第二百八十三話 アルバートの受難
「う~む....長いのぅ....」
【水の王都ソーレトルーナ】を目指し、街道を長い馬車列が進み行く。
先頭の箱馬車は一昨日見た気がしないでもない。
そして周囲を囲む青い騎士服姿の騎馬隊。その遥か後方から商隊の荷馬車がガタゴトと車輪を鳴らせ後に続く。
第4防壁の上から見下ろすボク。第3防壁と同じ高さの20m。ビルにして7~8階。
そろそろ手摺りでも作ろうかね? まぁ階段はあるけど普段は誰も昇らないしいいか。昇降口も閉ざしてある。
それで、何故週に1回の行商DAYにアーシェラがボクの王国へ向かっているのだろうね?
生徒達の唯一――そこまで期待していない雰囲気を最近感じる――楽しみな日なんだけど....
というか、箱馬車の窓から身を乗り出して手を振ってるの...リアじゃない?
黄色い髪に尖った三角耳。青いドレス姿で首から双頭犬製の黒いマフラーを巻いて。
いやぁ...時期的に暑いし、そろそろそのマフラーはいらないんじゃ...魔法耐性はあがるけど...って、そうか。暑さなんて感じないのか。魔法耐性があるから。見た目が暑苦しいだけか!
そしてわざわざ身に着けて来たのはアレか! ボクはリアの想い人だと周囲に宣伝――じゃないな。布告だ。あのドレスも前にボクが贈った代物だ。
ようするに、『皇女フロリアは香月カオル伯爵とそういう仲です』と貴族や帝国民に布告している訳だ。内実、ボクに娘なり孫なりを嫁やら愛妾に出して利権を得ようと画策してる貴族家が多いんだろう。
ボクもその手の話しをマリアから聞いてるし、もっと厄介な子爵家と辺境伯を小突きに行く予定だ。
うわぁ....魔物とか魔獣とか狩ってた方が全然楽なんだけど...人相手の方が面倒臭いってどういう事!?
「まぁいいか...」
行商歓迎用に準備はしてある。
カイとメルは今日までお休みなので、オレリーお義母様を筆頭にメイドの4人と家族達。警護団員のルイーゼ達も職務を全う中。
圧倒的に人形が大活躍してるけどね...人数が違うもの....王宮、宮殿、迎賓館と、全部合わせて100人以上の人形が働いてる。
週に2日の交代制でお休みも与えた。
思い思いに時間を過ごしているみたい。シルさん作の鍛造品の調理具も喜んでた。
今日も生徒に混じってお小遣いを渡してる。行商から何か買うだろう。
立派な固体に育って嬉しいよ。ボクと命運を共にするから、数千年生きる事になるけどね。
仲良くやっていけると思う。メイド服のデザインに注文付けてきたくらいだ。
もちろんすぐに作ってあげたさ。フリルが過剰な光希作、アイナ着用の和装メイド服を.....いいのだろうかこれで....ま、いいか。要求して来たの全員じゃないもん。
とりあえずスフィアで各員に通達。
【エルヴィント帝国】皇帝陛下ご来訪。宮殿と迎賓館の歓迎用意。一泊くらい宿泊するはずなので、当然近衛騎士達も。
食事の世話に第3防壁内の宿泊施設と厩舎。軍馬用の飼い葉とかは沢山あるから平気か。その辺は人形君達が勝手にやってくれる。
個としての実力もあるし何も問題無い。今のグローリエルですら人形相手だと倒せない。元が白銀製だからね。
錬金術師と言う名の魔術師が生み出した白銀は、物理的にしか壊せない。魔術師のグローリエルじゃ不可能。せめて他の剣騎なら....無理かなぁ。
準1級冒険者のエリーですら多対一の戦闘で人形に負けたし。あの子達は格闘術――特に柔術と合気道に長けてる。ボクが護身術として知識を与え作った。
攻撃は当たらないし、相対する相手の力が強ければ強い程あの子達は有利に戦える。そして懐に入られたら絞め落とされる。
あらゆる意味で頼りになる子なのだよ。我が子のようにね。やはり父性が!?
「いらっしゃい!」
「カオル様!!」
《飛翔術》でひとっ飛びして箱馬車へ。近衛騎士隊を率いていたのは副長のアルバート。
団長の変態レオンハルトは生きているのだろうか? 心配はしないけどね。
「アーシェラ様もリアも、来るなら教えてくれればいいのに」
「なに、驚かせようと思っての。先日はしてやられたからのぅ」
ふむ...冒険者ギルドでの話しかな?
「そういう狐と狸の化かし合いは好きじゃないんだけど?」
「狸はエリーシャじゃろう。腹黒いからのぅ」
「狐は認めるんだ?」
「狐人族じゃからの」
「なるほど...それで? 《変化のじゅ――」
「カオル? それは秘密なのじゃぞ?」
「はいはい。秘術ね?」
「うむ。他言無用じゃ! そもそも何故知っておる?」
「ん~? 初めて会った時に違和感があった。それに【カムーン王国】の王都に秘蔵されてた書物に、そんなモノが書かれてたね。エリーシャ女王が知ってるかどうかはわからないけど」
「うぅむ....ばれておるじゃろうのぅ....」
「狸だからねぇ...」
なんだかんだ言いつつ、アーシェラもエリーシャと仲が良い。
お互いの境遇が似ているからだろうけど。
「それで? リアの格好の理由は?」
「カオル様が作って下さったドレスだからです!」
「うん。そのドレスもマフラーもボクが作ってリアに贈った代物だ。アーシェラ様が着ている服もね?」
「そうじゃの。"だから"着てきたのじゃ」
あらま....事はかなり深刻みたいだよ?
今までアーシェラが抑えつけてた貴族達は、本腰入れてボクを欲しがっている様子だね。
理由は沢山考えられる。
各ギルドに設置した若樹珠等の魔法具や、商業ギルドに卸した魔法鞄等の魔法具。
先日の冒険者ギルドで示したエリーの実力は、ボクに因るところが大きいと踏んだ。
元々英雄なんて呼ばれてたし希少な魔術師だ。
地位、名声、財力、その全てを持っている12歳の子供を手懐けられれば自家は安泰。
むしろ今まで以上に繁栄するし、帝都詰めの法衣貴族から見て公爵領並の領地を持つボクは『羨ましい』の一言だろう。
実際公爵領だったからね。ココは。ハハーン? さては数十人の冒険者らしき侵入者はソヤツ等の仕業か。領地に一歩しか入れなかったんだけどね。
「大変だねぇ...アーシェラ様は」
「カオルの今後が大変じゃろう?」
「う~ん...そうでもないかな? 今週中に数家の頭は挿げ替えるつもり。病気で隠居ってところかな?」
「許容範囲内じゃな」
「だよね~...」
やっぱり知ってたか。そして自分でやらずに任せる気で居たか。わかってたけどね。
「それにしても、じゃ。随分と様変わりしたのぅ」
「でしょ? 領土が増えたし、第4防壁も建ててみた。第3防壁内も各種ギルド支部を建設したり、ボクが雇った鍛冶師も呼んだ。
一番目立つのは――」
「アレじゃのぅ....まだ遠いというのに、見えておるのじゃ」
青い不透明のお城。水晶宮は山のごとく存在感があり、実際大地が盛り上がって高地に建ててある。
なだらかな丘から平坦な平野へと第1防壁から第4防壁へ続く。
王都の規模は初期の半径5kmから10倍の半径50kmへ。
第3防壁から第4防壁までの間がとてつもなく長い。
だから警護団員のルイーゼ達は定期巡回時に軍馬を利用している。
飼っててよかった軍馬達! 一角獣のコルヌは厩舎に居るけど、エルミアとボクしか乗せてくれない! 聖女のカルアですら拒否された!
カルアが泣いてたから慰めたよ....エルミアの血縁者のはずなのに何故....そしてボクを乗せてくれるのは嬉しいけど、エルミアが居ないと走ってくれない...何故....
でもコルヌは滅茶苦茶足が速い! それこそ空を駆ける感じで! 鞍も無しの裸馬なのに超安定! 爽快感は中々のモノだったね!
幼竜達と遊ぶ感じだ。頭の上しか乗れないけどね....しかもボクとウンディーネだけ....
「まぁボクの"王宮"だしね~♪ 家族以外で立ち入れる場所は"玉座の間"と"面会室"だけだよ。宮殿で事は足りるから問題無いし」
「ふむ....」
「あの~....香月伯爵? 俺達にも聞こえてるんですが....」
近衛騎士を代表してアルバートが問い掛ける。
周囲は近衛騎士達が取り囲んでいるから当然聞こえる。
普通は密談だから箱馬車の中で話す内容だけど、彼等に聞かせた理由もあるのだ。
「聞かれても問題の無い人選だからだよ? そうでしょ? "アーシェラ"」
「うむ。この者達に"首輪"は付いておらんからの」
「"首輪"、ですか?」
「簡単に言うと、今日アーシェラを警護してる近衛騎士には、どこぞの貴族と繋がりのある者は居ないって事。
全員エリート足る近衛騎士を目指し修練を積み重ねて自らの独力で今の地位を築いた。だから"首輪"は付いてない。
貴族の後ろ盾で近衛騎士に成れた訳じゃないって事だね。でも、レオンハルトとパトリスさんにも"首輪"は無いでしょ?」
「そうじゃの。レオンハルトは代々近衛騎士を輩出してきた騎士爵位を持っておる。貞潔故に愚かな貴族と繋がりは無いのぅ。
パトリスはレオンハルトが駄々を捏ね出したからの。連れて来たかったんじゃが任せてきたのじゃ」
「はい! やはり団長を辞するべきだと私は思います!」
「リア? レオンハルトはレオンハルトなりに帝国に尽くしてくれているのだから、許してあげて欲しいのだけれど?」
「ですがお母様!」
変態は変態かぁ...有能なのは認めるけど、同性のボクに固執するのは止めて欲しいよ....
そもそも代々近衛騎士を輩出する家柄なんだから、子孫を残せる女性を娶りなさい。
同性愛は認めよう! 嫌悪もしてない! 例外が遥か後方の荷馬車で揺られているけど!
「リアの想いは嬉しいよ。でもレオンハルトは団長として認められる実力と才能。なにより努力してる。そんな事はこの場に居る近衛騎士を見ればわかる事だから」
「...ええ」
「はい...」
「性格がアレですが....」
「最近は特に訓練を励んでいますし...」
「おかげで私達にも熱が入り....」
ポツリポツリと語る近衛騎士達。
アーシェラも満足そうに頷いてるから間違いないと思う。
見た目が女の子のボクにさえ入れあげてなければ....というか、顔が整ってるんだし異性にもてるでしょ?
リア付きの侍女の――そうそうベルって子。あの子と縒りを戻せば良いのに。善い子だよ? お家がアレで消えて無くなったけど。
「という訳で、リアもそこまで!」
「カオル様がそうおっしゃるのでしたら...」
「うんうん♪ それで? アルバート達を連れて来た理由は?」
「うむ! 実はの?」
「ボクの家臣に『修練を頼みたいのじゃ!』って?」
「話しが早くて助かるのぅ! そういうことじゃ!」
バレバレだけどねぇ....
実力で近衛騎士の地位を得た彼等が強くなれば、派閥争い云々が楽になるからでしょ?
首輪付き――いや、紐付きか。今まで邪魔だった元軍閥の無能者を掃除して、有能な彼等と挿げ替える。
な~に、代わりの近衛騎士候補は沢山居るんだ。武術大会で有能な人物をとりあえず兵士として雇用するなりして、人柄と能力をじっくり観察するんだろうね。
「う~ん...【エルヴィント帝国】は、そこまで腐ってないと思ってたんだけどなぁ....」
「妾が皇帝戴冠の折りに、大規模な改革を行なったからの。【カムーン王国】に比べれば少ないじゃろうが...無能者はどこにでも居るものじゃ」
「なるほど。敢えて【ババル共和国】の国名を上げなかったのって...」
「行けばわかるじゃろうがの。腐っておるぞ? 元老院が特にの」
「やっぱりかぁ....」
元首も芝居がかった胡散臭い人物だし、益々行きたくなくなったよ...
でもエルザの前マスターが活躍した地だしなぁ...いずれ行く事になるだろうね。行きたくないけど!
「それで? 何泊するの?」
「2泊じゃな。構わぬじゃろう?」
「うん。ゆっくりしていくと良いよ。オレリーお義母様なんて温泉の効能で若返ったし」
「なんじゃと!? 温泉が湧いておるのか!?」
「そうだよ~♪ 娘のフランと見分けが付かないくらい若々しいよ? 間違えて抱き付いたりして大変なんだから....」
今は平気だけどね! 三角耳の先が色薄毛なのがオレリーお義母様だ!
「こ、ここ、これはなんとしてでも満喫せねばならんの....」
「お、お母様!? お、落ち着いて下さい!?」
「うんうん♪ 女性は産まれてから死ぬまでずーっと女性だからねぇ♪ 美容には敏感だよねぇ♪」
「そ、そうじゃの....」
「は、はい...」
「さて、じゃぁもうひとつだけ質問」
「なんでも聞くといいのじゃ!」
「2日の修練で彼等を鍛える。それなりに強くなるだろうね? 特にアルバートとか」
「俺ですか!?」
「うん。元々副長を勤める実力者だ。部下の近衛騎士達もわかってる」
頷いて答えた部下の近衛騎士。
アルバートはちょっと恥ずかしそう。
謙遜する必要はないのにね? 聞いてるよ?
【カムーン王国】に留学して、王立騎士学校で戦術理論課程の学位を取ったんでしょ?
「で、邪魔な元軍閥の法衣貴族をどうやって蹴落として、この中に居る近衛騎士をその役職なりに就かせるかって事だけど...まぁ簡単か」
「うむ。簡単じゃの」
「お母様?」
「ふふ♪」
女狐全開だねぇ...温泉が嬉しいのも関係してるけど。
とりあえず目を細めると怖いよ!?
「今の帝国に軍務卿の席は無い。元々無かった」
「その通りじゃの。選帝侯から皇帝が選出される我が【エルヴィント帝国】では、軍部そのものが百年以上前に撤廃されたからの」
「そうだね。だから先の戦争で近衛騎士団がその役割を担い、急遽諸侯軍と冒険者を掻き集めて派兵した」
「うむ。御五家のひとつが軍を預かるなど、いつ反乱を起こすかわからぬからの。今は御四家じゃが」
「まぁだから廃れたんだろうけどね。それで、元軍閥の流れを汲む食い詰め者の法衣貴族が色々言ってきてる訳だ。戦争が起きてしまったからね」
「そうじゃのぅ...ここ数十年は戦争も無かったからの。妾の代でも近衛騎士に兵士。冒険者へ緊急クエストを依頼しどうにかできておったのじゃが....」
「それが今じゃ下からの突き上げが多く正直邪魔臭い。怪しい動きをしてる辺境伯も居るしね?」
「うむ」
「そこで御四家で会議を行なった。『どこの貴族とも繋がらず、選帝侯の我等にすら属さない者を軍務卿に任命しよう』と」
「....何故知っておるのじゃ?」
「情報収集に長けた子が居るからね♪」
ノワールとかマリアやね。その気になればボクも。
「で、選ばれたのがここに居る近衛騎士って訳だ」
「「「「「お、俺達ですか!?」」」」」
「うん。『誰?』とまでは決まってない。ここに居る人は、騎士爵又は準騎士爵の近衛騎士だ」
「いやまぁそうですけど...」
「しかも市井の出自。反発は多いだろうね? "青き血"が流れる貴族からは特に」
「そうじゃのぅ」
「でも、遡れば誰も"青き血"なんて流れてない。同じ人だ。"血は赤い"。尊いという意味なら聖職者が一番尊いだろうし」
「正論じゃの。例外も居るが」
「その辺は【聖騎士教会】が自分でなんとかするよ。我欲に塗れた聖職者ほど醜い生き物はいないから」
ボクは出会った事も見た事も無いけどね。
「ただねぇ...アーシェラはアルバートを軍務卿の席に据えたいんだろうけど、レオンハルトがねぇ...」
「そうじゃのぅ」
「あの...レオンが何か? そしてなぜ俺がそんなに高く買われているのかわからないんですが」
「ん? アルバートはもう少し自信を持った方がいいね」
「うむ。先の戦争で指揮しておったのはアルバートじゃからの」
「いえいえ! レオンが居たから出来た話しですよ!? 俺一人じゃ到底――」
「その謙虚さが部下の信頼を厚くしてるんだけどね?」
「エッ!?」
驚いて周囲を見渡せば、部下が頷き馬を寄せてアルバートの肩を叩く。
照れ臭そうに頬を掻き「お、おぅ...」なんて....男の友情や!
ボクもあとでカイの肩を叩こう。なぜなら親友だからだ!
「う~ん...パトリスさんを副長にしたらどう? アゥストリから聞いた話しだと、近衛騎士の中で3番目の実力者なんでしょ?」
「そうなんじゃがのぅ」
「パトリスさんじゃレオンハルトを御しきれない?」
「どう思うのじゃ? アルバートよ」
「お、俺ですか!?」
「うむ。他でもない、親友じゃからのぅ」
困惑しつつも考え始めるアルバート。
この場に居る部下もアルバートが軍務卿なら従うと表情に出てる。
なにせ仲間思いの善い人だ。気安く『死んで来い』なんて命令したり判断しない。
むしろ仲間を殺すくらいなら自分から死地へ向かうだろうね。
御者役の同族――犬人族の青年近衛騎士――も、ボクの表情から同じ事を読み取ったみたいで『それはさせません』と小さく呟いたし。
「....レオンが部下になるんですか?」
「それはないかな。近衛騎士は皇帝直属の忠臣だから。軍務卿は帝国所属の騎士や兵士を取り纏める役だね。あと、諸侯軍が結成された時の総指揮官」
「そうじゃな。元々近衛騎士は独立した騎士団じゃからの」
「あと、帝国は軍事政権じゃないから発言力も皆無だね。兵力はあるけど、決定権は皇帝が持つし」
「当たり前の話じゃな。どこぞのクーデター騒ぎを起こした国とは違うからの」
「アレは国王が腐ってたからだけどね。あと宰相」
「うむ。後者は仕方が無い側面もあるのじゃがな」
「内乱続きで野心家でも有能なら使わざるを得ない状況だったんだろうね」
「わかっておったか」
「死刑台送りにしたのボクだもん。【イシュタル王国】で暴君を倒したのにも力を貸したしね? オダンは善王だよ」
「そうじゃのぅ。カオルの信頼を裏切るような輩ではないの。家臣がどうかは知らぬが」
「あー...武閥と宰相は無能者だったねぇ...だから職権も地位も剥奪したし。文閥は有能だよ?」
「ならばしばらくは安泰じゃろう。カオルが生きている限りはの」
なら、あと数千年は安泰だねぇ。桁がおかしくて訳がわからなくなるよ!
「(物凄い会話じゃないか?)」
「(ああ...やっぱ黒巫女様可愛いな)」
「(おいおい? マジで止めとけよ?)」
「(いや、そういう意味じゃなくてよ? 見た目が、だよ)」
「(それは俺も同意だな)」
「(ああ。女の子だったら全財産注ぎ込んでも...)」
「(お前....女で破産するタイプだったか....)」
「(アレだろ? 南門近くの時刻みの翡翠亭の...)」
「(ジョゼットちゃんか....)」
「(あの子もそこそこ可愛いからなぁ....)」
「残念ながらジョゼットは魔工技師のシャルセルと付き合ってるんだけどね?」
「「「「エッ!?」」」」
内緒話のつもりだったんだろうけど、丸聞こえなのじゃよ?
もちろんアーシェラにもリアにも。アルバートなんか呆れてるし。
「あ、あの黒み――いてぇ!!」
「香月伯爵....その話しは本当ですか!?」
「うん。えーっと...ほら!」
特製スフィアを起動し、仲睦まじくカフェでお茶をしてるカップルを表示。
人間の女の子がジョゼット。エルフの男の子がシャルセル。
同い年の14歳。まだ未成年なので子供扱いやね。
そして近衛騎士の彼等は成人してるけど、一番年齢が高くて25歳くらいかな?
まぁ普通だね。女性と比べて男性の晩婚率が高いし。20歳過ぎると嫁き遅れらしいよ? 女性は。
ローゼもカルアもあんなに魅力的な女性なのにね? おかしいの。
「これが例のアレで...」
「映ってるのは間違いなく...」
「ジョゼットちゃんが...」
「魔工技師のシャルセル....許すまじ――」
「残念。齢14歳のシャルセルは、帝国所属の優秀な魔工技師だから何か変な事をすると...」
「妾が許さぬな」
「「「「申し訳ございませんでした!!」」」」
「うむ」
さすが皇帝だねぇ♪ 一応助け舟でも出しておこうか。
「ちなみに、アーシェラは女性だけの騎士団を設立しようかとアラン財務卿と話し合ってるから...」
「そうじゃのぅ....女性騎士が生まれれば....」
「お見合い話的な?」
「騎士爵同士だからのぅ」
「面目やら面子やら沽券やらも気にせず、エリートとエリートの可愛い子供が産まれるかも?」
「しれぬのぅ」
「「「「皇帝陛下に改めて忠誠を!!」」」」
「うむ!」
あはは♪ 面白い人達だねぇ♪ 帝国もしばらく安泰だね♪
「さて、ボクの王国の民が見えてきたね。アルバート?」
「....なんでしょう?」
「"階段"は用意してやろう。"昇る"か"昇れない"かは自分で決めろ。"昇る"のであれば武勇が必要だ。その為の武術大会。
親友レオンハルトを倒し、優勝を掴み取れ。そして喧嘩し、泣き、笑い、語り合え。親友だ。仲直りするのに一晩もいらないだろう?」
「....」
「まったく、カオルも王らしくなったもんじゃな」
「そうかな? ボクはまだ子供で甘いから、アルバートに教えてあげる。
"親友"は、親しき友ではない。"互いに心を許し合える友"だ。
今日と明日、修練の中で振り返るといい。レオンハルトと過ごした日々を。
勇往邁進。覚えているね?」
「....覚えています」
「強く在れ! 隣を歩く友と手を取り前へ進め! 騎士の誓いを胸に秘め、決して折れぬ剣を高く掲げろ!」
「はい!!」
「大丈夫。アルバートなら出来る。それに――」
「そうじゃの。軍務卿なんぞ所詮肩書きじゃ。やる事は今までとそう変わらん」
「そういうことだから♪」
「「「「「エエエエエッ!?」」」」」




