剥がれるゾー....バカメ。


「栄えあるカムーンおうこくに――」


 エリーシャが目配せ演奏が始まる。

 そしてオーケストラ一同が困惑顔。だって、普段のレデリーヌからは考えられないほどにヘタクソな歌声。

 音程も音階もそんなモノなどどこへやら。要するに物凄く音痴。

 気付かなかったのだろう? その紛い物の歌姫(ディーバ)が今まで騙していたのだからね。


「嘘っ!? なんで!? こんなはずじゃなかったのに!!」


 さーて王国の名誉を傷付けた責任はどうやって取るんだろうね?

 演奏も止まってしまったし、周囲は王国民で溢れ返っている。

 ボクはさっさと無視してエリーシャと密談。


「まぁ乗っちゃってよ。オダンも待ってるし」

「....そうねぇ♪」

「ご一緒します!」

「(コクン)」


 泣き喚いて『今日は喉の調子が』とか言い訳してるけど無視だ。欺いた責任を取りなさい?


 そして女王以下3名と侍女3名。あとは別の昇降口からこっそり乗艇させる人影。

 政商決定のオルブライト一家と、晴れて商業ギルドに雇われたシャローナ率いるハンナ一家。ついでにエイミーとカレンとカーラだ。

 フフフ....鍛冶ギルドの職員キャリーには悪いけど、既に商業ギルドはボクの言いなりなのだよ.....権力はこうして使うものさ!


「それじゃ出航!」


 剣聖のブレンダを残し、エリーシャ、ティル、エメを乗せて飛空艇は浮かび上がる。

 甲板から王国民へ手を振る3人は実に王族らしい。エメも立派に勤めを果たしてるね。

 フェイは魔鳥で随行するの? 後で甲板に乗りなさい。魔鳥も疲れるから。


 盛大な歓声を受けつつ王都を離れた。

 級友の姿もチラホラと――ヤバイ!? ララノア学長と目が合った!! 満面の笑みを浮かべて手を振ってる!? 助けてノワール!!


「ふふふ....」


 微笑で返されました。アレは『囲ってしまえばいいのよ? お兄様』って言ってる目だ!

 年齢を考えろー! これ以上増やすなー! ヤメロー! ハッ!? 頼れるローゼが居ない....連れて来れば良かった.....


 しばらくして永年の敵対国家は調印を結んだ。

 相互不可侵条約なんてものじゃない。和平条約の締結。

 今後は物資のやりとりもするし、渡航も自由に出来る。もっとも、【カムーン王国】に比べて【イシュタル王国】に産業と呼べる代物もないし観光スポットも『オムニスの地下迷宮(ダンジョン)』しかない。

 これからが大変だけど、オダンなら大丈夫。なにせボクが手を貸すって約束してあるからね。

 ちなみに二カ国の調印式に立ち会ったのは【聖騎士教会】臨時名誉司教の香月カオルです。なにこの取って付けた様な役職....建国したら返上するからいいんだけど。元々治癒術師として所属してるし。


「で、エメは定位置に座るのね?」

「(コクン)」


 甲板と呼ぶ名のサンデッキにビーチチェアを設置して寝そべるボクに跨るエメ。

 いやらしい意味ではなく、じゃれている。なにせ公にしていないだけでちゃんと"婚約"してるから。

 エメの左手にはまる婚約指輪を羨ましそうに見詰める母娘は無視した方が無難だろう。


「さて、こうして【カムーン王国】と【イシュタル王国】は無事に仲直りもできた訳だ。次にオダンがしなければいけない事はわかってるね?」

「.....」


 オルブライト一家とハンナ一家。エイミーとカレンは下層の3等室と4等室から出て来ない。というか、遠慮しているらしい。

 王族のエリーシャ達と『同じ場に立てる身分じゃない』とかなんとか。実にどうでもいい。

 そこでかねてから紹介したかったオダンの同族カーラだけを呼んでご対面。

 ココから最上部の特等室と1等室は丸見え。エリーシャとティルも見てる。侍女の3人は....見覚えどころかフェリスに指導してくれたエイネちゃん30歳と他2名。名前は知らないけど給仕はしてもらった記憶が...


「オダンだヮゥ」

「あたしはカーラ....あんた...強いね」

「第1級冒険者だヮゥ」

「そうなの!? すごいじゃない!!」


 ふむふむ...あのオダンが普通に会話できてるねぇ...

 そして強者を認めるカーラはなんだかアマゾネスみたいだよ? さすが希少種の天狼族だ。

 この調子なら放っておいても良さそう。

 あとは2人の想い次第。オダンも気に入ったみたいだし恋に発展するといいねぇ。


「主様!」

「ティル? ボクは主様じゃないと何度も言ってるよね?」

「でも!!」

「うふふ♪」

「ふふふ....」


 エリーシャとノワールの嗤いが被ると怖いんだけど!? ヤメロー! 押し付けるなー!


「エリック殿?」

「そうですな....実に初々しい。まるでかつての自分を見ている様ですな」

「確かに....これはオダン陛下も満更ではなさそうですな....」


 【イシュタル王国】組みの2人もカーラを認めたか。

 包み隠さず明け透けにものを言う子だからね。正義感も強く、裏表も無い善い子だよ。

 家格も『天狼族だから』で済んでしまう。

 しかし話しの内容が格闘術についてなんだが....戦闘狂か? 天狼族。

 いや、国難を救ったオダンの武勇はちょっとマリアに調べさせて聞いたけどさ。

 その国難は蠍型の魔獣3万匹にも上る。

 それをオダンを含めたった3人の準1級冒険者が退けた。他の2名は死力を尽くした結果亡くなったけど。


「紅茶をどうぞ? オダン王、カーラ"王妃"」

「んヮゥ」

「あ、あたしはそんな王妃だなんて....」


 凄いなぁ...エイネちゃん。外堀埋めて来てるよ? 早くない?

 サラっとエリーシャ付きの侍女3人も深層意識まで読んで無害だと確信したけど、エイネちゃんは恐ろしい子だねぇ。

 なにせカーラは現在【カムーン王国】の王立騎士学校に通っている生徒で国民だ。

 そのカーラとオダンが婚姻を結べば? 今後【カムーン王国】側が有利に交渉事を進められるだろう。

 実際【イシュタル王国】に残る人口は少ない。事を起こせば確実に壊滅するからね。

 わかっていて先手を打つ。だけど、忘れてるねぇ...ボクの存在を。

 【イシュタル王国】へ対して悪辣な事をすれば制裁するから。

 【竜王国(ドラグーン)】の王としてそれは許さない。


「で、フェイはいつまでそこでいじけてるの?」


 魔鳥君はファルフと一緒にクルクル回るプロペラを眺めています。

 何が面白いのかわからないけど、和気藹々なので微笑ましい。

 一方、魔鳥君と一緒に着艇したフェイはずっと体育座りでブツブツと呪言を紡いでいるのです。

 ボクの大好物な三角耳も垂れ下がり、尻尾も可愛らしさを失い床をたまにフラフラと....


「....ヴァルが姫だった」

「そうだね。ローゼは亡国【マーショヴァル王国】の直系、紛れもなくお姫様だね」

「....しかも未来の王妃」

「うん。ボクと結婚するからね。ローゼの子はボクの王国を継ぐ。エメとの子供はまだわからないかな? 結婚時期も2年遅いし」

「(コクン)」


 可愛い子じゃのぅ。アイナと仲良くするのじゃぞ?

 なにせアイナは女神アルテミスの末裔。

 王家よりも貴き血筋じゃ。血筋なんてどうでもいいけど。血は赤い!


「ハッ!? 私もカオル様と結婚すればいいのね!!」

「いきなり"さん付け"から格上げされても困るよ?」

「ふふふ....回っているわね? お兄様♪」

「いやいや! 確かにフェイの犬耳は最高だよ? でも、だからって娶るのは違うんじゃないかな? ほらフェイの気持ちもあるし――」

「うふふ♪ いいのよぉ~? カオルちゃんが"その気"なら♪ 私とティルちゃん、エイネちゃんもね~♪」

「あ、主様が望まれるなら...」

「はい♪ 夜伽でしたらいつでも♪」


「「わ、私達も是非ご一緒に!!」」


 .....これは拷問の類でしょうか? 何故名も知らぬ...いや、読んで知ってるけどさ。

 エルフのリリアナ22歳とホビットのジョジット21歳だろう?

 娶らないよ! なんだ!? 百人単位で嫁に来る気か!? 養えるけどヤメロー!!

 次代の【竜王国(ドラグーン)】の国王が困るだろー! 周りが全部血縁者とか、『どういう事ですか!?』と怒られそうだ! 我が子に!


「はいはい、保留保留。お? 見えてきたね~♪ アレがボクの国――じゃなかった、香月伯爵領の【ソーレトルーナの街】だよ~♪」





















 ササッとエリーシャ一同を降ろしてオレリーお義母様と居残り組みのナターリエとサビナに迎賓館へ案内させて、オルブライト一家とハンナ一家ついでにエイミー、カレン、カーラも第3防壁に建築したオルブライト邸へ。

 案内役にフランとアイナに人形(ドール)達。オルブライトがあまりにも立派な住まいに燃え尽きて居たけど、マリリンとヒルダが笑顔だから大丈夫だろう。

 『温泉が湧いてるんです』『美容(エステ)術もあるんですよ?』とフランが説明した件で女性陣が嬉々とした表情だった。

 もちろんフランとアイナはボクの婚約者として紹介した。

 メイド服姿の2人を見て闘志を燃やしたセシリアは、本気で愛人になるつもりか? やめてください。もう間に合ってます。


 って訳で、オダンには悪いけどカーラを置いて帝都へ向かう。

 わざわざアーシェラとアラン財務卿、アゥストリが出迎えてくれてオダンとマレク、エリックの3名は、新生【イシュタル王国】初の【エルヴィント帝国】へ外交に訪れた。

 まぁ、オダンはアーシェラと面識があるし大丈夫だろう。迎賓館の新任侍女さん方も読んで確認、普通の人だ。

 なにかあったら外交問題どころじゃ済まないからね。ボクが許さん。

 敢えてあげるとするなら不安要素は――早くて土曜の夜か、日曜の昼に到着予定の【ババル共和国】一団くらいかな?


「それでじゃな? カオル」


 なんとなーく不吉な予感を感じつつ、アーシェラからの質問。

 聞けばソフィアとエルザ、イルゼとヒルデを含めた薊達、元【ヤマヌイ国】民が一騒動――いや数十騒動か? を起こしたらしい。

 もちろん非はこちらにまったくない。薊達にちょっかいを掛けて来た愚か者を制裁したそうだ。

 『無頼の輩が』云々と、それはそれはご丁寧に説明し香月家の紋章布(きしょうふ)を出してペンダントで身元も明かした。

 非の打ち所が無い程に潔い。朱花は強いなぁ....全員の脚と腕の関節を外したんだって。

 支脚全部ね? 骨を折ってない。ボクは『1本くらいなら~』なんて言っておいたけど。優しいね?


「自業自得でしょう。ボクのモノに近付けばどうなるか、帝国民もよく理解したんじゃないんですか?」

「そうなのじゃが.....手練れじゃのぅ.....」

「まぁボクの私兵ですからね。"それなりの強さ"を身に付けさせますよ。"全員"」


 学校の生徒も含めてね。自己防衛くらいできないとボクが安心できないから。

 過保護じゃないよ? 花嫁修業に辛い修練も加わるんだ。でも、いつかその時が来たら...『やっててよかった』って思うはず。

 目の前で我が子が殺される様な惨状を、二度と経験させてはいけない。


「では次にお会いするのは月曜の朝ですね?」

「うむ。開会式は9時からじゃ。その時じゃろう?」

「はい。その予定です」


 建国宣言も同時にするからね。途轍もなく派手に演出するよ♪ 丁度月も満月だ。

 フフフフ....過剰な演出に登場の仕方。今から待ち遠しいねぇ♪


 アーシェラはオダンと正式な歓迎セレモニーを行なう。

 皇帝と国王だ。面目を潰さない為にそういうやり取りも重要。

 本来ならば帝国貴族の伯爵位を賜るボクも参列するところなんだけど、諸事情により不参加。

 一応オダンへ謝罪の書簡を送り、式典を辞する。


 ぶっちゃけ今の帝国は表向き平常を装ってるけど、内実ゴタゴタ中。


 アゥストリとアラン財務卿がこっそり教えてくれた。

 例の辺境伯家が蜂起しようとしていたからね。帝都在住の元武閥の愚か者も粛清済み。

 御四家の公爵が兵を送り、彼の地を占有中。有能なデルバリーの実母と継母が即座に対応を決め、無血開城――だから城じゃないって――。

 罪状は複数ある上に当事者は病死。証拠を集めて懲罰やら寄り子の男爵家やらを罰するそうだ。男爵家は汚名を被って3家中1家が改易だってさ。

 有能な家臣、陪臣、家族、領民はそのまま次代のデルバリー辺境伯が受け継ぐ予定。

 そう説明して周ってるから混乱は少ないみたい。よかったね。


「あ、そうだ。アゥストリ?」

「なんでしょうか?」

「てい!」


 後退した薄毛君を活性化させてハゲメンからイケテル壮年の男性へ。

 使った魔法は《聖治癒(リブリサナティオ)》。

 生きる者ならなんにでも効く良い薬です。


「「なんと!?」」


「クハハハハ!! やればできるものだ!!」


 実際、薊達で治験は終わってるんだけどね?

 彼女達は口と鼻ごと頭皮まで焼いてしまっていたから。

 思い出すだけでイラっとする。止めよう。ノワールも止めてくれたし。


「ではサラバだー!」

「ま、またですぞ! 我が友カオル殿!」

「今度は私も頼むぞ!」

「はーい♪」


 アラン財務卿も髪が心配なお年頃?

 でもホビットのくせにモッサモッサだよ?

 もしや顎鬚にチャレンジしたいのか!

 時々ヴェストリ外務卿の顎鬚毟ってたし!

 男らしさの象徴やねぇ....子供のボクにはわからないけど。


 帰国後、ローゼとエリーに構ってもらいに修練場を訪れたらフェイとローゼが手合わせしてた。

 しかもルル達と稽古&ボクの猛特訓を経たローゼは、不死鳥(フェニックス)と契約して格段に強くなっている。

 エリーでさえも準1級冒険者足る――ボクの中で基準はローゼ――力量を有していてそこそこ強い。

 そのローゼが大人気無い感じでフェイをいなし続け、白銀(ミスリル)製の斧槍(ハルバード)に炎を宿した火槍的な魔法剣? を楽々と....


「姫のくせになんでそんなに強くなってるのよ! ふざけるな!」

「ハハハハ!! 聞えないなぁ? 負け犬の遠吠えか?」


「「ムキィ!!」」


 いやぁ...エリーもフェイと組んでローゼと対峙してるんだけど....エリーの口癖がフェイに移った?

 な、仲良さそうだからじゃましないでおこう....


「マスター?」

「うん?」

「ルイーゼ達も魔闘技術(マジックアーツ)を覚えて良い頃合かと思います」

「ふむふむ...」


 グレーテル相手に5人掛かりで猛特訓をしている元聖騎士のルイーゼ、ルイーズ、ジャンヌ、シャル、セリーヌ。

 剣盾持ちのジャンヌを主軸に攻撃&遊撃役をルイーゼ姉妹が担い、後衛の弓持ちセリーヌが牽制しつつ指揮。

 時折ルイーゼ達に混じって槍持ちのシャルが突き入れジャンヌの負担を軽減させてる。

 まぁ、全ての攻撃を避けてやり返してるグレーテルが可愛い――じゃなくて、強い。

 未熟な人が天使に勝てるはずないしね。


「じゃぁ覚えさせちゃって。人手が必要なら手伝うから。エルミア1人じゃまた怪我しちゃうし」

「いえ、ローゼにも手伝わせています」

「あ、そっか」


 すっかり忘れて....いなかった。


「カオル様? 薬草園と茶畑を造っておきました」

「おー! エルミアありがとー♪」


 これで医療用の各種薬草とハリアーシュ領並の美味しいお茶がいつでも手に入る!

 果樹園に続きこれは嬉しい限りだねぇ♪


「ではお約束の――」

「あとででいい? 政商のオルブライトとか説明しておきたいし」

「ご一緒します。アレでは私の猛特訓もできません」

「....確かに」 


 長いなぁ...あの3人。ローゼが大人気無い。二刀でフェイの攻撃もエリーの攻撃もいなし続けてたまに反撃してる。

 強いからねぇローゼ。おそらく純粋な人として最強だと思う。人外のボクやノワール、守護勇士よりは弱いけど。比べるだけ野暮か。


「じゃ、行こう? 紹介もしたい」

「はい。未来の妻ですから」

「そうだけど、何故張り合うのかわからない....」

「ふふふ....お兄様と同じ、嫉妬よ?」

「ダロウネ」

「離しません。カオル様」

「私もよ? お兄様」


 おかしいな....ノワールはボクのはずなのに....そしてエルミアさん? ハムハムさんになってますよ? あとでって....グスン。


「マスター?」

「うん?」

「ルルも....」

「あーうん。もちろん」


 "家族仲良く"を標語に強く生きていきたいと思う所存です。

 本当に百人単位で嫁ぎに来たらボクの身は持たない....肉体的ではなく精神的に。


 それでオルブライト邸へやって来たんだけど――


「.....」


 燃え尽きてるなぁ....オルブライト。

 そりゃ大商から一気に政商だものね。それも競争相手のまったく居ない唯一の政商だ。

 大型の食堂も6つ用意されてるし、食材の流通ルートもボク経由で確保済み。

 あとは人手だけ集めて、はい終了。

 "女性従業員のみ"っていう制限は付くけどね。しかもボクの面談付き。

 怪しい人物を王国内に住まわせる訳にいかないし。入国すら拒否だよ。

 《魔除動像(ガーゴイル)》が動き出したら.....一大事や!


「カオル様♪」

「マリリンさん。ヒルダさんも」


 オルブライトの妻マリリン。そして使用人のヒルダ。

 政商の件を打診した時に即笑顔で了承していた2人。

 当のオルブライトはこんなだけど、実に頼れる人物だ。


「どうですか? この屋敷」

「ええ♪ とても広くて素敵ですね♪」

「掃除し甲斐があります」

「ああ、人手が足りないならボクの学校の生徒を雇ってあげて下さい。土日は完全にお休みで、午後も日によって半休なので」

「それはそれは♪」

「承りました」

「でも――その必要もなさそうですね」


 湯上がりのセシリア達に混じってハンナの弟アストンと妹のジョアンナが大広間で談笑してる。

 そしてボクが心配しなくても平気だと判断した理由。

 ハンナ兄妹の母シャローナが微笑みながら近づいて来たからだ。


「初めまして。香月カオルです」

「娘のハンナがお世話になっています。シャローナです。この度の事はなんてお礼を申し上げれば良いのか....」

「いえ、ボクがやりたくてやった事ですから。我が侭に付き合わせているのはこちらです。それで? シャローナさんもここに住まわれるんですね?」

「はい。マリリンが『是非に』と....」

「定時で終わるとはいえ、商業ギルドで働く事に変わりはありませんもの。アストンとジョアンナの面倒くらいはね?」

「奥様がお決めになられた事ですから。それに....広過ぎて3人だけで住むのもどうかと....」

「なるほど」


 大きく造りすぎたかな? いや、政商だからこれくらいは必要か。

 家具やその他諸々も設置してあるし、今日から住むのになにも問題はない。

 食材も人形(ドール)が運んでくれるからね。


「ご主人様!」

「ご主人!」


 トタトタとボクに駆け寄るフランとアイナ。

 抱き着こうにもハムハムさんとノワールが居るから困るアイナは可愛い。

 しかし、さすがはアイナ。ノワールを掻い潜りボクの胸元へダイブしてきた。


「あはは♪」

「ん!」


 『ここは私の!』みたいにノワールを威嚇。

 一方のノワールはどこ吹く風と涼しげな顔で受け流す。

 ハムハムさんはいつまでハムハムしているつもりだろうか?

 マリリンもヒルダもシャローナすら目を合わさない。

 いいのかそれで【エルフの里】の王女よ。


「フランチェスカとアイナは先ほど紹介しましたね? この子はノワール。ボクの半身で妹です。それで――」

「....エルフ王リングウェウが息女エルミアです」


「「「エルフの王女様!?」」」


 お帰り! エルミア! こっそり『続きは後でですね』って言わなければ最高だったよ!


「婚約者です」

「ま、まぁ...それは....」

「奥様....」


 チラリとセシリアへ視線を移す2人。

 セシリア達もボクの来訪に気付いているけど近寄りがたい感じ。

 ボクが王に即位するから。ではなく、ノワールとエルミアが放つ雰囲気に呑まれてる。

 魔神と産まれてからずっと王女として育てられたエルミアだからね。そりゃ覇気も凄いさ....


「お兄様? あの子達面白いわよ?」

「ん? またそうやって勝手に読んで――あ、本当だ」


 ノワールに言われた通り面白い事になってた。

 表層意識を読んだだけだけどこれはまた....


「シャローナさん、ちょっといいですか?」

「は、はい?」


 内緒話なのでエルミア達に離れてもらう。

 アイナですらなんとなく意味を察してマーキングしてから退いた。


「えっと、アストンとジョアンナなんですけどね?」

「うちの子がなにか?」

「子供なので将来はわからないですけど....あの2人、結婚する気ですよ?」

「まさか!?」

「声が大きいです。子供同士ですし、ママゴト感覚だと思うんですけど」

「....もしかして私がずっと2人にかまえなかったから」

「それも一因してるかもしれないです。ただ...今の2人は本気ですね」

「ふふふ....帝国では近親婚も認められているもの。何も問題は無いわよ?」

「ノワールは黙ってなさい」

「可愛いんだから。(カオル)

「まったく...それでシャローナさんはどう思います?」


 ちなみに【カムーン王国】は近親婚を認めていない。親子とか兄妹同士とか従兄妹とか。

 貴族家内部で地位や財産の一族外への散逸を防ぐ為に慣習として残っていたから。

 まぁ他家と繋がりを多くして冠婚葬祭で使い、お金を溜めるなって訳だ。

 余剰金があればバカな事を考えて反乱なんて起こしてしまう可能性がある。その為の措置。


 しかし面白い事に【エルヴィント帝国】は許可している。

 こちらは切実と呼んでもいいかもしれない。

 なぜなら旧御五家――現在は御四家(ごしけ)――は、種族が決まっている。

 狐人族・ドワーフ・ホビット・エルフと、選帝侯の公爵家は種族ごとに別れているのだ。

 故に近親婚でもしない限り種族を残す事が不可能な"時代"もあった。家格とかの問題だね。


 生物学的見地から言うと、あまりお勧めはできないという結果が出ている。

 まぁボクは自分で研究した訳じゃないから確実だと思ってない。

 過去に血族同士の結婚を繰り返し、虚弱な人間ばかりが産まれるようになり王家断絶するに至った。なんて歴史もある。

 史実と現実が曖昧なこの世界では関係無いかな?

 劣性遺伝子とか近親交配による弊害とか。

 実際家族内で婚姻して子供を授かる人も居るんだから個人的にどうでもいい。

 家族愛が親愛に変わり恋愛へと推移していく過程も理解できる。

 ボクがそうか? と聞かれたら『わからない』と答える。

 当事者じゃないからね。周囲がどうこう言う前に、本人達が"どう想うか"が重要だよ。

 あとは他の家族が――


「どう思うも何も....」

「普通はそうやって戸惑いますよね。まぁ、2人はまだ成人前ですし様子見しましょう。

 他人の家庭の事情へ口出ししてすみませんけど」

「い、いえ! 教えていただかなければ、後でとんでもない事になるところでした。

 こちらへ"移民"させていただいてよかったです。【カムーン王国】では禁じられていますから....」

「ボクの国もこの件について慎重にならざるを得ません。国民が他国から移民された方々なので。

 ただ、あの2人が本当に望むならば、国王として特例を認めます。ハンナに似てちょっとやんちゃですけどね♪」


 『撃滅』って口にしてたし。誰が教えた言葉なんだか。

 思い当たるとすれば――カレンかエイミー辺りが変な本を読み聞かせた可能性かな?


「こ、これほどまでのご厚意を....ありがとうございます。あ、あの! 私で出来る事でしたらなんでもいたしますので!」

「では、子供と沢山触れ合って下さい。これまで出来なかった事を沢山して下さい。第4防壁には、手付かずの草原があります。散歩でもいいんです。もっと家族の時間を持って下さい」

「はい.....」


 感謝し涙を流すシャローナ。

 隣でノワールが薄っすらと口角を上げて嗤ってる。

 その理由もボクはわかる。彼女は自分の身をボクへ差し出そうと考えていたから。

 節操なしだからってヤメロー! シャローナが33歳だからって押し付けるなー! 『(未亡人よ?)』とか一々脳波を送るな!


「ふふふ....は・ぐ・る・ま♪」

「回していません。至極真っ当なお話です。顎を撫でるな! 頬擦りするな!」

「恥ずかしいのかしら? お兄様♪」

「ハムハム」

「ご主人!」

「ご主人様!」


 なんだ!? 婚約者が一斉に来たぞ!? ボクは何も悪い事はしてないはずだ!

 髪をハムハムするな! 胸を押し付けるな! アイナもいつもより強いぞ! 人前で何してるの!?


「「「セシリー....」」」


「わかってるわよ....負けないから....」

「あたしは応援するよ。想いは届くし報われるからね」

「カーラ....」


 未来の【イシュタル王国】の王妃が頼もしくなってる!? もう決定か! それは喜ばしい事だけど、セシリアは諦めようね?

 級友として! 今後もよろしくお願いします! もう無理だから! 誰か助けてー!


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