第二百八十一話 もしかしたら?
「ご主人!」
「アイナ!」
「ご主人様!」
「フラン!?」
アイナアタックで大歓迎され、フランアタックも何故か発動? 何故張り合うのだろうか....
そしてフランはボクより身長高いから、急成長を遂げた胸に顔が....まぁいいか。
さて、懸念していた通り準1級冒険者のエリーさんは鼻高々に天狗さん状態で橙色に輝くペンダントを掲げ、自分の武勇をボクの家臣へ語り出す。もちろん後でローゼからお説教だ。
元第2級、準2級冒険者のヘルナ達が『嘘だ!!』『詐欺や!!』『ずっこい!!』『ちっぱい!!』とか暴言吐いてたけど、今日だけは許そう。サラの方がエリーより胸は大きいからね。込める魔力が足りなかったか? いやフランは成長した。やはり個人差か。
エルザは火山竜と戦いたかったそうだ。《天使化》を使わないと辛いだろう。黒い騎士服にそこまで耐久力は無いし、せめて完全武装しないと全裸確定だ。見せたいのか?
転寝してるグレーテルは可愛いから置いておくとして、ソフィアはそろそろどこかに連れて行かないとヤバイかもしれない。
『砂漠? 溶岩? 娯楽...娯楽ですわ!』なんて口走ってたけど...それは観光地としてどうなのさ? 【イシュタル王国】の民にはすまぬ。しかし砂漠を観光地にするなら、せめてピラミッドなりの建造物を観たいです。
あとはフラウもかな~? 死神の大鎌で斬りたいらしい。生き物的な何かを。これは本格的にエルミアに似てきたよ....巨竜を撃ち抜きたいとか思考が同じだよ....
帰国後早速エルミアは一角獣を名付けた。"コルヌ″だって。お菓子作りのデッカイヘラと民族楽器を思い浮かべたけど――Unicorn――の"ひとつの角"から名付けたのね。
と言う訳で、召喚魔法を刻印した魔宝石をローゼとエルミアに贈呈。不死鳥のアクイラは香月夜に住むそうだ。竜樹が喜んでた。
『コルヌもいつでも香月夜へどうぞ?』って言ったら、『馬が居ますからあの場所でいいそうです』と回答が。なるほどね~...軍馬に荷馬にと、馬が居るからね。ボクが単身で乗ると走らないけどな! 懐きすぎなんじゃよ....良いのじゃ。ファルフがおる。エサをお食べ? 小鳥のファルフよ。
他に変わった事は――
主神カオルを崇める教徒――ルイーゼ達とフェリス――は無視で、新婚のカイとメルは来週頭まで休暇中だ。大丈夫、食料は家に備蓄させたし錬金術で精力剤的な媚薬も授けた。子はできるだろう。新婚旅行は当分無理で申し訳無い。
旅立つ前メリッサに火の精霊イフリートの加護の話しをしておいたから、聖火の灯る炉を使えば鋼鉄製のインゴットがアラ不思議! 精霊金属製の武器に作り変えられちゃいます。
まぁ黒曜石を精霊の力で錬成した黒曜石鋼には敵わないけどね。ほんのり赤い武器だ。しかも癖が強い。
武器自体が持ち主を選ぶし、【エルフの里】以外に輸出もしない。持ち主が死ねば砕けて消える。そんなある意味呪われた代物。もちろん、普通の鋼鉄製の武器も作れる。メリッサは腕が確かな人物だから相応の良品がね♪
精霊金属は特別だし、王国民へ販売するかどうかは国民を募ってから決めようと思う。まずは新たなる家臣団へ下賜する感じかな?
鋼鉄製に偽造してるけど、白銀製の装備を作りまくってるからね。エリーシャの許可は得てるけど。
そういえば、ボク提案ファノメネル了承の治癒術師派遣の件も進んでる。
【カムーン王国】と【イシュタル王国】の戦争を回避できたおかげだ。治癒術師を多く派遣させるように手配していた【カムーン王国】側から先発隊として5人の女性治癒術師――男性治癒術師は【イシュタル王国】の救援へ...スマヌ――がやって来る。しかも女性聖騎士を引き連れて。
ルイーゼ達以外に居たんだ....なんて、そりゃ居るよね。女性の方が強いし? 元聖騎士のルイーゼ達に指導でもさせるかな。彼女達もそこそこ強くなれたし、聖騎士もそれなりに強くなるだろう。
温泉もあるし美容術もある。保養地として...第3防壁内に礼拝堂と治療所と詰め所に住居。訓練場くらい作っておくか。約束もしたし。
第3防壁まで入都可能な権限を持つ魔宝石付きの"銀の腕輪"も用意しておくかな。スフィアはやらぬ。マリアが怒る。
ふむ...そうなるとオルブライトさんに早く政商の件を打診した方がいいかな?
【カムーン王国】の王都にある6つの食堂は、そのまま商いを続けるか規模を縮小するとかしてもらって......
女性従業員を引き連れて第3防壁内で食堂を営業してくれないと、我が王国民の食事事情が!
いっその事、移住を勧める? 住居も第3防壁内に新築してもいいし。持って来てもいいよね。アットホームな温かい家を。
増築...う~ん....庭と高い塀を用意して、門扉もそれなりの豪華な物を....政商らしく...一等地に建つメリッサと同じ、各ギルド支部の近くかな~...
今のうちだけだよね。区画整理できるのって。
農民志望の人は第3、第4防壁の東西南北に分かれて離れた住居を構えてもらえば農地が近くて便利だし、日に数回王都内を乗り合い馬車を回遊させて買い出しとかに利用しよう。運賃無料で。手紙とかのやり取りもできるしね~♪
隔壁の門に常設の人形とゴーレムを配置するか。マリアの結界があるから上空侵入は不可能だけど、監視役にガーゴイルでも作るかね?
魔物の魔岩生像じゃなくて、土魔法の《魔除動像》。
人形が一番知能が高くて、次に魔除動像。三番目が泥人形やね。
ランク別けの理由は、人形はボクの知識を持ち高濃度のマナの影響で形成された人格が独自に話し始めたから。
二番目の魔除動像。元々固有の魔法で独立した存在。土や鉄製なのに空が飛べる。製作した時に魔術師の魔力を持ってくからね。古に失われた古代上級魔法。
三番目の泥人形は、土系統の魔術師なら誰でも使える代物だ。一人に付き1体だけしか使役できないけどね。
その理由も簡単。複雑高度な事を術者本人が操縦してやらそうとしてるし、常時魔力を与えてるから。
あんなものは魔宝石を触媒に自分の血を垂らして《不死乃土塊》で生成。『獲物を狩れ』『人を殺すな』『ボクの言う事を聞け』と命令すればいいのだ。
魔宝石で周囲のマナをチュルチュル吸い続けて可動できるし、血を与えて契約からの人の生存本能を覚えさせる。
誰も意識して『右足を出して上体でバランスを取って左腕も振って』なんて考えながら歩かない。
他の魔術師はソレを一生懸命やらせようとするから1体しか作れなくて四苦八苦してる。
ボクは『egoの黒書』の知識と"土竜から教わって"ソレが出来るようになった。
感謝してるよ。ゴーレム君達にも。毎日頑張って勤めを果たしてくれているからね。食材をありがとー! 我が愛しき蛹達よー! あとで魔改造してあげるよー!
そのおかげで王都近くの3つの魔境は食糧生産所化してる。
だから過剰な食肉があるのだー♪ 魔獣やけどね♪ 魔素から生まれてるけどね♪ 美味しいし害は無いんじゃよ~♪ 駄女神達が創った必要悪は食べれるんじゃよ~♪
あ、筋張ってたりお肉が少なかったり魔物は食べられません。
見た目は二足歩行の人に似てる魔物とか多いからねぇ...同族嫌悪やね。
あとちっこいワンコとか? 一昨日くらいに倒してた火魔犬、火魔猫やね。
食べれなくは無いけど肉が少ない。なので、素材を取って発酵からの肥料やね。
双頭犬くらい大きければねぇ....アレは美味しかった。
這地竜もカイとメルの挙式2日目に出してみんな美味しそうに食べてたし。
フフフ....前に双頭犬を出した時、ローゼが露骨に嫌そうな顔をしてたからね....してやったりなんじゃよ....
なので、調理はボクと人形君達でやったのです! だーれもしーらーなーい!
「コーンポタージュスープだ!」
「はい。無事のご帰還をお祝いしようかと」
「ヤッター!」
オレリーお義母様の家に代々伝わるコーンポタージュスープ。
"秘伝のレシピ"で嫁いだ娘に教える物なのだ。
故にフランはまだ作れない! オレリーお義母様しか作れないし、調理時は人形君達も調理場から姿を消す。
材料と味からなんとなく似たような代物は作れるんだけどね。でもそれは似た何かであって、オレリーお義母様の家に伝わる美味しい料理ではない。
なので嬉しい! ワーイ! ワーイ!
「...なぁ? どう思う?」
「...う~ん無いとは思うけど」
「...カオルちゃんまさか」
「...胃袋は掴まれてます」
「なんの話しですか?」
「むー!」
いつまでボクはオレリーお義母様とそういう関係に成ると思われているんだろうね?
ナイナイ。ソレハナイ。
夕食も食べてお風呂も入り家族と一緒に少し寝る。
その後色々創り造って"大物"はノワールに頼み影へ呑ませ、ボクは彼女の部屋を訪ねた。
この世界へ降りて来た1柱の女神。神力もほとんど失い本来の姿ですらない彼女は、ずっと自分を責め続けている。
ゼウスに与えられた命令。ボクを監視するという役目を彼女は放棄した。
自分には重い荷物だった。重責に耐えられなかった。ボクを哀れに思った。そして何より失った家族に合わせる顔がない。
初めて出会った時の彼女は、そういった想いを抱いていた。
ボクはそれを読んで知ったけど、悪いのは彼女じゃないと思う。諸悪の根源は当代のゼウスだ。
女神ロキも、彼女が愛したルカという男性も、そして子供も。
おそらくゼウスの手の中で踊らされていた。
因果律を操れるゼウスが、ルカと子供の命を弄んだに違いない。
それは女神としてロキを欲したから。
ワザと減らした神の1柱として、ロキの才能を買ったんだ。対価に2人の命を払って。
かつてのロキと同じく"人の心を読める"ボクだからこそわかってしまう。
この力は異常だ。なにせ同じ神が相手ですら読めるのだから。
「....入るよ? ロキ」
扉の前で呟き、ボク専用の特別なスフィアが認証。引き戸が自動で引かれる。
水晶宮の一画に設けたロキ専用の部屋。廊下続きでシヴとウェヌスの部屋もそれぞれ用意した。
権限は家族のみ。ファノメネルやアブリルですら入れない高度なセキュリティ。
現状の王宮はほとんどがそうだ。謁見の間と面会室以外立ち入れない。
そうルル達と取り決めた。最先端魔科学技術の隠匿。知られてはいけない秘密の集合体。
女神も知られてはいけないのかもしれない。だから隠し匿った。
特にロキは壊れてしまいそうだから。
「...カオル。俺は――」
「いいよ。無理に話す必要は無いから。ただ、同じ時を過ごそう? 無言でいい。傍に居よう?」
小さな精霊の身体。開かない窓辺に蹲り、月を見上げ唇を結ぶ。
亡くした人と罪悪感。こんな小さな身体に抱えきれない想いを秘めて、ロキは毎日後悔してる。
いつかのボクと同じ引き篭もり。
憎んで怨んで悔やんで。自棄を起こし自傷行為で"生きている"事を認識する。
ボクもそうだった。お父様とお母様の葬儀が終わり、親権や遺産相続。その全てをゴミ共にいいようにされた。
だから逃げて部屋に閉じ篭り、血が滲む程に腕を掻き毟った。
腕の痛みが嫌でも教えてくれる。
これは現実で幻じゃない。
"生きている"から痛い。
でも、あとで後悔するんだ。
この身体は、大好きなお父様とお母様から頂いた宝物なんだって。
ボクは気付けたから止めた。前を向こうと知識を求める事で現実逃避した。
あの時のボクは、『いつか帰って来る』って信じていたから。
お父様とお母様がボクを置いていなくなるなんて思えない。
愛してくれる人。ボクも愛する人。たった3人だけの家族。それがボクの世界だった。
それがいけないことだったのかわからない。
孤独感と虚無感。いや、喪失感かな?
『胸にポッカリ穴が開いた』なんて言うけど、そんな言葉で片付けられる感情じゃなかった。
過呼吸に頭痛、目眩に嘔吐。独りで生きたボクは毎日後悔して泣いて生きた。
お父様とお母様の寝室の前で、部屋にも入れず壁を叩いて。
でもある時気付いた。
今のボクをお父様とお母様が見たらなんて思うだろうかって。
だから俯くのを止めた。現実逃避でもいいから、恥ずかしくない姿であろうと努力した。
お父様の言い付け通り日課をこなし、お母様が作るお菓子を真似て。
そうして生きて、殺された。
絶対神。唯一神。全知全能の神と謀り人の命を弄んだ当代のゼウスに。
ボクは許さない。ゼウスが辛い想いをしていたとしても、許してはいけない。
これ以上ゼウスの書いた筋書きに、ボクの家族やロキの家族の名前を載せてはいけない。
書き換える。ボクの世界でボクの筋書きに。
お父様とお母様は『好きにしなさい』と言うはずだから。
「....カオルは強いな」
「強くないよ。すごく弱くて臆病だよ」
「知ってるけどな」
「うん。ロキは視てくれていたからね」
「『くれていた』、か」
「そうだよ? 今のボクが生きていられるのは、お父様とお母様。風竜にローゼ。カルアにエリー。エルミアとフラン。アイナにアーニャ。土竜もオレリーお義母様も....
沢山の人がボクを想い支えてくれているから生きてる。その中に――ロキも入ってる」
死する事すら許されず。まして身体を傷付ける事もできないロキ。
偽りの精霊の身体に押し込まれ、彼女にできた事は逃げる事だった。
そして今――ロキは自分を責め続けてる。
輪廻転生ではなく、世界を再創造する事でルカの魂を磨り減らしてしまった。
その責任は自分にある。全部自分が悪い。そう想い込まされてロキは生きてる。
本当は違う。ゼウスがそう仕向けたんだ。いつか気付き禊を済ませた彼女をボクは抱き締めてあげたい。
ルカも子供も願うはず。お父様とお母様と同じ様に『好きにしなさい』って。
「...また来るよ。ロキ」
「...ああ」
ボクを認証し自動で開かれた引き戸。
ロキは動かず窓辺で俯く。
立ち去ろうとした別れ際、何故か言葉が浮かび口に出してた。
「可愛い顔が台無しだぜ?」




