第二百六十七話 香月夜
さて、国を興すという大事業。
一言で済ませるほど容易に出来る事ではない。
なにせ、人が集まり国ができる。
当然人が集まれば秩序が必要。
さらに法律も作らねばならない。
そして一番大事な事は、国民の衣食住を安定させ、豊かにする事だろう。
もちろん、物理的にも精神的にも豊かにするのだ。
並大抵の努力ではできない。
それこそ独りでどうにかできるはずはない。
絶大な支持と信仰心――いや愛国心か。
それらは必要不可欠だ。
だが、そこは神。
特に太陽神アポロンであるボクは、知性と道徳、秩序、律法の守護者。
異世界の知識と雛型が各国にある。
要約すると模倣してしまえばいい。
良いとこ取りでね♪
「と言う訳で、法律の草案を纏めておいたから後で確認してくれるかな?」
「あの...カオル様? 国を興すのですか?」
「アレ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてません!!」
水晶宮の2階。宮殿続きの緑地を抜けて、交差する階段の中央に玉座がある。
そこで偉そうに踏ん反り返っていたボクに、メルが憤慨して叫んだ。
もちろん隣にカイも居て、月末に行なわれる【エルヴィント帝国】の武術大会で、【竜王国】の建国宣言をするのだけれど....
「ソカー...聞いてなかったかぁ....」
「エッ!? これ本当なんですか!? ちょっとカイもなんとか言ってよ!」
「お、俺か!? いや、そんな急に言われても...」
ドッキリにでも引っ掛かった様に表情をコロコロ変える2人。
しかし、ドッキリじゃないのじゃよ。
全て真実である!
「まぁまぁ....宰相予定のメルよ。そう焦るでない。我が国民は未だ50人足らずじゃからのぅ」
「だから突然何言ってるの!? 宰相予定って...私が!? それとその話し方なに!?」
「うむうむ。気持ちはわかるのじゃよ。じゃがの? 良く考えてみておくれ? メルが宰相ならば、カイは宰相補佐じゃ。子が生まれれば職を引き継げるじゃろうて。
そして、爵位の叙爵も考えておる。なにせ、メルは我の親友でもあるのじゃからのぅ」
「エッ!? 爵位って...貴族様になれるの!?」
「そうじゃ。日頃の貢献度を鑑み、初めは子爵位程度は用意しておこうかの? 法衣貴族じゃが役職はあるからのぅ。
それに――メルとカイの子を、エリーと我の子と婚姻を結ばせ、いずれは侯爵家などを考えておるのじゃ。入り婿か嫁かの?
もっとも、エリーが立場ある第1級冒険者として大成すれば、公爵家もありえる話じゃがのぅ。なに、子は沢山産まれるじゃろうからのぅ」
「こ、ここ、公爵様!? 本当に!?」
「うむ。子供の世代の話じゃがのぅ」
「か、カイどうしよう!? お父さんとお母さんに連絡しなきゃ!!」
「お、おう...」
「フォッフォッフォ...そう急くでない。ホレ? エルザ?」
「あ? おう! コレだな!」
重責を終え、3日係りでようやく帰ってきたエルザ。
2回ほどフラウが飛んで行き折檻した一幕もある。
原因は全て立ち寄った酒場や食堂などで、呑んだくれ相手に自分語りを始めたからだ。
そこに蒼い死神の大鎌を持った銀髪の美女が登場。
帝都で隠れて人気を博していた酒場は阿鼻叫喚となり、【オナイユの街】の食堂では本気で斬られかけた。
悪いのはエルザなので、ボクは擁護しない。
むしろ、ボクはフラウに逆らえないかもしれない。
怒った時のエルミアみたいで、ボクも怖いのだ!
「....なにこれ!?」
「どれど...れー!?」
エルザがメルとカイに渡した2枚の羊皮紙。
2人の両親からの返事と、今後について。
国を興す事は伝えてないけど、『香月カオル伯爵様の下で働きたいです』という内容と、明後日の日曜日に【オナイユの街】で挙式する事を許可された。
当事者の知らないところで。
「そういう訳じゃからの? 日曜日にメルとカイは結婚式をするのじゃよ。
その通り、メルの父ジャクシスと、母エリアンナ。カイの父ハーヴェイと、母ルーシーンの許可も出ておる。
なに、準備は我がしておくのじゃ。2人のご両親に直接会いたいからのぅ...
なにせ、我が王国の家臣じゃ。いや、陪臣かのぅ? メルとカイがご両親を雇えば良い。
帝都の屋敷を領事館にするからのぅ..そこで働かせるのじゃ」
「エ? ナニ!? どうなってるの!?」
「わかんねぇよ!? 俺だって心の準備ができてねぇ!」
「そうじゃろうそうじゃろう。エリーや? メルとカイは混乱しておるようじゃ。付き添うてしばらく介抱してやるとよい」
「...それはいいけど、しゃべり方が変! やめなさい!」
「ハイ!」
エリーさんに怒られてしまいました!
おじぃちゃん化は受け入れられないようです!
内心に留めておきましょう...いえ、善処します! 国会議員のように! 抽象的にあやふやな感じで!
「というか、玉座嫌い! 面会室へ行こう!」
偉そうに踏ん反り返るのは苦手です。
だって、みんな立ってるのに一人だけ座ってるとか....家族じゃないかぁ!
そうして、王宮の2階へ移動し各種報告を耳にする。
学校運営は概ね良好。縫製の授業もアーニャとオレリーお義母様のおかげで問題なし。光希達も居るからね~。
識字率を調べ、おとぎ話などが大衆化されていたのでここも問題なし。
問題はやっぱり算術。初等数学ができないとは...まぁそこも魔科学導具スフィアを使い教科書を作ったので追々...
電子計算機もあるんだけどね~...ああ、魔法計算具か....
あとは警護団員のルイーゼ達も日々"稽古"を頑張ってる。
なにせ"先生"が素晴らしい。
ルルに、グレーテルに、ソフィア。
みんな天使だしそりゃ強い。
戦闘民族のイルゼ達アマゾネスが、物凄い対抗心を燃やしているらしい。
相手はルイーゼ達。
神の使徒たるルル達に教わってるからね。
信仰心の強い彼女達がやる気にならない訳がない。
若干1名眠そうにしてる先生とか、胸が成長して動きがおかしくなって基礎修練し直してる人も居るけど。
まぁ、稽古組で一番成果を上げてるのは、エリーとエルミアかな?
元々大剣の素養があったエリーに、グレーテルが本気で指導してる。
身長の低いグレーテルにコテンパンに伸されて、エリーは悔しかったんだろう。
同じ大剣使いだしね。グレーテル的に、だけど。
エルミアは近接格闘弓術をマスターした。
しかも精霊魔法を行使しながらの複雑戦闘を。
風の魔弓の性能を活かし、半径100m圏内は彼女の必殺領域になってた。
恐ろしいねぇ...足下を草や蔓が追い掛けて来たり、立ち木に逃げ込むと、即《妖精樹木》が現れて2対1にされる。
かと言って近づけば蹴撃やら、弓払いやら....速射で8連発の《風の矢》やら...怒らせないようにしないと....
今は一点に対して一射5発の《風の矢》を当てる修練をしてる。
厚さ3mmの鋼鉄を貫きたいんだって。銃弾か?
ノワールは、ついさっき黒曜石鋼製の黒い有色透明の打刀をあげたら『"濡れ鴉"ね』とか銘々して薊達に忍者流の刀術を習いに行った。
センスあるなぁ...なんて思いつつ、影からブスリと刺されたら即死だろうなぁ...なんて....オソロシヤー。
フェリスはオレリーお義母様が『技術はあるのです。侍女としての才能もあるのです。ただ...性格が....』と、濁していた。
ドMは治らないのか...まぁボクがドSだから問題は無い。たまにオシオキしてやろう。いや、放置プレイという手も――
「カオル?」
「カオルちゃん?」
「カオル様?」
「ご主人様?」
「ご主人! メッ!」
「ゴメンナサイ!」
どうやら表情に出ていたみたいです。
心が読めないはずなのに...おかしいなぁ...
フランとアイナは、昨日から護身術を始めた。
といっても本格的な物ではなく、"如何にして逃げるか"という物だ。
ま、自己防衛の基本だからね。メイドの仕事もあるし。むしろ複数の人形が2人に着いてるから一番安心である。
なんか名前付けてたけど、ボクは覚えない。
ボクが死ねば、みんな動かなくなってしまうから。
だから贔屓しないで平等に扱う。人として。
ファノメネルは各国の【聖騎士教会】員と老樹珠で相互連絡と指示に大急がしだ。
それでも女神ウェヌスと主神シヴが傍に居るから物凄く元気。
【イシュタル王国】への援助物資も隣国【カムーン王国】経由で送る事になったって。
永年の敵対国家に対して援助とか、多くの治癒術師を抱えている【聖騎士教会】だからこそ、できる事だと思う。
ディアーヌは休養しつつ、スフィアと睨めっこ中。
なにせボクの知識は膨大だからね。
向こうの世界で読んだ数々の書物を積み込んであるし。
【アルバシュタイン公国】の復興を目指しているから、農業系を主に読んでるみたい。
帝王学はアーシェラから散々学んだみたいだしね。人心掌握術とか。出来て無いけど。
そしてずっと無言の女神ロキ。
彼女はまだ自分の心と格闘中。
亡き夫と子供。簡単に自分を許せないんだろう。
でも、ボクは肯定するよ? たとえ世界が否定しても、ボクだけはロキを肯定し続ける。
彼女と、旦那さんと子供の為に。
メリッサは、学校の生徒、ドワーフ三姉妹を口説き中。
試しに彫金仕事を手伝わせたら、筋が良かったみたい。家でも似たような事やってたんだって。
だから弟子に欲しいのか...余程の才能があるのだろう...
ちなみに、今朝から我が王国の【王都ソーレトルーナ】は知らず知らずのうちに変化を遂げている。
まず、世界樹からの"龍脈"が繋がれ、マナが異常に濃い。
魔術師のローゼや、治癒術師のカルア。精霊術師のエルミアは勘付いてる。
意識を集中すると、うすーく視えるからね。マナが。
あと、精霊王達の契約も成された。
ノームは"豊穣なる土"を、イフリートは"神聖なる炎"を、シルフは"清涼なる風"を、ウンディーネは"清らかなる水"を。
イフリートとウンディーネの加護はゆっくりとだね。
説明しないと、メリッサとか調理場が混乱するし。
さてさて、報告も聞いた。
日曜日のメルとカイの為に結婚式の準備も必要。根回しは迅速に。
そして、鷲獅子姿のファルフで一度に運べる人数じゃない。
つまり――
「造るかー!」
海辺に佇むボクと護衛のエルザ。
みんなは色々忙しい。
故にたった2人でやらなければいけない。
そう! ボク専用の艦を造るのだ!
「いや、『造るかー!』とか言われても、俺なんもできねぇぞ?」
「知ってる!」
「わかってんのかよ!」
「だって、エルザだけ遊んできたんでしょ? 楽しんできたんでしょ? 重責を課したのに、飲み歩いてみたんでしょ?」
「それは...まぁ....アレだ! 市場調査だ!」
「ブッブー! 嘘付き!」
「ゴフッ!?」
鳩尾に掌底を叩き込んでおきました!
フラウが飛んで来る予感がしたんです!
"予言"を司る神アポロンがそう予見したのです!
「まぁ、護衛よろしく~♪ 何も来ないけど」
「当たり前だろ..."あんなの"が居るんじゃ魔物も来ねぇよ」
バシャバシャ遊ぶ守護竜4頭。
遠浅化した海は、国土が広がり遠くまで行かないと水深も深くない。
なので、クロ、アカ、シロ、アオの4頭は、とーーくで遊んでる。
昨日、大海蛇を何回か捕まえてきて、人形が調理したらしい。
ボクはまだ食べてない...忙しかったし。昨日は【エルフの里】でご馳走になったし。そのうち食べるさー!
冷蔵庫....冷蔵冷凍型魔法具? もあるし! 前に作った小さいヤツじゃない! 地下室の永久凍土壁でもない!
ちゃんとした冷蔵冷凍庫だ! 物凄く広いけど...地下室をまんま魔法具にしたった!
閉じ込められないように、セキュリティは万全だ!
常駐の人形は凍らないからね...魔法具で常時障壁張ってるし...
あと、空間魔法の《魔法箱》を"魔法具"化して王国の財産としてある。
部屋そのものだから持ち出せないけど。
置いた食料は腐らないし痛まない。
オレリーお義母様が何か言ってたけど、ボクは知らない!
便利は素敵! 楽は大好き! 人間だもの!
そんな些事は投げ捨てて、早速作業を開始なのだ。
内部は世界樹の種子を使う異次元空間なので、不要。
外側を用意すればいい。
しかし、鉄と言っても重くて、硬いもの。軽くて、柔らかいもの。
鋼材なんて、物凄い種類がある。
通常は形鋼を使って様々な形の鋼板、棒鋼、形鋼、平鋼やらで梁とか柱とか....
使用する鉄材も、炭素を混ぜた鋼とか微量金属を含ませた合金鋼のステンレスとか....
『鉄は国家』という言葉がある通り、鉄鋼業は一大事業なのだ!
現に鉱山を多く所有する【カムーン王国】は輸出して儲けている。
そのせいで利権問題を抱えて腐敗していたけど! 現在進行形で腐敗してるけど...
鉄について語ると永い! それこそソフィア並の永さだ! 故に割愛!
なにせ使用する鉄は魔法霊銀の白銀! 軽くて丈夫! 電磁鋼板――魔力鋼板? みたいなものだから!
世界樹の魔素を、艦全体に行き渡らせる必要がある。
常駐型浮遊魔法や推進力。制御型停止魔法に、操舵魔法。上下移動を可能にする揚力維持魔法などなど....
しかし、面倒臭い。
外側だけでも面倒だ。
という訳で、模倣する。
外板の内側に助材と縦通材。強力縦通材の骨組み構造部材を取付けたセミモノコック構造。
翼は無しで楕円系の未確認飛行物体? UFO? そんな感じだ!
曖昧大好き人間だもの!
そうして鋳潰した大量な鉄に膨大な魔力を浴びせて白銀を精製。
鋳潰したのは醜悪鬼が持ってた鉄とかだ! あとアスワンの根城にあった鉄製品! 鹵獲してきたんじゃよ? 色々と♪
そうして昨夜スフィアで練りに練って創作した航空戦艦をイメージ!
《製作欲求》を使えばアラ不思議! あっという間に完成だ!
全長100m 幅40m 高さ20m
デカイネ? 幼竜が20mなのに....風竜とか土竜ですら50mなのに....
いいのかね? ズシンって浅瀬が波打ったよ? エ...重いんじゃない?
「ま、いっか!」
「いや良くねぇと思うけど...」
「エルザよ....『男には、やらねばならん時がある』のじゃよ」
昨日、リングウェウお義父様から頂戴した言葉だ。
失敗かもしれないけどね!
「とりあえず、エルザは周辺警戒を続けておくれ。ボクは中で儀式をするから」
「は? 何言ってんだよ。俺も着いて行くに決まってるだろ?」
「いや、エルザはたぶん止めようとするからダメ」
「意味わかんねぇから。なんか別れの言葉みてぇに聞こえるから」
「まぁまぁ。ちゃんと戻って来るから大丈夫」
「オイ! やめろよ! 2度も俺にマスターを失わせる気か!?」
良い忠臣じゃのぅ。
だけど大丈夫だから。
安心して待ってなさい。
尚も言い縋るエルザを言い含めて、ボクは艦内へ入る。
骨組みが丸見えの空間。白銀製だから真っ白。
ボクが向こうの世界で死んだ時に、誘われたあの空間を思い出す。
やっぱりあの黒い靄は、お母様だと思う。
話し方や声色は違っていたけど、雰囲気がそんな感じだった。
『ボクを選んだ』と言っていたしね。
どんな想いで語ったのか。
ゼウスの介入はあったはず。
だけど、たぶんボクを哀れんだのかもしれない。
ずっとあの家に引き篭もっていたから。
"いつか帰って来る"んじゃないかって幻想を抱いていたから。
それに――ボクはあの世界で生き難いって知っていたからね。
「我ここに盟約を交わさん。我が名は香月カオル。世界樹の種子よ。我が竜血、我が力を糧とし、誕生せよ。《竜血樹》」
邪龍ニーズヘッグの力を開放し、完全なる《竜化》を経て、ボクの頭くらいの大きさの茶色い種――世界樹の種子へ竜血を注ぐ。
左手の爪が右腕に突き刺さり、赤黒い血液が滴り落ちる。
エルザはきっと止めただろう。
致死量を越える出血だ。
でも大丈夫なんだ。
ボクは人間だけど、神で、竜人だから。
禁忌を犯し、子を生さない限り死なないんだよ?
それも...人間として死ねるかどうかもわからないけど。
だって、ドラゴンの契約者だから。
いつかは死ぬけど、いつだかわからない。
それが今のボクなんだ。
生え出た白角に尖った爪先。
背中に羽も生えて尻尾もある。
この姿を見て、誰が人間だと信じる?
竜人だと信じてもらえる?
悪魔以外の何者でもないだろう。
だから隠しておかないと。こんなおぞましい姿。
ボクを信じてくれた風竜や土竜と同格の存在。
畏怖し、愛し、ボクの大切な家族。
皆が恐れるドラゴン。
ボクはその一角なんだよ?
複雑な感情を抱いたボクがね...
竜血を浴びた種子が育つ。
ソレは少し赤身を帯びた茶色い巨大な幹で、青々と茂る巨木だった。
第二の世界樹。いや、"竜樹"と呼ぼう。
そんな事を考えている間に艦内は広がり、草原が出現する。
澄んだ小川が流れ、遠くに木々も垣間見える。
天を仰げば青い空。
息を吸い込み深緑を感じる。
物理的な概念なんて置き去りに、ボクの国ほどの広さを持つ航空戦艦"香月夜"は完成した。
「か、カオルさんとの子供ですね? ポッ」
「いや違うから。これ、航空戦艦だから」
「照れてるんですね? ポッ」
「だから違うって....で、この花は...」
一面に咲く小さな白い花。
アーシェラが勲章に選び、ボクが好んで紋章にしたくらい。
「ありがとう。やっと見れたよ、エーデルワイス」
「私からの贈り物です。ポッ」
「いちいち『ポッ』とかいらないから。素直にボクの感謝を受け取っておいてよ」
「せっかちなんですね? ポッ」
どうしよう...この変態な樹精霊....
というか、いつまでも樹精霊じゃ呼び難いな。
これからこの艦の操舵や維持なんかも全部やらせるんだし、名前でも付けておこうか。
う~ん...ノアの箱舟から"ノア"...いや世界が滅亡しちゃうからだめだ。
ほ~む..."竜姫"? 強そうで似合わない。むしろ、ボクの子供がそう呼ばれそうだ。
は~む...樹精霊だから"ドリュアス"? "ドリアード"? 別の呼び方になっただけだ!
へ~む..."香月夜"は戦艦名だしなぁ...ボクの苗字を取り入れてるし、変な事言い出しそうだからダメだ。
マリア達はサウンド・オブ・ミュージックから名前を取ったしなぁ...短絡的に。
ハッ!? わ、"ワーグナー"か!? ヘリ出撃か!?
ナイナイ。ソレハナイ。
「ふ~む..."竜樹"でいいか。樹精霊? キミは、ただいまを以って航空管制操舵指揮官、竜樹と名乗るが良い!!」
「わ、わかりました。ポッ」
「うんうん! よろしく!」
しめしめ...これで香月夜の操舵維持以外に、他の飛空艇も遠隔操縦させてしまおう。
フフフ...な~に、部下は着けてあげるよ? 人形だけどね。有能だから安心なのだ。
そしてこの香月夜はいいねぇ...居心地も良いし...改造しまくろう!
どうせボク専用艦なんだ。魔科学を利用してアレコレしちゃおう!
副兵装に、電磁加速魔法砲――追尾式レールガンを両腹に8門づつ合計16門。
主兵装に、50cmの主砲――神鉄金属コーティングしたタングステン製の実体弾を装填!
フフフ...下級天使くらいは落とせるじゃろうて。
まさしく戦艦じゃのぅ! なんならミサイルも作ってしまおうか! いや、軌道衛星でも打ち上げてしまおうか!
夢が広がるねぇ♪ 火薬も液体燃料もいらぬのじゃよ! なぜなら! 魔宝石の魔力を使えば良いからじゃ!
フハハハハ!! 魔科学文明の真髄を見せてやろうではないか!!
えーっと....なんか凄い事になりました。
航空戦艦"香月夜"の見た目がまるで飛行船です。
水素やヘリウムを入れて飛ぶアレです。
しかも竜樹の根が複雑に絡み付き、幾何学柄模様を描いてます。
船首は開口式の主砲が取り着けられ、左右の腹部に8門づつ同じく開口式の電磁加速魔法砲が着いています。
昇降は円形浮遊型魔法具で自由自在に可能です。天使姿のルル達用に射出口もあります。
カッコイイけど、どうなのさ?
「なぁマスター?」
「なんだね? エルザ君」
「コレ...やばいんじゃね?」
「そうだねぇ...」
自分で造っておいてなんだけど、一言で表せば"凶悪"。
国土が丸々ひとつ内包されているんだから当然なんだけど....
ボク...2つの国の王かもしれない!
「まぁ、アレだよ。試験飛行は必要だと思うんだ。行こうか!」
「え? ああ...そう、だな」
エルザと2人香月夜の中へ。
魔法具の機能も問題無く、円形浮遊型魔法具はスッとボク達を持ち上げた。
「発進ですね? ポッ」
「誰だコイツ?」
「竜樹だ! この艦及び、今後新造される飛空艇を纏める大役を任せた!」
「そ、そうなのか...」
「しゅ、出航です...ポッ」
と言われてもまったくわからん。
浮遊感も何も無いから。
障壁なんて目じゃない強さの結界が張られ、空力とか慣性の法則とか全部無視。
小川の流れるただのお花畑と平原と巨木の中に、3人だけがポツンと佇む。
流れる景色なんて無い。
感慨なんて覚えない。
本当に飛んでいるのかすらもわからない。
なので――
「フルウィンドウオープン!」
ボクの持つスフィアを展開し、オープンチャンネルに合わせる。
もちろん相手は香月夜。じゃなきゃ何も見えはしない!
全権限を持つ特別製のスフィアは伊達じゃないのだ!
「おぉー! すげぇ!」
「すごいねぇ....」
ボクの周囲に浮かぶ膨大な数の四角いウィンドウ。
そこに現在香月夜が航行している様子が映る。
我が王国の上空200m地点をグルグルと周回する香月夜。
自作した身でアレだけど、超良い感じだ!
「お? アレ、お妃様じゃねぇか?」
「そうだねぇ...だらしない顔してるねぇ....」
警護団詰め所の裏にある、訓練場から茫然と見上げるローゼ達。
さすがに醜態を晒し続けるのは如何なものかと思われるので、即刻連絡した。
「え? あ、カオルか?」
「うん。どう? カッコイイでしょ? この航空戦艦香月夜」
「...なぁ...カオル?」
「なに?」
「いや...何を考えてるんだ?」
「エッ!? ボク専用の艦だよ!? これならみんなで移動できるよ!? ファルフは10人くらいしか乗れないもん!!」
「そうか...まぁ...その...なんだ。私も乗せろ」
「私もよ! カオル! 絶対なんだからね!」
「おねぇちゃんも乗りた~い♪」
「カオル様? 私もです。それと、説明してください」
「主神カオル様! 我等もお願いします!」
「うちらもやで~!」
物凄い大好評でした。
尚、【エルヴィント帝国】皇帝アーシェラから抗議の通信が入ったのはその後すぐです。
ついでに【カムーン王国】女王エリーシャから先日の一件について釈明を求められました。
ボクは、悪くないと思います!




