第二百七十三話 ボクは無罪!
さーて、事後処理は的確に。素早くパパッと。
気絶してたレンバルトとニコル司教を叩き起こし、同様に聖騎士団員と帝国所属の兵士達も目を覚まさせる。
ローゼ達は先に香月夜で王国へ帰した。もちろん、カイとメル。イライザとレーダを魔法で眠らせて。
なので、残ったのはボクと影の中にノワール。守護勇士のルルとグレーテルの計4名。
人形も帰したからね。というか、あの人形達は竜樹の補佐として香月夜に就任する。
仕事なんてほとんど無いけどね~...掃除と変態な樹精霊の世話くらいか? 話し相手だと思うけど。
「ハッ!? なんだか怖い夢を見ていたような...」
「き、きき、奇遇ですね...ニコル司教...私は黒い触手に襲われる夢を...」
「く、くく、黒い触手ですか...は、ははははは....」
やっぱり禁呪は禁呪だね。何この怖がりよう。
まぁ、わからなくもないけど。
「それはすごいですねぇ...同じ夢を見るって事は、良き協力者に恵まれて面倒な事柄も簡単に解決できる予兆らしいですよ~」
「そ、そうなのですか...博識ですね。執政官様」
「そ、そうみたいですね...執政官殿」
いや、夢占いの基本だよ。団体行動とか。
「では、まず現状を報告しますね~」
そうして【オナイユの街】の住民を眠らせた話を伝え、警邏の人員を再配置。
西東南の各門へ常駐の帝国兵士、徴税官、聖騎士を割り当て、通常通りの運営に戻す。
ただ、住民が眠っているので街の機能は麻痺中。
火事とかは起きてないし、起こさせない。その為の彼等彼女等。
時間的にもうすぐ夕方だから――出先から帰って来る人が多くなるかも?
空き巣とか大丈夫かな? なんて無用の心配だった。
(平気よ? お兄様。内鍵は掛けておいたもの。それにマリアが視ているわ)
いや、普通に脳波みたいに話しかけるな! こっちは読んじゃダメとか言ってたくせに!
(ふふふ...2人だけの内緒ね? 楽しいわ。私)
ボクは楽しくないんだけど...それとマリアが視てるの? 全然わかんないんだけど。
(ええ、たぶん...お兄様はずっとマリアに視られてるから、慣れてしまって気付けないだけじゃないかしら?)
エッ!? ずっと視られてるの!?
(そうよ? あの子はお兄様を大好きだもの。ふふふ...愛されてるわね? 私)
嬉しいけど、恥ずかしいよ!? どこでも視られてるって事じゃん!!
って事は、ララノア学長の件も知ってるの!? 弱味握られてた!?
(しょうがないんじゃないかしら? いいじゃない。囲ってしまえば)
またそれかー! だから、お母様より年上なんだって!
(そうね。お母様なら喜ぶんじゃないかしら? 『やっぱりあの人の子ね? 血は争えないわ♪』とか言いそうね)
間違い無くそう言うだろうね!? そのくせお父様を手玉に取る凄い人だったからね!! お母様は!!
(ふふふ...慌ててるのね? 可愛いわ。私)
....ノワールは間違い無くお母様似だよ。笑い方とかソックリだもん。
そしてボクは見た目お母様似で中身お父様似か! 嬉しいけどなんか複雑だよ!
(あら? 婚約者が7人も居てそれを言うのかしら? もっとも――これから増えるでしょうけれどね? 飽色王カオル?)
ハイハイソウデスネー。この話しはマタネー。
口ではノワールに勝てない事が判明しました。いや、武力も互角だから総合的にもやっぱりボクの負けか....
まぁいいよ。ノワールは家族だし。妹とか本人は言ってるけど、絶対姉だよアレは。
そんなこんなで【オナイユの街】も通常運営を開始し、食べ過ぎで動けない人はしばらく出て来ないだろう。
広域魔法陣で展開した《睡眠》の効力も、もって2時間程度。夕暮れには起きるかな?
産まれもっての才能があれば、耐睡眠の効力でもう少し早く起きる可能性も? そんなことは些事だ。
2日間限りの特務執政官も返上し、【オナイユの街】は何事も無く返還。
食べ過ぎと悪夢は残ったかもしれないけど、礼拝堂は物凄く綺麗になったし、なんか掃除? したらしいから得る物はあったはず。
そんな事をアーシェラに報告しつつ、改めてシルさんの金物屋へ寄り調理道具全てを購入。
色々驚いてたけど、鍛造品の調理具は人形君達が欲しがっていたのだ。
なので、「領地で使うんです。全部売って下さい!」とお願いし、即承諾。
『大事に使ってくれよ?』なんて、我が子を送り出す様で実に職人らしかった。
もうすぐ帝都暮らしになるからね。レギン親方とニールさんを連れて。
なにせアーシェラがノリノリだもの。
『妾の帝国に木目模様鋼が返り咲くのじゃな!』とかテンションが高かった。鎧としてだけどね? そこは重要なのだ。後世では知らぬ。
シルさんの件をアーシェラも知っていたからね~...同情したんじゃないかな? 自分の身の上も踏まえて。リアのお父様とか亡くなられてるし。
なので、おそらくシルさんとレギン親方専用の工房が建てられるか用意されるはず。近いから寄り易くなるね♪ クルミパン喜んでたもん!
はてさて、後始末も終わった。今は鷲獅子姿のファルフで帰国途中。
レジーナはそのまま残り、エドモンド商会の本店――黒猫通りのミント亭――で商いを続けるんだって。帝都の流行を【オナイユの街】に取り入れるそうな。
エドモンドさんはやり手の商人だねぇ...当代で商会を起こして手広くやるとは....
でも、うちの国の政商はやっぱりオルブライト商会がいいなぁ...セシリアのお父さんだし。アットホームだし?
今月末の建国宣言までにやれる事を纏めておかないと。
急ぎ足で色々やってるからなぁ....少しはのんびりしたいや。みんなとも話したいしね。
光希達の件もあるし、薊達朱花の同胞も治療しに行かないと....う~ん....【ヤマヌイ国】は腐敗してないといいなぁ...【ババル共和国】は腐ってるみたいだしなぁ....元老院が。
いっそエルザに任せちゃう? 雷の勇者は【ババル共和国】の英雄だったんだし。ん~....やばそうだから止めておこう。信用してないとかそういうのじゃなくて、雷の勇者をバカにする輩が居たらエルザは大暴れしそうだもんね。
まぁ...とりあえず、受胎が先かな? 魔剣ソウルイーター君よ。
「ただいまー!」
「ご主人!」
いつものアイナアタックを受けて、顔を擦り付けるマーキング。
実に愛らしいけど、エメが来たらキャラが被って大変な事に!?
そんな心配してないけど。
「おかえりなさいませ。我が君」
「おかえりなさいませ。ご主人様」
「うん! ただいまー!」
人形君とフランに迎えられ、ファルフにお礼を言いつつ頼み事。
「クワァ」とひと鳴き了承し、再召喚して小鳥の姿へ。
なにせ明日の第二次カイとメルの挙式の立役者に成ってもらうのじゃ。
よろしく頼んだよ? ファルフ。
楽しい楽しい家族の団欒――ネコが大暴走して魚料理を独り占めしたり、ソレを怒ったローゼやエリーやエルミアと大食い選手権をしたり、フランだと思って手を繋いだらオレリーお義母様だったり――を経て、ボクはマリアの仕事場"特秘ルーム"の存在を家族に明かした。
初めはやっぱり怖かった。
決意したとは言え、軽蔑されるんじゃないかと思ったから。
だって、他国の情報を盗んでいるから。
在野に眠る類稀なる天職持ちの能力者を青田買いするんだもん。
人の個人情報を盗み見するなんて、最低の事だと思う....んだけど、どうやらボクは考えすぎていたようで....
「ほう....凄いなこの部屋は....香月夜も驚いたが、ここもまた....」
「エッ!? どこでも視れるの!?」
「地下迷宮や屋内までは視れませんよ?」
「あのね? マリアちゃん? この、女の子の"ジョブ"って言うのかしら? "白魔道士"ってなぁに?」
「それは広義で聖魔法の使い手ですね。《治癒》や《光球》などが使える可能性を持つ人ですよ?」
「それって...」
「治癒術師として将来的に活躍できる。という事ですか?」
「その通りです。まだ公に"ジョブ"について広まっていません。各ギルドがギルド員から"ジョブ"についての情報を集めていますね」
「まぁねぇ...学習型の若樹珠を作ったから、ボクも知らないジョブとか出てくるかもね?
数学者とか。死霊術士とか暗黒術士は出ないけどね。禁呪だし。その辺はしっかり作ったよ」
うんうん。みんな好意的に捕らえてくれた。
こんな事なら隠す必要もなかったんだね...
変に意識し過ぎていたよ。
「...コレ、カオルが作ったの?」
「うん、そうだよ?」
「いつ?」
「ん~...【エルヴィント帝国】には、4日前くらい? あと、【カムーン王国】と、【イシュタル王国】と、【聖騎士教会】はその次の日に。
もちろん、【エルフの里】にも置いてきたよ? 説明書とかも。
あ、ペンダントトップは【エルフの里】だけ限定品なんだ♪ アグラリアンお母様が"木"の文字をアレンジしてくれてね? ちょっと可愛くでき――」
「あのな? カオル」
「ねぇ...カオル?」
「おねぇちゃんも言いたい事があるのよぉ?」
「私は...」
「ふぇ? やっぱり怒るの!? そりゃ、稀な天職持ちを探して各国の要職に斡旋しようとしたボクも悪いかもしれないけど――」
「いや、そうじゃない」
「私達が言いたいのはね?」
「どうしてこんな楽しそうな物を~」
「教えてくださらなかったのですか!? (申し訳ございません。後は任せます。カオル様)」
「「「カオル!!」」」
Oh....ソッチかぁ....予想の斜め上を行かれたんじゃよ....
そしてエルミアは裏切り者だー....可哀想だからいいけど....
とりあえず、ペンダントの性能云々の説明。
カルアは在野に眠る"白魔道士"を【聖騎士教会】へ引き入れる為にファノメネルにも情報公開を求めたり。
冒険者じゃないけど、ローゼとか、エルミアも結局欲しいのね? とかもペンダントを欲しがったり。
【聖騎士教会】用のペンダント――カルアは色々な意味で特注品――をカルアに渡したり。
エルミアは【エルフの里】限定品をとりあえず渡したり。これも特別...というか、家族のは特殊性能のある物を渡す。あとで使える様にね。
エリーは冒険者ギルド用の普通のを。特殊だけどまだ教えない。
ローゼは....【竜王国】国民用にデザインした。
どこかのギルドに所属している訳じゃないけどね。しいて上げるなら、王国所属だ。偽造できない身分証だし。
そうして大老樹珠で登録したんだけど――
「名前が...ローゼ・ハトラ・マーショヴァル...二つ名は..無かった事にして、"ジョブ"が、姫・魔法剣士・騎士・元剣聖・黒魔導士・鍛冶師だと!?」
「おー! セクス"ジョブ"持ちだねぇ...」
「私...剣士・魔法戦士・冒険者なんだけど...」
「トリア"ジョブ"だね」
「おねぇちゃんは....聖女・治癒術師・助祭・棍棒術士....」
「クァトゥオル"ジョブ"だよ?」
「私は...姫・弓術士・精霊魔術師・剣士・学者....」
「クイーンクエ"ジョブ"やね」
ふむふむ...どうやら大老樹珠効果かどうかわからないけど、複数ジョブ持ちに成れるみたいじゃのぅ。
これは是非ボクも! なんて、まだ成人してないからなぁ...いや待て...王国民の証としてのペンダントなら....
「マスター? 止めた方がよろしいかと思います」
「エッ!? なんで!?」
「"神"と出ますよ?」
「はぅ....」
そうでしたー....ボク、神だった!
「バカだなマスター。しょうがねぇなぁ! 俺が――」
「エルザもいけません。"堕天使"と出ますよ?」
「くそぅ!!」
「ムニャムニャ」
「グレーテル....寝てる...可愛い」
「そうねぇ♪」
ざまぁみろなのだよ! エルザ! そしてフラウとマリアはグレーテルを甘やかしておるのぅ。
ルルが注意しているみたいだからいいけど。
そして...ソフィアよ....ずっとブツブツ言ってるけど、『ジジィ殺してやりますわ!』とか怖いから止めておきなさい。
せめて頭に"ミカエル"と付けよう? 全てのおじぃちゃんが驚いてしまうからね?
「まぁ"ジョブ"は努力次第で増えるかもしれないから、エリーは落ち込まないように!」
「だって私だけ3つなのよ!? ローゼなんて6つよ!? 倍じゃない!」
「ハハハ! 羨ましいだろう!」
「ムキィィィ!!」
あ、久々にエリーの『ムキィ』を聞いた気がする。
「でもローゼの姫と元剣聖は肩書きみたいな物だし」
「それを言ったら私の冒険者もそうよ!」
「おねぇちゃん....聖女だったのねぇ♪」
「私は学者だったのですか....知りませんでした....」
カルアは聖母っぽいけどね。エルミアは博識だし学者だろうね。精霊文字も読めるし?
「それにしても....良かったよ。ボク、軽蔑されると思ってたから....」
「いや、それはない。むしろ善い行いだと思うぞ?」
「そうね! 天職? っていうのがわかれば、もしかしたら貧民から富豪になれるかもしれないじゃない!」
「埋もれていた治癒術師が見付かるかもしれないわぁ♪」
「ええ、長所を伸ばし活用する。各国にとっても優秀な人材を集められるなら問題はないかと思います」
「....ありがとう。でも、もうひとつ隠している事があるんだ。ノワール?」
「わかっているわよ? お兄様」
「ボクはノワールの魔法で"濁った目"のゴミ達を輪廻転生の輪から外してる。来世という救いを与えていない」
「暗黒魔法の《魂の投獄》よ。永遠の闇の中でもがき苦しみ続けるの。自業自得だけれどね」
「....悪いがカオル。私には魂というモノが理解できない」
「私もそうよ」
「それにぃ...カオルちゃんが言う"濁った目"の人は....」
「復讐や戦争で命を奪う者達ではなく、"我欲に塗れ他者を陥れる穢れた瞳"の者達なのですよね?」
「うん....ボクには視えるんだ。それに....」
「ルル達全ての守護勇士も視えます。"聖眼"をマスターより授かりました」
「俺は"魔眼"だけどな」
「だから瞳の色が片方づつ違うのか....」
「私達はマスターから授かった肉体に誇りを持っています。
あの戦争を乗り越え、先代のアポロン様が託した願い。
"世界の安寧"。
その為にマスターは穢れた魂に再誕の時を与えません。
世界樹は、死者の魂を吸い上げ、浄化し、来世へと導く役目を担っています。
そして、極稀に産まれるのが異端者。マスターに視える"濁った目"。
彼の者達は、古代魔法文明時代から脈々と受け継がれる悪意の傍流。
故に、再誕の機会を与えない事で世界は安寧へと向かう事ができます」
マリアの説明通り。だからこうして刈り取る。濁ったゴミ共を悠久の闇の中へ閉じ込め逃がさない。
「先代のアポロンが託した願いだけど、ボクにも理由があるんだ。
ボクとお父様とお母様を殺したゼウスを許せない。
ヤツが描いた筋書きは破綻し始めている。
ノワールとボクの手によって、新しい筋書きは綴られ始めた。
だから、ボクは自分の物語を書き続け全てを手に入れる。
ボクを愛し、ボクが愛した人達と手を取り合い戦争の無い世界を造る。
『貧富の差の無い』なんて、綺麗事は言わない。それは子供達に託す。
ボクの代でする事は、国家間の戦争を無くし、奴隷制度を見直させる。
犯罪奴隷は仕方がない。犯した罪に罰は必要だからね? でも貧困から奴隷に落ちる者や、攫われたり本人の意思と関係無く奴隷になってしまった者へ手を差し伸べる。その布石は打った。
ボクの死後、世界樹は本来の役割を始める。"世界の管理者"として。
そして、ルル達は"執行者"として世界樹の手足になる。永遠の命を持つ彼女達だから出来る事で、神足るボクやシヴ。ウェヌスの願いを彼女達は叶えてくれる。
全部ボクの我が侭なんだけどね。でも――受け入れてくれた」
「そうね。お兄様。私も居るんだもの。安心してくれていいのよ?」
「うん。ボクの半身、ノワールも居るからね。心配はしていないよ。全ての穢れた魂を封じ込めた後、ノワールは"向こうの世界のボク"を殺す。そうしてボクは出会うんだ。ここに居るみんなに」
「時間軸のずれた世界。正確には、時間軸の歪んだ世界かしら?」
「歪んだ....そうだね。歪み狂った世界だね。向こうの世界は」
「....難しくて付いて行けん。だが....カオルの行ないは間違っていないと断言できるな」
「私にもわかんないけど...とにかく極悪人は許さないって事よね? それならいいんじゃない? 世界の為になるんでしょ?」
「おねぇちゃんも間違ってないと思うわよぉ? 【聖騎士教会】の教義に反していないものぉ」
「私もですよ? カオル様。ただ問題がひとつ。なんでノワールがカオル様に抱き付いているか、という点です」
「あら? 知らなかったのかしら? 不死者の私と神として禁忌を犯したカオル。子供は産まれるけれど、ドラゴンの契約は破棄できないんだもの。アナタ達より何千年も永く一緒に過ごせるのよ?」
「「「「「エッ!?」」」」」
ナニソレ? ボク知らないんだけど!?
「ふふふ...."土竜"から直接聞いたから間違い無いのよ? お兄様」
「エ...いつ会いに行ったの!?」
「昨夜よ? お兄様」
「そういえば....」
「ローゼを簀巻きにしてた時、ノワールが居なくなってた...」
「でもぉ...そんなに早く行けるものなのかしらぁ?」
「土竜王クエレブレが住処"フムスの地下迷宮"は、カオル様でも数日かかったのですが...」
「いや、《影移動》を使えば一瞬で行ける。今のボクも《雷化》で一瞬で....というか土竜起きてたの!? 何度召喚しようとしても拒否されてたのに!? 決闘の時以来ずっと寝てたんだよ!?」
「ふふふ...起こしたのよ? お兄様」
お、恐ろしい子! 土竜を叩き起こすとか...ボクでもやらないよ! 土竜に怒られそうだし! お世話になってるし!
「あら? 私は魔神だもの。何も恐れる事は無いのよ? 可愛いわ。私」
「だから手玉に取るなー! ヒッツクナー!」
「....つまり、ルルもマスターとずっと一緒に?」
「グレーテルもー!」
「ワタクシもですわね! ああ...あんなジジィよりもこんなに素敵で素晴らしいマスターとご一緒だなんて...観光...観光ですわ! マスターと2人で観光....なんてロマンチックですの!」
「...ずっと一緒...ふふふ」
「あら? フラウが笑うなんて珍しいわ♪ 私も嬉しいわよ♪」
「お、俺もマスターと...その...なんだ....ラエドの軌跡を辿ってみたりとか...いいんじゃねぇか?」
何このボク好きっ子達....エルザもツンデレだと!?
いや待て! ボク数千年も生きるの? 幼竜が成竜になっちゃうよ!? 曾孫とかそんなレベルの話しじゃなくなっちゃうよ!? 子孫見れちゃうよ!?
「ハッ!? 輪廻転生したローゼ達と、また恋に落ちる可能性が!?」
「「「「っ!?」」」」
「あら....お兄様ったら....こんなに可愛い妹が居るのにまた恋をしようだなんて...」
「か、カオルきゅん...」
「ま、まま、またこ、恋に落ちるとか...ば、バカなんじゃないの...」
「も~う! おねぇちゃん嬉しいわぁ♪」
「カオル様。安心してください。現世も来世も来々世も、必ず私はカオル様と愛し合います!」
「う、うん。嬉しいよ....だけど死に目を見るのが辛いかなぁ...」
「ふふふ...平気よ? その後眠ってしまえばいいんだもの。再誕の時まで、私が添い寝しているわ」
「ずるーい! グレーテルもー!」
「でしたら、この場所に棺を置いていただければずっとご一緒できますね? 私は職務を全うしながらマスターのお傍に居られます」
「...フラウも」
「ルルもです」
「...そうか! パパッと仕事を終わらせてもどりゃぁいいんだな! さすが俺だぜ!」
エ....なんでやる気になってるの? ボクの考えもおかしいけど、みんなおかしいよ?
ダレカー! タスケテー!
えー....日付も変わり満身創痍の真夜中です。メルとカイの本当の"挙式"も準備は順調です。
本人達は気疲れしたらしく、《睡眠》を重ね掛けしたからかずっと眠っています。初夜は明日だね。
ちなみに家族達も疲れて寝ています。ボクを取り合う訳のわからない争いをしてたからです。
なんだろう...お母様に怒られてたお父様を思い出しました。
で、今のうちに魔剣ソウルイーター君を受胎させようと思ったんだけど...
「お兄様? 私はお勧めしないしないわよ?」
「なんで?」
「その子、二面性があるの。たぶん....お兄様にとって害になるわね」
「ふむ...」
ボクはクローディアの幽霊をずっと宿していた善い子だと思う。
話した時も普通だったし。
でもノワールが言うんだから間違いないんだろう。
受胎は諦めた方がいいのかな? 確かに特殊な感じだし。
「そうね。読んでみたらどうかしら? 深層意識を」
「いいの? もう使っても」
「ええ、家族に全てを明かしたのだから問題無いはずよ」
「そうなの? それじゃぁ....」
神力に《雷化》を重ね、魔剣ソウルイーターの全てを読み取る。
すると――ノワールの忠告の意味をよ~く理解した。
「あー...これはダメだ。最悪だ」
「でしょう? だから言ったのよ?」
要約すると、ボクを騙して神の力を得ようと画策する人格と、ボクに従い力を貸す忠実な人格が内包されてる。
これなら『俺様がー!』な魔武器の方がまだマシだ。
なにが『さっさと身体を寄越せ!! 無能な神が!!』だよ...堕天使が神に勝てると思ってるのかね?
無能の神がどうやって受胎させる術を知ってるんだか...バカか?
「死蔵&封印決定だね」
「ええ。それに、現状の戦力でも問題はないでしょう? ゼウスに対抗する為には」
「う~ん...ミカエルとウリエルは、ルル達で倒せるだろうけど...天使の軍団がどれだけ降りて来るかなんだよね。だから各国の軍事力を上げて自国防衛くらいはして欲しい。
ゼウスとの戦闘中に余計な負担を背負いたくないからね」
「そうね...でも、お兄様と私が居ればゼウスも倒せると思うのだけれど?」
「うん。だけど、ボクは確実にしたい。失敗したら世界が終わってしまう。ボクは欲深い人間だからね。みんなと幸せになる"未来"を手に入れたいんだ」
我が侭な子供だよね。本当に。
「いいんじゃないかしら? 私達の歯車はまだ回り始めたばかりだもの。時間の余裕もあるわ。だからでしょう? あの猫娘のランクアップなんて思い付いたのは」
「まぁね。エリーの願いを叶えてあげたいって理由だよ。第1級冒険者。冒険者の誰もが憧れる存在で、ボクもオダンを尊敬してる」
「私にはわからないわ。でも、お兄様がそう思うのならいくらでも力を貸すわよ?」
「ありがとう。なんだかんだ言って、エリーの事気に入ってるんだね?」
「違うわよ? ノワールとしての私は、家族を嫌い。だってカオルは私のモノなんだもの。でも、カオルとしての私は家族を愛しているの。複雑でしょう?」
「ん~...ボクとしては、いつの間にボクがノワールのモノになったのか不思議なんだけど?」
「あら? 意識も記憶も力も肉体も共有したのに、そんな事を言うのかしら?」
「肉体の共有はノワールが勝手にやった事じゃないかな? 『面倒だもの』って言って」
「ふふふ....覚えていてくれて嬉しいわ。私」
「ヒッツクナー!」
油断も隙もあったもんじゃないよね!
「なぁマスター?」
「ん? どうしたの? エルザ」
王宮の最上階に設けたボクの自室。工房や研究所としても重宝している素敵空間。
水晶宮の壁を背凭れにしていたエルザが不思議そうな顔をしていた。
「なんで俺は平気なんだ? 俺も堕天使だし魔剣なんだろ?」
「ん~....想像だけど、前の持ち主"雷の勇者ラエド"が関係してるんじゃないかな?」
「ラエドが?」
「うん。共に戦い生涯を見届けた事で、エルザの人格形成に影響を及ぼした。もちろん良い意味で。
だって、エルザはボクに敵意なんて沸かないでしょ?」
「ああ。ていうか、最近益々マスターの事が...」
頬を染めおってからに...女体化して乙女になったのかのぅ? 愛い奴じゃ。
「エルザ? マスターを独り占めはさせません。マスターとの目合ひは、ルルに与えられた特権です」
「ああ!? な、何言ってんだよ! そ、そういう意味じゃねぇよ...」
「そういえば、1週間くらい合体してないね? しておこう」
「「エッ!?」」
「おいで」
聖剣デュランダルをひと撫でし、《覚醒》で天使の姿へ。
人間、竜人、神、そして天使。
4つの力がボクの身体を駆け巡り、光輝く6対12枚の翼と――
「....角生えてんぞ?」
「羽もね」
「しっぽー!」
うん。ソウダネー。
「ルルが天使に顕現したから、12枚の翼はわかる。で、そこに竜人の力が混ざった?」
「そうじゃないかしら? 綺麗よ? とても綺麗な白角」
「いや、なんか禍々しいんだけど。作りは綺麗だけどよ」
「いいなー!」
(い、いけません。ま、マスター...そんな強引に...あっぁぁぁぁぁ)
ルルの艶かしい声が脳内に響くんだけど...エッ? これいやらしい行為なの? 天使の力を使える様になるだけじゃないの?
先代のアポロンは何をしたー!?
「はいはい。解除かいじょー」
「ハァハァ...ひどいです...マスター...強引に....」
「お兄様? 何をしたのかしら?」
「そ、そんなにすげぇのか...マジか....」
「グレーテルもー!」
「い、いけません。グレーテル....まだ早すぎます....」
なんか事後みたいになってるけど....性欲すら目覚めてないボクに何を言っているんだろうね?
父性には目覚めそうです! グレーテルが我が子に見える時があります!
「そもそも《覚醒》はルル専用だし。合体はいやらしい行為ではない! つまりボクは無罪! さーて...魔宝石作るゾー! オー!」
冷ややかな視線の中、ボクは必死でせっせと働く。
魔法鞄に魔法袋。
ギルド用のペンダント。
もちろん苗樹珠も沢山。
スフィアで飛空艇の設計図を作ったり、カイとメルの挙式の仕込みをしたり、"猛特訓"用のメニューを考えたりと大急がしだ。
だからね? ボクは無罪! さようなら...魔剣ソウルイーター...二度と会う事はないだろう.....




