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第二百八十九話 皇帝の資質


 う~む....この箱馬車は丁度良い感じの揺れ具合だね。

 あの儀礼式典用の懸架装置(サスペンンション)が過剰に利いた揺れない馬車より全然良い。

 なんていうんだろう...揺れないジェットコースター? 離陸直後の飛行機? 浮遊感というか....まぁ苦手な訳だ。


「ご同乗させていただき、ありがとうございます。アーシェラ様」

「....別に良いのじゃが」


 【都市バーウィック】の騒乱も片付き2つの地下迷宮(ダンジョン)で守護勇士の面々と大騒ぎした後、ルルと一緒にアルバート達近衛騎士の仕上げを見て一応の『合格』を与えた。

 『ご指南ありがとうございます! 老師!』なんて言われてボクも有頂天に成り掛けたり。

 まぁ今の彼等の実力なら、来週開催される武術大会で優秀の美を飾れるはず。

 それで、帝都へ帰るアーシェラに同行し護衛にエルザを引き連れて、普段真面目に侍女として職務を全うしているフランとアイナに休暇と言う名の"刺激的なデート"へ誘った。

 アーシェラにとっては帰路で、ボクにとっては往路。

 帰りの足はあるから豪華な箱馬車に便乗させてもらった。

 帝国貴族の伯爵として。


「あ、あの...私ごときが皇帝陛下と同じ馬車に乗るのは...」

「ん? 大丈夫だよ? フラン。アーシェラ様から『是非に』って言われたでしょ?」

「うむ。カオルの婚約者じゃからの」

「は、はい...」


 居所悪げなフラン。ちなみにアイナはボクの膝の上に座ってる。箱馬車が4人乗りだから。

 エルザは御者席に座り隣の近衛騎士アンソニーへ自分語り中。雷の勇者ラエドが如何に素晴らしい人物か説いてるだけだけど。


「普段メイド服姿が多いから、2人の私服は新鮮だね♪」

「そ、そうですか? 以前ご主人様から頂いた服なので...」

「アイナも!」

「そうだね♪ ボクが縫製した服だ♪」


 フランは、メイド服と同じ黒のワンピースにさりげなく白のフリルが施され、上に白のカーディガンを羽織ってる。

 対するアイナは"ゴスロリ"。裾に黒いフリルが幾重にも縫い付けられた白地のコートワンピースに、白のケープを肩掛け。


「ご主人様もとても良くお似合いです」

「ん!」

「ありがとう♪」


 分離袖の和装ゴシック。通称"和ゴス"な黒い和服に色鮮やかな牡丹柄。内着に中紅(なかべに)色でスカートは黒地と白レースの2段仕上げ。

 革の編み上げコルセットとブーツは焦げ茶系の革色。ニーソックスが白くスカートの白レースと相まる。

 全体的に長い黒髪に合わせてダークな感じを出してみた。

 しかし個人的に納得できていない。何かが足りない? 何かがおかしい? ゴシック要素が微妙? 牡丹柄が合わない?

 ふむぅ...イメージ出来れば1秒で《聖闘衣(セントプグナクロス)》を使い着替えられるしデザインし直しておこう。

 やはり"本職"のノワールに敵わないか...アヤツはゴシック系を極めたからのぅ...ロリィタなら勝てるんじゃが...


「仲睦まじいのぅ。で、じゃ。本当に"これまで通りの話し方"で良いのかの?」

「はい。ボクはまだ帝国貴族ですからね。もっとも、建国宣言後も"これまで通り"が良いです。ボクとアーシェラ様の仲ですからね♪」

「うむ...嬉しいのじゃが...なんじゃ。罰当たりな気もするのじゃが...」

「あはは♪ 平気ですよ♪ それとも――何か(やま)しい事に心当たりが?」


 女狐の真似して目を細めて見る。

 アイナの垂れ兎耳の隙間からアーシェラが『なにも無いの』と言ってのけた。

 バレバレだけどね~♪


「ま、2人も新しい服を気に入ってくれたみたいでよかったです♪」

「うむ!」

「はい! とっても可愛いです!」


 来た時と同じボクが贈った衣服を着ようとしていたから、新しく作って贈った。

 帝国の国色(ナショナルカラー)の青を貴重とした布地に銀糸の刺繍と黒いレースをあしらったドレス。

 正装よりは訪問着に近い装い。普段使いに丁度良いかな?


「さて、ブリュノ・セイ・オーブリー子爵はこれから粛清します。アルバート達に作戦を伝えました。

 その後、元武閥の愚か者は予定通りアーシェラ様にお任せします。各種証拠と罪状をお渡ししましたからね?」

「そうじゃの...じゃが、良いのかの? こんな魔法具を妾が貰うてしまっても」

「私もです...魔導具を....」

「はい。アーシェラ様は魔術師ではありませんからね。それに、その魔法具は商業ギルドへ卸した品物です。ちょっとズルはしてますけど。

 あとはリアだね。魔術師としてこれからも勉強を続けるんだから、《魔法箱(アイテムボックス)》はいつか持つ事になるよ。それこそ魔工技師を多く抱える【エルヴィント帝国】の皇女なんだから」


 アーシェラに渡した魔法袋(マジックポーチ)。レッグポーチではなくレディキュール。引き紐が付いた小物を入れる為の小物袋。上限100キロじゃなく、魔法鞄(マジックバッグ)と同じ上限500キロに改造してる。

 リアは白銀(ミスリル)製の腕輪に《魔法箱(アイテムボックス)》の魔術文字を刻印した魔宝石を追加した。

 耐毒と第1防壁内まで入れる魔宝石が付いていたからこれで3つ目。

 いつかの海岸で見付けた翡翠(ヒスイ)も魔宝石化してあるから....計4つか。

 緊急時に発動するだろう。そして危険を感知したマリアが対応する。内緒だけどね♪


「では、ありがたく貰うとするかの。這地竜(ベヒモス)のクッションに続き...贈呈品を考えねばならぬのぅ...」

「ありがとうございます! カオル様! リアは一生大事にします!」

「うんうん♪ 喜んでくれてよかったよ♪」


 で、フランとアイナも自慢気に魔法袋(マジックポーチ)を出さなくていいから。

 そしてリアも張り合うなー! 魔術師と一般の"魔法使い"じゃ勝負にならないよ!

 って言うか、フランとアイナはボクの婚約者でしょ!? なにしてるの!?


「そういえば....」


 特製のスフィアを起動し"映像"を検索。

 6頭牽きの箱馬車と複数の武装した騎馬が山間を駆ける姿を表示させる。


「呼んだんですか? 【ババル共和国】の元首とその一行」

「うむ。帝国の体裁を保つ為にの。前回の決闘を見逃したのが、相当悔しかったようじゃ」

「なるほど。この速度だと到着は――日曜のお昼くらいかな? 余分な休憩も入れて」


 距離と情報伝達の速度を鑑みて、元老院の一派が病死した事を知るのは武術大会中だろうね。

 ぶっちゃけ【ババル共和国】は切り捨てるつもりだからどうでもいいけど。エルザも納得したし。

 【エイム村】に住むイレイミーの一家はどうするかねぇ...相談かな? 実娘を売るくらいだ。泣く泣くなら....ボクの王国へ移住かな? 違うなら知らん!


「....まったくなんでもできるのぅ」

「制限は掛けてますよ? 今すぐ事を起こせば、ソレはボクの自分勝手な都合。

 『見殺しにしたくない』『希望を持ちたい』『信じてみたい』

 どれも結局身勝手かもしれませんけどね。でもボクは――欲深い人間(ヒューム)だから」

「ローゼ達から聞いておるのじゃ。妾もカオルを信じ前へ進むと決断したのじゃからの」

「はい。リアも微力ながらお母様を支えます」

「ありがとうございます。ですが今から気負わないでいいですよ? まだ時間はあります。ゆっくりと地に足着けて進みましょう。"急いては事を仕損じる"って言いますし」

「ふむ....カオルは博識じゃのぅ...」

「良い言葉です」


 全部ことわざや四文字熟語。つまり先人の知恵なんだけどね。

 郡体の人は個として弱い。けれど数多くの知識を残し継承する事で強さを得る事ができる。

 武力に限った話しじゃなくてね。


「オダンとエリーシャはボクが連れて来ますよ。連絡はしました」

「うむ。"アレ"を使うのじゃな?」

「楽しみです♪」

「あとで試乗していただきます。先にやる事をやってからですけどね」






















 無事に街道を抜けて帝都へ到着。

 皇帝と皇女は一足先に帝城へ戻ると思い気や、『残り見届ける』と言い始めてさぁ大変!

 なんてわかっていたけどね。なにせノワールがずっと影の中で嗤ってるし。

 脳波で(ふふふ....)とかわざわざ語り掛けてくるなー! いいんだけどさ。楽しそうで。

 そしてノワールとエルザだけじゃなく、暗部の薊達も連れて来てる。

 近衛騎士は誰1人気付かなかったみたいだけどね。

 周囲の森を静かに駆ける彼女達の存在を。隠匿に長けた忍者で隠密。

 新しい忍び装束一式も用意したし、メリッサが直刀を打ってくれた。

 ローゼが昔エリーシャに下賜されて使っていた白刃刀(イグニス)を打ったのがメリッサだって言うんだから驚きだよね。


 つまり鍛冶師にして刀匠な訳だ。


 そりゃ【カムーン王国】で5本の指に入る実力者だよ。

 剣聖ブレンダが慌てるはずだね。エリーシャも引き抜きをお願いした時に笑ってたし。

 まぁ他に4人のメリッサ並の鍛冶師なり刀匠が居るから良いんだろう。

 なにせ魔法霊銀の白銀(ミスリル)を輸出している国なんだから。


朱花(しゅか)


「「「「「ハッ!!」」」」」


「アーシェラ様とリアの護衛を任せる」


「「「「「御意!!」」」」」


 帝都北西にある貴族街の一画で箱馬車を降りたボクとエルザ。近衛騎士達も下馬し22名。

 だけどこれから目の前の屋敷に突入しなければいけない。門番も居るし、中にはブリュノ子爵の家族と家臣くらい居るだろう。

 箱馬車に残るアーシェラとリアの護衛は必要だけど、アルバート達から人手を割くのは避けたい。なによりこれは武勲だ。近衛騎士が悪行を行なった子爵家を摘発するんだから。

 武勲は均等に20人へ。という訳で薊達の出番。


「...カオルの私兵かの?」

「うん。ボクの家臣で蒼犬の2人と"同じ役割"を担ってくれてる」


 ボクに跪き頷く薊。香澄と小夏と早苗に柚は周囲警戒態勢へ入ってる。

 鼻まで隠す黒地を下着に、竜王国(ドラグーン)国色(ナショナルカラー)の白い装束を上から纏う。

 黒に着色した白銀(ミスリル)製の鎖帷子で身体を護り、他に防具は鎧武者風の脛当てと篭手。武器は腰後ろに帯びる忍者刀。

 精霊金属(スピーリトゥス)製で、糸巻地黒漆無反刀身直刀拵え。紅緋色の直刃紋の直刀・刃渡り2尺――70cm――。柄糸まで黒く艶やかさは一切無い。


 銘を紅緋零型(べにひぜろがた)


 作りから何からボクがアイデアを出して、名付けもボクがした。

 メリッサ曰く『最高傑作さね!』だそうで、鞘に収めた瞬間ルル達と"稽古"中の薊達が刀に呼ばれたらしい。

 あとで聞いたけど声が聞こえたそうだ。

 使い手を選ぶっていう理由に確証が付いた訳だね。

 他にも苦無(クナイ)やら、蒔菱(マキビシ)やら、手裏剣(しゅりけん)やら、手甲鉤(てっこうかぎ)やら....

 集団連携用に鎖鎌(くさりがま)とかも持ってる。懐に縫い付けた特製の魔法袋(マジックポーチ)の中や篭手の中に。闇に紛れる様に黒い羽織りも渡した。

 棒手裏剣と十字手裏剣は投げて楽しかった。案山子(かかし)と木板、背後の岩を突き抜け砕き『威力がおかしいです!』って怒られたけど。

 元々投げナイフ使ってたからね。魔法剣の技術を応用すれば、必殺の使い捨て鋼鉄武器を投げられるさ。


「さて、彼女達は"今の"近衛騎士よりも遥かに強い。これで後顧(こうこ)(うれ)いは無い。皇帝陛下からの許可も得た。アルバート? 男を見せろ」

「....はい!」


 一瞬の戸惑い。箱馬車の窓から覗くアーシェラの視線。

 アルバートに続きアンソニー達も屋敷へ向かい歩き出し、なんとも頼もしい近衛騎士の背中。

 ボクとエルザはただ見送る。フランとアイナは箱馬車の中だ。

 手出ししてはいけないから。コレは彼等の戦場。重責に耐えるだけの度量を見せてほしい。

 栄光へ続く階段の一歩目だ。


「な、何事ですか!?」

「ブリュノ・セイ・オーブリー子爵に帝国反逆罪の疑いがある。寄り親のセルジル・ア・カーリン辺境伯より"徴兵"の極秘書状を持つ密使を捕らえた。

 真偽の程を確かめたい。ブリュノ子爵へ取り次ぎを」

「そ、そんなバカな!?」

「事実だ。密使を捕らえた我等近衛騎士がこうして書状を持参した。そして皇帝陛下もあちらに居られる。

 ブリュノ子爵が出頭しないのであれば、力尽くで押し通る」

「す、少しお待ち下さい!」


 大慌ての門番が屋敷へ駆けて行く。

 周囲は騒然、余所から貴族やらが多く集まってくる。

 当然アーシェラが乗る箱馬車に近づけさせない。なにせ薊達の眼力は強いからね。睨まれると怯むだろう。

 ボクは平気だけど...カルアとエルミア...なによりマリアに比べれば全然怖くない。

 今もマリアは"視て"、"聞いて"いるけどね。今後ずーっとそうするつもりらしい。

 まぁ、彼女を動けなくした責任は取らないと。


 しばらくして――門番は戻って来たがブリュノ子爵は出て来ない。


 ボクは"読んで"わかってる。恐れて逃げた。3階の奥、"秘密の部屋"へ隠れてね。

 どうして書斎に隠し部屋の扉を造るのだろうか? 流行りかね? ハリアーシュみたいだよ?


「ぶ、ブリュノ様はご病気につき静養中です。日を改めて――」

「皇帝陛下がわざわざ帝城から視察に参られた。だというのに静養中で出られないと言うのか?」

「は、はい...私はそう窺っております....」

「そうか。では宣言通り力尽くで押し通る。邪魔をするなら...わかっているな?」

「で、ですが!!」

「くどい!」

「ヒィ!?」


 ふむふむ頼もしいのぅ。丁度良い、屋敷の中に居る家臣共々《雷衝撃(グロムイムプルスス)》で気絶しておきなさい。


「......行くぞ!」


「「「「「おう!」」」」」


 チラリとボクを見て『老師』と呟いたアルバート。

 アンソニー達も気付いただろうけど、無血開城って素敵やん? 城じゃなくて屋敷だけど。

 ブリュノの家族はどうなるんだろうね? 良くて罰金刑? いや降格かなぁ。改易はされないだろう。実際何もしてないし。

 これでアトラ達が亡くなるような事があれば....ボクとノワールで呪殺だ。

 小者だし法衣貴族で毎月カツカツの暮らし振りだからねぇ。セルジルからの派兵要請は応えられなかったと思うよ。

 本人はボクから全てを奪い国を興すつもりだったみたいだけど。だから"徴兵"。

 まぁ...あの程度の戦力でボクがどうにかできると思った時点でダメダメだよね。

 伝説のドラゴンの契約者。帝国、公国、共和国の3カ国から英雄と呼ばれる存在。

 中級属性竜を倒し、1000人対6人の無謀な戦いを退け、1万5千の魔物や魔獣をたった1人で撃破した。

 公にしてる情報だけで、どれだけ強いかわかるだろうに。決闘観なかったのかね? 貴重な魔術師同士の戦いもあったんだよ?


「さっさと歩け!」

「....」


 小柄な見るからに小者臭を漂わせる人間(ヒューム)の男性。

 絶望を身体に張り付け後ろ手に縄を掛けられていた。


「ふむ。ブリュノ・セイ・オーブリーよ。セルジル・ア・カーリンと内通し、帝国に牙を剥くとは何事じゃ?」


 コンラウスとメレデリクに付き添われ、箱馬車から姿を現すアーシェラ。

 リアは窓から覗いているけど、本音ではアーシェラの傍で見守りたい。

 アーシェラはまだ早いと思ったんだろうね。だから『せめて見届けなさい』と置いて来た。


 結構辛いよ? 周囲の視線と小声の内容。

 

「とうとうやりやがったか」

「カーリン辺境伯家...領地持ちの元武閥の? まさか蜂起するつもりで...」

「これは....当家もただじゃ....」

「来週武術大会だっていうのに...なにもこんな時期に...」

「こんな時期だからこそじゃないか?」

「こうしちゃ居られない! 早く知らせないと!」

「いや待て! 他国からの間者が――」


「静まらぬか! 間者なぞ、皇帝の妾が当の昔に排除しておる! たとえ他国に帝国の内実を知られようとも、脛に傷を持つのはお互い様じゃ!

 今は座して静かに待てばよい! 何のための武術大会か考えい! どのような時も帝国民として誇りを持ち、確固足る信念を曲げるでない!」


 アーシェラの一喝で静まる帝国民。

 耳朶を叩く声量も然ることながら、放たれる覇気がボクには心地良い。

 他の人は知らない。怯えていたり震えていたりするけど、それが皇帝としての資質なんだよ。

 カリスマなんて呼ばれてるけど、アーシェラの力は偉大なんだ。

 よく見える目と、よく聞こえる耳。

 多くの私兵を雇いルチアとルーチェの様に二つ名まで持つ諜報員を作り上げた。

 元は孤児なんだよ? あの2人。

 人を見抜く才能。人を導く才能。他国に比べて帝国が腐っていないのは、他でもないアーシェラの偉業なんだから。


「話せぬと言うのかの? ブリュノ・セイ・オーブリーよ」

「.....」

「そうかの。残念じゃ。アルバート!」

「ハッ!」

「連れて行き尋問せよ。証拠はあるのじゃ。すぐに吐くじゃろう。なに、"セルジル・ア・カーリン"は既にこの世におらん。同じ愚行を犯すとは思えぬよ」


「「「「「ッ!?」」」」」


 大勢の息を呑む声。

 雌雄は決した。

 元武閥の愚か者に出来る事は何も無い。逃亡を計ろうと、時既に遅し。

 なにせ10万人規模の都市を有する辺境伯が"この世に居ない"。

 早馬で帝都から逃げ出そうと地下へ潜ろうと『逃げきれる』と誰が思える?

 元武閥の声高に奇声を上げる愚か者も、遅くても明日には消えて無くなる。

 生きていられるといいね? ボクに決定権は無いからお前の未来は知らないよ。





















「う~ん! 爽快だねぇ!」


 フランとアイナを連れて"刺激的なデート"は続く。

 貴族のやりとりとかどうでもいいし。ボクは来週国王だ。連れて行かれた愚か者なんて無視無視。

 なので、帝城前の大通りを一時貸し切りノワールに呑み込ませていた"飛空艇"を出現させた。


 航空戦艦"香月夜(カグヤ)"と違い、甲板もある鉄と木を主体として造られた浮遊艇。

 舵もあるし、マストも大小6つほど。

 前後左右の下帆に分かれ、風を受けて推進力を得たり....なんて嘘だけど。

 こんなん飾りだ! プロペラも風車みたいなものだ! 動力は魔宝石だし、常駐型浮遊魔法や制御型停止魔法。揚力維持魔法とか発動してるだけだもの。

 せいぜい海に浮かぶ木造船っぽい白銀(ミスリル)製の飛空艇だ!

 偽装してるからわからないけどね? ちゃんと客室は別けたよ? 全室個室の特等室から1等室、2等室へと続き4等室まで。


 全長50m 幅20m 高さ10m

 

 もうちょっと大きいとスーパーメガヨット的な感じやね? これじゃぁせいぜいメガヨットだ。

 艇員除いて10ゲスト5キャビン。

 まぁ、寝泊りするほど航行時間は長くないから倍近く乗れるね。

 ちなみに試作艇です。限り無く実物に近い試作艇です。

 大型飛空艇を数隻造ります。じゃないと物資移動が微妙なので。

 しかも頼れる変態な樹精霊(ドライアド)竜樹(りゅうじゅ)が遠隔操作してます。

 動力炉に適当な魔宝石を複数個入れておけば勝手に飛びます。

 ボクが居れば手動で操舵可能だけどね~♪ 特製スフィアで玩具感覚なのだ♪

 エ? ノワールが操舵したい? ソレはあとでにしておきなさい! 一応、皇帝陛下と公爵の方々が乗ってるから!


「ふむ...まさか妾が空を飛べる日が来ようとはのぅ....実に感慨深いのじゃ...」

「お母様見て下さい! 帝都があんなに小さく!」

「そうね...景色も最高だわ!」

「なんだろうな...もう財務処理に追われる日々から逃げたくなるな....」

「わぁ! 見て下さいお父様! 浴室が凄いですよ!」


 まぁねぇ...国賓待遇の特等室はねぇ....ミストシャワーだからねぇ....さすがに浴室は造らなかったよ。揺れたら酔いそうだし。


「ハハハ! グローリエル見てごらん? 良い景色じゃないか!」

「おやじは五月蝿いんだよ。それより日差しが....日傘じゃどうにもならないじゃないか....」

「ん? ああ、サンシェード使うよ」


 スフィアを操作し甲板の上部から日除けを伸ばす。

 高度が上がればそれだけ日差しも強くなり日焼けや酸素濃度も――なんて、そんな事は織り込み済みだ!

 常時障壁を展開してるから何も問題は無い。

 敢えて言うなら魔物や魔獣が襲って来るかもしれないくらい?

 まぁ、振り切れる速度を出せるし障壁を張ってるから大丈夫。

 女面鳥身(ハーピー)怪鳥(ルフ)程度どうとでもできるし。

 航路上の小翼竜(ワイバーン)の巣は予め排除しておく。素材もゲットやね。ついでにポーションの材料も。


「ご主人様! 素敵な眺めです!」

「ん! 海が綺麗!」

「だねぇ...デートしてるって感じがするねぇ...」

「はい!」

「ん!」


 こっそりエルザと薊達も同意してるけど....エ? デートしてるつもりなの? ボクと?

 まぁ帰りはみんなで一緒だからいいんだけどさ....愛されてるねぇ....


「そうね? お兄様」

「うん。ノワールもね?」

「ふふふ....誑しね♪」

「家族だからねー」

「しかしなんじゃ。前に出現した船と違うんじゃな?」

「ん~? ああ、アレはボク専用艦だから。コレは"飛空艇"。そもそもの存在理由が違うんだよ。そうだねぇ...名前と兵装くらいは明かそうか?

 アレは航空戦艦"香月夜(カグヤ)"。主砲一発で国を滅ぼし、副砲の電磁加速魔法砲(レールガン)は左右合計16門。"今の"グローリエルは《(フエゴ)障壁(オーヴィス)》しか張れないから撃たれたら蒸発するだろうね?」

「あ? あたいが負けるって言うのか?」

「うん。魔法剣士の"ローゼ以下"の魔力量しか持たないグローリエルじゃ手も足も出ないね」

「ローゼって...ヴァルカンだろ?」

「そうだよ?」

「《火炎球(ファイアーボール)》数発しか撃てないはずじゃ....」

「残念。ローゼは聖獣"不死鳥(フェニックス)"と契約してグローリエルを越える魔力量を持ってるから、普通よりちょっと強い魔術師のグローリエルじゃ到底敵わない相手なんだよ?

 あと、ボクがわざわざ教えた理由はローゼと会った時にグローリエルが悲しまない為。たぶん勝ち誇って自慢するだろうからね」


 『残念美人』やからね。今まで引き分けて居た相手だし、ボロボロに言うはずだ。


不死鳥(フェニックス)と契約!? んな事――」

「できるよ? 竜樹(りゅうじゅ)?」

「も、もう...急にお呼びなんですね? ポッ」

「うん、アクイラ映してくれる?」

「キュルル♪」


 専用スフィアから映像通信で姿を見せる体躯1mの不死鳥(フェニックス)のアクイラ。

 紅色の(ワシ)で、香月夜(カグヤ)の中にある管制室から鳴いて答えた。


「「「「本物!?」」」」


「うん。今はローゼの使い魔。エルミアも一角獣(ユニコーン)と契約してるよ?」

「なん...じゃ....と!?」

「き、清らかな乙女しか触れられないという....」

「綺麗な鳥です....」

「これは現実ではないかもしれぬな....」

「そうですね....いやぁ見晴らしが最高ですね...アラン...」

「そうだな...エルノール....法務卿に戻れ」

「ハハハ! 遠慮しますよ!」

「おかしいな! 現実ではないはずなんだがな!?」

「ハハハ.....」


 アラン財務卿は、なんだかんだ言いつつ平常運転だなぁ...

 で、グローリエルは現実に打ちひしがれている、と。


「剣騎グローリエル・ラ・フェルト公爵。宮廷魔術師クロエ・レ・デュル。2人はお互いの長所と短所を良く理解し、相互の修練を続ければ今の数倍強く成れる地力がある。

 ボクはその道を知り、2人を導ける立場に居る。ただし、教えを乞うならば試練を与える」

「長所と短所?」

「試練、ですか?」

「うん。じっくり悩み相談し許可を得なさい。2人の両親から」


「「私達!?」」


「グローリエルは家出をして冒険者として名を馳せたから剣騎の地位まで登り詰めた。フェルト公爵家の地位なんて使わずにね?」

「そうだけど....」

「クロエは魔術学院で優秀な才女とまで呼ばれ、アランが過保護に育てた。ソレは今も変わらず次代の公爵だからって理由もある」

「それは...お父様がそうしろと....」

「うん。だけどグローリエルは先の戦争にも参加し、普段は剣騎として活躍してる。クロエは毎日何をしてるのかな?」

「く、クロエは立派に宮廷魔術師として――」

「『怠惰な毎日を過ごさせてる』って? 何もやらせてもらえないんでしょ? 他の魔術師は戦争へ参加して命を賭けたのに」

「....事実です」

「クロエ!?」

「だから、試練を与える。ここはボクの飛空艇の上だ。来週にボクは建国宣言を行ない王へ即位する。5カ国の皇帝、女王、王、教皇が認めた。

 故に、ここはボクの国土と同義。グローリエルは、お父さんのエルノールを内務卿へ復帰させなさい。クロエはお父さんのアランから危険を伴う修練の許可を得なさい。

 そして、エルノールとアランは子供と向き合い話しなさい。『子離れしろ』なんて言わない。『子煩悩』大いに結構。

 だけど、子供とちゃんと話した? 自分の理想を押し付けてない?」

「それは...」

「なんとも....」

「おやじ...」

「お父様...」

「今すぐ答えを出す必要は無いから、じっくりと考えて親子で話しなさい。グローリエルもクロエも両親が居るんだし、恵まれているんだよ?」


 ボクには居ないからね。数年内に逢えるけど、それは人としての再会では無いし。


「リアには辛い言葉だったね。ごめん」

「いいえ。私にはお母様が居ますから」

「リア....そうね...」


 リアは産まれた時から片親だ。

 ちょっと浅慮だったかな。


「お兄様の傍には私が居るわよ?」

「私もです! ご主人様!」

「アイナも!」

「俺もな」


「「「「「わ、私達もです!」」」」」


「うん。ありがとう」


 家族だからね。そう言ってくれて嬉しいよ。


「本音をぶつけて話し合って。大丈夫。親子で家族なんだから。怖がらないでゆっくり時間を掛けなさい。それがボクの出した試練だよ」


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