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第二百七十四話 猛特訓

 燦々と輝く太陽の下、多くの人が聖堂へ集まる。

 中には既に涙を浮かべる者まで居て、これからはじまる挙式の雰囲気に花を添える。

 そうして1人の男の子がピアノを弾く。

 奏でられる音色。反響を考え配置されたピアノから流れる曲はヨハン・パッヘルベル作曲の"カノン"。

 柔らかな音に包まれながら、祭壇の前で1人の黒いタキシード姿の男性が静かに待つ。

 そこへ聖堂の扉が開かれ待ちわびた相手が姿を見せる。

 純白のウェディングドレスに長いベール。手には小さなブーケがひとつ。

 2人の小さな少女が後ろからドレスの裾を持ち、女性の隣に長身の女丈夫(じょじょうふ)が付き添い歩く。


 赤い絨毯敷きのバージンロード。


 流れるメロディに厳かな雰囲気。感動を口にするのも躊躇われる。

 そうして、やっと男性の下へ辿り着き、付添い人が女性を託し式は行なわれた。


「新郎カイ。健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを敬い、これを慰め、これを助け、生涯メルを愛する事を誓いますか?」

「誓います」

「新婦メル。健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを敬い、これを慰め、これを助け、生涯カイを愛する事を誓いますか?」」

「誓います」

「では誓いの口付けを」


 そっと開かれるベール。

 涙を溜めて今にも零れそうなメルの瞳。

 薄っすらと化粧をし、唇は赤いルージュが引かれている。


「愛してる。メル」

「私もよ。カイ」


 口付け合う2人に盛大な賛辞と拍手が贈られる。

 見ればステンドグラスの窓の外で多くの小鳥が空へと飛び立つところ。

 ついつい演奏にも力が入り力みそうになってしまうのを必死で堪える。


「次に指輪の交換を」


 白銀(ミスリル)製の高価な指輪。

 飾り気など一切無いシンプルなデザイン。

 お互いの左手の薬指に指輪をはめて、微笑み合う。

 またも賛辞が贈られいよいよ架橋に。

 神父――もとい、ファノメネルに見送られカイとメルは聖堂を出て行く。

 新しい門出。新しい関係。新しい指輪。

 聖堂を出た瞬間にライスシャワーを浴びて3度目の祝福。

 もう涙腺が止まらない治癒術師と義妹が居たり、どこぞの王女2人も涙を流す。

 学校の生徒達も大きく喜び、最後にブーケトスがなされ受け取ったのは必死な顔のファノメネルだった。


 そして――リーンゴーンと鐘が鳴る。


 タイミングが遅いが仕方がない。

 任せたボクが悪かった。グレーテルは寝てしまう可能性を考慮してなかった。

 大筋では大成功だろう。

 大丈夫。マリアが遠隔で撮影してるから。後で記録(データ)をメルに渡そう。

 指輪の代金も請求しよう。

 ファルフにも小鳥を集めて貰った感謝をしよう。

 男装したローゼはカッコよかった。

 さぁみんなでごはんを食べよう。

 そう! 結婚披露宴をちゃんとするのだ!

 朝食は食べていないのだろう?

 遠慮する事はない。

 ここは第2防壁内にある、聖堂だ。

 建物の前にテーブルや椅子も用意してある。

 食事ももちろん沢山だ。

 な~に足りなければ人形(ドール)君と作るさ。

 だから、オレリーお義母様も、フランもアイナも、侍女のみんなも席に着け。

 女神3人は立場上来れないけれど――


 さぁさぁようやくやっと本当の挙式が出来たよ。 


 コレが! 結婚式ってものだ!


「やるな...カオル....」

「わだじ...なびだが...うぅ...」

「おねぇちゃんもよぉ...」

「私もです...」


 うんうん。そうだろうそうだろう。

 感涙は良い事じゃ。ホレホレハンカチを進呈しよう。拭うと良いのじゃ。

 パイプオルガンを用意出来なくて悔しいがのぅ....さすがに一晩で作るには無理があるのじゃよ....


「ハァハァ...ウフフフ....」

「美味しいにゃ♪ 美味しいにゃ♪」


 【聖騎士教会】側も....いや、勝ち取ったブーケを自慢気にこちらへ向けられても....ファノメネル? ボクは、キミと、結婚しないよ?

 アブリルは平常運転だねぇ♪ そっちのエルフは見ない! 目が本気過ぎて怖い! ブーケトスの意味を教えなきゃよかった!


「はぁ...カオル様はピアノまであんなにお上手に...さすが主神様」

「はぁ...あの白い肌に美しいお姿...主神様」

「いけないとわかっていても...」

「禁忌を犯してしまう私達...」

「罪深い事をここに懺悔いたします....」


 ルイーゼ姉妹とジャンヌ達は...う~ん....どうしよ?


「それにしても多才よねぇ」

「ホンマやね」

「あないにつよぉくせになんやの? あの美少女」

「....でも許す」


 ヘルナ達も...ま、まぁ...サラは胸が成長したから許すのか....


「ウェディングドレス綺麗だったね~...」

「ん! でもアイナも着る!」

「わ、私だって着るよ!?」

「ご主人は大きくならない。だからアイナと丁度良い」

「そ、そんなことないもん! ご主人様だって姿を変えれば――」

「そうねぇ...母娘揃って貰ってもらおうかねぇ...」

「おかーさん!? 何言ってるの!?」


 フランとアイナは...普通だけど...オレリーお義母様...ヤメテクダサイ。


雅楽(ががく)の代わりにあのような物が...」

「そうですね...聴いた事の無い音色でした」

「はい~...カオル様の漆黒髪が素敵でしたぁ~」

「巫女の舞いは無いのでしょうか?」

「...黒髪の巫女が舞われるとおっしゃるのですか!?」

「そうです。私が御神楽を舞うのは豊穣祭だけですから」


 【ヤマヌイ国】の3人娘も...楽しんでるようでなにより...

 薊達は無言でこっちをミルナー!

 隙を見て"アーン"をしようとスルナー!

 普通に食べなさーい!


「やっぱりカオルはすごいわねぇ...」

「は、はい。ディアーヌ女王様」

「ディアーヌでいいわよ。私もアーニャって呼ばせてもらうから」

「は、はい...でぃ、ディアーヌ」

「うふふ...なんだかいいわぁやっぱり! みんな年齢も近いし、私の事怖がらないし」

「ダークエルフだからですか?」

「そうよ~...アーシェラも善い人なんだけどねぇ...侍女とか毛嫌いしてる人も居るからねぇ...」

「あ、あの! 私は全然気にしないです! それに生徒達も...」

「気にしないよ?」

「うんうん!」

「あ! こらリオネッタ! 人の食べ物持ってかないの!」

「アリエルがいつまでも食べないからでしょ~♪」

「まったくもう!」

「本当に...良いところよねぇ...カオルの国は」


 アーニャとディアーヌも仲良くなったか。

 アリエル達は...元気があっていいねぇ...というか、差別なんてする子はこの地におらぬよ?

 そもそもボクの中だと日焼けしすぎたエルフみたいなものだし。 

 な~んにも気にならないよ~♪


「どうさね? 考えてくれたさね?」

「え、えっと...」

「お手伝いくらいなら...」

「学校の勉強も楽しいので...」

「本当さね!?」


 生徒のドワーフ三姉妹を勧誘するメリッサ。

 本人達が良いならいいんじゃないかな? でもお小遣いは渡してね?

 アルバイトは必要なのじゃ!


「私達座って食べてていいの? 侍女なのに?」

「ご主人様がそうしなさいって言ってたし...」

「っていうか....本当に美味しいよねぇ。ここのごはん」

「でも太らないんだよね」

「ああ、美容(エステ)術でしょ!! あと温泉!!」

「そうだよねぇ~...アレは凄いよぉ~...」

「サウナもだよねぇ」

「フランいいなぁ...ご主人様の婚約者だもんね~...」

「バカね。愛妾になればいいのよ」

「えっ!? ヒルデ、ホンキで狙うの?」

「むしろサビナも狙ってるよ」

「だって実際侍女のフランを婚約者にしたんだよ? ほらよく聞くでしょ?」

「ああ、ご主人様の手付けにされたっていう...」

「私達は迎賓館勤めだったから知らないけど、世間一般ではそうみたいよ?」

「アレってただの噂じゃないの!?」

「普通にあるみたいよ? 実際身篭って解雇された人も....」

「ナニソレ最悪!! 男の風上にも置けないヤツね!」

「そうね! でも~? その点~? 私達のご主人様は懐が深いし?」

「物凄く可愛いし?」

「超お金持ちだし?」

「なんたって英雄だし?」

「「「「超優良物件よねぇ♪」」」」


 丸聞こえなんだけど!? むしろワザとか!! 行くのじゃ! ボクの家族達よー!

 なんて言わなくても鬼の形相をしたエルミアとカルアが吹っ飛んで行きました。

 やっぱり血縁者だねぇ...怖い怖い。


 で、守護勇士は警備中。冒険者ギルドソーレトルーナ支部のイライザとレーダは無視――普通にごはん食べてる――。

 気になるのはやっぱり....


「超緊張した」

「わ、私も...」


 カイとメルだよね~♪

 ここはひとつ主として話しておかねばならぬじゃろう♪


「ま――」

「まぁまぁ! 無事に結婚できた訳だ。つまり、今夜は"初夜"だ。マスターも言ってたじゃねぇか! 『沢山子供を作れ』ってよ?」

「お、おう...」

「そ、そうだね...うん...」

「ハハハ!! 元気な子を産めばいいんだよ! ま~ぁ? 十月十日とか言うからな! これから逆算すれば――」

「ボクが言おうと思ったのにぃぃ!!」

「あぶろげぁぁ!?」


 格闘術が奥義<虎乱(こらん)>を発動させ闘気で作りあげた虎がエルザを襲う。

 せっかくボクが改めて『子供を沢山作ってね』って言おうと思ったのに!! エルザに先を越されたぁぁぁぁぁああ!!

 これは反乱だ! 鎮圧だー! うわぁぁぁぁ!!


「お、奥義....」

「すっご...」

「まさかカオル様は全ての流派を会得しているというのですか!?」

「ありえへんわぁ...」

「ほんまやね...」

「...覚えたい」

「エッ....ちょっと待って。昨日カオルがこのあと"猛特訓"とか言ってなかった?」

「...ふぅ....私はカオルを育てた。だが、カオルは私をとっくに越えていた。どうやら....ここまでのようだな」

「あらあら~♪ たいへんねぇ~♪」

「ローゼ? 何を遠い目をしているのですか? ローゼも、もちろん参加ですよ?」

「ハハハハ....おかしいな...涙が止まらないぞ...」

「け、結婚式だもの。当然よ....当然.....」

「"猛特訓"!?」

「混ぜてもらわなあかんなぁ...これは」

「せやねぇ...ルルにもグレーテルにもソフィアにも勝てへんままやと....」

「私達の叙勲も...潰える」

「しゅ、主神カオル様直々に教えを!?」

「さ、ささ、参加しないといけません!」

「信仰心を試されて居られるのです!」

「これは...逃がせられません...」

「はい...」




















 お昼も過ぎ披露宴は一応続いている。航空戦艦"香月夜(カグヤ)"のロールアウト式典も兼ねてるからね~。誰も知らないけど。そもそも見えぬ。

 後の事はファノメネルとオレリーお義母様やフラン、アイナに託し、ボクは警護団詰め所裏にある修練場へ場所を移す。

 まぁ聖堂の隣が警護団詰め所だから生徒達は見える。アーニャやディアーヌ達の姿も。

 で、ボクの"猛特訓"に警護団員達も参加したいそうで、快く承諾した。

 ルルとグレーテル。ソフィアにエルザも手伝いだ。

 特にエルザは命令して。ボクが楽しみにしてた事を先に言ったから。カイとメルはボクにとって掛け替えの無い親友なのに...エリーにとってもそうだけど。

 いいんだ...総勢13名を扱けば....フフフ....ハハハ....今までの"稽古"なんて比べ物にならない"猛特訓"をしてやろうじゃないか。

 なに、カルアも居るしボクも居る。治療魔法の出番は沢山あるさ....


「まず、戦闘技術(スキルアーツ)の奥義を取得するのに気闘術は必要不可欠だ。故に13名からローゼを抜き2班に分ける。

 エルミアはヘルナ達と一緒に。ルイーゼ達はいつもの5人とエリーを加えて。理由はお互いの動きを良く知っているからだ。エルミアは弓術士だからセリーヌと分けた。

 そして、ノワール!」

「お呼びかしら? お兄様」

「うむ! 実技指導を頼む」

「任せて。ふふふ....楽しみだわ」

「「「「「「ひっ!?」」」」」」

「では先に野外訓練場でヘルナ達の基礎体力作りを。ノワールとソフィアとエルザで教えろ」

「わかったわ」

「ワタクシにお任せ下さいまし!」

「お、おう....マジカ....」

「次に、帝都の屋敷から持ってきた屋内訓練場でエリー達に気闘術の講義をボクとルル、グレーテルが指導する」

「仰せのままに。マスター」

「まかせてー!」


 そうしてそれぞれ別れ"猛特訓"は始まった。


「クッ...」

「ぎゃー!」

「ムリムリムリ!!」

「あかんて!」

「いやぁぁぁ」


 うむ。ガンバレ。ノワールは善い子じゃ。問題無い。カルアも診てるからのぅ。エルミアは十分強い。


「さて、気闘術の基礎は知っているかの?」

「魔法が使えない者が編み出した内なる力を開放する技です!」

「オーラを宿し身体能力の向上。又は、放出する事で相手を打ち倒す技です!」

「正解じゃ!」

「え...私そんなの知らないんだけど....」

「....」

「ローゼよ...."天然"で覚え、知識も無く教えた報いじゃぞ?」

「そうだな...すまなかった。カオル。エリー。私が悪い」

「そうなの!? 相手より速く動けとか! 先読みしろとか! そんな事ばっかり言ってたじゃない!」

「ああ....」

「エリーよ。それが正しい時もある。なぜなら、対人に威力を発揮する戦闘技術(スキルアーツ)が非常に多い。奥義の中には冒険者のエリーにとって無用の長物もあるのじゃよ。

 そして、聖騎士団では対魔物の戦闘を想定した訓練をして居った。対人に赴きを置いて修練している各国の騎士団より弱いのは仕方が無いのじゃ。

 じゃがの? これからは違う。なにせ我の国の騎士爵を叙勲するのじゃ。対魔、対人、両方に強くなって貰わねばならぬ」

「そ、そうなんだ....その話し方嫌いなんだけど?」

「うむ。じゃが、その方が雰囲気が出るのじゃ。今は許せ。あとで一緒に風呂に入ろう」

「そ、そそ、そういうことじゃないんだけど....入るけど...」

「ずるいぞ! カオルきゅん! 私も――」

「ローゼ?」

「...はい」

「ではまず、体内に宿る気の循環から教えようかの」


 一種の座禅と瞑想をさせ、自分を見詰め直す。

 性格という意味ではなく、己が内にもう一人の自分が居るイメージ。

 魔力もそうだけど、もう一人の自分から気も放出される。

 そして使えば減るし、休めば貯まる。

 以前【カムーン王国】の王城の地下室で『魔力とは血液ではないか?』みたいな研究書があったけど、アレと感じは似てる。

 もう一人の自分という血袋があって、そこから出し入れしてるようなイメージだね。

 だから使いすぎれば疲労するし、魔力減少(マジックダウン)で最悪意識を失う。死ぬ事もある。ボクもエリーを助ける時に死に掛けたし。風竜が居なければ死んでた。

 なので、気も同じ。簡単に言うと、もう一人の自分は2つの袋を持ってる訳だ。魔力の入った物と、気の入った物。

 そこから引き出し体内で滞留して爆発的な力を齎したりできる。

 先天性に袋が大きかったりする場合もあるよ? グローリエルとかが良い例だ。

 魔法の才能は凡人だけど、魔力量が物凄く多い。

 でも、気に関してだけは努力次第で袋の大きさも変わってくる。

 まぁそこも才能次第なんだけどね。


「って言うか、エリーできてるじゃん」

「...すごいよ...私、わかる...手足に巡る力...波って言うの?」

「暴流とも言うね? その強さだと。だけどすぐに尽きてしまう。だから、維持し調整する術を見つけなさい。いいかな?」

「うん...言い方が優しくて、ソッチの方が私は好きよ? カオル」

「そう? ボクもエリーが好きだよ?」

「ば、ばか...」

「ぐぬぬ...」


 悔しがるがいい!! ローゼよ!! 犯した罪は重いのじゃ!! チョップだけで許すものかー!


「ふむ...ルイーゼ? ルイーズ? 目を閉じて」

「「はい!」」

「良い返事だ。今から言う事を良く聞いて。自分の意識を身体の中心に....そう頭から喉を通り....心臓の隣よりもちょっと下だ。うん。そこだね。感じる?」

「「か、かんじますぅぅ...」」

「うん。善い子だ。では、そこから手に移動しよう。右手と左手。合わせて10本の指先まで.....」

「あ、あの...擽ったいです...」

「ボクは触れてないよ? ソレは気を感じているだけ。それじゃぁ戻ろう。身体の中心へ...うん。良い感じ....では最後に足先まで伸ばしてみよう。遠いからね? 意識を集中して....」

「ンッ....アア....」

「ヒック...うぅ...」

「集中だよ? わかった?」

「「はぃぃ」」

「ん~....うん。気の循環路は形成できたね。お疲れ様。5分休憩してていいよ?」

「「あ、ありがひょうございましゅ...」」

「どういたしまして♪」


 ボクはただ話してるだけなんだけどね?

 なんか卑猥に聞こえるんだけど...


「次はジャンヌとシャルとセリーヌだね」

「「「お願いします!」」」

「うん♪ 任せて♪」

「なぁカオル?」

「なにローゼ?」

「私はやらないのか?」

「だってとっくに出来るでしょ?」

「まぁそうなんだが...」


 3人に教えながらそんな邪魔をするローゼ。

 エリーは必死で反復練習してるし、ルイーゼ姉妹はグッタリ横たわってる。

 仕方が無いのでちゅーしておきました。

 まったく....嫉妬でもしたのかねぇ? 婚約者のくせに。


「ん....うん。3人共成功だね♪」

「「「ありがひょうごひゃいましゅたぁぁ」」」

「どういたしまして~♪ ルイーゼとルイーズは――まだダメそうか。ジャンヌ達も合わせて10分休憩。ルル? グレーテル? 飲み物と介抱お願いね?」

「お任せ下さい。マスター」

「りょうかいだよー!」


 可愛いなぁグレーテル....子供に欲しい感じやね?


「さて、エリー。もう一段高みに登ろう。ローゼの背中はまだまだ先だ。将来的に手の届く位置まで連れてくからね? 覚悟をして」

「う、うん...うぅん! はい! お願いします!」

「良い返事だ! まず何をするにおいても体力は必要だね。でもエリーは日々頑張って修練や稽古を続けてきた。誰よりも一生懸命に」

「そ、そうかな...」

「謙遜するのは自由だけど、自分を奮い立たせる為に自信も必要だ! 覚えておいて!」

「はい!」

「では、実戦形式で気闘術の活用方法を教えていくよ? 体捌きはどんな武器を使う上でも必ず行なっている事。

 もちろんローゼクラスの達人だと、自然な動作で無意識に出来たりする。例えばこんな感じ」


 木刀をローゼの右肩目掛け袈裟斬りに。

 突然の奇襲も慌てず身体を半身捻って躱すローゼ。

 剣聖は誰にでも成れる職業ではないのだ。


「あのな? カオル?」

「ちゅー2回」

「わかった」

「ちょっと!?」

「いや、今のはボクが悪かった。でも、ボクの師匠はこれくらい余裕で避ける人だから。

 ずっと一緒に居たからわかるし、何よりボクに戦い方を教えてくれたのはローゼだ」

「まぁ...そうだな」

「ムカァ」


 いや擬音を口にされても....


「ちなみに気を操れる様になるとこんな事もできる」

「ッ!?」

「なんだかわかった?」

「...見えない何か...刃みたいなそんな感じの...」


 ほほぅ...エリーはやっぱり勘が良いねぇ。あと身体能力か。猫人族と犬人族は優秀じゃのぅ。


「正体は"剣気"。"殺気"と呼んでもいいかもね? 所謂、『相手を倒す!』なり『殺してやる!』なりそんな感じのモノだ。

 ただし、達人ともなるとそんなモノを感じてもなんとも思わない。むしろ、『敵意剥き出しにして何考えてるんだ?』みたいな感じかな?」

「そうだな。まぁ、カオルと修練する時は"剣気"を撃ち合わせて遊んだりするけどな」

「いや...アレは遊びじゃないと思う...」


 何回も怖い目に会ったよ....

 【オナイユの街】とかで....手加減してくれないんだもん。


「動物程度ならコレで怯えて逃げ出す。だけど、魔物や魔獣には効かない。そもそも狩りをする上で殺気を漲らせてるとかバカだしね。

 なので、多用するなら対人のみ。使いどころはほとんど皆無。

 だけど"剣気"を放てないと気闘術の放出系の奥義は使えない。さっきエルザに放った<虎乱(こらん)>とかね?」

「あの虎みたいなヤツね」 

「うん。アレは格闘術の奥義のひとつ。他にもいっぱいある。そして、エリーには剣術に加えて格闘術を覚えて欲しい。というか、全員に」


 とっくに回復して講義を聞いてるルイーゼ達だね。


「できるのでしょうか?」

「『できる』『できない』じゃなくて、やる。何事にも強い意思が必要だから。わかった?」

「「「「「はい!」」」」」

「何度聞いても良い返事だね♪ やる気があるのは良い事だよ。それじゃ実際にやって見せようか。ローゼ? 組手(くみて)をしようか」

「ああ」


 武器も防具も無し。ただ己が拳を相手に叩き込む。

 だけどローゼ相手に神力も竜人の力も使わないで勝つのは難しい。無理じゃないけど、相性が悪い。ローゼは身長も高いし体重もある。

 一撃一撃が重いからだ。


「っと」


 肘打ちからの裏拳。ローゼならこの後回し蹴りからの飛び膝蹴りかな?

 なので――


「クッ!?」


 肘打ちの突力を左に流し、裏拳をしゃがんで避ける。

 一連の流れに淀みが無いから余計にわかりやすい。

 ボクがずっと憧れて見てきた相手だから尚更ね。


「....まさか回し蹴りの体勢のまま持ち上げられるとは思わなかったぞ」

「ローゼ相手だからね。身に染みて動きがわかるんだよ」

「すごい...」

「速過ぎて動作に追い付かない....」

「えっと、目が慣れると見えてくるから大丈夫。普段は修練で木剣とか使ってるでしょ? アレに比べれば速さは無いよ。ただ、間合いが近いから速く感じるだけ。

 ちなみに、ローゼの肘打ちを受け流したのは格闘術の<柔義(やわらぎ)>って技。本当はカウンターを入れたかったんだけどね」

「読めていたからな。予備動作で丸見えだったぞ?」

「うん。ボクは純粋な体術のみで組手をしてるからね」

「エッ!? 気闘術じゃないの!?」

「ん~...慣れてくると他人の体内に流れてる気を読み取れる様になるよ。ついさっき気の循環路を形成した時に、みんなの気の流れをボクは見てたんだよ?」

「「「「「....」」」」」


 うん。ボクも最初はそうだったからわかるよ。

 なんだか裸を見られたようなそんな感じだよね。

 ローゼ相手だから平気だけど。お風呂とかとっくに進入してきたしね....


「どんどん教えて行くから覚えて。渡したスフィアでも読めるようにしておくけど、読むのと動くのでは全然印象が違うから」


 それから2時間交代で、講義組みと実戦組み。交互に"猛特訓"が始まった。

 音を上げるまで止めない。そう思ってたけど脱落者は誰も居なかった。

 ただ必死に喰らい付いた。他でもない仲間に置いて行かれるのが嫌だったのかもしれない。

 でもボクはこう想いたい。


 大切な人が襲われた時、助ける術を欲しいと願うはずだから。


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