第二百七十八話 踊る冒険者ギルド本部
予定より早く戻れたボク達5人と1羽。
水曜日に出発して、今は金曜日の早朝。
帰路で休憩所もキチンと元通りにしたり、不死鳥は"アクイラ"と名付けた。やはり鷲か...まんまラテン語やね。
さすがに疲れたので香月夜の個室で就寝。
変態な樹精霊、竜樹がアクイラに気に入られ遊んでる。
まぁ聖獣だし...一角獣も【エルフの里】で暮らしてたんだから当然か。
ファルフも交えて仲が良さそうだ。香月夜付きの人形達も楽しそうだし。
エルミアも帰ったら、名付けをするんだって。
召喚魔法でいつでも呼び出せるようにしないとね...エーテル体のファルフは姿を色々変えられるけど、聖獣にはできない。
土竜と同じ余所からの召喚だね。
おかげで白銀の腕輪に魔宝石が大量に....スフィア用の魔宝石が大きいから余計に....
家族の腕輪は、1つで国家規模の資産だねぇ...本人にしか使えないけど。
防具を身に着ければ見えないから良いか。魔法袋とかも出回るし。
そもそも一般人――準1級冒険者ロイクを含む――にローゼ達は倒せないだろう。
カルアも何気に強いし。棍棒術士だからね。ちゃんと"猛特訓"に参加したよ? 時間的に少しだけど。
ご両親から指導を受けていたそうで。亡くなられているからわからないけど、善い人だったんだろうね。
過酷な野戦治療所へ自ら向かい治療をし続け、戦渦に呑まれ亡くなった。
そういう人達こそ、英雄だと思うよ。
飛空艇の設計図も無事に完成。
風の魔弓の改造計画もなんとか...実現すると光線が放てる...風はどこへ吹いてった...
集束された《雷光線》だよ....インターバルが30秒必要に....やっぱり連射できない....使いどころに気を付けて貰おう。
通常時は今まで通りだからいいか。"必殺の一撃"にでも使ってください。そのうち改造します。
そういえば、在野の迷宮核をスフィアで解析した結果、アレが作れそうです。
そう! 地下迷宮から5秒で脱出できる、"帰還石"!
見た目は長方形の5cm大。簡略化された魔術文字だから、普通の魔工技師にも作れる。
製法を教えて特許料をせしめよう。
これで我が王国の子々孫々は繁栄を続けるじゃろう! とっくの昔に数百年は安泰な額のお金は稼いでるけど。
お金は大事だからねぇ...なんなら金の延べ棒でも作って宝物庫に突っ込んでおこうか?
金の価値は下がらないだろうし。ボクの王国から過剰に市場へ流さない限りだけどね。
なんだっけ? 錬金術の最大目標って....
ああ、卑金属から貴金属の精製と、不老不死だったかな?
どっちも"賢者の石"が必要とかなんとか。
この世界だと"賢者の石"が魔力な訳で、鉄から金に変えられる。
不老は《聖治癒》で出来るから、やっぱり魔法か。
不死も死霊化すればなんとか...一度死ぬ必要があるけど。
結局魔法だ! 膨大な魔力持ちが優遇される世界だ!
ふむ...そろそろ"魔法使い"のエリー達に魔闘技術でも授けるかね?
魔法具無しだと空は飛べないけど、駆ける事は出来るし....ローゼも強くなったからなぁ...アクイラの加護で魔力増えたし。
そのうち上級魔法も覚えるだろう。元々才能はあるんだもん。なにせ女神ヴァルカンの傍流だし。直系だけどね。
なので、エリーは座学と魔闘技術を。エルミアとかにも。
生徒達には魔法具の"空飛ぶ箒"でも作るかな? "魔女"の誕生やね。
そうすれば....コンタクトを取って来るはずだ。空白地帯のあの人達から。
まぁそれは追々で。とりあえず帝都冒険者ギルドへクエスト達成を報告しないと。
不死鳥の尾羽のほんの一部だけを渡してね? 大騒ぎが楽しみだー!
「は、ははははは........」
空笑いのエドアルドさん。冒険者ギルド本部長の肩書きなんてどこか遠くへ旅立っている。
なにせ真っ白に燃え尽きた様相。
手に持つ尾羽は先端も先端、30cmくらいの小さな物。
本物――だけど、先っぽだけだ。体躯10mあった不死鳥は、そのまま素材として《魔法箱》へ入れてある。
羽飾りにしたり、生地に縫い込んだりと、獄炎耐性が付くだろう。火蜥蜴の革なんて目じゃないくらいの強耐性。聖獣だからね~。
「で? 本物の不死鳥の尾を獲って来た。数百年もクエストボードに張り出されてた帝国依頼の高難易度クエストだ。
準2級冒険者のエリーは、当然ランクアップポイントも"それなり"に貰えるはずだな?」
やっぱり頼りになるねぇ...ローゼは。
さっきボク達の帰還を知った冒険者達は帝都中を駆け回り、てんやわんやの大騒ぎ。
冒険者ギルドに大勢が押し掛けギルド職員が叩き出した一幕もあったり。
「そ、そそ、そうですね....」
ふむふむ。人は驚愕を通り越すと、こんな感じになるのか...興味深いね。
それとエリー? 萎縮し過ぎだよ? ローゼみたいに堂々としていればいいのだ。
頼もしいよ? 物凄く。
「で、では、早速依頼主の皇帝陛下に連絡を――」
「その必要は無いのじゃ。妾なら、とうに来ておるからの」
人垣が割れ箱馬車から颯爽と降りてきたであろう狐人族の女性。
身形も高級な国色で統一された青いドレス。
帝国章の刺繍された上着を羽織り、従士はもちろん近衛騎士。
副長のアルバートと、パトリスさん。団長の変態レオンハルトは置いてきたのね? 懸命だと思うよ。アーシェラ。
「皇帝陛下!」
「うむ。あれだけ騒がしければ妾の耳にも届くじゃろうて。ココではなんじゃ。部屋を用意せい! エドアルド!」
「た、ただいま!」
大慌てのギルド職員。正気に戻ったエドアルドさんも的確に指示し、3階の客室らしき豪華な部屋へご案内~♪
何か言いたげなアーシェラは寡黙を貫き、アルバートもパトリスさんも無言。
外に多くの冒険者やら国民やら近衛騎士が居るけど、客室は防音も考えられて造られているみたいで静かだ。
事務員のカミーユさんが震える手で紅茶を淹れて立ち去り、残ったのはボクの家族とエドアルドさん。アーシェラにアルバートとパトリスの合計9名。
椅子に座らずアーシェラの警護を勤める2人は流石エリート。立ち姿もカッコイイ。ローゼには到底敵わないけど。
「どれ。それが不死鳥の尾かの?」
「は、はい!」
目利きのアーシェラはすぐに本物と見抜く。
以前、ボクの白銀製軽装鎧とかの品定めもしてたしね。
頭の中で値踏みでもしてるんだろう。値段の想像は付くけど。
「本物じゃな」
「ああ、実際に獲って来たからな」
「....ヴァルカンは何故その様な話し方をしておるのかの? 妾は皇帝じゃぞ? 以前のように――」
「そういえば言ってなかったね? ヴァルカンは偽名で、本名はローゼ・ハトラ・マーショヴァル。亡国【マーショヴァル王国】のお姫様だよ」
「なんじゃと!?」
「は、ははは....ガクッ」
あ、エドアルドさんが気絶した。
そしてアルバート達も驚いてる。まぁねぇ....【カムーン王国】の元剣聖が、亡国のお姫様だもんね~....そりゃ驚くよ。
「待つのじゃ! おかしいじゃろう? 【マーショヴァル王国】は300年以上も昔に滅びたはずじゃ!」
「うん。この前会った時に話したよね? 彼の国の末路を」
「うむ。不死者の話しじゃな」
「そうそう。時の国王...最後の王アーロン・ハトラ・マーショヴァル。その叔父にして錬金術師のドバイナス・トリル・ライメウ。
家名すらも許されず、王族ですらない妾腹に産ませた突然変異の人間。だから不死者なんて魔物を作り出してしまった。
それで、アーロン・ハトラ・マーショヴァルがローゼのお父様。直系の娘なんだよ?」
「...答えになっておらんのじゃが? ヴァルカンは300年以上生きておると言うのかの?」
「『生きていた』とは言い切れないかもしれないね。ローゼは【マーショヴァル王国】の秘術、"時の魔法"で眠り続けていたんだ」
「なんじゃと!?」
「事実だよ? 証拠はローゼが眠っていた白い棺と、辛うじて残っていた絵画がある。こんな感じにね?」
特製スフィアを起動させ、それらの画像を表示する。
ウィンドウの存在を苗樹珠で知っているはずだけど、この性能はそんな物など凌駕する魔科学文明の産物だ。
驚き、慌て、困惑。アーシェラですら目を剥いて次の言葉が出て来ない。
ローゼにはこの画像を見せたし、実際白い棺は取って来た。風化してボロボロだけどね。
「これは"ボクの王国"で生徒達や家臣。家族に持たせている魔法具。ま、王国以外で使えるのはボクと――」
「私ね? お兄様」
「「ひっ!?」」
影からにょきりと這え出たノワール。
どうでもいいけどボクの膝に座るな! 前が見えないぞー!
「ふふふ...可愛いわ...私」
「はいはい。話しの腰を折らないの。影に戻りなさい」
「あら? つれない事を言うのね? お兄様。妹が甘えているのよ?」
「いや...身長がボクと同じくらいだし、前が見えないんだよ?」
「ふふふ...照れていたのね? 可愛いんだから...私」
「顎を撫でるなー! 妖艶な感じで迫るなー!」
「あら? ふふふ...それじゃまたよ? お兄様」
「ソウダネーマタネー」
毎度お馴染み嗤いながら影へ消えるノワールは....やっぱり姉だよ! 兄だと思ってないよ絶対!
「まったくカオルには何度も驚かされてばかりじゃのぅ」
「でも嫌いじゃないでしょ? 刺激的で♪」
「たしかにのぅ...政務など面倒事が多いからの....人手も足りぬ」
「あ、そうそう。帝都在住の帝国民で、何人か紹介したい人が居るんだよね~♪ 文官とかで♪」
「....ほほぅ?」
「"ジョブ"は知ってるよね?」
「うむ。各ギルドから情報も聞いておる。帝国用の若樹珠と老樹珠を頼もうかと議論しておるところじゃ。なにせ"天職"がわかるというではないかの?」
「そうだよ~♪」
「貴族や兵士。武閥、文閥問わず適材適所に家臣に陪臣を配置すれば円滑な管理が可能じゃからのぅ」
「うんうん。貸し出すのは良いけど、ひとつだけ約束して欲しいな」
「なんじゃ?」
「本人達の意思を確認して欲しい。たとえ天職で文系のジョブが出たとしても、本人が身体を動かす仕事を望むならそっちを優先してあげて。将来的に肉体労働が辛くなれば文官をすればいいしね?」
「うむ。それは当然じゃな。なにより無理を通して改革を進めれば、皇帝の恥にもなるじゃろう。それだけはせぬと誓おう」
「良かった♪」
アーシェラならそう言うと思ってたけどね~♪
あとは、在野に眠る有能な人達を斡旋じゃー!
もちろん各国内の国民でね♪
他国から引き抜くと諍いの火種になっちゃうし。
「ペンダントも帝国用にデザインを変えるから、考えておいてくれると楽かな?」
「そんなこともできるのかの?」
「うん。実際【エルフの里】は特別仕様の形をしてるし。あそこはギルドとか無いからね~」
「なるほどのぅ...それで借料じゃが....」
「ギルドと同じ、月に1万シルドでいいよ? 壊れたらメンテナンスはこっちでするし、過度な物は修理費を請求する。『暴れて壊したー!』とかね?」
「良いのかの? 安すぎると思うのじゃが....」
「だって、世界中の国やギルドから借料を毎月同額徴集できるからね♪ ボクの子供達に受け継がせて安泰でしょ?」
「ふむふむ....先を見据えておるのぅ」
「うん。ここに居る家族の子供達の将来は決まっているけど、アイナとかは決まってないからね。フランは侍従長の家名を継がせるし、そうなるとアイナは困ってしまう。
だからアイナの家系はこの魔法具で食べて行けるようにするんだ」
「カオルそこまで考えて...」
「そうだったんだ...」
「カオルちゃん...」
「流石はカオル様です」
ローゼ達の子供は決まってるんだもん。
【竜王国】の直系はローゼ。
エリーは第1級冒険者になれば公爵。子供はどこかの国の王家へ嫁ぐだろう。
カルアは【聖騎士教会】の治癒術師なり教会の高位聖職者。
エルミアは【エルフの里】の次代の王。
アーニャは学校運営を任せてるからその関係を。学長とか教育者だね。
建国宣言すればオレリーお義母様が侍従長。正確には侍女長か。戦う訳じゃないし。その後を何れフランが継ぐ。だから子供も継ぐ。
ディアーヌは【アルバシュタイン公国】の復興をするし、やっぱり次代の大公かな。
問題はエメだけど...どうなるんだろうね? 他国の第2王女だし...まぁそのうちかな? まだまだ先の話しだし。
「不死者の記憶を持つノワールが居るのじゃ。ヴァルカン――ローゼ・ハトラ・マーショヴァル王女の話しは真実なのじゃろう。先ほどの絵画の少女。確かにローゼに似ておる」
「うん。彼の国の地下、アスワンの根城に置いてあった物だけどね。保存状態も悪くてボロボロだったよ。だから持ち出せなかった。両隣に佇むローゼのご両親も、顔の識別はできないくらいに劣化していたからね」
「いいんだぞ? カオル。私はあの絵を見れただけで満足だ」
「それなら....よかったよ...」
「うむ。それでじゃ。この不死鳥の尾じゃが....1000万シルドで買い取るとするかの」
「妥当な金額だね。国宝だろうし」
「そうじゃな。なにせ数百年も張り出し続けた依頼書じゃ。おとぎ話では千年以上存在を確認されておらぬと語られて居ったからの」
「そうだね~♪」
不死鳥改め、アクイラは香月夜の中で竜樹と遊んでるけどね~♪
むしろローゼの使い魔だよ? 召喚用の魔宝石はまだ作ってないけど。
「(...副長?)」
「(ああ、わかってる)」
「(香月伯爵は国を興されるのですね?)」
「(らしいな。俺も今知った)」
「(特秘事項ですよね?)」
「(当たり前だろ? 話したら斬首間違いなしだ)」
「(一刻も早く帰りたいです! 私には妻ともうすぐ子が!)」
「(俺だって逃げたい! だが陛下をお守りするのが近衛騎士だ!)」
「(わかってますよ! だからまだココ居るんです!)」
内緒話も熱が入り、離れていても聞こえるよ?
パトリスさんは子供が産まれるのか。何か贈っておこう。ボク名義に近い形の誰かの名義で。1人だけ肩入れしてると思われると、パトリスさんに迷惑がかかるし。
「なんじゃ。聞こえておるぞ?」
「「申し訳ございません!!」」
「まぁ帝都の三大ギルド本部長は知ってる話しだし、各国の王に女王から内応の約束は貰ってるからね。そこまで片肘張って緊張したり、怯えなくても大丈夫だよ?」
「そ、そうですか...」
「よかった...」
調略してからじゃないと戦争になるしね~。今回の場合だと、帝国内の反乱か。
飛空艇建造にエリーの座学やらと、朱花の治療。
あとは帝国内の怪しい動きをしてる人物をなんとかしないと、ボクの建国宣言に合わせて蜂起されたらたまったもんじゃないからね。
「支払いは1年以内に3回に分けて。で、どうかな? 稼ぐんでしょう? 年に2回も武術大会を行なって」
「まったく...抜け目が無くてつまらんのぅ....」
「そりゃ新しく建国しようなんてしてるんだから、交渉術のひとつも身に付くよ。そうそう、よかったらコレ使って? 長時間椅子に座ってるとお尻痛くなるでしょ?」
《魔法箱》から取り出した円形の中心を刳り抜かれたクッション。座布団に近いね。
起毛した蒼い毛皮が表面で、裏面は暴食人鬼の革。フワフワな中身は怪鳥の産毛で高級品。
「....のぅカオル? なんじゃこの毛皮は」
「うん。作ってみた。這地竜の毛皮で」
「「「「「這地竜の毛皮!?」」」」」
フォッフォッフォ! 驚いておるのぅ♪
「双頭犬よりも高い魔法耐性を宿す這地竜。触り心地はその通り物凄く良い。だから作ってみた!
そしてアーシェラはボクの盟友だ! 贈り物のひとつもするべきだよね? なので最高級品を贈ろうと思う!」
「いや待つのじゃ! 不死鳥なんぞ比べ物にならぬ価値じゃぞ!? それをクッションになど!!」
「そうだぞカオル!! そういう物は防具に使え!!」
「バカなんじゃないの!?」
「おねぇちゃん悲しいわぁ」
「カオル様? 説明を!」
「大丈夫大丈夫。5頭分もあるから、家族のみんなにまたコートを贈るよ。それでも使うのは1頭半も満たないだろうね?
なので問題無い。ボクが倒した獲物だ。ボクの自由に使わせて貰う。怒られる理由はひとつも無い!」
うんうん♪ ボクの物だからね~♪ 何に使おうと自由なのだよ~♪
「それは...そうだが...新しいコートか....デュフフ」
「蒼いコート....カッコイイかも....」
「もう♪ カオルちゃんったら~♪ そうやっておねぇちゃんをメロメロにさせるつもりなのねぇ♪」
「這地竜の毛皮をコートに....双頭犬よりも高い魔法耐性....良いですね」
「でしょ? しかも触り心地が....やばいんだよ!」
「うむ。コレは癖になるのぅ....しかもフワフワじゃ...」
「怪鳥の産毛だけを使ってるからね~♪ 高級品だよ~?」
「カオルよ! 礼を言うのじゃ! ありがとう! 良き品を贈ってくれたの! 何れなにかを贈呈するのじゃ!」
「高価な物じゃなくていいからね? 期待はしておくよ~♪」
「期待しておくと良いのじゃ! それでじゃな。エリーの件じゃが....エドアルドよ? いつまで寝ておるつもりじゃ?」
アーシェラに足蹴にされるエドアルドさん。
それでも起きずアルバートとパトリスさんが慌てて起こす。
『這地竜とか居るんだな』みたいな事を呟いてたけど無視しよう。
おそらく、今のローゼでなんとか1体倒せるかどうかの相手だし。
ボクも不完全だけど《竜化》を使用していなかったら5体も辛い。倒せない訳じゃないけど。
「ハッ!? ヴァルカン殿が姫などと嫌な夢を――」
「事実じゃ。第18代【エルヴィント帝国】皇帝アーシュラ・ル・ネージュの名において誓うのじゃ」
「アブブブブ....」
「これ! 気絶するでない!」
エドアルド――もう敬称はいらない――が壊れていく...蒼麗の二つ名が泣いてしまうよ?
「そ、そのですね。師範制度を利用しましたが、ランクアップポイントは渡せます。もちろん難易度がとても高いクエストですから相応のポイントを。
問題は....エリーさんの実力が高すぎて、第2級冒険者の枠に収まらない事でしょうか? 実際に準一級冒険者のロイクを一撃で倒されてしまいましたし....」
「ふむ。その話しは妾も聞き及んでおるが...誠かの?」
「そうだよ?
....良い機会だからはっきり言うね? 今の冒険者弱すぎ! 剣騎の3人と比べるのもおかしいかもしれないけど、個の実力が無さ過ぎる!
集団戦の実力はともかく、地下迷宮は狭い通路で戦う場合もあるんだ! もっともっと修練をして強く成らないと、死んじゃうよ!?
冒険者は無法者じゃない!! 自らを奮い立たせ己の願いを勝ち取る者だ!! 故に冒険する!! 命を掛けて、富を、名声を、友人を得る者!! それが冒険者だ!!」
「「「「「....オオオオオオオ!!!!」」」」」
《魔透糸》で、こっそり窓を開けて叫んでみた。
もちろん窓の外に多くの冒険者や帝国民が居る。
だから聞こえるようにワザと。
そして効果は覿面で、歓声が大きく聞こえてきた。
「突然のご清聴ありがとう! ボクは冒険者に期待してる! 勇ましく気高い心の持ち主だ! 自分の夢を叶える為にこれまで以上に頑張って!」
「「「「「オオオオオ!!!!」」」」」
「....まったく一端の王じゃのぅ....煽り方が上手過ぎるのじゃ」
「ああ。だが善王だぞ? カオルは」
「そうね...」
「カオルちゃんだものねぇ♪」
「立派な方ですから」
はぁ、スッキリ! 身を乗り出していた窓も閉め、元の位置へ。
なんだか慈愛の満ちた顔をしてるけどなんなのさ?
「ハッ!? また意識が!!」
「疲れておるのぅ。エドアルドよ」
「い、いえ...」
「それでどうなるの? エリーは」
「第2級冒険者の枠に収まらないのじゃろう?」
「は、はい...」
「じゃぁ準1級?」
「それも軋轢が....」
「堂々巡りだねぇ」
ボクは現状の冒険者のランク分けなら、エリーを第1級冒険者だと思うけどね。
準1級がアレって....特に【エルヴィント帝国】は魔境や地下迷宮の数が他国と比べて多いのに....
「ああ、そういえばもう1人残ってるんでしょ? 準1級冒険者の....ジェルマンって人。戦わせてみたら? エリーと」
「や、やや、やめてください!? ロイクが寝込んだんですよ!? この上ジェルマンまで同じ様になられると冒険者ギルドの沽券に係わります!!」
我が侭じゃのぅ。まるでボクじゃよ。
ん~....沽券やら軋轢やら面倒だねぇ...
ローゼは目を開けたまま寝ているみたいだよ? "残念美人"め。
「ん~....ランクアップの試験って、上位の冒険者と立ち合うんだよね?」
「は、はい」
「魔境とか地下迷宮で実力を見せたりするんだよね?」
「つ、通常はそうですね。ですが不死鳥の尾を獲れる程の実力があるのですから、そちらは既に終わっているものかと...」
「ふむ。ロイクとジェルマンって呼んだらすぐ来れる?」
「エッ!? それはまぁ...召集できますけど...」
「じゃぁ呼んで。アーシェラ? 悪いけど皇帝の強権を借りるよ?」
「何をするつもりじゃ?」
「うん。"英雄"香月カオルを臨時の冒険者指導教官に任命して欲しい。ギルド本部長のエドアルドと、皇帝のアーシェラ。2人からの任命なら誰も文句は言えないでしょ?」
「....なるほどのぅ」
「おお! そういうことですか!」
察しが良いねぇ。そういうことだよ。
「って訳で、エリー?」
「わかったわよ」
「そかそか。"準1級冒険者"として相応しいかどうか、ボクが立ち合ってあげるよ」




