第二百六十五話 ボクは何も知らない
ハリアーシュとクローディアの件も片付き、ホッと一息。
アドルファスとベートはまだ駐屯しているみたいだけど、不気味だったハリアーシュが上機嫌に一言『難事は去った! まもなく諸侯軍も解散する!』と発言し、ある種のお祭り騒ぎが開催された。
もちろんボクは遠くから見てた。だって、気付かれるとうざいし? 面倒だし?
なので、ハリアーシュの屋敷の2階から覗いてた。
いやー....色々紅茶の葉を分けてくれたんじゃよ!
なんでも、近くに茶畑があるらしい。しかも上質な!
ヤルナ...ハリアーシュ....贔屓にさせていただくのじゃよ....
なんて思ってたら、無料でくれるって。
さすがに悪いので、都市益に響かない程度に貰う事にした。
だって...人手不要でいくらでもくれるとか...どんだけ喜んでるんだよ!
まぁ、しっかり者のクローディアが居るから大丈夫だろう。
カイとメルを思い出したんじゃよ。
てな訳で、次に向かったのはもちろん【カムーン王国】の王都。
昨日も来たけどね! 変装して! しかもブレンダに気付かれて! まるで恋人の様に腕を組まれて....
知ってた? ブレンダって、ファノメネルと同い年なんだよ...
見た目は超若いホビットだけど....39歳って.....
どこの神の仕業だー!
ま、そのおかげで他の国に比べて若樹珠と、老樹珠の設置が楽だったんだけどねぇ....
なにせ現役の剣聖だし? 知名度抜群だし? 『これは当然の権利なのじゃ!』とか訳がわからないし?
え? 竜が2頭と鷲獅子が王都に出現して大騒ぎだった? それをブレンダとフェイやらが大急がしで説明して周った?
エーファとイーナが腰を抜かして治療所送りに? ボクは何も知らなーい!
放っておこう。ローゼと犬猿の仲の"ロリババァ"の事は。
さーて、やる事は沢山ある。
行かなきゃいけないところは山のようにね。
とりあえず、ササッと【エルヴィント帝国】のお屋敷を訪ね、親善大使役をヴェストリ外務卿に返上する。
建前上、ボクはまだ帝国貴族の伯爵で、ヴェストリ外務卿は公爵だからね~。
目上の方なのだ! 年齢的にも!
問題は、"メリッサの連れ去り事件"――ヴェストリ外務卿はそう言った――で、即座に内容説明!
『ボクの領地で鍛冶師をしてもらうのですよよ!』的な事で納得してもらった。
ついでに、『帝都から近いし、これから頻繁に会えるんじゃないですかねぇ?』と追加すれば泣き落とし完成じゃ!
まぁ、もうしばらくは王都から離れられないらしい。
なにせ、女王と王女2人が自ら帝国を訪ねたからね~....
帝国としては、アーシェラとリアを【カムーン王国】へ訪問させるべきだよね~....返礼的な意味でも。
ま、無理なんだけど。事情が違うし?
ティルの暗殺を防ぎ、エメの誘拐を防ぎ、当時の宰相オルランド・ベ・ニタールとその軍門を倒したのはボクと土竜だしね~。
エリーシャ達が帝国を訪れたのは感謝の為だから。
むしろ、また行く事になるしね~。
【エルヴィント帝国】が主催する、武術大会にね。
その時ボクが建国宣言するから。周辺各国との内応は済ませておるんじゃよ。
そうしてヴェストリ外務卿を納得させ、次に王城へ。
エリーシャにハリアーシュの一連の件を伝え、エメに婚約指輪を贈った。
白銀製の台座に填まる、大粒のダイアモンドに2つの魔宝石。
反対側が互い違いに交差していて、アイナと同じ様に成長し、指が太くなればリングサイズも変えられる。
なにより付与師が大活躍。
"経口吸収"、"経気道吸収"、"経皮吸収"。
考え得る毒に対抗すべく、防毒の魔法が掛けられている。
死なれたら悲しいから....だから、腕輪を持つみんなに同じ魔宝石を贈ってある。
でもね? 人は呆気なく死んでしまうんだよ。ボクのお父様とお母様のようにね。
ボクがどれだけ抗おうと必死でもがいても、魂の寿命を迎えれば死んでしまう。
それが理。ゼウスがそう決めたから。だから輪廻転生して、来世があるんだ。
幸せと不幸。人は繰り返される人生で、その両方を経験する。
だけど――ボクは抗うよ。穢れた魂に、来世なんて救いを与えてたまるものか!
この世界は"ボクの世界"だ。
だから穢れた魂を永久に閉じ込め、蝕み続ける。
覚めぬ苦痛を味わい続けろ。
ボクはゴミを許しはしない。
お昼も少し過ぎ、城門でいつもの衛兵さんに挨拶して、見事な敬礼を見せてもらった。
その後何人かの冒険者らしき風体――武具も身形も貴族街に似合ってない――の輩に声を掛けられ、話の内容から下世話な事と判断し、《雷衝撃》で鎮圧。
すかさず周囲の建物から数人の人影が現れ彼等を連れ去る。
都合4回それらを繰り返し、周囲の思考を読み取り【カムーン王国】暗部所属のヘザーを発見。
垂れ耳をモフって大満喫からの尋問。どうやらボクを囮に使っているそうだ。
なんでも、先々日の大講堂の一件で、どうしてもボクに助力を願いたい貴族の輩が、冒険者や裏家業に通じる者を雇い入れ、暗躍している模様。
物的な証拠が無い者達をこうして炙り出してるんだって。
なにせ現行犯だ。キツーイお説教に罰金、罰則を課し、強制奉仕活動もさせる。
噂はすぐに広まるだろうし、『そんなヤバイ仕事を誰も請けなくなるでしょう』だってさ~....
だが、それで済むはずがない。
ボクは仮にも王立騎士学校へ通っている身。
休学中とは言え、級友達に対しなんらかの処置をしておく必要がある。
友好関係くらい調べればわかるしね。
物理的に誘拐や脅し。間接的に親御さんへの嫌がらせ。
悪辣な事を考えればきりがない。
なので――ノワールに委ねた。
「ふふふ....お兄様? いいのかしら?」
「うん! ノワールの方が、そういうの向いてるからね! マカセター」
「任されましたわ? お兄様♪」
そうして、また頬に口付けて影に消えたノワール。
若干楽しそうに見えたけど、本音は違う。
なぜなら、ボクは今ミリタリーロリィタ。略して"ミリロリ"姿なのだ!
長い黒髪を首後ろと腰後ろで纏め、ホルターネックの黒いワンピース。
その上から薄手だが軍服らしい白のコートを羽織って、胸元の銀鎖で留めている。
もちろん、縁取りもワンピースに合わせて黒だし、ボタンも銀細工だ。
ノワールは嫉妬した訳なのじゃよ....
なにせ、自分は黒い服しか想像できぬからのぅ...
ボクは悔しかった! "和ロリ"に対して"和ゴス"とか! "甘ロリ"に対して"ゴスロリ"とか!
何度辛酸を舐めた事か! だから! ボクは! 今度! ノワールに教えようと思う!
《魔闘衣》でも、他の色は再現できる事を。
なんだか周囲が騒がしいけど、ボクは知らない。
憲兵さんが慌しいけど、ボクは知らない。
左腰に帯びた一剣一刀を肘掛代わりに、昼食を終えた生徒達へ混ざりながら――混ざれてない! 人垣が割れているから!――王立騎士学校へ向かう。
大丈夫。ノワールは善い子だから。魔神だけど。
問題無い。家屋が倒壊したらしいけど、小規模だから。
平気平気。ヘザーが部下へ指示して大慌てで王城へ駆けて行ったから。
うんうん。ボクは、何も、知らない。
「お? ルィンヘンにエレンウィだ。ラエルノアも一緒だね♪」
「か、カオルさん!?」
「こ、こんにちは」
「こんにちはです、カオルさん」
「こんにちは! 相変わらず2人は仲良しだねぇ♪」
「わ、私達、くっついてないと落ち着かないです...」
「う、うん...」
エルフの3人。もちろん級友。
ルィンヘンとエレンウィは婚約者同士で、年齢もまだ10歳。
いっつも手を繋いでいて微笑ましい。
一方、ラエルノアは10歳のわりにしっかり者で、頼りない2人をサポートしてる。
ルィンヘンとエレンウィの実家が商家らしいから、その関係で一緒に居るのかも?
まぁ、よくある話だから深くツッコマナイ。
なにより、3人共幸せそうだし♪
エリーと、カイと、メルみたいだよね?
幼馴染かぁ....ボクにも居たような居なかったような....
むか~しお父様の系列会社のパーティで、同い年くらいの子と遊んだ記憶もあるような無いような...
ま、覚えてないからいいか。
二度と戻る事は無い"向こうの世界"の事だし。
「きょ、今日は学校へ?」
「うん。ララノア学長に頼まれ事でね~」
「そうなんですか....」
「どうしたの?」
「い、いえ...一昨日その...『カオルさんが女性だった』なんて話をアレックス君が...」
「ああ、それは本当だけど、アレは女性じゃないよ? 無性だから」
「「ふぇ!?」」
「あはは♪ 2人して面白い声♪」
「そうですね。ところで、カオルさん? 先ほどから地響きが聞こえるのですが...どう思いますか?」
「なんだろうねぇ...アレじゃない? 貴族とかが家を建て替えたりしてるんじゃない? 派手に壊して」
「...なるほど。確かに貴族の方々は、派手な事柄を好まれる方が多いですからね」
「そうだね~」
内実は違うけどね!
ノワールだよ! ちょっと見えたよ! なんか、白狼姿だったよ! しかもかなり大きい!
黒豹はどこへ行ったー!?
名前と真逆を行ってるゾー!?
お互いに近況報告をしながら学校へ。
途中で『でちゅでちゅ』言ってるホビットの幼女アンを拾って、おまけにカーラも居たから捕まえた。
みんな昼食帰りでこれから午後の授業だ。
そして――知ってしまった。カーラの秘密。
薄々おかしいな...とは感じていた。
狐人族なのに力が強いし、出会った日なんて教室の床を踏み抜いてた。
フッサフサの尻尾に、尖った三角耳。
良く考えればわかるんだ。
犬人族も、狐人族も、見た目はほぼ一緒だ。
よーく見ないとわからない。
毛先がグラデーションかかってるとか、体毛の違いとか、個体差かな? 程度にしか思ってなかった。
でも、ボクの戦友にカーラは似ていた。
そう....オダンと同じく、カーラは希少な天狼族だ!
聞けば、両親は居ない。親族も居ない。ただ、狩りが得意だったからそれで稼いだ。
そして14歳になるまでお金を貯めて、ようやく王立騎士学校へ入学できた。
卒業後は下士官試験を受けて士官の道を目指すらしい。
『それがあたしみたいなヤツの夢なんだよ』って....
完全にローゼと同じ道なんだけどー!?
え? なに? 将来は剣聖じゃない?
いやいや、止めておいた方が良いって!
大丈夫! 任せて! 良い嫁ぎ先を紹介するから!
超優しくて、お茶目な話し方だけど、カーラみたいに豪快な人と相性はバッチリだと思うから!
やったね! 未来の王妃の誕生だー! 押し付けはしないけど、今度会わせてみようと思います。
てな訳で、「今度会わせたい人が居るんだ」的な事を言っておいた。
もちろんボクに両親が居ない事を知ってるから"そういう意味"での発言ではないなんてわかってもらえた。
じゃなきゃ家庭事情を詳しく話そうなんて誰も思わないよ。
いやー...それにしても良き出会いじゃのぅ。
これはゼウスの意思とは無関係だろうけど。
校舎に入りみんなと別れる。
「時間が出来たらそのうち復学するからね~」と、みんなに再度伝えてもらう。
本当は会いに行きたいけど、忙しい身だ。
ノワールも大暴れしてるし、いつまでも【カムーン王国】に滞在できない。
エリーシャとかは笑って許してくれそうだけど、ブレンダとかフェイとか確実に怒る。
なので、さっさと用事を済ませてしまおう。
囮に使った件は、あとで釈明させるけどね~♪
学長室と書かれたプレート。
今のボクにはとても苦い思い出のある職名。
それはノワールの身体に宿った時の事。
憎悪の感情に引き摺られたボクは、一時的に欲望に支配された。
そして――ララノア学長に色目を使い、思わせぶりな態度で接した。
「ボクのせいじゃない!」と、言いたいところだけど、確かにボクの中にある感情のひとつ。
いや、人は誰しもその種の欲望を持って産まれているはず。
ただ....運が悪かったとしか言い様は無い。
だから甘んじて謗りを受けようと思う。
アレは、ボクが悪かった!
扉を叩き名を名乗る。
中からガタゴトと音が聞こえ、ややあって「どうぞ」と返答。
意を決して扉を開き中へ。
金色の髪を編み上げサイドに流したエルフの女性。
青い碧眼がボクを見詰め、口元はグロスか口紅か、潤いを帯びて柔和に微笑む。
不老のエルフ。齢は40をとうに越えている。
"鉄の乙女"の異名を持ち、数々の学生を打ち倒してきた。
心的外傷を抱えた者も居ただろう。
『年齢なんて気にしない! 俺は貴女が好きだ!』
そう告白した者も居たそうだ。
だけど彼女は変わった性愛者である。
美少年趣味。
ボクの家族も大概そうだ。
自身の容姿は親譲りの物で、ボクはそこまで美少年だと思わない。
ただ、お母様に似て女性的で、お父様に似て中性的。
同性の同級生に告白された事もある。
『大きくなったらお嫁さんにしてあげる』
どれだけボクの心が傷付いたか。
ボクは同性愛者ではない。
普通に女性が好きだ。
見た目が女の子なだけなのだ。
でも――ボクは彼女を受け入れると、お母様より年上の女性を娶る事になってしまう。
「...ララノア学長」
「...お待ちしてました。カオルさん」
揺れる瞳に映る自分。
どう見てもボクは女の子。
胸は無いけど些細な事だ。
なにせ、今では女装を好んでしまっている。
原因は全てローゼ。
彼女はボクを"嫁"だと思い、ある意味育てた。
光源氏という人物を知っているだろうか?
紫式部が書いた物語。"源氏物語"の主人公。
義母に報われぬ恋をし、歳若い娘――紫の上を自分の理想の女性に育てた。
まさしくローゼが行なったボクへの所業。
出会った頃から術中に嵌っていた訳だ。
「...訓練内容の計画書をお持ちしました」
「...ええ、確かに受け取りました」
羊皮紙の束を手渡し、ボクの手に触れて受け取ったララノア学長。
恋に恋する鉄の乙女。
ボクに何を期待しているのだろうか?
謗りは受けよう。
だけどそれ以上は求めないで欲しい。
ボクに、お母様より年上の女性を娶れと?
確かに見た目はとても若い。なにせ不老なのだから。
ローゼやエルミア、カルアと同じエルフだ。
良く考えるんだ。
ローゼの年齢は24歳。
エルミアの年齢は19歳。
カルアの年齢は27歳。
そしてララノア学長の年齢は41?
カルアとボクの年齢差は15歳。
ララノアとカルアの年齢差は14歳。
んん?
いや待て、ボクとララノアの年齢差は29歳じゃないか。
危なかった。思考が囚われかけた。
ナイナイ。ソレハナイ。
「...また来ます」
「...お待ち...しています」
そうしてボクは別れた。
「はぁ....」
正直に言おう。アブナカッタ。
やっぱりアレだね?
不老はずるいね?
【マーショヴァル王国】が"不老不死"を求めた理由が、よ~くわかったよ。
こんな見た目子供で中身がおじぃちゃん化してるボクが言うのもおかしいけどさ?
女性って怖いわぁ....
「そうかしら? 人は産まれて来る過程で、男性にも女性にも成れるのだから、私はそうは思わないわよ? お兄様」
ひと仕事終えたノワール。
ぬるっと影から這い出てボクに並ぶ。
そして勝手に人の思考を読むなー!
魔神の力を使うなー!
恥ずかしいだろうがー!
「それって、男も怖いって意味?」
「ええ、もちろん。だって、男性の身体に女性の魂が吹き込まれる事だってあるのでしょう? 性同一性障害と呼ぶのかしら?」
「いや、ソレ医学的な病名なだけだから。本当に魂が性別に左右される訳じゃないから」
「そうなのかしら? でも――」
「言いたい事はなんとなくわかるけど、性障害の一種だって見解が出てるから。魂関係ないから」
「そう....人って不思議な生き物なのね...」
「そうだねぇ...話をすりかえるくらい、不思議な生き物だねぇ...」
まったく、こういう時だけ妹面で兄の想いに答えるとか...兄想いの妹め....
まぁ、おかげでちょっと気が楽になったよ。
ありがとう、ノワール。ボクの大事な半身。
「ふふふ...どういたしましてよ? お兄様」
定例になった去り際の口付け。
頬だからまだいいけど、そのうち本当にキスしてきそうだ。
それだけならまだいいけど、器の交換とか平気でするからなぁ...
侮れないよ、本当に。
さ~て...逃げよう! 素早くパパっと! なぜなら見えているからだ!
こわ~い顔したブレンダと、泣きそうな顔をしたフェイの姿が!
赤い騎士服は目立つんじゃよ~....サラバ~...
《雷化》を使ってバシュっと飛ぶ。
盛大な雷鳴音に阻まれ、ブレンダ達が何か叫んでいたけどキコエナーイ!
通信用の魔導具も、基本的に《魔法箱》の中に仕舞ってあるから、エリーシャからの連絡なんて届かないもんね~♪
そうして次にというか、やっと来れたよ【エルフの里】!
エルミアの故郷で、ボクの義父母が暮らしている。
なにより初めて名付けた可愛い赤子、ミーリエルが居るのだ!
癒しを下さい! 山盛りで!
「きゃっきゃ♪」
「まぁ!? やっぱりカオル様の事がわかるのね♪」
「おお!! 賢いぞ!!」
親バカっぷりは相変わらずで、ミーリエルの両親は我が子を溺愛している。
そしてその様子があまりにも微笑ましく、ボクは少し癒された。
だが足りない! なぜならミーリエルは確かに可愛いが、ボクの子ではないからだ!
これはなんとしてでもゼウスを降ろして、ローゼ達と子作りをせねば...
ガルル!! 飢えた野獣なのだー!
「婿殿!」
「おかえりなさい、カオルさん」
「ただいまです! リングウェウお義父様! アグラリアンお義母様!」
トーウと抱き付き癒しを得る。
リングウェウお義父様は少しだけ。
アグラリアンお義母様は過剰に!
だって、リングウェウお義父様....前科持ちだし...侍女さんの冷たい視線...これも相変わらずだねぇ...許す気無いのね?
「リングウェウお義父様! アグラリアンお義母様! 成人後には必ず孫を作りますから、期待しててくださいね!」
「おお!! 楽しみにしておるぞ!!」
「まぁ♪ エルミアとカオルさんに似た、可愛らしい子が産まれるわね♪」
「う~ん...将来的には、アグラリアンお義母様とエルミアに似た美形になると思うんですけどね?」
「うむ! なに性別は問わん! 沢山元気な子を産めば良い!」
「そうね♪ あなた♪」
「はい! がんばります!」
性欲の前に父性が目覚めそうです!
事前に通信用の魔導具で建国の経緯を話していたが、直接顔を見せる時間がなかった。
時間的に優先される事を先にしていた為だけれど、やはり謝辞のひとつも必要で、謝罪したら『気にするな! 男には、やらねばならん時がある!』とリングウェウお義父様から温かいお言葉を頂戴する。
一瞬侍女さんをチラ見さえしなければ完璧だったのに....即刻アグラリアンお義母様から折檻されてた。
やはり、リングウェウお義父様は、アグラリアンお義母様に勝てないのか...
ふむ...ボクも気をつけよう....
とりあえず、苗樹珠と、若樹珠と、老樹珠を紹介。
ついでに魔法鞄と、魔法袋も。
まだ市場に出してはないけど、いくらでも作れる。
なにせ革だろうが布だろうが、魔宝石さえ付けられればいいんだから。
既製品でもいけちゃうのだ。
しかも、既に魔宝石の生成に成功している。
なんて事はない。宝石を作れるんだから、そこに魔力を"押し込んで"やればいい。
魔宝石に刻まれた魔術文字や精霊文字を発動させるには魔力を"流し込む"んだけど、違った方法を取ればいいだけだ。
言うは簡単行なうに難し、だけどね~♪
魔物や魔獣だって魔素から産まれる。
つまり、体内に貯まった魔素が無機質結晶質物質化したのが魔宝石。
そして、マナは魔力の発動材料。
全部魔法で繋がっているっていう訳だ。
ちなみに、ペンダントは【エルフの里】限定品、"木"の形を模したペンダントトップになりました。
先が丸まってるから、転んでも刺さらなくて平気なんだよ~?
デザインしたのは、アグラリアンお義母様です!
リングウェウお義父様に発言権は無かった....頑張って下さい...お義父様。
さーて、いっぱい甘えたしお土産も沢山渡した。
第二の故郷だからね~♪
『おかえりなさい』って迎えてくれる場所だから。
アレができたらみんなで来よう。
リングウェウお義父様達にも、"建国宣言"を聞いて欲しいからね
「オシッ! 倒しに来たぞー! シルフー! ノームー! イフリートー!」
ガオーっと世界樹の頂上へ。
ぽっかり開いたその場所は、ある種の憩いの空間。
何故か座れる平原とでも言い表せばいいのか...
まぁ世界樹だからねぇ...
なにができても不思議じゃないよぉ...
「倒しに来たって...カオル君は辛辣だねぇ...」
「なんじゃ?」
「フォムフォム」
呑気にお茶を啜る3人の精霊。
風の精霊王シルフ。
土の精霊王ノーム。
火の精霊王イフリート。
ゼウスにとって未知の存在。欲して已まない彼等だけど、ボクは許す事はできないのだ!
「ぜ~んぶ、ズバっとわかってるんだぞー!
まずイフリート! おまえ、七つの大罪『憤怒(wrath)』の悪魔、サタンに力を貸して火竜王バハムートの身体を差し出したな!」
「フォブッ!?」
「次にノーム! 大地の力を使い、偽りの竜王が住み家"オムニスの地下迷宮"を作るのに手助けしたな!」
「なぬっ!?」
「最後にシルフ! 邪神、大蛇にワザと捕まり、神々と精霊王、竜王達の助力を断っただろー!」
「何で知ってるの!?」
「ハハン! 全部マルッとズバっとお見通しなんだぞー!」
まぁシヴとウェヌス、それにたった今こいつ等の記憶を読んだだけだけどね!
そして、なかなかノームとイフリートがボクの前に姿を現さなかった理由でもある。
むしろ罪状はまだまだあるんだ!
ノームなんか、エルザ――雷剣カラドボルグを雷の勇者に授けた張本人だし!
イフリートも、【イシュタル王国】が砂漠化した原因の一人だし!
「フォ、フォム...ばれておったのか...」
「そ、そのようじゃの...」
「待ちたまえ! カオル君! それを言ったらウンディーネだって同罪だろう!?」
「ウンディーネはいいの! 理由がわかったから!」
「そう...」
ピトっと張り付く水の精霊王ウンディーネ。
ひんやりしてて気持ちがいい。
そして、彼女が手を貸したのは紛れも無く"偽りの水竜王リヴァイアサン"。
七つの大罪『嫉妬(envy)』の悪魔、レヴィアタン。
いや、元々竜王は3頭だった。
そこに4頭目の竜王として、レヴィアタン――Leviathan――。まんまリヴァイアサンやね。
理由は風竜王ウイーヴル。
彼女は風竜に恋をした。
本来ならベヒモスと番だったはずなのに、それに逆らい恋の炎に焼かれた。
だから長い年月を掛けて風竜を口説き続け、どういった手段かわからないけど風竜の肉体を手に入れた。
だけど大事な中身が無かった。
だって、先にゼウスが取り上げていたから。手駒にし、ボクと出会わせ、契約と言う名の吸収をさせる為に。
そして、サタンがバハムートに取り憑く理由。
サタンはレヴィアタンを求めた。
だから、ベヒモス――Behemoth――と、バハムート――Bahamut――。
ヘブライ語とアラビア語の読み方の違いで、同一の存在を精神的に乗っ取った。
簡単に言えば横恋慕だ。魔界の王が、ね?
「ところで、レヴィアタンって美人さんなの?」
「どうかしら?」
「まぁ、ボクにはどうでも良い事か」
風竜次第だろうしね~...
しかし物凄い三角関係? って言うの?
風竜が好きなレヴィアタン。
レヴィアタンを好きなサタン。
....世界巻き込んで何してるの!?
「さ~て...ノワール!」
「なにかしら?」
「捕まえて!」
「お安いご用よ? お兄様」
「「「だれじゃそれー!?」」」
影から伸びる3本の黒い触手。
今のボクは使えないけど、暗黒魔法の《常闇触手》。
むしろ禁呪は全部ヤバイ...
ノワールに楔はまだ打ってないけど大丈夫?
アイナの了解は得てるから、いつでもアルテミスの力を吸っていいんだよ?
ボクも強く成れるし?
「心配ご無用よ? お兄様。段々慣れて来てしまったの。それに――こうしてお兄様に触れていれば安心できるもの」
「まぁそれでいいならいいけど...」
兄として心配なんじゃよ?
大事な家族だからね....
「ウンディーネは視てたから知ってるよね?」
「...そうね」
「姿は変わってしまったけれど、この子はノワールだよ」
「そう...」
「あら? 随分と素っ気無いのね? あの時は、あんなに激しく私の身体を求めたのに...」
「ッ!? ....そう」
「いやいや、わざわざ卑猥に言わなくていいから」
モフってただけだから。それを言ったら、ボクなんか超モフってたから。
黒豹は、ひんやりしてて人をダメにする生き物だったからね。
「あら? お兄様? 平気よ? いつでも姿は変えられるもの。こんな風に...ね?」
ドロっと液状生命体化して姿を変えたノワール。
やっぱり、自分の身体だから色々できるのかー...
って、白狼かーい!
「でかいよ! 物理法則無視してるよ! でも触り心地最高だよ!」
「グルル.....」
「しゃべれなくなるのね!?」
「グァウ!!」
「いや、変な相槌いらないから...元に戻ろう?」
「...そう? でも、楽しんでもらえたみたいで嬉しいわ? あんなに私の身体に触れて...お兄様ったら♪」
「『お兄様ったら♪』じゃないよ! 首筋撫でただけだよ! そして兄だと思うなら手玉に取るなー!」
「ふふふ...可愛いわ....私」
コレ、本当にボクなの?
ねぇどうなの? おかーさまー? ボク、こんな子なんですかー?
将来が心配です....家族設計的にも....
「それでお兄様? コレの処分はどうなさるのかしら?」
「そうだねぇ...」
ノワールに恐れをなした、シルフ、ノーム、イフリート。
ボクも全力全開を出せばノワール並に――いや性格的に無理か。
なに気に結構残忍だし? ボクの憎悪の塊だし?
おそらく躊躇わずに壊すだろう。
相手が何であろうと、冷酷に。
自分が敵と定めた相手を。
「ふむ....世界樹を護る精霊王だからなぁ....擽り耐久24時間とかどうだろう?」
「あら? ソレはソレで楽しそうね? 笑い死なないかしら?」
「いや、精霊王だし大丈夫でしょ? 発狂はするだろうけど」
「か、かか、カオル君!? いくら僕達でも死んでしまうよ!?」
「フォブ!? ゆ、許して欲しいんだな?」
「そ、そうじゃのぅ...許してくれんかの?」
「ほほぅ....悪行を行ない、本当の火竜王バハムートを苦しめたキミ達が、慈悲を請える立場にあると?
シルフなんて、怠慢な日々を過ごしていたというのに?」
「ち、違うよ! ちゃんと世界樹を護っていたよ! 大蛇から!」
「最初っから抜け殻みたいな物だっただろー! 太陽神アポロンが弱らせていたんだし!」
「どうしてソレを知ってるのさ!?」
「ボクが、次代のアポロンだからだ!」
「「「なんじゃってー!?」」」
おじじ2人とシルフは、理から外れた存在だから知らないのも当然だ。
ウンディーネは良いんじゃよ? くっついておれば良い。
性別があるのかわからないけど、女性体としてレヴィアタンに同情し力を貸したんだから。
「...あのぅ...そのくらいで...許してあげてくれませんか?」
「ん?」
突然話かけられ振り向く。
花緑青色の髪に、健康的な肌。
見た目は普通に女性だけど、足が地面に....世界樹にめり込んで...いや、世界樹から生えてる?
さっそく思考を読み取り――阻害された!?
ならば神気と《雷化》の混合で――
「なぬ!? 樹精霊!? しかも、世界樹の意思を伝える存在だとぅ」
「ェ? キャァ!? み、視ないでください!!」
「お兄様?」
「いやいや。ボクハワルクナイ」
突然現れた、樹精霊が悪い。
無理矢理視た? 読んだのは出来心だ!
だって足が樹から....いや、樹から生えたのが樹精霊か。
ヤヤコシヤ~。ヤヤコシヤ~。
「それで、樹精霊はシルフ達を許せと?」
「は、はい。彼等にも言い分はあるんです」
「ほほぅ....それはどんな?」
「天より降りて来たサタンは、心の底からレヴィアタンを愛していました。元は天使ルシフェル。光輝く12枚の翼を持つ神の使徒。
けれど、同じ神が創造し、御使いとしてこの世界へ降り立ったレヴィアタンの美しさに見惚れ、堕天したのです。
なぜなら、そうしなければレヴィアタンと共に居る事ができなかったから。
そして、火竜王バハムートも彼に同情し、自らの肉体を貸し出したのです。元々バハムートは面倒事が嫌いでしたから、サタンに身を委ねる事で深き眠りに着きたかったのでしょう」
えーっと....土竜に続いてオマエモカ! ねぼすけか! 残念竜か!
風竜だけじゃよ...真面目で誠実なのは....
この世界...とんでもないなぁ...
「ちなみに、ルシフェルとルシファーって同一人物?」
「ルシファー? なんですかそれは?」
違うのね....ボクが居た世界だと、同一視されてたりするんだけどね!
もうどうでもいいよ....迷走してるよ...この世界....
片手間で創りやがったな! ゼウスめ!
「はぁ....仕方が無い。妥協案を提示してやろう」
「本当ですか!?」
「まぁねぇ...」
本当は嫌だけどね! もう辟易としたんじゃよ...色々と....
「まず、四大精霊王は、ボクの国に恵みを与える事。ノームは"豊穣なる土"を、イフリートは"神聖なる炎"を、シルフは"清涼なる風"を、ウンディーネは"清らかなる水"を。
そして樹精霊は、世界樹から"龍脈"を繋げて。あと、世界樹の"種子"を寄越せ」
ハッハー! 全部揃えば、とんでもない事になるゾー!
栄える? 栄えちゃうね!
成長の魔導具なんて比じゃないくらいに豊かな実りを約束されて、炉には聖火が灯り、鍛冶師は魔宝石も薪も不必要! むしろ良質な武具を作れちゃう!
空気も涼化されて水も清らかな...噴水だ! 噴水を作ろう! いや、小川もメインストリートの両脇に流そう!
【水の王都ソーレトルーナ】....『春の陽だまりの様に柔らかく、秋の月の様に優しい人が集まる水の都』....
なにそれ素敵!!
「あのぅ....カオル君? ボク等は加護を与えるのはいいんだけど...」
「うむ...擽りは勘弁して欲しいのじゃよ...」
「フォムフォム」
「そ、そんな...子種だなんて...ポッ」
「『ポッ』じゃなーい! 子種じゃなくて種子! 花が咲くんだから、種くらいあるでしょ!」
「も、もう! 照れてるんですか? カオルさん。い、いんですよ? 私も...その...カオルさんは好みのタイプですし...ポッ」
オイ...なんだこの世界樹....いや、樹精霊か。
そういえば、樹精霊は美青年とか美少年とかを樹に引き摺りこんで....変態や!?
「...ノワール? どう思う?」
「そうね...変態ね...」
「奇遇だね? ボクもそう思ってた」
「でも...簡単には行かないみたいよ?」
「何が?」
「感じないかしら? この樹の根...何か居るわよ?」
「ん~....ああ、なるほど」
「ええ、居るわね。"邪悪"なヤツが」
「ノワールが"邪悪"って言うと違和感があるねぇ」
「ふふふ...お兄様ったら、そんなに褒めないでいいのよ?」
「いや、褒めてないから。あと、くっつくな!」
「照れてるのね? 可愛いわ...私」
「はぁ...もういいよ...さっさと倒そうか」
「ええ、そうね」
「"邪龍ニーズヘッグ"を、ね」




