第二百九十四話 ノワールには勝てない
「38人!? しかも美人揃いじゃねぇか!!」
帰国し香月夜から新王国民――建前上はまだ伯爵領の領民――を降ろし、新居を第2防壁内の旧光希家の跡地に建てた。
見た目と内部は一部だけ純和風建築の建物で、料理場と入浴場は共同。むしろ【風牙の里】もそんな感じだったらしい。
朱花は一ヶ所に纏められていたからね。なにせ身体が身体だ。他の一族に嫌悪される事を嫌ったのだろう。
でも今日からは違う! 同じ人だ! 見た目もそうだし中身もそうだ! ボクのモノなんだからみんなと仲良くするように!
という訳で例の3カ条。
1つ、喧嘩してもいいけど、殴り合いはダメ。
2つ、イジメはダメ。
3つ、ボクの許可なく死なない事。
を約束させた。納得してくれたよ。ここに居る人はみんな同じ様に頷いて泣きながら『必ず』って言うんだ。
夢物語だなんてわかってるけど、ボクはやっぱり子供で甘いから。希望を持ってお願いするんだ。
「とりあえず、カイ。ガンバレ。メル? 頼まれてた品物を渡しておくよ」
「ありがとうございます♪ カオル様♪」
カイの背中を叩き《魔法箱》経由でメルの魔法鞄へ拷問具を贈り付ける。
大丈夫。正規品じゃないボクお手製だから死ぬような危険は無い。痛いがな!
「それじゃ、行こう? カイ♪」
「いてて!! 耳! 耳を引っ張るなって!」
「うふふ...今日の私は一味違うわよぉ....」
いやぁ....メルの纏う雰囲気がヤバイね。アレはお母様には遠く及ばないけど怒った時のカルアとエルミアくらいの怖さだ。
強く生きろ! カイ! ボクの親友よ! 自分の発言が全ての元凶だぞ!
「さて、今連れて行かれたのはボクの家臣で家令補佐のカイ。連れてったのが家令のメルで2人はつい先週祝言を上げたばかりの新婚だ。
異性を嫌悪しているだろうけど、カイは無害だから大丈夫。見ての通りメルは嫉妬深く強い。むしろ怪しい動きをしたらメルに報告してくれ。たぶん喜ぶから」
「「「「「ハッ!!」」」」」
頼もしいねぇ。朱花の一同は。元第4級の冒険者カイじゃ手も足も出ないし大丈夫だろう。
せいぜい覗きか? いや、ボクは親友を信じよう。犯罪者になんてならないと。
「まぁ腕輪の性能とかは薊達から聞いてくれ。失くすと大変な事になるとか、スフィアはまだ渡せないけどその辺も追々決めよう。
ルイーゼ達もあとで自己紹介するといいよ。精鋭足る朱花のみんなは自分の力に自信があるかもしれない。
でも、ここにいる薊達同様に警護団員のルイーゼ達も強いから。『拳で語る』とか言い出すならボクかカルアが居る時にしてくれ。治癒術師だからね」
「おねぇちゃんに任せて~♪」
「「「「「ハッ!!」」」」」
「「「「「御意!!」」」」」
「忍び言葉はなかなか抜けなさそうか....ま、ゆっくりでいいかな? 薊達の家臣に成るつもりならそのままの方が都合が良いし。
当面の取り纏め役は紫苑に任せる。それと、紅葉と八千代に頼みたい事があるんだけどいいかな?」
「な、なんなりと!」
「なんでもいたします!」
ズイっと迫るな! びっくりしたよ! ローゼ達の視線が怖い!
「2人を"薬師"として召し抱えたい。この中で一番野草に詳しい2人だからね。痺れ薬とか、昏睡薬とか、持ってきた薬草の栽培と管理作成をして欲しいんだ」
医療用に使えるからね。アーニャみたいに『我慢!』しなくても昏睡させておけば全身麻酔も必要無いし。痺れ薬なら部分麻酔の代わりに重宝するだろう。
「「大役承りました!!」」
「ありがとう。最初の栽培はここに居るエルミアが精霊魔法で植養してくれるから」
「はい。カオル様の"未来の妻"である私にお任せ下さい」
「「.....」」
何故火花が散っているのかな? いや、ローゼもカルアもエリーもフランもアイナも何してるの?
婚約者なんだからどっしりと構えてだね....
「ハーレムね? お兄様」
「違う! ハーレムはボクも幸せに成るはずだ! なんか雰囲気が違う!」
「ふふふ....は・ぐ・る・ま♪」
「回してないやい! ヤメロー! クッツクナー! 頬擦りするなー!」
「....やはりノワールを先になんとかするべきじゃないか?」
「おねぇちゃんもそう思うわぁ」
「私もね。どう見ても兄妹じゃないもの」
「同意します」
「ご主人様.....」
「アイナも!」
「確かに....」
「過剰な触れ合いです」
「筆頭を倒すには....」
「我等一丸となって事に当たるのが良いかと」
「「「「「......」」」」」
「一時同盟を結ぶというのはどうだろう?」
「そうねぇ」
「それしかないんじゃない?」
「わかりました。不本意ではありますが...」
「わ、私もそう思います!」
「むー!」
「我等朱花も賛同します」
「せめて触れていただきたいです」
「そ、そうね。せ、接吻も済ませたんだもの....愛妾として....」
「紫苑ばっかりズルイもんね!」
「年増の癖に....」
「おばぁちゃん...」
「紅葉? 八千代? 薬師に取り立てていただけたからといって、言いたい放題ね?」
「べっつにぃ」
「怒ると認めた事になるわよ? おばぁちゃん?」
「....そこになおりなさい! 根切りにしてくれる!」
「残念。得物も無いくせに何を――」
「あ、忍者刀なら私が人数分持ってきたよ?」
「「志乃!?」」
「さすがね....さぁ....殺りますわよ!」
「約束守れないなら送り返すよ?」
「「「申し訳ございません!!」」」
やっぱり過激だなぁ。そして志乃は取り出すな! 暗器その他諸々を手渡すな!
やはり第1防壁へ立ち入り禁止にしよう。生徒達に被害が出たら怖い。いや、教育上よろしくない。
あの子達まで武器を振り回す子になったら....ボクは怖くて眠れない! 王宮に引き篭もるよ! 安全地帯だもの!
「それと34歳は老年じゃない。50歳近くておばちゃん。70近くておばぁちゃんだから。忘れないように」
「「「「「はい!!」」」」」
じゃないとカルアがとんでもない事になってしまうからね!
結婚する時30歳だよ? 『老年だ』なんて言われたら泣くよ? 見た目はエルフだから若いけど。
「ああ、ルイーゼ」
「はい!」
「警護団詰め所で彼女達の登録をお願いね。人数多いから手分けして」
「畏まりました!」
「で、身分証の登録ができたら、薊達は明日紫苑達を帝都へ連れてって案内してあげて。和服だと目立つから適当に洋服を見繕っておくよ。馬車使っていいからね? 走って行かない事。
お金は....これだけあれば足りるでしょ」
ジャラジャラっと金貨と銀貨と銅貨を薊に預ける。
総額10万シルド。まぁ日用品とかその他諸々買うだろうからね。諸経費みたいなものだ。
「御意に!」
「それと、武術大会前だからバカな連中が声掛けてくると思う。みんな美人だし。適当にあしらっちゃっていいから。ただし殺さない事。あまり強引なら手足の1本は折っていいよ。香月家の紋章布を預けておく」
ボクの使いだという証拠。複製すれば犯罪だし、高価な素材で出来てるからそもそも複製しようだなんて思わない。
その気になれば商業ギルドでお金を借りる事も可能だ。薊がそんな事しないのわかってるから、その辺は安心だね。
「はぁ...カオルは甘いな...」
「どこかのお姫様のせいでお金に苦労したからねぇ....それに経済を回す為に使わないと。今、ボクの所へお金が沢山集まっちゃって大変な事になってるし。
溜め込んでたら帝国と王国は破産するよ? 商業ギルドが潰れれば各国が経営破綻だね。政治的侵略かな?」
「....すまなかった」
「....おねぇちゃんも甘えてるから」
「....私も」
「....そう、ですね」
「私も――」
「フランとアイナは毎日仕事してくれてるから違うと思うよ?」
「は、はい!」
「ん!」
食事に掃除に洗濯と、毎日家事をして忙しい2人だからね。
「ああ、イルゼ達と相談して道案内をお願いするといいかも。お休みもあげなきゃだし」
「そ、そうですね!」
「ん!」
「御意!」
「護衛はソフィアとエルザを付けよう」
「観光ですわ!」
「いいのか!?」
「うん。だけど...わかってるな? 変な事したらフラウが飛んで行くからな?」
エルザは前科があるからね。そしてフラウの恐ろしさも知っているだろう。
何せ"銀髪の大鎌"さんだ。不思議な二つ名が帝都と【オナイユの街】で囁かれている。
「お、おぅ....」
「マスター! お任せ下さいまし! ワタクシが居ればそんな事は起きませんですわ!」
「まぁソフィアが居れば平気か。監視はしておくから忘れない様に」
「「仰せのままに! マイマスター!」」
朱花はこれで大丈夫。次は2日間のエルミアの頑張りを見て確定した。
やはりエルミアのジョブ、学者は凄い。観察眼に優れ脳内で解析しイメージしたのだろう。
短期間で良くも遣り遂げたと褒め称えたいね。
「連続高速軌道は今後の課題かな? 慣れれば問題無さそうだね」
「はい。戦術の幅も広がりました」
「.....」
自分と差が付いて悔しそうなエリー。
ローゼは魔術師だから必要無い技術だし、"天然"で使えてたりするからね。
「今エルミアが見せたのが魔闘技術と呼ばれる物だ。戦闘技術についてもう理解しているから説明の必要は無いね。
理論立てて創ったのはボク。ヒントはローゼの得意とする気と魔力の混合奥義<抜打先之先>。
人は誰もが魔力を持っている。エリーだって火篭手のおかげで《火炎球》を放てるよね?」
「うん。魔法制御と魔力調整の魔宝石を追加してくれたから、一日2発から10発に増えたもん...」
「そうだね。その魔力と気を融合させて発動させるのが、魔闘技術。エルミアが一瞬で消えた様に見えたのは<縮地>だ。
そして空を駆けた様に見えたのが<天駆け>。気と魔力の足場を中空に作り出して文字通り走った。
つい最近までエルミアの必殺領域は、半径100m圏内だった。それが今や場所を選ばず凡そ十倍。近接格闘弓術を教えたからね。敵に近づいて矢を射る訳だ。
風の魔弓から無尽蔵に放てる《風の矢》を」
もうすぐ魔改造するからさらに恐ろしく....精霊魔法も使えるし、多対一の戦闘もこなせる。
身の危険を感じたら《妖精樹木》を囮にして逃げればいい。
「.....」
「さてエリー? この2日間の調理教育の結果を聞こう。フラン?」
「は、はい! 卵料理は合格です!」
「ほぅ....一番種類の多い料理を頑張ったか」
「だって...カオルはオムライス好きだから....食べてくれるなら好きな物が良いなって....」
「エリー!」
なんて可愛いツンデレさんなんでしょう! もうモフっちゃいます!
猫耳だー! 尻尾もあるぞー! ヤホーイ!
「も、もう! 恥ずかしいでしょ!? や、やめなさいよね!!」
「そんな事言って嬉しいくせに! 可愛いよエリー!」
「ちょ、ちょっと.....もう!」
「....今日は特別だな」
「エリーちゃん可愛いわぁ♪」
「仕方がありませんね」
「私はこの前デートしましたから」
「アイナも!」
ワーイ! ワーイ!
「お兄様? はしゃぎ過ぎよ?」
「むぅ....じゃぁ話を戻そうか。約束通りエリーは料理を覚えた。生まれて来た我が子に教えられるくらいの物をね?
だからボクも約束を果たそう。明日からローゼとエルミアと一緒に魔闘技術を覚えなさい。
エルミアが理論的に教えてくれる。そして、ローゼ?」
「なんだ?」
「ボクに向けて《火の矢》を100本撃ってくれる?」
「構わないが....」
不死鳥と契約してローゼの魔力量は大幅に増えたからね。
初級の《火の矢》程度なら万本単位で撃てる。
中級上級の魔法はこれから覚えさせるつもりだ。
って訳で、ローゼに《火の矢》を撃ってもらいボクが全てを"叩き斬った"。
通常攻撃魔法を防ぐには各種障壁で防ぐか相反する系統の魔法で相殺。もしくは上回る魔法で掻き消すのが常套手段。
魔術師自体が希少だからね。全身鉄鎧で身を固めて大盾で凌ぐ事は可能だけど限界はすぐに訪れる。
例えばグローリエルが得意な《爆裂炎》なんかは障壁以外で防ぎ様が無い。
炎が爆発するから身を焼かれ風圧で吹き飛ばされる訳だ。
でも、爆発する前に現象を感知し破壊してしまえば? 答えは不発に終わる。
対魔術師相手に発揮する伝家の宝刀。それがこの――
「<魔法破壊>だ」
「魔法を斬っただと!?」
「うそ!?」
「すごいわぁ♪ カオルちゃん♪」
「流石はカオル様です」
「びっくりしました....」
「アイナも....」
「だろうね。でも、ローゼはできるでしょ?」
「ああ。だがアレは<抜打先之先>で、数瞬の溜めを必要とする。カオルが今見せたのは....」
「溜めなんてしてなかったわよ」
「うん。でも原理は同じ。刀身に魔力と気を送り"纏い続けた"だけ。鋼鉄製の武器でも可能だし、木刀でもやろうと思えば出来る。まぁすぐに磨耗して両方共壊れるけど。
それで、みんなが持ってる武器は"何で出来てる"かな?」
「そういうことか!」
「そういうことだね。エルミアの持つ魔弓はエリーが持つ黒鉄曜大剣よりも強度が高いから同じ事が出来るよ?」
「そうなの!?」
「知りませんでした」
エリーが使う黒鉄曜大剣は黒曜石鋼の類似品だからね。
魔鉄金属製の風の魔弓に劣るのだよ。
「原理は知った。後は試行錯誤しながら試して欲しい。幸い無尽蔵に《風の矢》を放てる魔弓があるから"猛特訓"はしやすいよね?
ただひとつだけ。エルミアは無理をし過ぎないように。前に爪を割ったんだから気を付けるんだよ?」
「はい。お心遣いありがとうございます。カオル様」
「いいよ♪ それと明後日【エルフの里】へリングウェウお義父様とアグラリアンお義母様を迎えに行くから一緒してくれる?」
「もちろんです。"2人だけ"で行きましょう」
「そ、そうだね。みんな忙しいし」
「「「「「ぐぬぬ」」」」」
何だか知らないけれど物凄い眼力が!?
いや香月夜で行くし、あっという間だよ!?
むしろ明日が大変だよ!?
護衛はノワールとルルとグレーテルに決定してるけど。
「今日は遅いし夕飯食べてお風呂に入って寝よう! エリーのオムライスが食べたいです!」
「まっかせなさい! とびっきり美味しいの作ってやるわ!」
「そう....だな....」
「おねぇちゃんも...何か作るぅ....」
「では私も」
「私もです!」
「アイナも!」
そうして食べきれない量の食事が並び、ボクはウップウップしてました。
耐毒の魔宝石....食べ過ぎに効果は無かった.....おかしいな....
ありがとうございます。オレリーお義母様。胃薬なんてあったんだね? え? 貴族の祝宴で食べきれないくらいの量を『召し上がる必要がある?』
なるほど。行きません。アーシェラもエリーシャもボクが小食な事を知っているので大丈夫です。その他は知りません。
貴族同士のやり取りなんてしません。ボクは国王に成るのだもの。許容範囲で食べます。無理に食べるなんて食への冒涜です。作り手だから言わせてもらおう! 適度に食べろ! 目安は腹八分目だ!
はてさて、ローゼに純銀製の耳飾りも贈ったし、守護勇士一同に地下迷宮踏破記念品の略式勲章――大暑勲章――を授けた。攻略したのが二十四節気の第12、六月やからね?
ノワール用の朧月も柄と鍔に鞘も用意した。
天羽々斬と同じく白漆石木目無反刀身直刀拵えの銀の細工がされた『直刃二重刃紋』の直刀・刃渡り2尺――70cm――。柄糸も白で、兄妹刀やね。
ボクは普段桜花と聖剣デュランダルを左腰に帯びてるから、天羽々斬はいざと言う時しか呼び出さない。
対ゼウス用に温存している訳だ。普段使いなら桜花とデュランダルで事足りる。
しかし、ノワールさんは大喜びで濡れ鴉と朧月を帯刀されてます。ボクと同じく左腰に。
嬉し過ぎて嗤いが止まらないみたいでとても怖いです。影に戻ろうとしません。ずっと隣で嗤ってるんです。
しかも! 護衛にルルとグレーテルを連れて行こうとしたらルイーゼ達が『"猛特訓"相手に寄越せ』と言うんです!
いや、普通に懇願されたんだけどね。ソフィアとエルザが薊達と"帝都漫遊の旅"に出掛けちゃうから指導教官が不在なのです。
いいんだけどさ。向上心があっていいんだけどさ。今のノワールと2人きりは辛い....なんていうんだろう....妖刀に取り憑かれた感じ?
人目も憚らず刀を抜こうとするからね? 危ないから止めさせたけど....影の中でやりなよ。
「ふふふ....影の中だと刀身が見えないでしょう?」
「もっともな意見だった!!」
うぅむ。薊達の誰かを呼び戻す? それは可愛そうか。洋服を沢山作って朱花全員に渡したら大喜びで着せ替えしてたし....ブーツよりもパンプスがいいのね? ふむふむ....
眠れなくて《睡眠》を頼まれたくらいだ。異国文化に興味があったのだろう。まぁ、間違い無く多くの異性からナンパされるけどね。
「平気よ? あの子達に敵う相手が今の帝都に居ないもの」
「まぁねぇ...ソフィアとエルザも居るし.....」
暗部はノワール直轄の部隊だからね。薊達5人の力量はボクよりも正確に把握してる。
紫苑達も一応強い。ボクの寝所に忍び込もうとして、第1防壁付近で人形達に捕まるくらいに。
初日で何してるんだか....そして人形よ、ありがとう! ローゼ達が怒りの大爆発をしなくてよかった! さすがだ!
ご褒美に――
「我が君。イライザ、レーダ著作の書物が欲しいです。新作をもっと」
「なん....だと....!?」
まさかの催促&お言葉!?
ボクに頼めと!? あんなふしだらな本を!?
そんな惨めな思いをするくらいなら....
「はいはい。ボクが書いてあげるからね~」
特製スフィアを起動しササッと短編、長編を書き出す。
な~に、日本おとぎ話の類とシェイクスピアの悲劇『ロミオとジュリエット』『ジュリアス・シーザー』『マクベス』『ハムレット』『リア王』『オセロ』『アントニーとクレオパトラ』。
喜劇に『お気に召すまま』『ベニスの商人』『十二夜』『テンペスト』『空騒ぎ』『じゃじゃ馬ならし』などなど....
写本やね。実物持って来れないから。実物じゃないか....増版本やね。
「スフィア経由で読めるから――」
「我が君!! 素敵です!! ありがとうございます!!」
「あ、うん。みんなで読むといいよ...?」
物凄く喜ばれたんだけど....もしかしてボクと同じ擬似人格だから"知識欲"の塊なのかな?
その新刊を手にした時の様な感覚はわかるけど....人形が見てるのシェイクスピアの詩集....
『恋の始まりは晴れたり曇ったりの4月のようだ』
ふむ....人形もいつか恋をするのだろうか?
「ふふふ...お兄様以外にお相手は居ないわね?」
「ナイナイ。節操なしな自覚はちょっとあるけど、ソレハナイ」
何が悲しくて自分と――
「ノワールがボクじゃん!?」
「ふふふ....そ・う・よ?」
いややー!! 自分が自分を好きになるの!? ナルシスト的な話しじゃなくて物理的に!!
おとーさまー? おかーさまー? ボク、どうなるんですかー? 先行き不安な経済ですよー?
「さぁ行きましょう? 兄妹ので・え・と♪」
「アワワワワワ....」
連れ去られるー!? 香月夜が勝手に円形浮遊型魔法具を!? 操作できるのボクとノワールだけだったー!!
「しゅ、出航です! ポッ」
「ふふふ....」
なるほどねぇ....飛空艇の姿が無いと思ったら、影に呑み込ませていた訳だ。
ルイーゼ達が護衛のルルとグレーテルを"猛特訓"に頼んだのもノワールの策略に寄るものだね?
計画的犯行というヤツだ。
「そうよ? 愛しているもの♪」
「ボクも愛してるよ。妹よ」
「ふふふ....照れているのね?」
「か、カオルさん? 私も構って欲しいのです。ポッ」
「はいはい。わかったからヒッツクナー! ヤメロー!」
「キュルル♪」
「アクイラ!」
助けに来てくれ――た訳じゃないのね?
『構って欲しい』と。了解だよ~....
ファルフも呼んで航空戦艦香月夜の中で大はしゃぎ。草原を飛び駆け、小川で水掛け、森で野生の果物を採取し、あっという間に【イシュタル王国】に到着だよ!
疲れない身体だから良いけどさ! 精神的には疲れるんじゃよ? おじぃちゃんなんじゃよ? 労わってくれてもいいんじゃよ?
木苺がありました。桃も。枇杷も。というか、なんでもあるね!? 野草に果物にキノコに!!
ノアの箱舟やん....不吉な.....
「ふふふ....引き篭もれるわね? ふ・た・り・だ・け・で♪」
「いや、竜樹もアクイラもファルフも居るから」
「も、もう! そうやって落とすんですね? ポッ」
「キュルル♪」
「クワァ!」
竜樹はずっとこのままなんだろうなぁ....世界樹....増やしちゃいけない代物なだけあるね。
まぁとりあえず――降りようか。【イシュタル王国】の【首都アクバラナ】へ。




