第二百六十四話 仲良き事は美しきかな
いや、わかってたんだけどねー。
そうなるよねー。
どうしようもないよねー。
アラン財務卿が、娘のクロエを押してきても仕方がないよねー。
本人もボクに好意を寄せていたからねー。
どんどん増えて行くよねー。
ボクの子供達が、統一国家を築いちゃいそうだよねー。
なにせ不滅の守護勇士が居るし?
幼竜達は数千年生きるだろうし?
不老不死のノワールは"未来で"ボクを殺すだろうけど、いつだかわかんないし?
まぁとりあえず....アラン財務卿に、白磁のカップとソーサーの"魔導具"――周囲のマナをチュルチュルするヤツ――を2客渡して内容説明。
アーシェラに以前アラン財務卿へ渡すように頼んだ同品は、案の定アーシェラがせしめていたから一悶着あった!
でもそんな事は些事だ! 終始ご機嫌なリアと、鼻歌なんか歌ってたグローリエル。決闘はいったい何の為に行なったというのか...説明を求めたいが時間がない!
なので、ディアーヌを攫って――アーシェラの了解は得た――我が王国へ帰国したのだ!
建前上は、まだ伯爵領だけど。
周辺各国へ宣言するタイミングは、漢ならば! 胸沸き血躍る"武術大会"開催日と決定されたのだ!
ワーパチパチパチ。
ちなみに、武術大会は"1週間"やるんだって。
『永いよ!?』と思うじゃん? 帝都だけで50万人も居るんだよ?
他国からも豪華メンバーを呼んじゃうんだよ?
しかも、先の戦争で武官や兵士を失った帝国は、軍備増強するから軍閥の士官を探すんだってさー!
爵位を継げない法衣貴族の子弟が張り切りますな!
ロミオ&ジュリエットも頑張ってほしいね!
あと在野の武術家達も!
楽しみだね~♪ あと、今日も月が綺麗だね~♪ エルミアも綺麗じゃよ~♪
「えっとね? カオル...アレなに?」
ここ数日大活躍の鷲獅子ことファルフの背に乗る、ボク、エルミア、ディアーヌ、ソフィア、エルザの5人。
『アレ』とはもちろん、新造の第4防壁! ではなく、"水晶宮"の事。
なにせ大きいからね~....帝都から見えるしね~...もちろん、エルヴィント城の塔からだけど。
「うん。造ってみた。城を!」
「えっ!? アレお城なの!?」
「そうだよ~♪ でも、ディアーヌが住むのは、手前にある宮殿の方だよ~♪ ま、ボクもしばらくそっちに住むけど。
なにせ王宮は広いからねぇ...迷子になると見付からない可能性が....そして数年後に骨が見付かるかもしれな...イタッ」
「カオル様? ふざけないでください」
「ごめんなさい!」
エルミアは不機嫌なのです。
褒めたりもしました! でも微妙でした!
ちゅーもしました! ちょっと嬉しそうでした! ボクも。
「まぁ、1日2日は身体を休めて養生するといいよ~? なんかやつれてるし」
「あ、あはは...ちょっとね? 本を読み始めちゃうと止まらなくて」
「その気持ちはわかるんだけどね~♪ でも、休息は必要だよ?」
「うん。あ、ありがと」
「エヘヘ♪ いいんだよ~♪ イタッ」
「カオル様?」
「ハイ! スミマセンデシタ!」
ディアーヌだけ構うと怒られるようです!
ちなみに、ソフィアとエルザも構って欲しいそうです!
ずっと無言の忠臣を演じていたからね~...
ソフィアとか、帝都をアチコチ見て周りたそうだったし。
"ミカエルジジィ"のせいで数千年も眠ってたんだしね~。
ルル以外の聖武器は、ず~っと寝てたんだもんね~。
魔武器だけだよ...どこぞで暴れ回ってたのは....
ま、それはあとでいいか!
通例のごとく宮殿前へ着陸。そして「ただいま」の前の『ご主人』アタック! ポフっと抱き付くアイナだ!
可愛いのぅ...愛い奴じゃのぅ...ホレホレ? 兎耳を愛でて進ぜようではいか?
フォッフォッフォ.....どこの悪代官だー!
「まいいや。ただいまー」
「おかえりなさいませ、我が君」
「お、お帰りなさいませ。ご主人様」
「カオルちゃん♪ おかえりなさ~い♪」
「ただいまー! って何かあったの?」
ちょっと疲れた顔のフランに、いつもと同じ笑顔を張り付かせたカルア。だけど、どこか違和感を感じる。
さすがに天羽々斬も定着し、表層意識を読み取るなんてボクが意識的にしない限り読めはしない。
それに昨日散々読んだし? みんな若干『残念美人』だったし? ムッツリとオープンエロスだったし?
でも、ボクへ向けてくれる愛は本物だったんじゃよ!
「私はその....迷子になりました....」
「おねぇちゃんはねぇ~♪ 今日いーっぱい治癒魔法使ったのぉ~♪」
「ふむふむ」
聞けば、フランは本当に王宮で迷子になったそうだ。
掃除してたらどこだかわからなくなり、最終的に通りかかった人形に助けられたそうな。
ついでに、カルアはルル先生&グレーテル先生による"猛稽古"で負傷者が多数出て、一日中治癒術師の仕事に追われたんだってさ。
作っててよかった防御のサークレット!
アレのおかげで魔力調整も魔力消費も抑えられた!
オダンにあげた支配の腕輪なんて、比じゃないくらいの高性能!
聖遺物? ノンノン! 聖遺物やね!
「まぁ、みんな無事なら問題ないね♪ フランはしばらくの間王宮に入る時、人形を連れて行くといいよ? 話せるようになったし」
「は、はい! 初めは驚きましたけど、話すとなんだか幼馴染みたいな子も居て楽しいんです」
「それはずっと一緒に仕事してたからねぇ...」
「そうですよね! お、お友達にもなれました」
ふむ。『あの子達に魂があるか?』と聞かれたら『いいえ』と答えるんところなんだけど....
まぁいいか。フランも嬉しそうだし。なにより――人形達が活き活きとしてるからね。
ボクが死ねばあの子達も動けなくなってしまうけれど、それまでの間は"同じ人として"扱った方がいいかも?
お休みとか与えてみようかな。学校の生徒達ともすぐに打ち解けるだろうし?
なにせ、王国を興したとはいえ、まだまだ人が足りないんだから。
一月後に【イシュタル王国】から100人の女性を移民させ、薊達の所属していた【ヤマヌイ国】のくノ一"朱花"総勢40人を治療し、希望者を移民。
それでも王国民は200人に届くかどうか....
奴隷市場から買い上げてこようかな?
どうせもうすぐ奴隷商なんて商いできなくなるんだし。
犯罪奴隷以外は居なくなるからね。
所持している人も、手放す以外の選択肢を与えない。
もちろん奴隷が心から残存を望むなら、その限りではないけど。
全ての人が悪人なはずはないんだから。
「ふむ。それで他のみんなは?」
宮殿の談話室へ場所を移し、カルアとアイナから事情聴取!
ディアーヌは、フランとエルミアを交えて入浴中。
ダークエルフと、ハイエルフの入浴とかちょっと楽しそう♪
覗きたい気持ちも少しはあるんじゃよ?
犬猿の仲じゃないかな? とか、あまり心配はしてないけど。エルミアがそういう子じゃないから。
「そうねぇ~....ルルちゃんが"ピカって光る"と、み~んなパタパタ倒れちゃってねぇ~....怪我らしい怪我は、複数の打撲くらいなのぉ~...」
「ほむほむ...」
使ったのか奥義<八重桜>を...
まぁ木刀だし、防具も着けてるし、問題ないじゃろう...
ボクもローゼの下で修練してた時、初めの頃は毎日ボロ雑巾にされたからね...
主に魔獣に追い掛けられて。
「で、光希達はどうだった?」
「ん!」
「ほうほう...」
アイナ用の"特製 魔法袋"から衣服を取り出し着替えたアイナ。
可愛らしい和装メイド姿。
全体的に白黒メイド服の色彩をそのままに、振袖和服にスカートと白エプロン。
おはしょり部分とかからはみ出るレースが可愛いけれど、個人的な見解を言わせてもらうと...レース多くない?
あと、アイナは10歳だからいいけど...
パニエで膨らませたスカート...短くない?
ハッ!? まさか――ワザと、か!? 見えるか見えないか。そのギリギリを攻めたのか!?
"絶対領域"になんて事を...これは要相談案件だ!
「ご主人?」
「よく似合ってて可愛いよ♪ よかったね? 仲良くなったんだ?」
「ん!」
アイナは可愛いなぁ。
カルアは母性愛が強すぎて、聖母だからなぁ...寝起きはエロスだけど。
「おいで? ルル」
「お呼びですか? マスター」
「うん、ルイーゼ達はそのまま"稽古"を継続で。もちろんエリーも」
「畏まりました」
「あとは...しばらく警護団員に『定期巡回は必要無い』って伝えてくれる? "稽古"に集中させたいんだ。
明日はソフィアもそっちに廻すから。ソフィア? アガータとシャルの2人は槍使いだから入念にお願いね?」
「ええ! ワタクシにお任せ下さいませ! マスターの望みを叶える。なんとワタクシらしい事かしら! そうね? 今からでもよろしくてよ!」
「いや、何が『ワタクシらしい』のかわかんないし、みんな疲れて寝てるんだから今日はいいよ。明日の朝からお願い」
「ええ。ええ。任せて下さいませ! このワタクシが教えるからには、みっちりと入念な柔軟運動をさせて、それから――」
ソフィアは長いなぁ....話が。
アレかな? 一日中話してなかったからその弊害かな? 寡黙な忠臣を演じていたから?
千影と天音に余計な話を聞かなきゃよかったのに...
まぁいいけど。
「ルル?」
「はい」
「...グレーテルも居るから大変だろうけど、よろしくね?」
「畏まりました。それと...マスター?」
「なに?」
「...頼っていただけて、ルルも嬉しいです」
「...ありがとう」
本当に、ルルも善い子だよ。
だから頼るよ? 信じるよ? それと、愛してるよ? 大切な家族だからね?
翌日から本格的に忙しく動いた。
まず、エルザに重責と言う名のお使いを頼み、メルとカイの両親へ書簡を届けさせる。
内容はもちろん、『領事館で働きませんか? でもその前に【オナイユの街】でカイとメルの結婚式をしようと思ってるんです!』みたいな感じ。
ちゃんと『日頃お世話になっております。ご連絡が遅れて申し訳ございません』的な事を書こうとしたら、エルミアに注意された。
『家臣の家族に対して謙虚な文章はいけません!』だってさー....
いいじゃん? 親友だと思ってるんだし? カイがゲッソリしてたから、《聖治癒》で体調を治しておいたし?
そのせいで、ファノメネルとカルアから怒られたけど。カイに死なれるとボクも困るんじゃよ! メルは逸材だから! カイが居ないとダメな子だから!
ちなみに、メルに渡した"魔科学導具"。
正式には"魔法具"なんだけど、"スフィア"と名付けた。展開すると球面体の代物が出現する。
コレは重用度と秘匿度が物凄く高い。
まず、ウィンドウが開くから紙はいらない。
そして、ボクが持つ知識を詰め込んだから辞書もいらない。
通信ができる。メールも出来ちゃう。
文字の入力も、もちろん可能。
印字された文章を読み取れちゃう。
簡単に説明しよう! パソコンと、イントラネットと、スキャナーの超上位互換品である、と!
ただし、我が王都内でしか使えない。
なぜなら! マリア達がそれを許さないからだ!
なにせ、オーバーテクノロジーだし?
大きさも親指大の白い魔宝石だから、白銀の腕輪に追加しただけだし?
ボクがみんなに配っちゃったし?
生徒も喜んでたし?
メルなんか、1日でマスターしたし?
あの子は有能だよぉ....カイがいないとダメな子だけど。
という訳で、王都内限定なのです。ボク以外はね~♪
なにせ神だし? 神が神を監視なんてできないし? この世界の"本当の禁忌"に触れなければ問題無いのじゃよ~♪
人造生命体と、事象改変とかの事やね。
あと、重要な内容はランク分けされて権限がないと見れない。
危ない内容も多いしね~。色々秘匿するんじゃよ~。
て訳で、エルザには"歩いて"【竜王国】の【王都ソーレトルーナ】~【エルヴィント帝国】の【オナイユの街】まで行って貰った。
大丈夫。駿馬で、片道累計13時間半で着くから。2~3日したら戻れるじゃろうて。
尚、《天使化》は禁止である。
完全武装は許可してあるけど、必要は無いかな?
仮にも元中位天使第五位の力天使だからね。強さは折紙付きだ。
ボク作成の黒い騎士服と、鋼鉄製偽装の白銀製の片手長剣があれば大抵の事はできるじゃろう。
まぁ素行の問題は残るから、マリアとフラウに片手間で監視させてる。
誰にも見えない目。"千里眼"とでも呼べばいいのかね?
悪行を行なうとフラウが飛んで行く。
神鉄金属製の蒼い死神の大鎌で斬られるそうだ。
オソロシヤー。
さて、他のみんなもそれぞれにやる事ができて嬉しそうだ。
ローゼとエリーとエルミアは、それぞれ警護団員のルイーゼ達と共に、ルル、グレーテル、ソフィアが"稽古"を付けてる。
剣術の達人であるローゼに必要ないんじゃないかな? なんて当初は思っていたけど、この機会に他の武器にも慣れたいんだって。
たしかに、ソフィアの槍術は強かったしね。
弓術士のエルミアとセリーヌは、近接格闘弓術をボクが教えた。
風の魔弓持ちのエルミアと、白銀製の長弓持ちのセリーヌ。
弓使いは、自分の必殺領域内から外れた相手に対してとても脆い。
特に矢が届かない相手とか、近づき過ぎた相手とか。
なので、武器の性能を活かし近接格闘しながら撃てる術を教えた。
まぁ、蹴撃を交えて、弓で払い、受け止め、射るだけなんだけどね。
セリーヌの場合は弦を切られるとどうしようもないから、白銀の糸に魔鉄金属コーティングしてある。
ほんのり黒い弦だね。矢も無尽蔵とは言えないけど、特注の魔法袋もどき"魔法筒"に万本単位で収納してある。
魔法鞄の上限が500キロ?
魔法袋の上限が100キロ?
そんなの作ったボクが決めてるんだから、いくらでも上限を上げられるに決まってるじゃないかー!
まぁ秘密だけどね~♪
家族達で、ローゼとか、エルミアとか、カルアとか、《魔法箱》を持ってない人にはあらかたあげた。
魔法袋を欲しがる人が多かったね~...小さいし。
もちろん、形は様々だ。
巾着袋みたいな物を元【ヤマヌイ国】民が欲しがったり、エリーはレッグポーチのままで良いそうだ。
色んな形で作った! 常識の範囲内で! ボクの常識だけど!
ちなみに....風の魔弓に宿っていた堕天使は、心を無くしていた。
考えられる理由はエルフの系図。
未知の存在である風の精霊王シルフの下にずっと居たから、堕天使の魂が浄化されたか、抜け落ちたのか...
シヴ達にも理由はわからなかった。
もちろん、ボクにも。賢者のはずなのに、なんでだろうね?
もしかしたら――精霊魔法を封印させられていたハイエルフの願いを、この子は叶える為に自我を失ってしまったのかもしれない。
本当の理由はわからないけど、ボクはそう思いたいな。
あと、エルミアとセリーヌの2人には、人を率いる為の戦術も勉強して貰ってる。
ローゼは前線指揮官として最強だけど、後衛から軍を率いる軍師は必要だから。
【イシュタル王国】から国民を募るし、【ヤマヌイ国】から朱花が何人か移民するだろうからね。部下なりなんなり必要だし?
なので、【竜王国】の建国宣言後、警護団員9名は騎士爵位を叙爵される。
複雑な顔をしてたけど、概ね喜んでた。
問題は、何故ボクの子供を欲しがるのか....
ボク、そんなにたいした人間じゃないよ?
傲慢で不遜だし。
あとは、家臣の薊達を正式に"暗部"へ任命。
今はローゼ達に混じって"稽古"してるけど、暗部筆頭? が、ノワールなんだって。
むしろ無理矢理そうさせられた。謎の色仕掛けで。
身体が治療されて治ったからって、アレはずるいよ! ノワールも引っ付くな!
おかげでローゼ達に怒られました。
人間って....欲深いよね....
フェリスは、オレリーお義母様に調教? 教育? されてたから無視で。
ボクの折檻を望むとか、どんだけ変態なんだよ....
光希と千影と天音の3人も、学校の教員として雇う事になった。
アーニャからの推薦もあったし。
朝、アーニャと散歩してたら突然やってきて、懇願されてしまった。
たった2日で随分馴染んだみたいだ。特に千影。
今じゃ、どこかの旅館の女将さんみたいになってる。
ちょっと色気を感じて、また怒られたんじゃよ。
生徒のアリエル達から受けもいいしね~。
なにせ、ヤマヌイ撫子な光希だし。
黒紅色の髪が好印象だそうだ。ボクに似てるって。
いや....表層の意識を思わず読んで驚愕したけどね。
嫁に出すつもりが、嫁に来るつもりだった!?
何を言っているかわからないかもしれないけれど、そういう事らしい。
ま、まぁ...花嫁修業もまだまだ時間があるし?
そ、疎遠になれば、ボクの事は忘れるだろうから....
そしてボクは忘れよう。彼女達の意識なんて読んでいないと!
アブリルは...怠惰なペットだからどうでもいいとして、ファノメネルは活き活きとしてた。
だって主神シヴに女神ウェヌスが着いているんだもの。
アレコレ雑務をしているだけなのに、やけにハイテンションでびっくりしたよ?
【聖騎士教会】用に用意した、若樹珠と老樹珠も大活躍で、【聖都アスティエール】と、【イシュタル王国】と、【カムーン王国】の各ギルドや教会に設置するのが大変だった。
もちろん、ボクは変装して。
成人男性姿の"黒衣の使者カルロ"。
そういう設定をファノメネルが考案し、蜃気楼の丸薬で姿を偽った。
なにせ《雷化》で、ひとっ飛びだからねぇ...
《建築創造》で簡単に設置できるし、雛型があるから《製作欲求》でいくらでも完全複製可能だ。
まぁ、各ギルドの要請状や、【聖騎士教会】の命令書を持参したのに胡散臭そうな対応をされたから、神々しい神気を発動させて跪かせたりしたけどね。
圧迫営業だ! でも、設置後に他所のギルド長と実際に会話できて、何もかも信じてたけどね~♪
【イシュタル王国】のブノワ司祭と、【エルヴィント帝国】のエリゼオ司教が知己だったみたいで長話してた。
【首都アクバラナ】も、政変が起きたばかりなのにそれほど混乱していなかったし。
ジスランさんのおかげかね? 無能宰相ヨゼフもがんばってたけど。
あ、オダンさんに変装はすぐばれた。
決め手は『匂い』なんだって。異常嗅覚かね? 希少な天狼族だし。
来た事は内緒にしてもらい、食料庫に物資を突っ込んで帰った。
海魚がここでも喜ばれたけど...【聖都アルティエール】と【エルフの里】以外は各国海に面しているのにね?
なんて思ってアスワンの記憶を辿ると、海抜5mを越えると、魔物や魔獣――海獣?――の領域だそうだ。
どうりで、手付かずな訳だ。塩湖も結構あるけど、海水から精製された白塩は結構高価だし。
そういえば、メリッサが生徒のドワーフ三姉妹を『弟子にしたい』とか言ってた。
長女のアトラ、次女のアダラ、三女のアンゲイア。
土竜がボクの身体を使って買い付けた元奴隷。
両親が亡くなって身売りしたんだよね...
減らせるといいな。そういう子。
なので、本人達の希望を聞いて、メリッサと応相談だね。
さてさて、ボクも忙しいけどみんなも忙しい。
そして約束は守らなければいけない。
出会ってから3日くらい経過したかな? 今日は木曜日。
やって来たよ? 【城塞都市アヌブルグ】!
【カムーン王国】軍はまだ駐屯してるし、都市は商人が多く活気付いてる。
ボクの王国も、いつかこれくらい活気が出るといいなぁ....なんて想いながら、ハリアーシュの屋敷前に着弾した。ボクが!
「こんにちはー!」
開口一番元気に挨拶!
おかしいな? 門番の兵士さん達から返事が無い。
アレかな? 《聖闘衣》で、白地にピンクを基調として、フリルをふんだんに使った"甘ロリ"姿が似合ってない!?
髪もエルミアに頼んで"ゆるふわ"に仕上げてみたんだけど!? 家族は大絶賛だったよ!?
「「「.....」」」
物凄く茫然としてる...ボクは一応...見た目、人間だよ?
魔物じゃないよ! 可愛いでしょ? ローゼと、エルミアと、光希が、『姫力が私には足りない』とか叫んでたくらいだよ?
ディアーヌが『私女王だし』みたいに勝ち誇って口喧嘩してたけど、アレくらいはいいのだ。
息抜きは必要なのじゃ。取っ組み合いじゃないから問題無いのじゃよ。
「まぁ、動かないならいいや。おっじゃましまーす!」
門を抜け~広い庭を抜け~屋敷の扉を開けてくださいな~♪
「...お兄様? たまにアホな事をするわよね?」
「なんだとぅ!!」
扉を開けたのはまさかのノワール。
長い白髪に赤い双眸。
ボクの"甘ロリ"に対抗してゴシックロリィタ。通称"ゴスロリ"の黒いワンピースドレス姿でそんな失礼な事を宣う。
「ボクのどこがアホなのさ!」
「《雷化》で突然降り落ちてきたら、誰だって驚くでしょう? 本当に可愛いんだから、私」
おぉぅ....そういう理由だったのか...
そういえば【カムーン王国】でそんな事をしないと決めたようなそうでもないような....
まぁどうでもいいのだ! ボクは神じゃからのぅ!
「でもって、こんにちは! ハリアーシュ!」
「...来て...くれたのか?」
「うん! 約束したからね! クローディアとも!」
嬉しくて震える壮年のハリアーシュ。
やっぱり血縁者の叔父だけあって、ティルとエメに似てる。
あとで王都にも行くから、エリーシャには話してあげよう。
ハリアーシュは悲しみに暮れる日々も終わり、『元気になったよ』って。
ハリアーシュの案内で2階の執務室へ。
ノワールは聖魔法に耐えられないから影へ戻った。
一応監視と護衛をしてくれている。
それがノワールの勤めなんだって。
どう考えても覗きしてるようにしか思えないけど。
以前と同じ様に本棚を弄くる。
そうして魔剣ソウルイーターを取り出し、ついでに挨拶。
中身がエルザと同じ堕天使なのに、コヤツは善い子なのだ。
悪いのは、ウェヌスだからね!
【カムーン王国】の宝物庫に魔剣ソウルイーターを封印し、閉じ込めていたから。
もちろん理由はコヤツの能力。
突き刺した相手の魂を維持し続ける事ができる。
すなわち、次代の神であるボクに何かあったとき、その力を使って"魂を封じ込めよう"と画策した訳だ。
人造生命体を器として用意すれば、ボクはある意味生き返るからね。
魂――幽体から神の種子を発芽させればいいだけだもの。
だけど、そうはならなかった。
ハリアーシュが幼い日、クローディアと遊んでいた頃。
当時18歳のハリアーシュは、14歳のクローディアと冗談半分で王城の宝物庫へ侵入した。
幼いの意味は、ハリアーシュの中身が臆病者で、小心者だったから。
それに、次代の剣聖として頭角を現していたブレンダの存在が発破を掛けていたのも事実。
だから大人が驚くくらいのイベントをクローディアが企画して、ハリアーシュが乗った。
それがまさかの事故を引き起こす。
魔剣ソウルイーターの封印を、事もあろうにハリアーシュが解いてしまったのだ。
理由は簡単。ハリアーシュが王族だったから。
"真実の鏡"と同様に、魔剣ソウルイーターに掛かっていた封印は、カムーンの名に連なる者しか解除できない。
そして右手を呪われ、助けようとしたクローディアが死んでしまった。
当時は本当に大騒ぎだったらしい。
なにせクローディアの本名は、クローディア・ル・メディス侯爵令嬢。
ハリアーシュの婚約者だったのだから。
まぁ...お転婆な女の子と、控えめな青年ってところかね?
もちろんカムーン王家もメディス侯爵家も、内乱を辞さないほどの大惨事。
だから、当時王位継承権第一位だったハリアーシュが実弟のエイブラハム・ア・カムーンに継承権を譲り、王家から追放処分になった。
でもそれは表向きの話で、喪に服し以前よりもさらに根暗になったハリアーシュを、メディス侯爵家も許す事にしたんだ。
だって...クローディアの葬儀の時、元第一王位継承権を有していたハリアーシュ王子が、見聞構わず赤子の様に泣き喚いたんだから。
葬儀は粛々と執り行なわれ、それから半年の間毎日ハリアーシュはクローディアの墓石に献花を続けた。
自分の手で愛する人の命を奪ってしまった。
後悔と焦燥感。罪悪と無力感。様々な想いが駆け巡り、最後に残ったのは王族としての意地。
永年の敵対国家である【イシュタル王国】との戦争で、身命を賭して散り去ろう。
そう心に誓い、【城塞都市アヌブルグ】の領主になった。
だけど、そんな事をブレンダも、エリーシャも、そしてなにより肉親のエイブラハム王が気付かないはずがないんだ。
だからハリアーシュを死なせない為に尽力した。
ただ――運の悪い事に約10年前。エイブラハム王は病気で崩御してしまった。実娘、エメの顔も見る事はなく。
だからエリーシャが全てを引き受け立ち上がった。
もちろん反発は多かった。
エリーシャの実家は公爵家で、王家に連なる血筋だ。
けれど亡きエイブラハム王には実兄が居る。
そう声高に声を上げ、ハリアーシュの王権への復帰を願った者も沢山居たんだ。
むしろ、未亡人のエリーシャをハリアーシュが娶るなんてバカな事を言う貴族も少なからず存在していて。
そこに割って入り、エリーシャを女王足る女王に押し上げたのが剣聖ブレンダ。
剣聖はどの貴族よりも強い発言権を有している。
なぜなら、内乱や反逆を目論む輩に鉄槌を下すのが本来の役割だから。
そして、ローゼが剣聖を辞めた理由でもある。
当時は内乱に次ぐ内乱で、【カムーン王国】は疲弊していた。
ローゼは各地を飛び回り、鎮圧し続けた。
男も女も、老人も子供も。
重税を課され、農具を武器に領主軍と戦った子供も居たらしい。
ボクがもしローゼの立場だったら、当の昔に逃げ出していた。
でも、ローゼは気丈にも頑張り続けた。
だけどとうとう限界が来て、剣聖の座を辞した。
エリーシャは、何も言わなかったんだって。
わかっていたから。でも、なにもしてあげられなくて。
必要だったんだ。王国を安定させる為にローゼの力が。
ボクはソレを読み、2人から聞いた。
ローゼもエリーシャも同じ事を言うんだ。
『辛かった』て。
だからボクも.....何も言わない。
ローゼとボクの出会いも必然で、ゼウスが描いた筋書き通りなのだから。
自動人形の仕上げに入りながら、そんな事が頭の中で流れていた。
失った身体。傷付いた心。ハリアーシュもクローディアも、ボクが巻き込んでしまった被害者なのかもしれない。
全ての根悪は当代のゼウスだけど、ボクがこの世界へ来る前に自殺していれば、この世界は違った運命を辿っていたんじゃないだろうか?
時間軸のずれた世界。
この世界は、お父様とお母様が亡くなる少し前にゼウスが創り出した新造の世界なんだ。
だから、言語や知識の混濁。
ボクが居た世界の歴史が複雑に混ざり合っている。
そして、"未知"を発見したゼウスがお父様とお母様を殺した。
次代の後釜として。
「...お兄様は本当にアホでバカね? そんな顔して」
影から頭だけ覗かせ、ノワールが慰める。
ボクだってわかってる。ボクのせいじゃないって事くらい。
だけど、そう考えてしまうんだ。
もしもボクが居なければって。
「わかってるよ」
「ええそうね? 回り始めていた歯車を、私達は止めたの。だけど、その間の出来事はどうにもできないのよ?」
「だからこうして動いてる」
「そうね? 私達の歯車を回しているの。まだ回り始めたばかりだけれどね?」
「うん....」
「だから今は泣いてはダメよ? たとえ用意された必然でも、お兄様は愛しているのでしょう?」
「当たり前だよ。ボクは心から彼女達を愛している。もちろん、自分自身――ノワールの事もね」
「それならいいのよ。だから泣かないで? 私はそんな顔を見たくないわ」
這い出た手で涙を拭われ、ギュッと抱き締められる。
やっぱりノワールはお母様みたいな母性を宿していると思う。
だってこんなにも安心するんだもん。
「...ありがとう。ノワール」
「いいのよ? お兄様。早く逢わせてあげて? 彼女も、そう望んでいるのだもの」
「うん」
急ぎ自動人形を完成させる。
駆動部、可動部、間接部。
動力から支脚へ到るまで伸びる各種チューブ状の管。
そんなアンドロイド的な要素は一切無い。
ただの人型の鉄人形。材料は白銀だけど。
だって鉄とか普通の金属だと重いし?
床が抜けるとかヤバイし?
日光浴すると高熱を宿すとか問題だし?
なるべく人に近い生活ができないと不味いし?
だけど、見た目は亡くなった当時のクローディアだと問題だらけなので、面影を強く残した女性の姿。
25歳くらいに設定したけど、もしかしたら童顔かも?
まぁその辺は年単位で再整形しに来るからいいか。
なにせ歳を取らないとか、方々から問題視されるからね。
「よし! 完成! 魔剣君? いくよ!」
「お任せ下さいませ! マイマスター!」
忠実な僕、魔剣ソウルイーター。
中身は、中位天使第五位の力天使で、堕天し"アガレス"と呼ばれた。
色白の老人姿でクロコダイルに跨り、拳に大鷹を乗せているとか。
留まるものを動かし、逃げ去るものを引き戻す――この辺が霊体を留めている力?――とか。
エルザと同じく、ソロモン王に封印された72柱の悪魔の一人とか。
ものすごーくヤバイ子なんだけど、実に善い子だったりする。
なので、他の『俺様がー』な魔武器は永遠に死蔵させ、この子は受胎させるつもりだ。
ただ――なんか普通の堕天使じゃないんだよね?
なんだろう? 聖魔混合とでも言うのかな?
どちらにも属し、どちらにも属さない。そんな感じ。
なので、受胎は大変かもしれない。
今回の件で、魔剣ソウルイーター君はボクの物になる。
尚、ルル達全員の総意だけど、ノワールが怖いらしい。
なにせ魔神だからねぇ....
魔王と呼ばれたサタンとか、ルシファーとか?
そんな存在の遥かに上の存在だし....そりゃ怖いよ。
当然同格の存在のボクもなんだけど、妙に懐かれている。
ま、太陽神アポロンだもの! 前代のアポロンの数億倍は強いけどね! なにせ未知の存在"風竜王ウイーヴル"と、ねぼすけ"土竜王クエレブレ"の契約者だからね~♪
理を操れるゼウスですら、今のボクは倒せる...はずなのだ!
「我が愛しき蛹達。血となり肉となり、我に力を示せ。《不死乃土塊》」
いまや不要な呪文詠唱も、建前として言ってみたり。
白銀製の人形がうねってるのを見ていたり。
ようするに! 娯楽だ!
「おっはよー! クローディア!」
「ほ、本当に....私.....」
どこかの王女を彷彿とさせる、クラシカルなドレス姿の女性。
赤地に黒を基調として、全体的に大人し目に縫製してみました。
黄橡色の髪に、白い肌。
胸は、本人の希望によりちょっと大きい。理由はわからん!
一応建前上は、ボクが紹介した没落貴族の令嬢。
傷心のハリアーシュを慰める為に、お家再興を存在しない両親が望んでいて、娘を差し出した。という設定!
しかも、後ろ盾は【聖騎士教会】だ!
ハイテンションなファノメネルに相談したら、なんでもかんでもやってくれた!
やるな...主神シヴよ....ファノメネルが、すっかり骨抜きではないか....
まぁ、ボクの子供を欲しがってるものなんとかしておくれ?
カルアが治療中に、見た事もない青筋立てて嗤っていたんじゃよ!
やっぱりカルアもエルミアの血縁者だね....超コワカッタ!
「ほら! 扉を開けて、ご対面だー!」
ババーンと扉を開ければ、そこにハリアーシュの姿が。
もちろん、人形の原型なんて見せてはいない。
だって感動の再会をしたいじゃん?
クローディアも(それだけはイヤ!)って言ってたし?
恥じらいじゃのぅ....うちの家族ももう少し恥じらいを....まぁいいか。
「クローディア...なのか....」
「ハリアーシュのバカ! 私がわかんないの!?」
「ああ....クローディア....すまない...我は....我は...ずっと.....」
「知ってるわよ! もう! ずっとみて...た...ん...だか...ら...ね...」
強気から一転可愛らしくハリアーシュに抱かれたクローディア。
なんかエリーに似てるなぁ...なんて、ボーっと見てた。
いや~良いのぅ♪ 若いのぅ♪ 子供は生せぬが、やっぱり良いのぅ♪
じゃがの?
この"もうひとつの隠し戸棚"の中身を、クローディアも知っておるのじゃぞ?
着古した服に、櫛や化粧道具。
亡きクローディアの遺品だけど、ハリアーシュは"ナニに使った"んじゃろうのぅ?
劣情をもよおすのも良いが、目合ひはできぬのじゃよ?
「まぁ、肉体は限りなく人間に近いから、食事もできるし問題ないかな? 排泄はできないけど。
それと....まぁ....アレの仕方は色々あるし? 愛を確かめ合えばいいんじゃないかな?」
「ちょっと!? それを今言うの!?」
「なん...だと....」
「だって柔らかいじゃん? 肌とか」
人形達もそうだしね~。
「ば、ばっかじゃないの!? そ、そんにゃこと...」
「い、いい、いいのか!?」
「いいんじゃない? 2人は婚約者だったんだし? それと名前は偽名にしようね? "ディア"でいいんじゃない? 愛称みたいでさ」
ハリアーシュは38歳のくせに初心じゃのぅ。
良いのじゃよ? クローディアも満更じゃないし。
という訳で、あとは若い2人に任せ――ボクが一番若いんだけどね――【城塞都市アヌブルグ】を立ち去った。
いくつかクローディアの服を見繕って【聖騎士教会】の後ろ盾云々の話もしておいた。
物凄く感謝されたけど、なにその仲睦まじい姿。
《浄化》でハリアーシュの右腕を治療した時なんて、『コレは私の!』みたいに胸を押し付けて.....
取らないから! いらないから! 間に合ってますから! そもそも同性ですから!
まぁ..."仲良き事は美しきかな"....って事にして、またね~♪




