第二百六十六話 龍退治と愛してる
変態な樹精霊によると、『子種が欲しいなら、邪龍ニーズヘッグを倒してください。ポッ』だそうだ。
なんでも、ずっと樹の根に噛み付かれて花が咲かないらしい。
大蛇の呪いを解いた"世界樹の雫"は、世界樹の葉に貯まった朝露に、精霊力を流し込んで作った物。
世界樹の新芽とか、霊薬エリクシール用の葉ならいつでも提供できる状態になったけど、種子は無理だってさー。
知らなかった事とはいえ、色々情報を与えすぎじゃないかな?
まぁ悪用しないし、心に留めておくよ。
記録化して残すと、後世で何かあるかもしれないし。
さて、竜王国の初代国王が龍退治です。
いや、"竜"と"龍"は似ているけどちょっと違う。
四足歩行に翼の生えた蜥蜴的な西洋竜と、蛇に似た細長い体躯に小さな翼があったりなかったりするのが和龍。
龍の起源は様々例えられる。
川の事だったり、雲の事だったり。
自然的な超常現象を指し示したりする。
『水龍様の祟りじゃ~!』的な川の氾濫とかね?
まぁ、実物が目の前に居るこの世界だと、どっちでもいいんだけど。
「しかしデカイねぇ...」
世界樹の地下空間。
地面の下という意味ではなく、虚空だ。
ノワールが使う暗黒魔法の《影移動》や《影呑》の裏空間も、こんな感じに近いかな?
そこに世界樹の巨大な根が幾重にも伸び、その1本をガジガジ噛んでる大蛇っぽい、邪龍ニーズヘッグ。
北欧神話だと、9つの世界の下層に存在する氷の国ニヴルヘイム?
フヴェルゲルミルの泉に多くの蛇を集め、ニーズヘッグが世界樹を齧ってるんだっけ。
まぁ...実際に齧ってるけど、ここは氷の国ではないよ? 真っ黒だし。
「お兄様?」
「ん? ああ、なんでもないよ」
"右手の薬指にはまる白銀色の指輪"を擦っていたボクへ、ノワールが心配そうに声をかけた。
この空間へボク達を樹精霊が転移させた時、《魔法箱》へ仕舞っていたこの指輪が飛び出て来たのだ。
風竜が贈ってくれた大切な物のひとつ。
"桜花"や、天羽々斬。聖武器や魔武器と同じ様に、ボクが目覚めた時に着けていた品物。
だけど、ずっと大切に仕舞っておいた。
何に使うかわからなかったし、何の為に風竜がそうしたのかもわからなかった。
だから大切に仕舞っていたんだけど――ようやくわかったんだよ。
この指輪の名前と必要性。
風竜はゼウスの駒にされていた間も、抗い続けていたんだ。
そして、ボクの身に何が起きるか予見し、託した。
どこまで読んでいたのかわからない。
でも....他の竜王と違い、風竜は稀な才覚の持ち主で予知能力を持っていたのかも。
そうでなければこの状況を知れるはずがないんだ。
だって――ボクがニーズヘッグと戦うなんて、ゼウスの筋書きに書いてないんだから。
「行ってくるよ」
「お兄様? どうかお気を付けて」
「うん。でも大丈夫。ボクはこんなヤツに負けないし、負ける気もしないんだ」
「わかってるわよ? お兄様」
「そうだね。ノワールはボクだもんね」
「ええ。だから、暴れて来るといいわ。そんな顔をするくらいなら、ね?」
「...うん」
酷い顔をしてるんだろうね。
さっきから涙が止まらないんだ。
風竜の想い。ボクへの愛情。今は遠く離れていても、ずっとボクを想ってくれてる。
護って、支えて、助けてくれた。
ローゼ達だって同じだけれど、ボクがこの世界で初めて出会ったのは、他ならぬ風竜なんだからね。
「ボクの為に死んでくれ。邪龍ニーズヘッグ。最終戦争を生き残ったキミを、ボクは倒さなければいけない。ボクを信じてくれた風竜の為にも」
ニーズヘッグの瞳がボクを捉え、鳴き声を上げる。
周囲の空間が波長の様に波を打ち、ボクの身体もビリビリ震える。
右手に桜花を、左手に聖剣デュランダルを。
《速度強化》を感じ、さらに《雷化》で左目が竜眼へ。
風・雷・土属性の《多重障壁》を展開し、神速の速さで肉薄する。
世界樹の根に齧り付いていたニーズヘッグは、身を捩り大慌てで移動を開始するも遅く、一剣一刀の斬撃に吹き飛ばされて世界樹から離れ落ちた。
だが、傷は無い。この程度でどうにかできる相手じゃないから。
「悪いけど、付き合ってもらうよ。ボクが全力を出せる機会なんて、中々無いからね」
神力抜きのボクの本気。
この世界の理の中で使える魔法。
手にする武器はボクの家族が与えてくれた。
だから、ボクのこれまでの強さを見せてあげる。
「シッ」
右手に《雷の魔法剣》を、左手に《風の魔法剣》を纏わせニーズヘックの巨体へ叩き込む。
だけど斬れない。邪龍にその程度の攻撃なんて効果が無いから。
でもね? ボクは冷静に見えて冷静じゃないんだ。
ボクのせいで次元の狭間に囚われた風竜に、どんな償いをしたらいいのかわからない。
『ごめんなさい』なんて言葉じゃ足りないんだ。
きっと風竜は『ありがとう』って言われたいんだろうね?
ボクだってそう言いたい。けど――
斬り付け、叩き、蹴り上げる。
多重詠唱で《雷の矢》《風の矢》《土の矢》を1万本。
衝撃波が発生した《疾風刃》。《雷鳴刃》に、《雷光線》に、《雷蝶撃》。
虚空空間で《土槍》まで行使して、それでもニーズヘッグに届かない。
ならばと、《渦雷轟》で幾万の雷を落としても、ニーズヘッグの巨体に変化は無く、塒を巻いて威嚇する。
最上級魔法でもダメージを与えられない。
頭部目掛け蹴り付けて、距離を取って唱える。
「巻き起こりしは風の渦! 舞い上がりしは竜巻! 《風竜嵐》」
他でもない風竜の名を冠した風の魔法。
竜巻が舞い上がり、ニーズヘッグの巨体が持ち上がる。
けれど風の斬撃は届かず、またしても不発に終わった。
おそらく、土竜と風竜。他の竜王もこれじゃ倒せない。
これが人間の限界。
最上級竜種に対して、あまりにも脆弱。
ドラゴンの契約者じゃ、司るドラゴンを倒す事など出来はしないのだろう。
「我願う。彼の者達を閉じ込めし無限の鉄の雨よ。今こそ我が求めに応じ、その力を開放せよ。《雨鉄牢獄処女》」
土属性の最上級魔法。
鉄の処女なんて拷問具の様に、六面体の鉄の檻に閉じ込められ、無限の鉄棘がニーズヘッグを襲う。
しかし、ソレも通用しない。
六面体の鉄の檻が破られ、ニーズヘッグがチロリと舌を出す。
打つ手が無い。
人の身で勝てる相手じゃなかった。
わかっていたけど、納得できない。
神鉄金属製の武器ですら、傷のひとつも付かないのだ。
"桜花"も、"聖剣デュランダル"も、神鉄金属。
だと言うのに、未知ですらないニーズヘッグは倒れない。
そういう風にゼウスが作ったから?
世界樹の花は、禁忌ではないのに?
いや、増える事を望んでいないからだろう。
世界樹は唯一の代物。
世界にひとつだけの大樹。
だから邪龍ニーズヘッグに邪魔をさせていた。
開花し、増やさない為に。
それなら....使ってあげるよ。神の力を。
「天界に住まう1柱の神よ。絶遠の地より、その名を冠する極致の力を我に寄越せ!! 《暴風神》」
この世界から外れた力。
初級、中級、上級、最上級なんて曖昧な分類された代物ではない。
最高位の第八階梯に区分けされた、神の名を冠する暴風。
ひとつの国を丸ごと飲み干す程の力の前に、よくやくニーズヘッグの鱗が裂けた。
でも生きてる。
片目を失い各所から出血していても、のた打ち回り執拗にボクを狙い尾を叩き付ける。
だけど届く事は無いんだ。
ニーズヘッグが如何に強大な力を持っていても、神力を解放したボクは傷付く事は無いから。
圧倒的だと思っていただろう?
脆弱なボクが、自分を傷付けられないと思っていただろう?
本当はそうなんだ。人は弱いから。
だから郡体で生活し、お互いを支え合って生きてる。
そして知恵を持って、理性を持って、調和してるんだよ。
その枠を外れたゴミ共のせいで、いつ傾いてもおかしくない天秤の上でだけどね。
「天界に住まう1柱の神よ。絶縁の地より、その名を冠する極致の力を我に寄越せ!! 《雷霆神》」
出会う事は無いだろう。
デーヴァ神族に属する、雷を操る雷霆神。
勝手に力を借りてごめんね?
でも必要なんだ。
この世界をボクの物にする為に。
だから...寄越せ!!
「ギャァァァァァーーーー!!!!」
耳を劈く断末魔。
極大の雷光に身を焼かれ、ニーズヘッグは終に倒された。
後に残る黒霧。彼の者が死んだ証で、風竜が予知した龍の力。
納刀し、右手にはまる指輪を掲げ吸い込んだ。
指輪の名前は"ニーベルングの指環"。
魔科学導具のスフィアで解析し、そう名前が出た。
リヒャルト・ワーグナーが書いた楽劇。
ラインの黄金、ワルキューレ、ジークフリート、神々の黄昏の4部作からなる四管編成。
北欧神話がモチーフにされてたりして有名だよね。
ただ――英雄シグルズが使ってた...名剣グラム....こっち世界だと魔剣グラムだよね?
『俺様がー! 俺様がー!』な堕天使が入ってる....やっぱり死蔵&封印決定だよ。
しばらくして、黒霧を吸い終わった指輪が黒色に変色する。
風竜が予見し、その通りになった。
邪龍ニーズヘッグは、ボクの力の糧としてこれからも存在する。
理由は変わってしまったけどね。
でも、"同じ竜血を持つ者同士"仲良くやっていこうじゃないか!
話せないから一方的に力を使わせてもらうけどね♪
大丈夫大丈夫♪ ボクが死んだら開放してあげるから♪
この世界ではない、どこかの世界へ、ね♪
「それでお兄様? 満足したのかしら?」
「うん♪ やっぱり人じゃ勝てないね! 魔法も武器も、なーんにも効果が無かったよ♪ 神鉄金属製なんだけどねぇ~♪」
「そう....ねぇ? お兄様? お願いがあるのだけれど?」
「なにかな?」
「私にも武器が欲しいわ。そうね...刀を打って頂戴? お兄様の妹である私に相応しい刀を」
「...魔法があるよね?」
「そうね。でも、欲しいのよ? ダメかしら?」
「いや、別にいいけど...ヒッツクナー」
「嬉しいくせに」
「いや、嬉しいとかそういう事じゃなくて、ノワールはボクなんだから」
「だから嬉しいのでしょう? 可愛いわ...私」
「意味がわからないよ....」
まぁアレだ。ボクだけ武器を持ってるのが、気に入らないんだね?
そして刀に憧れてしまったんだね?
兄妹で刀持ちにしたいんだね?
仕方がないなぁ....黒曜石鋼か、魔鉄金属辺りで打刀でも作ってあげよう。
ノワールに合わせて真っ黒いの!
なにせ名前が"黒"を意味しているのに、髪は白いし、黒豹から白狼に変化しちゃったし....
せめて武器だけでも黒を....服は黒を基調にしてるけど...そのうち柄物に目覚めるだろうし....
「で、何か言う事があるんじゃないかな?」
一部始終を観賞していた精霊王達。そして変態な樹精霊。
初撃辺りのニーズヘックが吹き飛んだところから、もう傍観者を決め込んでいた。
「「「「ありがとうございました!!」」」」
「うむ! よろしい!」
「それでそれで、ほ、欲しいんですよね? 子種...ポッ」
「いや種子だから。『ポッ』とかいらないから。っていうか、もう発芽して種になったの!? 花を見てないんだけど!?」
「そんな...カオルさんはいやらしいんだから...ポッ」
「ボクはいやらしくなーい! ヨーコーセー!」
樹精霊が持っていた種子を無理矢理引っ手繰り、《魔法箱》へ。
ボクの頭くらいの大きさの茶色い種で、まさしく世界樹の種子に相応しい。
亡きニーズヘッグの使命の為に、発芽はこれっきりと約束させ、"龍脈"と各種精霊王の加護を契約。
半日の間に随分と働いた気もするけど、結果的にボクの利益になったからまぁいいか。
それにしてもこの世界...変態と残念なヤツが多いなぁ....ボクもだけど。
「それで...カオル君?」
「なに?」
「ソレ、何に使うつもりなのかな?」
「決まってるじゃん。造るんだよ。"ボク専用の艦"を」
はてさて、欲しい物は貰ったし「さぁ帰ろう!」なんて薄情な事を言えず、リングウェウお義父様と、アグラリアンお義母様と一緒に夕食をご馳走になる。
食文化を開放された【エルフの里】は、劇的な変化を遂げて美味しい料理が出てくるのだ。
オートミールは、たまに朝食で出たり無かったり。素食なんて昔の事。ただしちょっと変わった料理。
世界樹と精霊王に護られた特殊空間故に、魔物や魔獣は近づけない。
だから近場に居るのは純粋な動物達。遠出をすれば、なんとか魔境。
そして今日の食卓に上がった食事は、子牛の丸焼きに、各種前菜や魚貝類。
ちなみに、魚貝類はボクがお土産に持ち込んだ物。
なにせ水晶宮を造った時に、海底が隆起して上がってきたからね! そうするように仕組んだんだけど!
なので、新たに銀鉱山や可愛そうな珊瑚――犯人はボクだ! ごめんなさい!――などなど、天然資源が沢山見付かった。
食事の必要が無いはずのシルフ達も混じって居たけど、リングウェウお義父様と、アグラリアンお義母様が『いつもの事だから』って言ってたらか無視しよう。
新生ノワールを紹介したらアグラリアンお義母様が『3人目の娘ね!』なんて意味不明な事を言っていたけど...それも無視だ! ボクは男の子だよ!?
尚、ノワールを見たリングウェウお義父様は病気が発病し、アグラリアンお義母様と侍女さん達にドカッバキッと治療されていた事を追記しておきます。
あと、ついでにみんなで大蛇の祠にお参りした。
邪神としてこの世界の人間を救おうとした心優しい神だからね。
殺してしまったのはボクだけど、呪いをかけられたからお相子で。意思を継ぐから見守ってて下さい。
「ほむほむ」
自国へ帰国後、王宮の一画――バルコニー付きの最上階を"自室兼工房兼研究所"にした――で、魔科学導具のスフィアでアレコレ悩む。
造る物は決まっているが、ボク専用にする為に格差は必要だ。
他の飛空艇と同じなんてもったいない。
我が王国の威光を体現した、まさしく空飛ぶ戦艦にしたいのだ!
かと言って艦艇を組むほどでもない。
そんなに沢山あっても意味は無い。
むしろ、後世で問題になりそうだ。
大規模な軍人達を速やかに運び、各国で展開させ行軍する。
それがどれだけヤバイ事かなんて、誰にでもわかる。
なので、一代こっきりの代物。
ボクの死後は、変態の樹精霊へ返還。
というか、"世界樹の意思"を伝える存在である変態の樹精霊は、云わば世界樹そのもの。
だから世界樹の種子は子供な訳だ。
要約すると、ボクの新造艦は世界樹の種子を使って造るから、変態の樹精霊が常駐されるって事。
相手をするのが面倒臭そうじゃん?
でも、その分超高性能な訳なのです。
なにせ世界樹の御力を使えるのだからね♪
まぁ...来たる決戦時に、当代のゼウスと天使の軍団に対抗する為の切り札? 的な役割をしてもらうからいいのだ。
そして、タイムリミットの予測もついた。
答えはやっぱり風竜。
邪神としてこの世界に降りた1柱の神、夢神モルペウス。
彼の神が残した"オニロの宝珠"。
心を閉ざし壊れたボクに干渉する為、風竜はコレを使って救ってくれた。
同時に、風竜を次元の狭間へ閉じ込めてしまった原因。
そして、風竜がローゼ達に託した言葉こそ、タイムリミットだと思う。
『カオルが15歳になる3年後に、災厄が降り掛かる』
つまり、あと2年7ヶ月ちょっとある訳だ。
その間に偽りの竜王を張っ倒し、契約させて風竜を取り戻す。
あとは各国の軍事力を底上げして均一化させる。
もちろん戦争の為じゃない。ゼウスはボクが倒すから、部下の天使の軍団の相手だね。
まぁ、ロキはあまり天使について詳しく知らなかったし、守護勇士達の情報もいつの物だかわからない。シヴもウェヌスも同様。
なので、最低限の情報はゼウスの他に大天使長ミカエルと、熾天使上位天使第一位のウリエルは必ず来るだろうって事だけ。
下位の天使は膨大な数が居るから、連れて来るはずだけどね。
う~ん...風竜は予知能力者だったのかなぁ....
そしてとても頼りになるよねぇ...
お父様に良く似てるよ。
『カオルより永く生きているからなんだけどな?』なんて謙遜してたけど、お父様もなんでも出来た人だしなぁ....
お母様はもっと凄かったけど。
「ここに居たのか、カオル」
パシュンと音を立てて両引き戸の"自動扉"が開き、ローゼが姿を見せる。
ちなみに、"円形浮遊型魔法具"。所謂エレベーター君を使わないとココには来れない。
そして"自動扉"はまんま自動ドアだ。
王宮内の各所は最先端"魔科学技術"が使用されていて、説明書をスフィア経由で熟読させた。四苦八苦してたけどね。
ついでに、最上階まで来れるのは家族だけだ。
各種セキュリティが存在し、新造の人形達も仕事をしながら徘徊してる。
マリアとフラウが居る上層階の特秘ルームは、家族も入れない。
秘匿しなきゃいけない理由があるからね。
おそらく軽蔑される。
たとえ家族であったとしても。
「稽古の調子はどう?」
「いや...私は怠けていたな、と感じたぞ? ソフィアは強いな。槍の腕は敵わないだろう」
「そうだねぇ。聖槍ガエボルグの化身だったからね」
人をダメにするクッション性を有するソファに座り、お互いに凭れ掛かる。
もちろんボクの方がちっこいから、ローゼの肩に頭を乗せて。
身長は諦めたんじゃよ。蜃気楼の丸薬があるからいいのじゃ。
日課の牛乳は止めないけどね! 希望を持ちたい人間なのだ!
「その...なんだ....怒っていないのか?」
「ん~? なにかしたの?」
「いや...」
歯切れの悪いローゼ。
思考を読めば何を考えているかなんて即座にわかる。
けど、家族相手に使いたくない。
語り合う方が好きだから。
こういう時間も大切なんだよ?
「だからだな? その...んっ!」
「あむっ」
煮え切らないから口を塞いだ。
柔らかくてボクよりも温かな唇。
舌を入れればちょっと驚き、すぐに絡ませて唾液を交換。
恥ずかしそうに潤んだ瞳が閉じられて行き、手を握り合って身体を寄せる。
ボクの初恋は女神様。
ヴァルカンと名乗った本名ローゼ。
ボクを愛し、ボクも愛したちょっと残念な女性。
とっても強くて頼りになるけど、お酒好きで面倒臭がり。
でも責任感は人一倍強くて――ボクを護ってくれた。
死の淵に立たされた時も、自我を失うほどの呪いを掛けられても、ローゼはいつもボクを心配して、ずっと傍に居てくれた。
だから、これからもずっと傍に居たい。
ボクは、心から貴女を愛しています。
ローゼ・ハトラ・マーショヴァル王女様。
「ッハァ! な、永すぎだぞ!? カオル!!」
「エヘヘ♪」
繋いでいた手を背中に回し、ギュっと抱き締める。
ポワンポワンな胸に顔を埋め匂いを嗅げば、やっぱり薔薇の香り。
名前と同じ匂いがするなんて、素敵だね♪
「ボクは何も怒ってないよ? 戦闘技術も、身長も、女装も、風竜の件も、隠れてカルアとお酒を飲んでいた事も――」
「いや待て!? 怒ってるだろう!?」
「あはは♪ 怒ってないよ~♪」
まだまだいーっぱいボクに隠してる事はあるみたいだけどね~♪
でも...本当に怒ってないよ?
感謝してるんだ。
ボクに出会ってくれてありがとう。
助けてくれてありがとう。
傍に居てくれてありがとう。
支えてくれてありがとう。
愛してくれてありがとう。
「....ずっと....ずーっと一緒に居てね!!」
「ああ、ずっと一緒だぞ? カオル」
 




