第二百七十話 不敵なノワール
「で? どうするつもりなんだよ? 言っとくけど、俺達は手を貸せねぇし貸せたとしてもアイツには勝てっこねぇぞ?」
「そもそも香月夜は視えません」
「グレーテルには視えるー!」
「だから、ばらすなよ!?」
「ブー!」
「まぁまぁ、グレーテル? マスターの定めた秘密を話してはいけませんからね?」
「わかったー!」
「これだからお子ちゃまは...」
「ルルー? 斬っていい?」
「そうですね...」
「オイ! 待て! 俺は悪くねぇからな!? それと、俺じゃグレーテルに敵わなねぇからな!? マジでやめろよ!? ルルも悩むんじゃねぇ!」
「ブー!」
「ふふふ...冗談です。『エルザはからかうと面白い』と、マスターが言っていましたが本当ですね?」
「くっそぅ...マスターめぇ....」
私達が真面目な話しをしているというのに、なんでコイツ等は緊張感が無いんだ?
それにエルザじゃグレーテルに敵わない?
確かにグレーテルは強い。
小柄な体躯に似合わず大きな剣を使うし、そのくせ小柄だから速い。
しかも腕力もおかしいから....私でも勝てない。
エリーは散々稽古して身に染みているだろうがな。
「エルザと手合わせした事は無いが、グレーテルに勝てないのか?」
「ん? ああ、なにせ俺は堕天使だからな。人間達を救う為に天界から降りて来たのが俺だ。まぁそのせいで神の威光を失い、弱くなっちまったんだけどな~」
「そうなのか...」
「おう! でも悔やんでねぇぞ? そのおかげで前のマスターにも出会えたしな!
知ってっか? "雷の勇者"って呼ばれてたラエドっつう名前なんだけどな? すげぇ善い奴で、誰も殺せなかった優しい奴なんだよ。
今のマスターにソックリだぜ。特に、今回みたいに死者の願いを叶えて呪さ――」
「口を閉じなさいエルザ。禁則事項に抵触します」
「っと、わりぃ。つい口走っちまった」
「やっぱり斬るー?」
「わわ!? 待て! 俺じゃグレーテルに敵わねぇんだって!」
『誰も殺せなかった優しい奴』?
『カオルにソックリ』?
『死者の願いを叶えて呪さ』...呪殺か?
「エリー? カルア? ひとつ聞きかせてくれ。今日"病死"した者達は、どんな人柄だったかわかるか?」
「そうねぇ~...」
「ああ、チェチーゾは奴隷商人だよ? 評判は物凄く悪かったかな?」
「それを言ったらぁ~...サラデリオも同じよぉ? あの人が買った奴隷ちゃんは『行方不明になる~』って聞いた事があるもの~」
「あとは...ベネデーレかな? この辺のゴロツキ集めて悪さしてた。ニコル司教が詳しいと思うけど...」
「あの事件ねぇ...」
「どんな事件だ?」
「6年くらい前かしら~? 身元不明の遺体が見付かったのぉ~...」
「それも子供ばっかり5人もよ? しかもバラバラの状態で」
「そうよぉ? だから、おねぇちゃんがエリーちゃんに『街の北側には行ったらダメよ?』って決めたんだものぉ」
「元々行かないわよ! 娼館もあるし、倉庫街とか怖いし!」
「そうねぇ...メルちゃんとカイちゃんも居たものねぇ~...」
つまり、"そういう事"か?
カオルが『掃除』と言った大捕り物の裏側で、怪しい殺人者を殺した。
そんな事ができるのはノワールしか居ない。だからカオルを護った。
しかし、『死者の願いを叶えて』? しかも呪殺?
「ルル、グレーテル、エルザ。話せる範囲でいい。カオルは今日、"何をした"?」
「話せません」
「グレーテルもー」
「俺もだぜ」
「...そうか。では質問を変える。お前達には"視える"のか? カオルと同じ様に"濁った目"の人物が」
「視えます」
「視えるよ~?」
「俺も視えるな。マスターにそう作られたからな」
「そうか」
またしても辻褄は合った。
カオルが倒れた理由はソレだ。
耐えられなかったんだろう? カオルは誰よりも優しいからな。
そして、私達に伝えなかったのも軽蔑されると思ったからだ。
まったく...私達がそんな事で軽蔑なんてするはずがないと言うのに...
そんな事を言ったら、私の手は誰よりも穢れているだろう。
千を...いや万を超える者達をこの手で殺して来たのだからな。
「最後にもうひとつだけ....カオルは、誰も殺してないんだな?」
「はい。マスターもノワールも、誰も殺していません」
「そうだよー」
「ああ、そんな勇気をマスターは持ってねぇ。だから死者に復讐させたんだぜ」
「エルザ?」
「いいだろう? これくらいよ。俺だってマスターが心配なんだぜ? 俺は....二度とマスターを失いたくねぇんだ」
「そんなこと....ルルだって一緒です」
「グレーテルもだよー! マスター優しいんだもん!」
はぁ....カオルは愛されてるな...もちろん、私もだ。いや"私達も"だな?
「ホントカオルはバカなんだから!」
「おねぇちゃんもそう思う~!」
「まったくです。ですが、問題は"どうやってカオル様を取り戻すか"ですね」
「香月夜の中に居るのは間違いない。私は直接見たからな」
「飛んでって乗り込めばいいんじゃないの?」
「不可能でしょう。この中で《飛翔術》を使えるのはローゼだけです。それに――」
「マスターが香月夜を造った理由は、ゼウスと対抗する為です。故に、外部からの干渉は不可能です」
「ルル...おまえ...」
「仕方がありません。約束を破る事になりますが、ルルもマスターを失いたくないのです」
「グレーテルもー!」
「お人好し共め...わーったよ! 俺もやりゃあいいんだろ? やりゃあよ!」
「....エルザはエリーと良く似ていますね?」
「ちょっとエルミア!? 心外なんだけど!?」
「俺もだぜ!? こんなチンチクリンと同じとか、ありえねぇから!」
「私のどこがチンチクリンなのよ!!」
「ああ!? どこからどう見てもチンチクリンだろうが!! 聞いてるんだぜ? マスターに胸を大きくしてもらったそうだなぁ? その割りにちっぱい――」
「ちっぱい言うなぁぁぁぁああ!!」
「ゴフッ!」
やるなエリー...蹴り上げからのかかと落としか。
稽古の成果が出ているじゃないか。だが、まだまだ甘いぞ?
蹴り上げ、かかと落とし、肘打ち、裏拳、回し蹴りで距離を取って飛び膝蹴りでトドメが一番効率が良い。
なにせ軸足がぶれずに円運動の動きを効果的に使えるからな。今度教えるか。
「.....様子を見に来てみれば...アナタ達....何をしているのかしら?」
影から這い出る白い髪。
赤い双眸が妖しく光り、表情は落胆している。
身長の割りに成長著しい大きな胸。
黒い素朴なワンピースドレス姿が様になってるが――
「ノワール!!」
「「「っ!?」」」
「驚き過ぎよ。声も大きいし、やっぱり私は愚者を嫌いよ」
「カオルを返せ!」
「"返せ"? バカな事言うのね? カオルは私。私はカオル。元々愚者のモノではないの。それと――対等な立場だと思わないで欲しいわ」
「「「「グッゥ!!」」」」
黒い触手が影から飛び出し、私達全員を床へ押し付ける。
回避も出来ない神速。天使のはずのルル達までも押さえ付けられ、どうする事も出来ない。
これが"魔神"。片手間で欠伸を掻きながら神の使徒をも凌駕する力の権化。
カオルも...同じ存在だというのか? あの心優しいカオルが....
「....そう。どうやら愚者は愚者なりに考えたみたいね。カオルが倒れた理由にも辿り着いた....完璧ではないけれどね」
まさか、心を読まれた?
「...完璧じゃないだと?」
「ええ。別に"ソッチ"はそれほど重要な話しじゃないもの。カオルは負い目を感じているみたいだけれどね。私から言わせれば...善意の押し売りかしら?」
「善意の押し売り...」
「そうね。アナタが思った通りよ? 私は心が読めるの。"魔神"の力を使ってね? もちろんカオルも出来るわ」
「なっ!? だがあの力は《雷化》を使用していないと――」
「そうね。ソレを使えばさらに強力よ。"深層意識"まで読み取れるの。でもね? 人の器に神とドラゴンが入って居るんだもの。表層の意識くらい簡単に読めてしまうのよ?
カオルはアナタ達や王国の民、各国の要人や友人に使おうとしないけれどね。本当に優しいんだから...私」
そ、そうなのか...いや、別に読まれて困る事など....ありまくりだぞ!?
「『語り合うのが好き』なんですって。よかったわね? 想ってもらえて。
けれど現実は残酷よ? 私の課した命題に辿り着いたご褒美をあげるわ。
そして、目に焼き付けなさい。アナタ達がどれだけ愚かな者かという事をね」
「なにを――」
「きゃっ!?」
「おねぇちゃ――」
「なんですか!? これは!!」
身体が呑み込まれる!?
影に...身体が.....
「ふふふ....」
沈む身体。最後に見えたのは、ノワールが妖しく嗤う姿だった。
漆黒の闇。
生命の息吹を感じない、精霊もマナも何も無い空間。
妖精種のエルフとして生を受けた私には、とても恐ろしく感じる。
水中に居る様な、飛んでいる様なそんな錯覚。
地面も無く、例えるならば浮遊感? が一番近いだろうか?
嫌な場所だ。風も無い。近くに誰の気配も感じない。
いや....私は前にこんな場所を知っている?
そんなはずはないのだが....何かが引っ掛かる? 思い出?
白い棺に横たわる少女。
そんな彼女に声を掛けた男。
『どうか生きてくれ』と...
待て! 待ってくれ! その髪と瞳の色は...私と同じ....
おとう...さん....
「ハッ!?」
目を覚ました私。目に映る景色は長閑な光景。
草原に小さな白い花が咲き乱れ、遠くに巨木が1柱。
小川も流れ緑樹の木々も見える。
見間違えるはずがない。
あの巨木は竜樹だ。
つまりここは香月夜の中か!
「みんなは!?」
慌てて飛び起き周囲を見渡す。
エリーにカルア、エルミア。ルルやグレーテルに、エルザも居る。
全員眠っているようで安心した。
そして見付けた。
可愛らしい笑顔を振り撒いて、純真無垢な子供の姿。
小川の水を人形達と掛け合い遊び、樹精霊も笑っている。
「お、起きろ!!」
慌てて横たわるエリー達を起こし、カオルの下へ。
なだらかな草原を駆け抜け、小川に向かう。
鈍足のカルアには悪いがここは先に――
「カオルーーー!!」
私を追い抜き走り抜けたエリー。
やはり産まれ付いての身体能力の差か。
だが、私には《飛翔術》があるからな!
先に行かせてもらう!
「ローゼずるい!」
「はぁはぁ...お、おねぇちゃんもうダメかもしれな――くないのよぉ!」
「カルア姉様!?」
「うぉ!? なんだ!? 超はえぇ!!」
「グレーテル? 寝てはいけませんよ?」
「ムニャムニャzzZ」
「まったく仕方がありませんね」
確かに速いな...カルア....それが"おねぇちゃんパワー"か....だが負けん!
一番乗りは私だ! なにせ、姫で師匠だからな!
オシオキは私が最初だ! きつく抱き締めてやらないとな!
「はぁはぁ...カオル!」
辿り着いた私はカオルを抱き締めようとして近づいた。
だが...これは....いったい....
「わぁ! おねぇちゃんびじんさんだね!」
「我が君。おねぇちゃんではございません。ご婚約者のローゼ様です」
「ん~? よくわかんなーい! あそぼ~?」
「も、もう...カオルさんったら...そんなに掛けたら育ってしまいます。ポッ」
「あはは♪ おみずかけてるだけだよ~♪」
なんだ...これは....おねぇちゃん? 私が誰かわかっていないと言うのか?
そんなバカな...ずっと一緒に居ただろう?
お互い愛を誓ったじゃないか。
それなのに....なぜ.....
「や、やっと追いついたわ...」
「おねぇちゃん負けちゃったわぁ...」
「そんな事よりカオル様です!」
「いや....コレ....本当にマスターか? ただの子供じゃねぇか?」
「ルルも同意します」
「グレーテル起きたー!」
「わぁ! ひとがいっぱいだー! みんなもあそぼ~? おみずきもちいいよー!」
私だけじゃない....エリーも、カルアも、エルミアも....カオルは誰も覚えていない?
いったい何があったと言うんだ?
「....どうかしら? 絶望を味わった感想は」
「ノワールか」
「ふふふ....アナタ達のせいでカオルはこうなってしまったの。耐えられない感情。欺いてしまった愛する人。そして、自分さえも欺いた。
だからカオルは....記憶を失ったのよ? 全部アナタ達のせい。アナタ達さえ居なければ、カオルは忘れる事も無かったの」
「びっくりしたー! にょきってはえたー!」
「驚いてくれたかしら? 可愛い私」
「うん! おねぇさんはだぁれ~?」
「私はノワールよ?」
「そうなんだー! あそぼ~?」
「ちょっとカオル! いつまでそんな忘れたフリをしてるのよ! いいわ! 私がぶん殴って思い出させてあげる!」
「今の我が君に触れる事は許されません」
「邪魔する気!?」
「エリー様は冷静では居られないご様子。いいでしょう。我が君の為に指導して差し上げます」
「はぁ!? 出来るものならやってみ――キャッ!?」
「エリーちゃん!?」
一瞬でエリーの間合いに入った人形。
腕を掴んで引きながら足を払って転ばせた。
「あー! けんかはしちゃいけないんだよー?」
「いえ、コレは指導でございます」
「ん~? むずかしくてわかんなーい! あそぼ~?」
「グレーテルも遊ぶー!」
「わーい♪」
グレーテルも混ざり川遊びを始めたカオルは、私の知るカオルではない。
歳の割りに大人びていて、物事に臆病だけれど意思が強く、真っ直ぐ真摯に物事を捉え、失敗すれば私達が支えて...そんな関係を築いて...
「カルア?」
「....治せないわ。回復魔法で病気の類は治せないの」
「そう、か....」
どうしようもないのか?
本当に?
何か手段が――
「エルミア! 霊薬エリクシールで――」
「いいえ、不可能でしょう。霊薬は人体と霊魂を癒しますが、記憶喪失に効果があるとは思えません。それに...頭を強く打ち付けたのではないのですよね?」
「ああ...それはない。突然フッと倒れたからな。私の腕の中だったし、な」
「フフフ...そうよ? 外的な要因で記憶喪失に陥った訳ではないの。カオルはただ、自分の感情が抑えきれなくなり自我を保てなくなっただけよ」
「だから私達のせいだって言うの!?」
「ええ。アナタ達と、カオルのせい。カオルは悪い事なんてしていないもの。自分の倫理観がソレを許せなかっただけよ。
それで? アナタ達はこれから"どうするつもり"かしら?」
どうするつもり...か。
そんな事は決まってる。
私も、エリーも、カルアも、エルミアも....フランやアイナも同じ事を言う。
「たとえカオルの記憶が無くても、私達はカオルの傍を離れない」
「そうよ! ずっと一緒に居るって約束したんだもん...絶対に...離れないわよ....」
「おねぇちゃんも同じ気持ちよ! もしかしたら記憶も戻るかもしれないわ!」
「私もです。カオル様以外と添い遂げようだなんて、微塵にも想えません。それに、カオル様にはやらなければならない事があります」
「....ああ、風竜との約束もあるからな。もう一度、風竜をカオルの下へ連れて来る。『いつかまた会える』と、風竜も言っていたからな」
そうだ。私達はカオル以外ありえない。
記憶だって戻るかもしれない。自分を見失う程に想っていてくれたんだ。可能性はゼロではないはず。
だから、離れないぞ? 一からやり直せばいい。愛しているのだから。
「本当にわかっているのかしら? カオルが進む道はとても険しいわ。常人では耐えられないほどにね? 多くの人が死に、悲しみがそれだけ生まれる。
なによりそこに居る天使達と戦う事になるのよ? アナタ達ではけして勝てない相手。それでも傍に居ると言えるのかしら? 重荷になると思わないのね?」
「そんなことはわかっている。それでもカオルが必要だと想い、支えて欲しいと願うなら、離れる事はない」
「私だってそうよ! そりゃ、ルルも、グレーテルも、ソフィアも強いけど...絶対に勝てない相手だなんて思わないわ! それに...私にはカオルが必要だもん」
「おねぇちゃんも同じよ」
「私もですよ? エリー」
「そう...アナタ達も同じ気持ちなのかしら?」
「ルルはマスターの守護天使。死する時まで何があっても傍を離れません」
「俺もだぜ? 二度もマスターを失ってたまるかよ!」
「グレーテルもー!」
「ん~? きみはだぁれ~?」
「グレーテルだよー!」
「そうなんだー! あそぼ~?」
「遊ぶー!」
歳相応に笑うカオル。
思えば、これが普通なのではないだろうか。
武具を身に付け何度も死線を潜り抜け、カオルはこれまで戦い続けた。
私も人の事は言えない部分もあるが、普通の子供は遊ぶ。
親が居て、子供が元気に遊んで、泥だらけになって怒られて....
私のお父さんはどうだったのか?
先程見た夢は、幻なのかそれとも――
「わかったわ。アナタ達の覚悟と想い、確かに本物みたいね。それなら教えてあげる。
カオルの記憶喪失は、一過性健忘症と呼ばれる記憶障害よ」
「一過性健忘症?」
「ええ。一時的な記憶喪失ね。診断の理由はアレよ?」
「ん~? きみはだぁれ~?」
「グレーテルだってー!」
「そうなんだー!」
「....名前を覚えていない?」
「そうよ。前向健忘という症状。新しい事を覚えられなくて、何度も同じ質問を繰り返すの」
「それって...何も覚えられないって事!?」
「ええ。でも安心するといいわ。24時間以内に治るみたいだから」
「「「治るのですか!?」」」
「そうよ? 忘れているみたいだからはっきり言っておくわ。カオルは太陽神アポロン。知性と道徳、秩序、律法の守護者。そして、音楽と弓、予言や医療、家畜をも司る多面性の神なのよ?」
「医療....だからおねぇちゃんが使えない《聖治癒》を使えるのねぇ?」
「ソレは副次的な産物じゃないかしら? カオルが持つ医療知識は異世界の物が多いの。適正もあるわ。そして、私はカオルの半身。だから、カオルの知識も記憶も共有してるのよ」
「つまり、本当にカオル様の記憶は戻ると?」
「そうね。断言できるわ」
「...何故急に教える気になったんだ?」
「言ったでしょう? 私はカオルでカオルは私。ノワールとしての私はアナタ達が嫌いよ。でも、カオルとしての私はアナタ達を愛してるのよ。自分で言っていて気持ちが悪いけれどね」
「こっちだって気持ち悪いわよ!」
ハハハ...なんだ、ノワールはエリーと同じツンデレか。
それにしてもよかった...カオルは元に戻るのか....
危うく、また一から嫁を育てなければいけないのかとおも――
「...ローゼ? 読めているわよ?」
「はっ!?」
「何を想像したのかしら~? おねぇちゃんは許さないわよぉ~?」
「ええ、絶対に許せません」
「い、いや待て! 私は何も――」
「そうやって否定すると余計に読めてしまうわよ? そうね。あれはカオルがまだローゼと2人で暮らしていた頃の話しかしら。毎日食事を作らせ、修練だと言い魔物や魔獣を狩りに行かせたようね?
でもそれには裏があって、カオルが倒した魔物や魔獣は王都直轄地から指示された物で、倒すと報奨金が出るみたいよ? しかも、ローゼはカオルに黙っていたのね。だって、カオルに知られてしまうとお酒が飲めなくなってしまうもの。
あとはそうねぇ...騎士学校の学生時代に王都で37の道場破りをしたり、『酒豪のエルフ』や『無限の胃ぶく――」
「わー! わー! わー! やめろ! もういい!」
なんで知ってるんだ!? いや読まれたのか!?
というか、ノワールが知っているという事は...つまりカオルも知ってる!?
「最低ね。ローゼ」
「おねぇちゃんも看過できないわぁ」
「ありえませんね」
「....」
「いや待て、ルルは無言で剣を抜こうとするな! そして腹いせに俺に向けようとするなよ!?」
「まぁ落ち着け。アレには色々事情があった。衣食住の内、食以外を私はカオルに提供し、戦う術と生活する術を教えた。云わば対価だな」
「...おねぇちゃんがカオルちゃんに初めて会った時~....ローゼのお下がりのお洋服だったわよぉ~?」
「あ! ブカブカのチュニックでしょ! しかもボロボロだった!」
「いやいや! アレはカオルが好んで着てただけだ! つまり、そこまで私を好きだという証だな!」
まったくカワユイ弟子だな! それほどまでに私の匂いが好きな訳だ!
「...ローゼ? 外套をカオル様に贈られたそうですね? しかも2度も」
「ああそうだな! アレは高い物だからな! 私が昔使っていた実用品だ! 白銀の糸を編み込んであって、耐久性も――」
「破れて仕立て直したんですよね?」
「ん? そうだ。カオルは無理をしてドラゴンゴーレムを倒したからな! その時に破れてしまった。瀕死の重傷だったんだぞ? カルアも見ただろう? あの傷痕を」
「おねぇちゃんが治したんだけどぉ....」
「問題は、仕立て直した代金が"どこから捻出されたか"という事です」
不味い...ひっかかったぞ...
「エッ!? 嘘でしょ!? カオル、物凄く嬉しそうに教えてくれたのよ!?」
「『誕生日に師匠が仕立て直してくれたんだよ! きっと物凄く高かったから、その為に遠征軍のお手伝いをしたんだと思う!』
そう私はカオル様から聞いています。そして、留学の時....」
「おねぇちゃん達に~...勝ち誇った顔をしてたわよねぇ~....」
「ホントなの!? カオルが稼いだお金を使ったの!? 信じらんない!!」
「まぁ待て。遠征軍もそうだが、聖騎士団の修練にも付き合った。その褒美の金を使ったんだぞ?」
「そうなのかしら? 丁度いいわ。ここは【オナイユの街】の上空だもの。降りて聞いてみたらどうかしら? 私には読めているけれどね?」
「「「「「.....」」」」」
さて...困ったぞ。
真実を知られれば私は終わりだ。
だが、修練で貰った褒美の金を使ったのは本当だ。
全然足りなかったがな...
「ヨシ! おねぇさんと追いかけっこをしようか?」
「おいかけっこー!」
「グレーテルもー!」
「ハハハハ!!」
私はそうして逃げる事にする。
どうせ後でばれるなら、無邪気なカオルと遊びたいだろう?
まったく可愛いやつめー.....




