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第二百八十七話 百人百様



 黒いなぁ...ノワールの腹の中が。

 怖いなぁ...家族全員が。

 嫌だなぁ...この雰囲気。


 よし! 逃げよう!


「まぁまぁ待てカオル」

「そうね! 話し合う必要があるわよね!」

「おねぇちゃんのカオルちゃんが...」

「カオル様? ご説明を」

「ご主人様!」

「ご主人!」


「「メッ!!」」


「....ハイ」


 フランとアイナは息ぴったりだねぇ...義姉妹か。可愛いからいいんだけど。


 さ~て、忙しい訳だ。セルジル・ア・カーリン辺境伯をぶっ潰して後継者に"次男のデルバリー"を据えたりね?

 え? 長男はダメだ。腐りきってるからポイだ。エルミアを欲したのが長男だから。名前を覚える気すら起きない。

 今すぐ暗部の薊達"朱花"の5人とボク、ノワールの7人で【都市バーウィック】へ乗り込んでシュパパっと呪い殺したい訳なのだ。

 大丈夫。アイナから女神アルテミスの力を物理的に吸ったノワールが居るから。

 ちゅーではありません。頭をガブリと噛みました。吸血鬼(アスワン)を呑み込んだ時と同じく、口角が裂けてガブっとね?


 しかも人型で。


 いやぁ....怖かったねぇ....見た目が。妖怪"口裂け女"かと思ったくらいだ。"帰しちゃうお姉さん"から大進化。

 アイナは後ろから髪を触られた程度にしか感じなかっただろうけど、見てる方はドッキドキだよ?

 そして医療を司る太陽神アポロンは触診し、診断結果が判明しました。


 ノワールは、子供を産めます。


 おっかしいなぁ...ボクの魂を別つ半身のはずなんだけどなぁ...

 元々使い魔の液状生命体(スライム)だよ?

 何故に子宮が....見た目に変化も無いし。ボクも変化は無い。力は増えた。見えないけど。


「まぁ...アレだね。ノワールが身篭るとしても、ボクの死期が近い時だろうし? 数千年後だね」

「そうね♪ 向こうの世界へお兄様を殺しに行くのは、何も私である必要は無いのだもの♪」


 なんだこの『新婚なんです♪』みたいな感じでくっついてくるノワールは!?


 カイとメルはダウン中です! 相当張り切ったみたいです! 一週間!

 今日から仕事予定だったんだよ? なのに、2人してツヤツヤしてるくせにボロボロなんだよ? 意味がわからなかったので、お休み延長なのです。


「当代のゼウスを降ろした後に、この世界の禁忌"人造生命体(ホムンクルス)"を作ってそこにノワールの人格を複製(コピー)すれば向こうの世界へ行けるからね」

「ええ♪ だから、ずーっとお兄様と一緒よ♪ アナタ達が死んだ後もね♪」


 ノックダウン中のローゼ達。

 オレリーお義母様はアイナが齧り付かれた辺りで卒倒した。

 アーシェラとリアは...まぁなんとか無事かな? ルルが話せる範囲で説明してる。【聖騎士教会】の主神シヴと女神ウェヌスを交えて。ファノメネルは逃げたから捕まえた。


 要するに、2人に明かした訳だ。


 ボクが神でノワールも神だと。ローゼもアイナも神の直系で、特別な存在だと。

 そしてさっきからボクの後頭部にひっついてるのは水の精霊王ウンディーネだ。

 4人の神に、神の直系2人。そこに精霊王の存在。

 『信じられない』なんて現実から目を背けるだけ無駄な事だ。

 女狐母娘は強いねぇ...普通は気絶するものだよ? オレリーお義母様はノワールの姿に驚いただけだ。妖怪だし。


 おかしいな...神話では、ポセイドンの息子オリオンとアルテミスが恋仲になって、アポロンが処女性云々で嫉妬しアルテミスを騙してオリオンを殺させるはずなのに....

 立場が逆転しているよ!? ノワールはローゼ達を殺さないけど。天寿を全うさせて亡き者にする気だ! とても正しい! けど納得いかーん!!

 ボクはボクの半身に欲情して子を生すの? 倫理的にどうなの? おうとさま!? おかーさまー!? どうなってるのー!? ノワールがお母様ソックリなんだけどー!?


「ふふふ....可愛いわ。(カオル)

「可愛く無いやい! ハーナーレーロー!」

「カオル」

「ローゼ! たすけ――」

「すまない。私ではノワールに勝てない。だが子供だけは....」

「....いいわ。カオルの子を私は産むんだもの。ノワールくらい許すわ」

「おねぇちゃんも....カオルちゃんの子供が産めるんだもの....」

「これも運命なのでしょう。ノワールは強い。カオル様と同格なのですから」

「ご、ご寵愛は必ずです! ご主人様!」

「アイナも! 子供産む!」


 そうかぁ....魔神だからなぁ....女神の残滓を吸い取っても、ノワールは魔神のままだもんねぇ....

 《聖闘衣(セントプグナクロス)》で纏った衣服を脱がされないのがせめてもの救いかぁ...

 みんなは『ボクの子供が産めるなら』って事で手打ちにした訳だ。諦めたんだね? 物理的に勝てないから。生きる年月も違うし。


「マスター?」

「ああ、マリア? どうしたの?」

人造生命体(ホムンクルス)を使えば、天使の私達もマスターの子供を産める可能性があります」


 ....わざわざ新技術の映像通信で伝える話しなのだろうか?

 そしてフラウとソフィアとエルザも頬を染めるな! 丸見えだぞ! 守護勇士は何を考えてるんだ!

 グレーテルを見てみろ! 可愛く顔を真っ赤に――


「マスター! グレーテルもー!」

「なん...だ...と....」


 あの可愛いグレーテルがボクの子供を欲しいだと!?

 我が子がボクと愛の結晶を!? 芽生え始めていた父性が消えてしまった!?

 そんなバカナー!!


「ふふふ...回っているわね? は・ぐ・る・ま♪」

「耳に息を吹き掛けるなー! ヤメロー!」

「ふむ。なんじゃ...カオルよ?」

「うん?」

「神なのかの?」

「そうだよ?」

「なんでもできるのかの?」

「うん。"まだやらない"事も多いけどね? ゼウスが降りて来ると天使の軍団も降りて来るから、"この世界の禁忌"に触れる事はしない。

 その為に各ギルドを通して"文明を発展"させてる。魔法具がソレだね。末端の下位天使第九位"エンジェル"と渡り合えるくらいに強くなってもらわないといけないから。

 現状の各国の軍事力だと、数体のエンジェルズで滅びるよ? 剣騎3人に有象無象の騎士や兵士を掻き集めても無駄死に確定だね」


 まぁそこまで弱いと思ってなかった。決定的だったのは上級と呼ばれる準1級冒険者の力量。

 アレを基準に考えるなら世界は破滅だ。クロエの様に貴重な魔術師が何人集まろうと、絶対神ゼウスの威光を浴びるエンジェルズは倒せない。善戦はできるかな? 物量で負けるけど。

 だから文明を発展させ物流、情報、人材を迅速に回す。


 2年半の"猶予"がある。


 強者が現れればエリーみたいにソレを目標に励むだろう。

 『負けたくない』『力が欲しい』『愛する人を護りたい』

 人は欲深いからね。間違った方向にさえ向かわなければ、向上心を刺激して道を指し示してあげればいいんだ。

 ボクが国を興す理由の根源。小国なのに最強の軍事力を有する。

 ゼウスを張っ倒した後に"子供達へ残したかった"というのも理由だけどね。


「....妾の帝国も滅びるのかの?」

「"このまま"ならね」

「カオルに皇位を譲り――」

「いらない。"足掻いて"、"もがけ"。人としての生を全うしなさい。諦め絶望するにはまだ早い。皇帝のアーシェラがそんな無様でどうする?

 聞いていたくせに覚えてないの? 勇往邁進(ゆうおうまいしん)。あの場に居た全ての者へボクは言ったつもりだ。

 近衛騎士のアルバートは覚えていたよ? だから必死で前へ進む事を選んだ。昨日今日と、彼等は前を向き続けた。


 【エルヴィント帝国】第18代皇帝アーシェラ・ル・ネージュ。覚悟を決めろ。


 何もせずに座して"死を待つ"か、帝国民を率いて"歩く"か。

 どちらを選ぼうと誰も文句は言わない。

 聡明なアーシェラだ。先の先を読んで『皇位を譲り』なんて言ったんだろうね?

 神足るボクの加護を得られれば、"帝国だけ"は滅ばない。

 そんな自分に都合の良い事ボクは許さない。

 甘ったれるなよ? 皇帝アーシェラ。

 帝国民100万人の命を預かる者として、悩め。

 『苦しめ』とは言わない。辛いなら話し相手くらいしてあげる。

 涙を流すなら拭ってやろう。だから決めろ。どうする?」


 答えは決まってる。全てを知ったアーシェラが正気で居るんだ。

 リアも驚いているけど俯いてなんかいない。

 だから言えばいい。その想いを。


「....妾は皇帝じゃ。民を率いる義務がある」

「お母様」

「大丈夫よ? リア。わかっていた事だもの」

「はい!」

「香月カオル様。皇帝アーシェラ・ル・ネージュは前へ進みます」

「うん。立派だよ? アーシェラ」

「ありがとうございます。母娘共々」

「「末永くお可愛がり下さいませ」」


 ....そうきたかぁ....これはいよいよ本格的にお父様似なボクは節操無しだねぇ。


「本当にソックリね? お父様に」

「...辛い想いをした相手に『涙を拭う』とか甘い言葉を囁けばそうなるだろうな」

「...女っ誑しね」

「おねぇちゃんもプンプンよ!」

「カオル様? 説明を」

「ご主人様ひどいです!」

「アイナも怒る! メッ!」

「(これは私にもチャンスが...)」

「(母娘共々....)」

「私達も禁忌を犯そうかしら?」

「そうねぇ...アリね」

「ルルにもマスターとの子供が?」





















「はぁ....」


 懐かしいなぁ。この溜息が止まらない感覚。先週の頭にノワールの身体を使って以来かな。

 増えるなぁ...水で戻した乾燥ワカメやヒジキの様に。モッサモサやねぇ....

 お父様。お母様。ボクはしてはいけない事をしている気がします。早く逢いたいです。

 風竜も助けて下さい。いえ、助けに行くので助けて下さい。

 支離滅裂(しりめつれつ)ですね? でも緊急事態なのです。

 このまま行くと、エリーシャ母娘の残り2人も嫁ぎに来そうな勢いなんです。

 剣聖2人も来そうで....セシリア達も....ボクに関わる女性は全てやばそうなんです。

 ボク、ハヤク、ヒキコモリタイ。


「ふふふ....逃げられないのよ? お兄様♪」


 ボクの左腕に絡み付き、胸どころか全身を押し付けて来るノワール。

 結局薊達は置いてきた。本気で身の危険を察したから。

 魔科学迷彩を纏う香月夜(カグヤ)を出航させ、護衛役のルルとグレーテル、ソフィアの3人が一応着いて来てる。

 変態な樹精霊(ドライアド)竜樹(りゅうじゅ)も大概だけど、ルル達守護勇士も大概だよ?

 ボクの身体に張り付くな。それを護衛と誰も呼ばない。ただの痴態だ。ヤメロー!


「暴れないで下さい。マスター」

「ムニャムニャ」

「は、恥ずかしがらなくても良いんですのよ? ま、マスターが劣情をもよおされるのでしたら....ソフィアはいつでもマスターをお慰めいたしますわ....」

「せ、性豪なのですね? ポッ」


 なんでこうなった!?


「キュルル♪」

「クワァ!」


 そっかー...不死鳥(フェニックス)のアクイラと、魔鳥のファルフも『ボクが好き』だって。

 うん、素直に嬉しいよ。ありがとう。


「よし! とりあえず離れなさい。【都市バーウィック】上空に着いたから」

「ふふふ...て・れ・や・さ・ん♪」

「鼻を(つつ)くなー! お母様の真似をするなー! ヤメロー!」

「...勉強になります」

「ムニャ...グレーテル起きたー!」

「恥じらいが必要なのですわ! お淑やかさ.....ミカエルジジィの一億万倍マスターは素敵なのですわ!」

「照れてるんですね? ポッ」

「キュルル♪」

「クワァ!」


 ルルは余計な知識を覚えなくていいよ?

 そしてグレーテルは寝てたのね?

 ソフィアよ。一億万倍ってなに? 一兆って事? 造語か?

 さりげなく胸を触るな! 竜樹(りゅうじゅ)

 癒しはアクイラとファルフだけか!

 なんだこの空間はー!
















 【都市バーウィック】。

 【エルヴィント帝国】と【ババル共和国】の境界近くにあり、栄えた都市である。

 帝国の北方防衛の要。堅固な造りの防壁を持ち、代々辺境伯が治めてきた。

 過去の歴史で何度も要所として活躍し、名を馳せた猛者も数多い。

 近隣に領地持ちの男爵が3家おり、一度戦争が起きれば『一気呵成(いっきかせい)』とばかりに領民を率いて即座に戦いを終結させる力を持つ。

 寄り親のカーリン辺境伯家が精強な所以であり、強かな理由でもある。

 そして数十年の間戦争も無く、平穏な日々を暮らした為に腐った。

 戦場の無い武人ほど、誘惑に弱く脆い者はない。


 改めて言おう。


 人間(ヒューム)は強欲だ。

 死の快感は何よりも甘い。しかし快感を得られる世が終われば? 他の欲望へ逃避する。

 食欲、性欲、物欲、独占欲。

 ひとつひとつ上げていけばきりがない。

 普段は理性が働き表に出さないけれど、一度理性の(たが)を外せばそれらは抑えも効かず暴走する。

 それが欲望。野心のある者が剥き出しにしている感情。

 ボクと同じ人間(ヒューム)。ここまで落ちて腐りたくはないけどね。


「お兄様? "呑み終わったわ"」

「うん。引き続き頼むよ」

「ええ...任せなさい」


 築きあげられた石造りの街並み。5m近い防壁。

 明かりが灯り、喧騒も聞こえていた。

 豪華な屋敷も数多く、大商やカーリン辺境伯家の血縁も住んでいた。

 そして悪巧みをしていたセルジオは、前祝と人を集め宴を開く。

 近隣の寄り子3つの男爵家の当主に従士。

 内通していた【ババル共和国】の元老院議員ユーイコブ達。

 私兵も多く傭兵も雇った。帝都冒険者ギルド所属の"蒼き流星"、"蒼き虚空"もそうだ。


 無意味に時間を過ごしていた訳じゃない! 家族とスキンシップをとっていたつもり! この時を待っていたのだ!


 さて、釈明も済んだし続きだね?

 金で雇われた者は許してやろう。罪状があれば許さん。

 市民も同様だ。出稼ぎに来ていた貧しい者は素晴らしい。遠く離れた家族へ送金するといい。

 行商もそうだ。キナ臭い噂を聞き付け稼ぎに来たんだろう? 命懸けの金稼ぎだ。ガンバレ。

 農夫も同じか。『カァちゃんに内緒で飲みに来た?』安心しろ。『カァちゃん』に密告しておく。そこは飲み屋じゃない。娼館だ。

 ふむ...中級冒険者が多いな。さすが上級と呼ばれる『オクルトゥスの地下迷宮(ダンジョン)』と『パテーマの地下迷宮(ダンジョン)』を領地に持つだけはある。

 帰りにノワールと踏破しよう。ノワールはそのつもりだ。

 『新婚旅行』ではないぞ? 何を考えているんだ? ノワールよ。あまり調子に乗るな!


「ふふふ....恥ずかしいのね? (カオル)

「チガウヨー。ハヤクオワラセロー」

「『任せなさい』と言ったはずよ? お兄様」


 数百年も【ババル共和国】軍を押し止め、絶対防衛を誇る【都市バーウィック】。先の戦争で共和国軍が【アベール古戦場】を戦場に選んだ理由は勝てないとわかっていたから。内通者も居たしね。

 そして人口10万人規模に膨れ上がる巨大な都市は、跡形も無く更地と化した。

 周囲に残された人は居ない。マリアが千里眼(せんりがん)で視て、ボクも神力と《雷化(グロムアラギ)》で読んだ。

 完全なる密閉された空間? 完全犯罪じゃないか? これ....


「そうね。女神アルテミスの残滓を取り込み肥大化した魔神の力。都市規模の《影呑(テネブラエビベレ)》で全てを呑み込み、《悪夢(インクブス)》で眠らせ、《(アルマ)投獄(カルカレム)》で呪われ死した魂を隔離したのだもの。完全犯罪ね? お兄様ったら...まるで悪人よ?」

「やっぱり悪人かぁ...」

「冗談よ? 冗句(ジョーク)も通じないのかしら? ア・ナ・タ♪」

「わかってるけどヤメロー! お母様の真似をするなー! 妖艶な感じで迫るな!」

「ふふふ....可愛いわ...(カオル)


 どうしよう...ボクの今後が心配です....


「マスター!」

「え? なんでフラウがここに居るの? ルル達ですら香月夜(カグヤ)の中なのに」

「フラウも地下迷宮(ダンジョン)行きたい」


 死神(デス)大鎌(サイズ)を構え期待した目でボクを見詰めるフラウ。

 どうやらマリアと視てて我慢できなかったのだろう。

 何せ死神(デス)大鎌(サイズ)で肉的なナニカを斬りたがっていたからね。

 雷神トールよ....雷槌ミョルミルは立派な死神(デス)大鎌(サイズ)に成ったよ。

 この世界、とんでもない事になってない!?


「ソカー...行きたいのかー...」

「うん.....ダメ?」

「....行こうか」

「ありがと! マイマスター!」

「ふふふ....お兄様ったら♪」





















 アウルヴァングル夫妻を殺した暗殺者兼偽りの治癒術師のゴミも始末し、【都市バーウィック】を地上へ戻した。

 住民は悪夢に(うな)されたまま眠っている。目覚めた後、当面混乱は避けられないだろう。

 何せ1千人規模で人が呪殺された。辺境伯のセルジルを始め、長男や悪事に加担していた男爵家の当主3人。従士ももちろんゴミだった。

 【ババル共和国】から密入国していた元老院議員のユーイコブ達も極秘に病死扱い。


 外傷も無ければ毒物による死亡ではない。


 この世界の医療技術で死因を判別するのは不可能。ボクが居た世界でも呪殺の判別はできないけどね。

 せいぜい突発的な心臓発作くらいか? 脳溢血や脳梗塞は原因がわかるし、絞殺なら首に後も残り目に溢血点(いっけつてん)とか死傷が出る。

 他にも悪党な輩は数多く、人攫いから何から罪状は多岐に亘る。

 故に、軽犯罪者は身包み剥いで牢屋の中へ。重犯罪者は呪殺。

 ボクが古式の広域魔法陣を展開して、ノワールが深層意識まで《催眠術(ヒュプノシス)》で記憶をでっち上げる。

 聖魔法の《言語的暗示(ヒュプノシス)》ではない。暗黒魔法の《催眠術(ヒュプノシス)》だ。苛烈差は比べるまでもなく....


 貴族印を預かる印綬官(いんもんかん)に『次期当主は次男のデルバリーである』とセルジル直筆の遺言状も持たせた。完全偽造の偽物だけどね。

 "思い込み"のレベルじゃない、記憶の操作だ。ノワールはボクの悪意で産まれた存在だからね。

 "してはいけない事"の塊。だからこの世界の禁呪を使える。

 ボクが立ち入れば壊れる世界に住んでいて、ボクを愛してくれる。

 いつの間にかそうなってしまった。普通ならボクを怨み呪うはずなのに。


「お兄様はやっぱりバカね?」

「うん。バカだよ? だから、こうして抱き締めて『ごめん』ってしか言えない」

「いいのよ? それで。私はお兄様と一緒ならそれでいいの。それに罪悪感を感じるのは自由だもの。けれどね? 私達は"誰も殺していない"わ」

詭弁(きべん)だけどね」

「そうね。でも、怨念は晴れたわ」

「これが救い。先代のアポロンが託した願い。"世界の安寧"」

「ええ。視えるでしょう? 当代のアポロン」

「視えるよ。既にこの子達の魂は来世へと輪廻転生の輪の中にある。死して尚残る怨念は、やっとこれで晴れたんだ」


 気まぐれな精霊達の様に、光の沫が昇って消える。

 無念。怨念。無残に殺された人達の想い。

 憎い相手の魂に刻まれたそれら。


 家族を友を殺された者の復讐ではない。

 まして戦争によるものでもない。


 略奪し、我欲のままに全てを奪った者達。魂への一撃。


 それしかできなかったこの子達。

 まだまだ沢山居るんだ。濁った目を持つ異端者(イレギュラー)

 根絶やしにしてやるよ。ボクの世界に悪意はいらない。

 喧嘩くらいはいいんじゃない? 競い合うのは当然だ。

 殺し合いさえしなければいい。なにせ重婚を認められるんだから。

 花婿、花嫁の取り合いくらい頑張りなよ。

 ボクも頑張る。魂を別つ半身だけど、ノワールはボクの家族だ。


「ふふふ..."言質(げんち)は録った"わよ?」

「いや、思考しただけで口に出してないし。そもそも録音なんて――」

「マスター。"録画"に続き、"録音"も可能です。ノワールよりアイデアを受け、マリアが作りました」


 ボクの特製スフィアが"勝手に"起動し映像通信が流れる。

 エルザが小さく『ありがとう』と呟き、マリアも頷いて答えた。


「じゃなくて、え? 録音できるの?」

「はい。マスターのスフィア経由ですが可能です」

「それ盗聴って言うんだよ?」

「マスター。マリアはこの地を離れる事ができません。マスターの帰る場所を守る為です。マスターの大切な場所を護る為に結界を張り続けています」


 なんだ!? マリアが怖いぞ!? 怒った時のカルアとエルミアを倍増(ばいぞう)した感じだぞ!?


「ふふふ....だから言ったでしょう? 『マリアはカオルを大好きよ』って♪」

「はい。マリアはマスターが大好きです。ゼウス討伐後、人造生命体(ホムンクルス)の解析を行ないます。そしてマスターと子を生します。決定事項です」

「まぁ...なんだ。俺も産んでやるからよ? 約束通りラエドの仇も取ってくれたみてぇだし...俺もマスターの事...好きだし」

「マスター? フラウもです」

「ルルもです」

「グレーテルもー!」

「ワタクシもですわ!」

「子種ですね? ポッ」


 エッ....なんで"強制的に"映像通信送り付けて来てるの? ボクの守護勇士達は。

 ノワールの陰謀? 策略? 策士? 何考えてるのー!?


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