第二百九十一話 風牙の里
すいよ~う~♪ 晴天なのだー! 太陽神アポロンを崇めると良い!
さて、水曜と言えばWednesday。日曜を週の始まりをするならば中間日やね。
そして東方教会などでは"灰の水曜日"なんて呼ばれたりもする。
教会暦で復活祭前46日目の水曜日。ユダがキリストを裏切った日であると伝承されたりね。
懺悔の日。死と痛悔。棕櫚の枝などを燃して灰とし、額に十字のしるしを付ける。塗布式だね。
奇しくも今日は水曜日。【ヤマヌイ国】の"風牙衆の長"と"国主"に懺悔させる日な訳だ。
なぜなら薊達朱花の女性達を肉体改造し尊厳を貶めたから。
国内の平定を維持する為に必要だったのかもしれない。
一国を纏めるのだから、『きれいごと』を口にしているだけでは治める事など出来ないだろう。
でもね?
風牙衆の一部の女性だけで構成された諜報・破壊・暗殺部隊。くノ一の朱花は、必要なかったんだよ。
実際、他の素破乱破な者達はほとんどが男性だ。
女中や小間使いとして諜報活動したり、男を誑かしたり。他のくノ一はそういう事をしている。
それなのに朱花は違う。全てをこなす精鋭として"作られた"。
幼い頃から毒物を投与され、成長と共に身体を切り取られ、変装の為と顔まで焼いて。
どれだけ辛い想いをしたか。どれだけの犠牲者が出たか。以前言った様に、遡れば何万人もの女性が....亡くなった。
だから、今日で朱花は生まれ変わる。
これまでの環境が環境だから普通とは呼べないけど、"1人の女性"として生きよう?
望むならボクの下で共に過ごそう。
なに、たった40名程度の老年から幼年の女性だ。ボクの生徒達に危険を察知し退ける術を教えてくれればいいさ。
商人をするのもいい。農民でもいい。薊達の家臣だっていい。
戦いは無くならないけど、"人殺し"はしなくていい。
ボクが手を引いてあげる。自己中心的で我が侭な王様だけどね。
「じゃ行こうか?」
「いえ、あの....」
「私達だけで行くのですか?」
「【風牙の里】は常時周辺を警戒をしていますし....」
「罠も沢山ありますよ?」
「手勢があまりにも違い過ぎて....」
香月夜にローゼとカルア、グレーテルを残し、飛空艇に光希と千影、天音を待機。護衛はルルを付け遥か上空から見守っている。
ローゼ達は竜樹と一緒に管制室からボクと薊達の姿を見られるけど、光希達には見えないだろう。
まぁこの後国主が居わす"明城"へ向かう予定なので、ソッチはみんなと訪ねる。
手始めに【風牙の里】を調略する訳だ。
絶壁の中間を刳り抜いて設けられた【風牙の里】。
普段は滝の裏でけして見えないように隠匿されているその場所。
人口500人の集落で、周囲に罠と警戒要員を配置している。
もちろん全部マリアが視て把握しているし、ボクも読んで知っている。
ノワールが楽しそうに影から嗤っているけど出番は無いかな。
はっきり言ってイライラしてる。なのでキツイお説教とオシオキをするのだ。
愛国心が強く、自ら好んで人殺しをするような輩が居ないのが好印象だね。
『里の為に仕方なく』そんな想いが渦巻いている。
だから、お説教とオシオキで許す。
寛大だよね? ボクって。
「平気平気。常設の見張りは5人分隊が5つと、1時間ごとに歩哨が20人。【風牙の里】の罠も落とし穴。かすみ網、括り罠、トラバサミ程度だし問題無いよ。
場所も把握してる。鳴子は....フフフ....ワザと鳴らしてやろうかな?」
ネタがバレれば玩具みたいなものだ。
規模と危険度がおかしいけれど、ボクに効果は無いし。
落とし穴の中に竹槍とか毒蛇とか危険な代物があろうがなかろうが、落ちなければいい。なんなら土魔法で潰せばいい。
跳ね上げ式の括り罠も先に鋼糸で編み上げたワイヤーを切ってしまえばいい。
トラバサミ...それは狩猟用じゃろう? 巧みに草葉で隠しても見えるよ? 日光は動くんだから。
「....」
「主君が敵じゃなくてよかった....」
「(コクコク)」
「我等の修行っていったい....」
「あっ!? 喜一先生が捕まった...」
「「「「.....」」」」
「ん? コレ、先生? なの?」
エルミアが喜びそうな森の中を歩き罠を避けつつ周囲5キロの範囲を索敵し、引っ掛かった相手を《雷衝撃》で気絶からの《魔透帯》で拘束&宙吊り。
もちろん武器防具の類は徴発――あとで返します――し《魔法箱》の中へ。暗器も当然ね♪
「えーっと....」
「戦闘術を習った先生です....」
「他にも座学で知識とか...」
「薬学とかも....」
「今年30歳の現役なんです....」
「ふ~ん」
現役忍者ねぇ...情報によると、風牙衆を頂点に炎牙衆、雷牙衆、氷牙衆などなど大小沢山の忍びが居るそうな。
中には『ただの足軽じゃないかな?』なんて集団も居たりして...名前だけか。
この様子だと、影から国主を護る"御庭番"もあまり期待できなさそうだなぁ...
「50人弱ってところかな」
全身黒尽くめの忍び装束姿の男性達。
中空に纏めて浮かべられ、手足もダラリと垂れ下がる。意識が無いから当然だけど...弱いなぁ....
まぁ認識外から奇襲されればこんなものか。魔術師相手だし。ボク、一応強いし。
「で、崖を登るのね?」
「...はい」
「それも修行なんです....」
「『駆け登れ』と教えを受けて....」
「我等忍びは常に修行を....」
「なんですが....飛ぶんですね...」
「面倒だし?」
飛空艇から降りた時と同じ様に薊達の身体を《魔透帯》で持ち上げ【風牙の里】へ到着。
滝の横に隙間があってそこから出入りするのが『いつもの通り道』だそうで。
捕らえた彼等はワザと滝で濡らしてあげた。
それでも起きないとか....修行が足りん! みんな纏めてお説教とオシオキだね!
人に教える前に自分を鍛えろー! ノワールがずっと嗤ってるぞー!
「な、なな、何者じゃ!?」
「あっ! うめじぃ!」
初老近い老年の男性。
忍び装束ではなく、普通の和服....ちょっとおしゃれな着流しか。
袴を履いて略礼装。羽織りを着て礼装。なので小粋なお爺ちゃんやね。
「その声....薊かの!?」
「そうだよ! うめじぃ!」
「うちらも居るよ?」
「うめじぃは、相変わらず雅だね!」
「副頭領やもんね」
「頭領が服に無頓着だから...」
ふむふむ。『うめじぃ』こと、梅吉が副頭領なのね?
で、薊の祖父が頭領で里の長だと。表向きは普通の集落だからねぇ....田畑もあるし、屋敷も建ってる。
立地がアレなだけで、普通に暮らしてる人もそこそこ...牛をどうやって持ってきたー!? 畑を耕してるんだけど!?
成人男性の3倍近い大きさの牛君が! アレか!? ソレも修行か!? 崖を駆け登り持ち上げたのか!? すごいよ!
「なんじゃと!? 薊だけでなく、香澄に小夏に早苗...柚もか!? ど、どど、どうやったら"そんな身体"に!?」
「うめじぃ落ち着いて。慌てると身体に良くないよ? もう歳なんだから」
「まだ50じゃ! 老いぼれてなど居らん! 目もよう見えるわ!」
「確かに見た目も若造りだし、50歳には見えないね? 肉体年齢も若そうだ」
筋骨隆々やからね。仕込み杖とかちゃっかり持ってるし。
「し、しし....」
「獅子?」
「漆黒髪じゃと!?」
「うん。綺麗でしょ? お父様とお母様譲りなんだ♪」
「パタリ」
「「「「「うめじぃー!?」」」」」
なんだこの三文芝居は....死んでないよ。わざわざ『パタリ』とか言ってたもん。
昨夜の光希は無言で気絶してたからわからなかったけどね!
だからノワールは『(ふふふ....言い訳して可愛いんだから。私)』とかいちいち脳波を送ってくるなー!
梅吉っちゃん――ボク命名――を叩き起こしてとっ捕まえた忍者もようやく起きた。
錯乱しなかったのは心身共に鍛えていたからこそ。
ただ、何故か傅き怯え震えていたので止めさせた。
やはり漆黒髪の効果は偉大らしい。なにせ今の国主一族よりも濃い血統なのだから。
「とりあえず、頭領のところへ案内しろー!」
「「「「「御意!!」」」」」
最早言いなりな彼等。薊達を見て目を白黒させたりと面白い。
当然薊達の知り合いなので、色々話してる。
ボクが誰か、自分達が元の身体にどうやって戻れたのか、あんな施術をしなくても強く成れたと鼻高々に天狗さん状態。
実際歩きながらかつての先生喜一と一番歳若い柚が拳を交わし、喜一は伸された。たった一撃で。
エリーと同じ歳――16歳――の柚が薊達の中で一番弱いからね。喜一の悔しそうな顔は忘れないよ。あと、『負けるものか』と呟いたのも忘れない。向上心を持つのは良い事だ。
施術に関してお説教とオシオキはするけどね!
しばらくして里で一番大きな屋敷へ辿り着く。
見るからに怪しい純和風な建物。というか、向こうの世界の映像で観た事があるよ。
忍者屋敷だ。クルクル回る壁の"どんでん返し"と"抜穴"。格子の嵌まる"カラクリ窓"に"屋根裏部屋"。
軒下からは人の気配もするし、隠れてるねぇ。
「い、伊佐衛門!!」
「なんじゃ騒がし...い....」
ふむ。着崩した忍び装束。歳は梅吉っちゃんとそう変わらないかな?
ただ見た目を気にしない人なのだろう。ボロ布と言うかなんというか....
孫の薊はあんなにオシャレなのに....残念だよ。
「漆黒髪....」
「おう! そうだー! 真っ黒だぞー!」
「主君?」
「なんとなく乗りで...」
薊が不思議なモノでも見るような目で....調子に乗っただけだ! 気にするなー! ノワールも黙れー! ガオー!
「それでだ。ボクが何故怒っていて此処へ来たのか頭領ならばわかっているんだろうな?」
半眼で睨み"これでもか!"と詰め寄る。
薊の祖父でも容赦はしない。ちゃんと『肉体的に攻撃はしない』と話してあるからね。
故に"精神的に攻撃する"のだ。集落に住まう全員の目の前で。
香澄達は親御さんと兄妹の下へ向かわせた。
薊の兄、巌ノ助とご両親の源一郎、若菜もこの場に居る。
というか。総勢500人居る。当然他の朱花も全員ね。誰も出払ってなかったから丁度いい。
問題は香澄達が自分の装備自慢をしている事か....
なにせ名刀...いや妖刀か? 精霊金属製だから赤いし。
柚よ....そんなに喜一に勝てる事が嬉しいのか....数打ち刀だからって喜一の忍者刀を紅緋零型で圧し折らなくても....
まぁいいけど。紅緋零型に傷一つ付いてないし。この地の刀匠ガンバレー!
「ゴクリ...」
「ああん? わかってないのかー?」
「主君...あまりお祖父ちゃんを虐めないで欲しいのですけど...」
「いや、これくらい平気だよ。だって袖から"煙玉"を取り出して逃げようとしたくらいだし」
「「「「長!?」」」」
「なん、と.....」
「みえみえなんだよ。だから、さっさと朱花全員に謝罪する! 頭を下げろー! 『ごめんなさい』しなさい!」
「は、はい!!」
駆けてからのズザザーっとジャンピング土下座。
歳の割りに身軽だねぇ....まぁ色々"忍具"を隠し持ってるくらいだから現役なんだろう。
「す、すまんかった! 慣習とはいえ、皆の身体を陥れたのは他でもないワシと先祖じゃ! 風牙衆の名声の為にワシはとんでもない事をしておった。ほんにスマン!!」
「おさ....」
「親父殿....」
「爺さん....」
「「「「....」」」」
ふむ。これが公開処刑というものか。なかなか辛いものだねぇ....
だからって許される行為じゃない。男衆だけで十分な戦力なんだよ。くノ一は少ないし、他の里みたいに調略とかに専念させればいい。
適材適所。あとは教育次第。あんな毒物に慣れさせるとか正気の沙汰じゃない。
わかっていても止められなかった。だから謝罪する。ボクが怒っていた理由は薊達の姿を見て理解した。
「それじゃ次だ。予定通り薊達は朱花を集めて例の話しを」
「「「「「御意!」」」」」
「んっと...伊左衛門と梅吉っちゃん。それと次期頭領の源一郎はお説教だ」
「はい...」
「うめきっちゃん!?」
「私もか!?」
「当たり前だ! 今後二度と愚かな行為なんてさせないからな! ソフィア!」
「オーッホッホッホッ!! やっとワタクシの出番ですわね!!」
「「「なんだそれは!?」」」
特製スフィアだ! そして長話ならソフィア以外に適任者は居ない!
「ボクの有能な家臣だ! 任せたぞー!」
「お任せ下さいまし!」
そうしてながーいソフィアのお説教が始まる。
その間に"現役忍者"を集めてボクからのありがたーいオシオキ開始。
日々"稽古"をしている? いいえ、足りません。"猛特訓"です。
彼等は云わば傭兵。金で雇われ国を影から支える柱。
弱音なんて吐くヒマも与えずに扱きました。
大丈夫。常時"黒髪の巫女"が《魔透糸》経由で《治癒》を掛け続けているから。
ローゼとカルアの2人と通信しながら話せるくらい余裕だ。
《影縫い》? 《影分身》? 《空蝉》?
そんな忍術は思い込みによる錯覚だ。
影に苦無を刺して動きを止める? いいえ、それは相手が弱く心理的に呑み込める状況下じゃないと意味はありません。
影分身? 剣術の<残像剣>と同じ速度で自分を増やしたように見せてるだけだよ? 遅すぎる!
空蝉? 呪符で作り出した布を身替りに攻撃を回避? それは相手が自分よりも遅くないと意味が無い。小手先の技じゃなくて素直に避けろ!
「はぁはぁはぁ....《火遁の術》!」
「....口に含んだ油に火打石で着火しただけだろうが! 大道芸か!」
「ゴフッ!?」
「な、ならば! 奥の手だ! 《呪縛の術》!」
「....痺れ薬を塗った吹き矢だろうが!」
「ゲフン!?」
「ひぃ!?」
「喰らえ! 《暗闇のじゅ――」
「煙玉を投げて逃げようとするな!」
「オゥフ!?」
「どいつもこいつも真面目にやれ! 里を護るんじゃないのか!? その程度で音を上げるな!」
「「「「「応ッ!!」」」」」
忍者5名による分銅付きの鎖鎌からの<縛鎖陣>。
交差された鎖がボクを目掛けて放たれ、身体に巻き付こうと円を描く。
....そこにボクは居ない訳だが。
「遅い!」
「申し訳ございません!?」
「元々の身体能力が高いんだから、それを有効活用しろ!」
「「「ハッ!!」」」
「楽しそうだな? カオル」
「おねぇちゃんもそっち行きたいわぁ♪」
「ムニャムニャ」
「か、可愛いですね? ポッ」
「ローゼとカルアはダメ! こんな未熟者達に姿を見せてやらない!」
「....それは嫉妬か?」
「あらあら♪」
「そうだよ? いけないの?」
「いや...嬉しいんだが...複雑な心情というか...だな...」
「もう~♪ カオルちゃんったらぁ~♪」
「ムニャムニャ」
「ぐ、グレーテル? ダメなのです? そ、そんな枝をハムハムするなんて...アッ...アアア...」
寝惚けてるなぁ...グレーテル。そして艶かしい声を出すな! 竜樹! 変態め!
「こんな....女子に勝てないのか...俺達は....」
「強すぎる.....」
「見た目が可愛いから余計に辛い....」
「漆黒髪....最高...だ....」
「ちなみにボクは男だ! 許婚も7人居るぞ!」
「「「「男!?」」」」
「そうだ! 胸も無いぞ!」
「....子供に胸は」
「いや....言われて見れば確かにぺったんこだ....」
「朱花の様に...それは無いか...怒ってたもんな....」
「まてまて! 許婚が7人もいる事に驚けよ!?」
「異国じゃ普通なんだろ?」
「昔は知らんが、【ヤマヌイ国】は国主様も一夫一妻じゃからな」
「そうじゃのぅ....凛々しいのぅ....」
「うむ。ワシの若い頃にソックリじゃわい」
「伊左衛門よ....嘘を吐くでない。稽古で肥溜めに落ちたお主を救ったのが誰か忘れた訳ではなかろうのぅ?」
「梅吉....あの時は助かった。じゃが、凛々しかったのは事実じゃ。妹の秋江がワシに嫁いだのを忘れたか?」
「....おそらく妖術の類に掛かっておるのじゃよ。悪いのは伊左衛門、お主じゃ」
「世迷い言を――」
「とりあえず、おじじ2人はソフィアの説教を聞きに戻れ」
「「ハイ」」
ちょっと目を離すとすぐにコレだ。まったくおじじは....変態じゃないだけマシか? どこぞの元剣騎は変態だからね。
「よし! だいぶ身体も温まってきたな? 各自2人で組み、手合わせ開始!」
「「「「まだやるんですか!?」」」」
「はぁ? まだ序の口だろうが! 言い訳なんて男らしくないぞ! 地べたを這いずり回って血反吐を吐け! さぁ開始だ!」
「「「「お、応ッ!!」」」」
たった2時間の全力"猛特訓"で何を弱音を吐いてるんだか...
薊達はもっと頑張ったぞ! エリーやエルミア。ルイーゼ達ですら全力10時間は頑張れる! だからやれ!
「重心移動が成ってない! 防具も身に着けてるし木刀なんだから安心して突き込め! 回復魔法もずっと掛けてやってるだろう!」
「は、はい!」
「....通りで身体が軽い訳だ」
「精神的に辛いんだけどな....」
「まさか薊達が強く成れたのは――」
「当然ボクと家臣が扱いたからだ! 彼女達は努力した! 理解したならさっさと続ける! 直刀の特性は突きに特化している事だ!
日々の稽古で基礎体力も腕力もある。常人よりも優れた力。次の段階へ昇華するのに丁度良い。頭を使え頭を」
「「「「ハッ!!」」」」
ふむ....伸びが速いのは3人か。
薊の兄、巌ノ助と先生役をしていた喜一。円蔵というのも中々....
風牙衆の忍者は脚力が良いね。足場を選ばずどこでも戦える。木の上だろうが、沼地だろうが。
それにしても対人は近衛騎士の上だなぁ....今のアルバート達を除いて。
疾駆からの刺突とか、木刀で岩を砕いたよ? 気闘術で身体だけじゃなく木刀まで覆ったんだね。
名付けるなら"オーラブレード"か? 和製なら"気刀"かな? 安直だけど。
この調子だと【ヤマヌイ国】は心配無さそう....国主も...まぁ光希の親だから説教程度で....
「主君! 朱花総勢43名集まりましてございます!」
「ん? 例の話しは?」
「ハッ! 皆同意し、お爺ちゃん――長の了解も得てあります!」
「全員来るの?」
「いけなかったでしょうか?」
「いやいいんだけど....」
11%近い人数を放出していいのか? 【風牙の里】が心配なんだけど....
「う~ん...じゃぁこうしよう。薊達の家臣として取り立てる者と、"出稼ぎ"に雇う者と別ける。臨時で飛空艇を飛ばせばいつでも帰れるし。『水が合わない』なんて事もあるからね」
「...なるほど。ご配慮ありがとうございます」
「いいよ。他でもない薊達の故郷だからね」
「「「「「しゅ、主君...」」」」」
なんだ!? ボクは何か変な事を言ったのか!? 詰め寄ってくるな!!
(ふふふ....お兄様は回すのが得意ね? は・ぐ・る・ま♪)
「....カオル? なにをしているんだ?」
「おねぇちゃんもプンプンよ!」
「ムニャムニャ」
「ダメですよ!? ぐ、グレーテル!? そ、そんな幹に....アッ」
おかしい...いつの間にかボクが歯車を回している事に!?
そして何故怒られた!? 良く寝るね!? グレーテルは!!
「まぁいいか。とりあえず....ボクの名前は香月カオルだ! 数日後に国を興す! 既に周辺各国の王や女王達と内応の約束を取り付けてあるから心配いらない。
身体の治療は王領に戻ってからになるからそのつもりでいる事! あとは....伊左衛門!」
「は、はい!?」
「ここに"秘伝書"を認めておいた。忍者の皆に教え、今後の稽古に取り入れる事! 源一郎!」
「ハッ!」
「息子の巌ノ助は今の数倍強く成る素質がある。このまま伸ばし稽古に励め!」
「畏まりました!」
「円蔵と喜一も同様だ。現状この中で伸び代が大きいのは3名。他の者はこれからの稽古次第! 素養はあるし日々の稽古の賜物だろう。だが慢心するな! 命を賭けて危険な仕事をしているんだ! わかっているな?」
「「「「「はい!」」」」
「うんうん。はぁ...それで、表向きは朱花全員をボクの国で召し抱える。当然賃金や衣食住も用意しよう。出稼ぎの者も働き次第で【風牙の里】へ送金も可能だ。通貨云々は気にしなくていい。どうとでもできるからな。
で、最後に聞かなきゃいけない事がある」
「な、なんでしょうか?」
面倒事はまだあるんだよねぇ...マリアが見付けたこの地の北に。
精鋭の風牙衆が此処に住んでいる理由でもある訳だ。
「衣食住の用意....温泉があるという彼の地で!?」
「ほ、本当なのね!? 香澄!」
「うん! ものすっごく住み心地良いよ!」
「主君も可愛いし....」
「住んでる人も優しいし....」
「男がほとんど居ないし!」
「そこは重要ね!」
「そうね! 朱花として誇りはあるけど...身体を見て蔑まれるのは二度とごめんよ...」
「うん....小夏の胸大きいね?」
「柚も育ち盛りで....」
「大丈夫よ? 雛も主君が治してくれるもの」
「すごく....すっごく嬉しかったから....」
「それで....狙っているのね?」
「愛妾の座を?」
「主君は『7人の許婚』って言ってたけど、本当はもっと沢山居るんだよ?」
「たぶん....20....30は越えてると思う」
「それは"聞耳の薊"としての言葉ね?」
「うん。紫苑さんより年上も居るから」
「ほ、本当ね!? 嘘じゃないわよね!?」
「必死すぎ...」
「紅葉だって人の事言えないでしょう!?」
「そうだけど....」
丸聞こえな訳なんだが.....なんだ? ボクに43人全員娶れと? 風貌が黒尽くめでわからないけど、紫苑と紅葉はいくつなのさ?
カルアは27だぞ? それより上か? まさかファノメネルやブレンダ。ララノア学長クラスの女性を嫁にするつもりか?
オレリーお母様は大丈夫。フランが説得してるから。全部アーシェラのせいだからな! 『母娘共々』とか言ったからこんな事に!
(増えるわね? お兄様? それと、紫苑は34歳よ? 紅葉は30歳ね)
脳波で教えるな! それと、勝手に読むな! ボクも読まないようにしてるのに!
(ふふふ....読むと面白いわよ? 酒池肉林♪)
ナイナイソレハナイ。大体老年から幼年の女性はどこへ? 34歳を老年と呼ぶの?
(朱花ではそうみたいね。肉体の毒素が作用して耐えられないみたいよ?)
むぅ...聞かなきゃよかった。イラっとしたよ。
(優しいんだから...私)
ソウダネー。ノワールには特にね? ボクの大事な半身よ。
「はぁ..."北の地"で異変はあったか?」
「どうしてそれを!?」
「まさか薊達が!?」
「お爺ちゃんもお父さんも何の話し?」
「わかりません」
「何かあるの?」
「『行っちゃいけない』って教わったような...」
「喜一め...これで宿願も果たせ――なんの話し?」
「....教えておらんかったの」
「そうでしたね」
だろうね。知ってたらボクに言うよ。"あんな者"が居るんだから。
そして柚は喜一を呪っていたのか...どんな稽古をさせていたんだか。もう止めてあげなさい。刀を折られた時に涙目だったから。
「それで? 異変はなしでいいんだな?」
「はい。いまのところは....」
「私達風牙の者がこの地に住んでからは特に何も...」
「ならいいよ。とりあえずボクはこの後国主の下へ行かなきゃいけない。光希達も外で待ってるから」
「「「姫様が!?」」」
「うん。朱花は明日引き取りに来る。"その時"を楽しみに待っていなさい」
「「「「「御意!!」」」」」
良い返事だねぇ。身体も――うん。今すぐどうこうって危険な状態じゃないし大丈夫か。
さらっと"読んだ"けど...本当に酒池肉林だね....脳内でボクを陵辱するなー! 変態めー!
「さて行こうか。国主、鳳光輝に会いに」




