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第二百八十話 クラフターズスクール


 はてさて、無事に冒険者一同を言い包めてエリーは準1級冒険者へランクアップ成功。

 『第1級冒険者でいいんじゃないか?』なんて言葉が聞こえたけれど、それはいけない。

 国難を退ける力を持つのが第1級冒険者だ。オダンみたいにね?


 それに、エリーはまだ早い。


 目標をそんな簡単に達成してしまえば、次の目標を探さなければいけなくなる。

 エリーは若いからいつか慢心する。油断すれば死んでしまう。

 なのでダメ。


 準1級冒険者のジェルマンとロイクを噛ませ犬にしてしまったけれど、本人達は満足してた。

 『勇往邁進(ゆうおうまいしん)』という言葉が気に入ったそうだ。良い言葉だからね。

 そして今の冒険者は平均的に見る必要が無いくらい弱い。同時に帝国兵全員。あの近衛騎士ですらやっぱり弱い。

 なので、エロジジィこと引退した元剣騎にして元第1級冒険者のシブリアン・ル・ロワルドを指導教官へ任命。本人はまだ知らない。

 平気平気。単身で戦場へ歩いて来るくらい元気だから。まだまだ老い先は長い。


 全体的に魔術師と一般人の格差が激しいんだよね。

 本当の意味で"類稀なる能力"。

 う~ん...高濃度のマナの影響下で、魔力量の底上げできないかな? 実際ボクの国で試してるけど微妙なんだよね。

 食物も魔力で育てて食べてるし、地脈と龍脈の影響でかなりマナが濃い。(シティ)(コア)で操作してるんだけど。

 でなきゃ生徒達もスフィアとか発動できないからね。作成予定の"空飛ぶ箒"も同じ。

 【水の王都ソーレトルーナ】でしか使えない代物。

 外部に持ち出すのは、マリア達にも止められるだろうし。


 それでだ。幼い12歳の男の子に劣情をもよおす変態男とか、『美少女みたいな美少年も行けちゃう』とか言い始めた女性陣とか、そのままボクに冒険者指導教官を押し込もうとする輩に鉄槌と言う名のチョップで沈黙させて冒険者ギルドを辞した。

 アーシェラは危機感を感じ、近衛騎士を始め全ての兵士を再教育するそうだ。一応剣騎の2人を指導教官に推薦しておく。

 エロジジィ曰く『まだまだヒヨッコじゃ』らしいけど、今のままでもそこそこ強い。脳内ホルモンのドーパミンが出まくると『ヒャッハー』な人になるけど....まぁいいんじゃない?

 自主修練しながら頑張ってください。武器も白銀(ミスリル)製の物を下賜されたみたいだし? やっぱりレギン親方作だった。そんな予感はしてたけど。

 あとは、女性のみで構成された女狐騎士団(仮)――蒼艶(そうえん)騎士団とかなんとか言ってた――を本気で考えてるらしい。

 将来的に独身の近衛騎士団の若人と結婚させたら....エリートの中のエリートが産まれる!?

 その為の武術大会か....恐ろしいねぇ....女狐(アーシェラ)


 エドアルドは色んな意味で打ちのめされて再起不能に近かった。

 なにせ、老樹珠(グランドウッドパール)でエリーをランクアップさせた時に"ジョブ"が3つも表示されたのだ。

 トリアジョブやからね。1つは肩書きやけどね。しかも剣士・魔法戦士だからね。エリーは表向き魔術師じゃないからね。火篭手(フエゴガントレット)のおかげやね。犯人ボクやね。

 一応説明はした。『自己学習型の若樹珠(ウッドパール)と、老樹珠(グランドウッドパール)も学習するから、近いうちに他の冒険者も表示されると思うよ?』って。

 実際、商業ギルドでは2つのジョブが表示された人も出ているらしい。ドゥオジョブやね。

 商人・会計士だったらしいよ? 実に有能....いや普通か。商人なんだから帳簿くらい毎日付けてるだろう。そもそも商人は肩書きだ。

 なので、しばらくの間エリー以外の家族は秘密だ! ジョブが大変な事になってる! ローゼとエルミアの姫はまだマシだけど、カルア...聖女だよ....【聖騎士教会】から教皇のアブリルが放逐....されてるね!? 餌付けしてるから捨て置こう。うんうん。


 そして冒険者ギルドを出て――アーシェラに【オナイユの街】の騒動云々。香月夜(カグヤ)の事を云々。全て誤魔化し『武術大会を待て!』と跳ね除け――商業ギルドで本部長のケイシーと商談。

 500キロまでの重量をいけちゃう魔法鞄(マジックバッグ)は100万シルド。

 100キロまでの重量をいけちゃう魔法袋(マジックポーチ)は10万シルド。

 最後に10キロまでの重量をいけちゃう魔法巾着袋(マジックミニポーチ)を3万シルドで(おろ)す事に決まった。

 (おろ)し価格であって販売価格ではない。この卸値(おろしね)に商業ギルドが手間賃その他利益を上乗せして販売するのだ。

 魔法鞄(マジックバッグ)....1億円近いんだよ? 丸パン1個1シルドで買えるんだよ? 王国やら、貴族やら、政商やら、豪商やらが買うだろうね。国の威信やら、自家の財力を誇示する為に。

 なので、メッセンジャーバックだけじゃなくて、アコーディオンバックとか、リセサックとか、エンベロープバック等々....色んな形で作った。出来合い物じゃなくて新品新作として。

 レッグポーチ型の魔法袋(マジックポーチ)も形は色々だ。

 魔法巾着袋(マジックミニポーチ)だけは無理を言って――こちらの要求を呑まざるを得ない状況なので言いなり――卸値(おろしね)で販売させる。

 販売のメインターゲットが冒険者だからね。携帯食料とか、野営具とか、予備の装備とか持ち歩くの辛いから。コレだけは価格をそのまま据え置きなのだ。

 まぁ、魔法鞄(マジックバッグ)魔法袋(マジックポーチ)だけで荒稼ぎできる。商業ギルド側は十分な対価を得れる。


 問題は帝都商業ギルド本部の周りが物々しい雰囲気な事だろうか?


 売れれば数千億...いや、1兆円規模の品物を預けるんだし当然それなりの警備要員をギルドが雇った。

 帝城並の武装した集団が建物を取り囲んでいる。全員身元確かな者なんだそうだ。

 縁故採用が多いと個人的な感想を述べておく。

 支払いはボクの口座へ分割払い。

 『すぐに振込み次回の納品をお待ちしています!』なんて、ケイシーさんの鼻息が荒かった。

 金額を知ったローゼの目が輝いてたり。即座にカルアとエルミアから説教されたり。

 卸値と利益率と宣伝&費用対効果――魔法巾着袋(マジックミニポーチ)は帝都民の年収相当らしい価格なので、即買いからのすぐに持ち歩き自慢&宣伝する人が出る――辺りでエリーは頭から湯気を出してた。

 『飛空艇は早くて来月ですかね?』と(うそぶ)いておく。作ろうと思えば明日にでも1艇はいけるけど、明日は休日と決めたのだ! なにせ地下迷宮(ダンジョン)帰りだもの!

 その後、地下室兼保管所へ魔法具を仕舞い鋼鉄製の厚い扉で閉じる。

 硬貨とかも箱単位で置いてあったから金庫やね。壁も鉄板で打ち付けてあったし。盗掘は不可能だろう。常駐の警備員も居るし。


 すぐ近くの塾にも立ち寄った。

 もうアレだね。塾じゃなくて学校だね。木工師・革細工師・裁縫師・彫金師・鍛冶師・薬師等々....

 利に聡い商人ならではの環境だよ。鍛冶ギルドも本腰入れてるし、鍛冶職人を派遣してカンカン叩いてる音が聞こえるもん。

 いつの間にか工房みたいな建物も増設されてモクモクと煙が昇り....クラフターズスクールや! いや造語だけどね。

 黒板あったんだ....チョークあったんだ....懐かしいなぁ....

 【カムーン王国】の王立騎士学校とか、ココ帝都にある魔術学院とか、黒板なんて無かった....

 そうだよね...鉄を叩いて延ばし塗ればいいんだよね...チョークなんて石灰岩とか貝殻でも砕いて練り混ぜればいいもんね....

 アゥストリ。黒板、買おう? ララノア学長。ボクなんて放っておいて、黒板、買おう?

 ボクは買わない。だってスフィアがあるから。羊皮紙も白紙もパピルス紙も、先週から使わなくなった。

 たまにボクは羊皮紙を使うけど...ソレは契約用のとても恐ろしい呪いが掛かっていたりする....ノワール...オソロシヤー!


 一応、識字率と算術程度を詰問(きつもん)――尋問(じんもん)ではありません。ちょっと強く聞いているだけです――し、やっぱりココでも算盤(そろばん)が!?

 暗算しろー! 初等数学...いやもう普通に算数と呼ぼう。


「お母さんがリンゴを3つ買って来ました。お父さんがそれを1つ食べました。お姉ちゃんも1つ食べました。残ったのはいくつでしょう?」

「えっと....」


 ....ヤメロー! 指折り数えるなー! エリーも何してるの!? というか何この授業!?

 幼稚舎!? ここ何歳から入るの!? ねぇ! 成人前って14歳まででしょ!? 酷過ぎるよ!!


「パン屋さんは、朝、昼、晩と、一日3回パンを焼きます。1回に焼けるのは24個です。では、一日でいくつ焼けますか?」

「.....」


 ナンデー!? 掛け算だよ! 3×24だよ! 足してもいいんだよ! 24+24+24でいいんだよ!

 だから指折り数えるのをヤメロー! 手足合わせて20本しか無いから足りないって!


「...エリー? 答えは?」

「...沢山」

「正解は72だよ。帰ったら座学決定」

「...ハイ」

「ちなみに、7日間で504個。28日で2016個。1個1シルドで換算すると、そのパン屋さんは凡そ1ヵ月で2016シルド稼げる訳だ。

 という事は、12ヶ月で年収24192シルド。金貨2枚と、銀貨41枚。銅貨92枚の計算だ。

 帝都の平均年収が3万シルドだから少ない収入だね? だけど、パン屋さんが居なければパンを食べれない。

 その為の商業ギルド。薄利多売のパン屋さんを援助し、ボク達は毎日美味しいパンを食べられる訳だ。重要な事だから、覚えておいて」

「「「「はぃぃぃ....」」」」


 エリーを含め、なんだこの艶っぽい視線は。

 ヤメロー! ボクより年齢が上だろうがー! 勉強しろー! 

 ドサクサ紛れに髪を舐めるなー! 犯人はエルミアしか居ないだろうがー!

 ルルも混ざるなー! 守護勇士だろうがー!



 

















 クラフターズスクール――適当に呼んでる――の帰り道、御用商人のジャンニさん率いるラメル商会の建物へ立ち寄った。

 建設途中の石造りな建物で、隣のロランさんが営んでいた衣料品店も取り壊され一大商店が築き上げられつつある。

 なにせジャンニさんは倉庫を改良した商店を開いていたから、それはもう広い。

 そして建設途中のその場所に、見知った顔がちらほらと。

 他でもないジャンニさんとロランさん。石材屋の店主キーリさんだ。


「「香月伯爵様!」」

「おう! 久しぶりだなぁ! 英雄さんよ!」

「ご無沙汰してます。キーリさん」

「うん? おらぁ名乗ったこたぁねぇはずなんだけどよ?」

「ええ、建具職人のヴィーリさんから聞きました。ビヴォールさんの息子さんだそうで」

「おうよ! 親父は有名だからなぁ...だけどよ? おらぁ負けねぇからよ! 親父の七光りで石材屋の看板背負ってるわけじゃぁねぇんだ! 人工(にんく)も惜しまねぇ!

 こいつらを食わせる為にもよ! おらぁガンガン働くぜ! そうだろうおめぇ達!」

「「「「応ともよ!」」」」

「威勢があって良いですね♪」

「おう! ジャンニもロランも、英雄さんとこの御用商だっつうじゃねぇか! 張り切らねぇ訳にゃぁいかねぇってもんでぇ! ガハハ!」


 相変わらずガハハ笑いだねぇ...ドワーフは。そして気軽に背中を叩くなー!


「そうそうジャンニさん、ロランさん」

「はい! 言っていただければなんでも揃えますよ! 店は建設中ですが物はご用意できますからね!」

「そうですな。糸もいつでも用意は可能ですな」

「それは今度で、ただ今後とも"ボクの御用商として帝国の窓口役を"よろしくお願いしますね♪」

「え? ええ、それはもちろん....」

「はい....こ、こちらこそ今後ともよろしくお願いします?」

「じゃぁ"そういう事"で♪」


 ササッと立ち去るボク達。

 一応手を振り職人さん達にもご挨拶。

 忙しいのに手を振り返してくれたり、実に結構!

 ボクの"思惑通り"に言質(げんち)は取れた。

 フフフフ....


「カオルが悪党面なんだけど....」

「きっと疲れているのよぉ♪」

「ローゼ? いつまでそんな欲に目が眩んだ顔をしているんですか?」

「(1億シルド....デュフフフ.....)」

「こういうところは師弟よね」

「エリーちゃんもそうなのよぉ?」

「わかってるけど....」

「ローゼ? 私の話しを聞いてるんですか!?」

「(金...金かぁ....アレか? 豪遊か? 地酒を片っ端から買い占めて....カオルきゅんと温泉でキュっと一杯....そのままベットへ...デュフフ)」


 なんかみんなが言ってるけど、ボクは気分が良いのだ!

 これで心置きなくオルブライトさんを政商に! いや、何人も政商を抱えてもいいんだけどね?

 ただ...あの同性愛者の2人はどうも受け付けないんだよね....

 なので、遠くから間接的に協力して貰おうかと...悪い人じゃない! 善い人だ!


 他の冒険者で同性同士付き合ってる雰囲気の人も見たんだけど、それは問題無かった!


 なんだろう? ジャンニさんが怪しい感じ? う~ん....苦手なだけかな? 生理的な問題? ま、今はいいか。


「ああ、もう1ヶ所寄り道してもいい?」

「どこ行くのよ?」

「さっき言ってた建具職人のヴィーリさんの所。カルアとエルミアはあの時一緒だったから覚えてるよね?」

「覚えてるわよぉ♪ 優しそうなおじぃちゃんだったわねぇ♪」

「そうですね。老齢ではありましたが、あの方が造られた建具はとても良い品物でしょう。造形が宮殿にとても似合っています」

「うんうん♪ 窓も扉もすっごく可愛いよね♪」

「ん~...私は使えればそれで十分だと思うけど...」

「もう! エリーちゃんは"女子力"が足りないとおねぇちゃんは思うの~!」

「うぅ...」

「まぁゆっくりでいいんじゃない? 最低限食べられる物は作れるでしょ? 剣の指導に学校へ行ってたんだし。授業のひとつも受けて――」

「エッ?」


 『エッ?』って...嘘だよね!? 基礎修練だけ毎日してたの!? あとは全部自分の修練!?

 あんなに時間あったのに!? ボクが王立騎士学校へ通っていた間、エリーは何をしていたの!?


「あの...ね? カオルちゃん」

「いや、今のカルアの反応で確信した。エリー」

「...はい」

「座学に加えて料理もだ。難しい物じゃなくていいから、せめて自分の子供に教えられる料理を覚えなさい」

「わかりました....」

「そうですよ? エリー。私はカオル様の料理を研究し、おにぎりに沢庵(たくわん)なるお漬物を中へ――」

「エルミア?」

「なんでしょうか?」

「ボクにとって沢庵(たくわん)は副菜だ。おにぎりの具ではない。もちろん否定はしない。だけど、ボクはおにぎりの具に沢庵(たくわん)は入れない」

「....そうだったのですか」

「うむ。今後はやめておくれ?」

「わかりました」


 犯人はエルミアだったか....焼き飯にジャガイモを入れたのもエルミアか?

 否定はしない。でも、ボクはおにぎりを1個食べ終わった後に沢庵(たくわん)を齧りたい。

 カリコリとした食感と、甘しょっぱいあの味が....せめて小さく刻んでくれればなんとか...いや、いいんだけどね。


 それで、ローゼはまだお金に取り憑かれているのね?

 確かに魔法鞄(マジックバッグ)等々の売り上げは下手な王国の国家予算10年分は下らないだろうけど、経済を回す為にちゃんと使うよ?

 溜め込みすぎれば帝国と王国の経営破綻に繋がるし、商業ギルドが一番困る。

 むしろ流通する白金貨がそもそも足りない。風竜が持っていたシルド貨幣だって昔の硬貨だ。使われている金属の比重が今と同じだから使える。大元は帝国の貨幣だからね。

 なにせ帝国は冒険者っぽい集まりの小国が寄り集まり繁栄したからこそ現在の帝国があるんだから。


「ローゼ?」

「...ハッ!? なんだカオル?」

「お金は使う。もちろん子供達の為に蓄えもする。そして今回の地下迷宮(ダンジョン)攻略の報酬も出そう。

 ただし、ボクの部屋の扉と窓と壁を壊した修理費を差し引いてだ。領主の部屋を壊したんだ。心的苦痛の慰謝料も請求する。

 ボクが王立騎士学校へ通っていた間、無労働だった分も差っ引く。食と住の請求だ。ボクと守護勇士の超高等指導料もある。

 お小遣い程度になるだろうね? 誰が悪いかなんて、当然わかってるよね? もっと言おうか?」

「...私が悪かった」

「わかればいいんだよ。お金は大事だけど、踊らされてはいけない。当然ローゼはわかってる」

「ああ....すまん。カオルきゅんと新婚旅行の夢をみていた。地酒を買い集め共に温泉へ入りキュッと一杯....その後はしっぽりと――」

「ローゼ!」

「カオルきゅん!」

「だー! なんで毎回イチャイチャするのよ! しかも往来で!」

「おねぇちゃんもカオルちゃんとしっぽりするー!」

「私もです!」

「カルア...エルミア....」

「わ、私だって...その....婚約者だし...」

「エリー...」


 みんな...可愛いんだから!


「とー――」

「マスター? ルルもです。家族ですから」

「ハイ!」


 飛び付こうとしたら、ルルさんも仲間に入りたいそうです!

 ならば全員やー! マカセロー! とーう!











 みんなとスキンシップを取った後、宣言通りヴィーリさんの下を訪ねた。

 工房兼倉庫兼住居。数々の作品がまたも造られ沢山並べられている。

 花や蔓を模った窓の取っ手。扉も造形深く、こちらも花をモチーフとしていてなんとも可愛らしい。


 疑問なのは、人が多い。


 前は失礼だけど寂れた場所だったはずだ。そこに大勢の職人が集まり、ヴィーリさんが指導している。

 何故こんなに活気があるのかとても謎。とりあえず....聞いてみよう。


「ご無沙汰しています。ヴィーリさん」

「こりゃ! 香月伯爵様!」


 ヴィーリさんの発言で職人達が一斉にこちらを向く。

 中にはボクと変わらない年齢から青年、壮年のおじさんまで。カリカリと削り、ゴリゴリと木を切っていたり。

 厚手のエプロンを身に付け、額に汗掻くまさしく職人。


「えっと...人が増えましたね?」

「おかげさまで。香月伯爵様がワシの作品を買うてくださったもんで、弟子入り志願者が殺到しましての。見ての通りじゃ」


 ふむふむ。ボクがヴィーリさんの作品を買った事を知るのは....石材屋のキーリさんか、アーシェラ。あとはアゥストリかエドアルド。

 グローリエルのお父さん、エルノールさんもか。その辺から情報が漏れたかな?


「そうだったんですか♪ 良い後継者に恵まれたみたいでよかったですね♪」

「はい。死んだバァさんも喜んでるこったでな....」

「ヴィーリさん。ボクもそう思います。ヴィーリさんの作品には優しさが込められていますから。以前売って頂いた作品を見れば誰もがわかる事ですよ」

「香月伯爵様....」


 皺くちゃの顔にさらに皺を寄せ涙を浮かべるヴィーリさん。

 ボクはそっと刺繍入りのハンカチを取り出し手渡す。

 こっそり《治癒(サナティオ)》を掛けておいた。

 まだまだ元気で居てほしい。あんな子供の弟子が居るんだ。せめて独り立ちできるまでは現役で...


「すまんこったで」

「いいえ。家族を想い涙を流すのは当然です。ボクも同じなんですよ?」


 チラリと横目で家族を覗けば頷いて答えてくれる。

 でも、ちょっと困惑顔。なぜなら、ヴィーリさん作の扉と窓を壊したのは自分達。

 ボクは回収して修理したけどね? それでもガラスは割れたし、取っ手も同一の物へ作り変えた。

 職人の魂を汚した罪は重い。


「それで、今日はまた作品を買わせていただけたらと思って立ち寄ったのですけど....どうやら全て買い手が付いている様子ですね?」

「いやそれがじゃな....弟子の作品は売れるんじゃが、ワシの作品は装飾が過剰らしくトンと売れ無くての....お恥ずかしい限りじゃて」

「ふむ....お弟子さんは、ヴィーリさんの技術の一部を建具へ反映させているんですか」

「そうですじゃ。"ワンポイント"が決めてなんじゃそうで」


 なるほどね~...ヴィーリさんの作品は凝りに拘って造ってるから、建物ごと造り直さないと外観が合わない訳か。

 窓枠とかも花柄だし、蔓が延びてガラス部分が半分見えない窓とかもあるもんねぇ。


「では、またヴィーリさんの作品を売っていただいても?」

「それは嬉しいんじゃが、量があまりありませんて」

「ある分だけで良いのでお願いできませんか? "あの子達"に仲間入りさせたいんです」

「香月伯爵様...そこまで...」


 ヴィーリさんの情報は調べてある。マリアとかフラウとかに。というか、大概の主要な人物は調べさせてるからね。

 ちょっと尊敬してた"地方領主を纏めてる御仁"は数日中に鉄拳制裁しに行くけど。

 アーシェラは気付いているはず。まだ動いてないけどね。アイツは上級冒険者集めて何してるんだか....


 その後ヴィーリさんの作品(こども)達を無事に購入しようやく帰国。

 白銀貨を渡そうとして一悶着あった。結局金貨10枚で落札! オークションでもお札でもないけど!

 ボクにはそれだけの価値があると思うんだけどなぁ。いや、自分で造れるけど。

 なんて言うんだろう...想いが込められていて、温かい雰囲気が出るんだよね。

 なのでヴィーリさんの作品は良い物だ!

 ローゼ達に雷は落としておいた。精神的に! 物理的だと雷使いのボクだから大惨事や~。


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