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第二百六十一話 葛藤


 夕食も食べた! ルル達に武具も授けた! クロ達幼竜も遊び疲れ――疲れるはずはないけど――第二防壁内に巣作りを始めた。

 ま、広いし果樹園を傷付けないから大丈夫だろう。

 迎賓館と、警護団詰め所の近くには作らないように言ってあるからいいのじゃ!


 そして夜である。


 しかし眠くない。なにせ神が寝る必要など無いのだから。

 でもさ? 寝れるなら寝たいじゃん?

 食事が不要でも、空腹は感じるよ? 元々人間(ヒューム)だし食べたいじゃん?

 と言う訳で、宮殿の西棟に造った露天風呂を満喫するんじゃよ!

 欲深き人間(ヒューム)だからね~♪

 自分が作った物だから贅沢じゃないよね~♪

 贅沢とは! 何も労せずに怠惰な生活をする事を指しているんじゃよ~。

 ようするに、アブリルやね?

 ネコだし?


「おっふろ~♪ おっふろ~♪」


 《聖闘衣(セントプグナクロス)》で作成した白いワンピースドレスを脱ぎ捨て――正確には解除して消えた――、掛け湯からの浴槽へドボン!

 集めに集めた魔宝石を駆使したおかげで、いつでも入れる最高の環境。

 サウナもあるし熱帯地域で生息している観葉植物も植えてある。

 明日にでも、宮殿を更に王国らしく造り変えないとね~♪

 いや、宮殿はそのままに王宮を造るか!

 うんうん! それがいい! せっかく宮殿を造ったんだしねぇ♪


「フフフ...カオルきゅん、み~っけ」

「やっぱりここに居たのね! 私にはお見通しなんだからね!」

「カオルちゃ~ん♪ おねぇちゃんも入る~♪」

「カオル様? お背中お流しします」

「ご、ご主人様! め、メイドの勤めを」

「アイナも! アイナも!」

「いやぁ...なんだいこりゃ...すごいさねぇ...」

「私も入るにゃ!」

「げ、猊下!? い、いい、いけません!」

「あら? ファノメネルはそう言いながら服を脱いでるじゃない?」

「シヴ様!?」

「本当に良い場所よねぇ~♪」


 ガラガラっと引き戸を開けて、全裸の美女軍団が。


 『せめてタオルで隠してよ!』『湯浴み着も用意してあるのに!』

 なんて、当初は思っていました。

 もうとっくに慣れたんじゃよ? アレじゃよ。デッサンの裸婦を見てると思えばいいんじゃよ。

 ここはお風呂であって、寝室じゃないから。

 "そういう気分"に成らないんじゃよ。

 そもそも、ボクはまだ性欲に目覚めて無いし?

 興味はあるけど、子供だし?

 ノワールに見透かされて悔しかったし?

 そのうち子供もできるさー。


「ぬっくぬくだー!」


 浴槽は広い! なにせ大人数を想定して造ってあるからね~♪

 学生寮の温水プール並なんじゃよ~♪

 だからこうして"大"の字で浮かんでいても問題はないのだ。

 髪が重く感じるけど、そのうちまた慣れるさ~。

 元々ボクの髪は長かったんだから。


「フヒッ! カオルきゅん可愛い...」

「も、もう! ちょ、ちょっとは隠しなさいよね...」

「おねぇちゃんもプカプカ~♪」

「では、カルア姉様と同じ様に私も...」


 ローゼ達が何か言ってるけど無視するのじゃ~♪

 近づいて来たら《(ヴィント)障壁(オーヴィス)》で防ぐのじゃ~♪

 それにしても、メリッサまで一緒に入浴するとは...

 ドワーフってもっと毛深いと思ってたけど、髪だけなんだねぇ~。

 性別で差はあるだろうけど。

 なにせヴェストリ外務卿とか? 懐かしき――5ヶ月くらい前かな?――シルさんとかレギン親方とかは、立派な顎鬚を蓄えていたもんね~。

 あー...シルさんとレギン親方にもご協力を頼まねば~...

 【エルヴィント帝国】の軍事力向上の為にも必要なんじゃよね~...木目模様(ダマスカス)鋼が。

 ま、近いからバビュっと飛べばいいかな~♪

 ついでにメルとカイのご両親にも会いたいし?

 なにせ、家令と家令補佐から、宰相と宰相補佐に格上げされちゃうからね~♪

 むしろボクの国に引き入れて、帝都にある屋敷を"領事館"にしちゃおうかな~♪

 ご両親にそこを任せれば、メルとカイも喜ぶだろうし?

 何より肉親なんだもん、意思疎通は簡単だし好ましい状況だよね~♪

 うんうん、そうしようそうしよう♪


「なんだかカオルが嬉しそうにゃ!」

「そうね...アレじゃないかしら?」

「あらあら~? 男性独りだからかしらねぇ?」

「か、カオルさんがそんな俗物的な事を! そ、そもそもまだ12歳の子供ですし...」


 駄女神(ダメガミ)と教皇&枢機卿がなんか言ってるぞー?

 当然無視だー!


「ご主人!」

「ん~?」

「ぷかぷか」

「そうだね~...プッカプカだねぇ...」


 ボクの"認識外"から近づいて来たアイナ。

 やっぱりアルテミスの末裔は侮れないねぇ~...

 まぁ...とりあえず、浮いておこう...

 アイナもプカプカだしねぇ~...


「さて、フラン~? 身体洗って~?」

「おまかせくだしゃい!」

「あはは♪ 可愛いね? フラン」

「ハワワワワワ」


 初めてじゃないくせに、何を慌ててるんだか。

 そんなフランを虐めたくなっちゃうボクもボクだけどね。


「...オイ? カオル? なぜ私じゃないんだ!」

「ローゼはだめー」

「なんでだ!?」

「こんな未成熟の身体に欲情してるから」

「ち、チガ――ッ」

「ブッブー! 思考なんて読めてるんだよ~? だいたい、なんでこんな....エッ? ボク...成長しない、の?」


 ローゼの記憶。その末端に、ボクへの欲情から一変して、身体が成長しない事が判明した。

 忘れもしない【オナイユの街】での出来事。

 正確には【エルヴィント帝国】と【聖騎士教会】の合同遠征軍だ。

 当時のボクが持て得る全ての死力を尽くし、やっとの思いで倒した中級の火属性竜"ドラゴン"。

 駐屯地は焼かれ、エリーが死に掛けていた。

 だからボクは風竜の力を借りて、"生命力を魔力に変換"させエリーを救った。

 その結果ボクは深い眠りに着いて...ある種の仮死状態になったんだけど....


「霊薬エリクシールに、ローゼの血を混ぜて飲ませた...?」

「あ、アレは私達のせいじゃないぞ! 風竜がそうしろと言ったんだ!」

「おねぇちゃんは止める隙もなかったのよ~」

「私は...何も出来なくて、カオルに救って貰ったから...」

「...."風竜王ウイーヴル"様は、カオル様に精霊の力を増幅させたかったのだと思います。

 鎮魂歌(レクイエム)に、歓喜の歌。カオル様は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、私は確かに見ました。舞い踊る大勢の精霊達を」


 因果の外に居るはずの風竜が何でそんな事を...

 いや、風竜との出会いは必然だった。

 ゼウスが書いた筋書き通り。


 それに――風竜の肉体はどこにある?


 出会った時からエーテル体だった。

 まさか、"偽りの竜王"達が関係している?


「ロキ! シヴ! ウェヌス! 風竜王ヴイーヴルは"どこに居る"!?」


 この中で知り得た場所に居たであろう神物。

 だけど誰も答えを知らなかった。

 風竜から送られた手紙には、『次元の狭間』と記載されていた。

 言葉通り、三千大千世界の隙間なんだろう。

 でもそれはボクが知る風竜であって、肉体ではない。

 人外なんて物じゃない、ゼウスですら求めた未知の存在なんだ。

 軽々しく死ぬなんて事はありえない。

 "偽りの竜王"達だって、身体を乗っ取り精神を支配まではできていないはず。


 まさか....見付からなかった2冊の魔導書が関係している?


 "嫉妬"と"憤怒"。

 なるほど....土竜とルルが言っていた、『リヴァイアサンは、ヴイーヴルを愛している』という言葉は辻褄が合う。

 時の回廊(ゲート)が開くまで、あと1年...いや11ヶ月か。

 まずは攻略してやろう。

 "偽りの火竜王バハムート"。"憤怒の悪魔サタン"、か。




















 月夜の晩に、第二防壁内に存在する迎賓館へ1人の小さな影が侵入していた。

 歩哨のごとく、館内を足音も立てずに歩く人形(ドール)達。

 有能な彼女達も侵入者に気付いていたが、敢えて警戒行動を起こさない。


 なぜなら――侵入者がボクだからだ!


 ボクはあの子達にとって、"(マイ)(ロード)"だものね♪

 ま、そんな冗談はさて置いて、薊達の部屋へ突撃だー!


「ババーン! ボク登場!」

「カオル様? 気付いておりましたが?」

「はい。気配が丸わかりでした...」

「そもそも隠す気がなかったのかと...」

「むしろあの人形(ドール)と呼ばれる女中達の方が恐ろしいです...」

「足音まったくしないんですよ? しかも相当な手練れです」


 なんとまぁ起きてた!? 知ってたけど!!


「ああ、人形(ドール)はボクの知識を与えて作ったからね~♪ そこそこ強いよ~♪」

「そうなのですね!?」

「やはり...カオル様はお強い....」

「まぁそんな事はどうでもいいから、約束通り治療をしに来たんだよ?」


 こんな夜更けになったけどね!

 ローゼ達が中々寝てくれないから...

 部屋の扉も窓も壊れたままだし...

 賠償請求しなければいけないとボクは思う!


「あの...カオル様? 本当に治療可能...なのでしょうか?」

「うんうん。人体の欠損とか余裕で修復可能だよ~♪ 一緒に【カムーン王国】から飛んできた、フェリスを見たでしょ?」

「はい。えーっと...侍女と呼ばれる方...ですね?」

「そうそう。あの子はね? 【アルバシュタイン公国】の戦乱で、逃げる途中に大怪我を負ったんだ。それも片目や、胸。腕なんかも失ってしまってね。もしもボクと出会わなければ...今頃は死んでいただろうね...」


 『彼女は幸運だった』としか言い様がない。

 もしもあの時、ボクが登校ルートを変えていなかったら?

 彼女とは出会わなかっただろう。

 もしもあの時、ボクが《聖治癒(リブリサナティオ)》を覚えていなかったら?

 最悪、唯一保険に残していた霊薬エリクシールを使わなければいけなかった。

 でも、彼女は救われた。

 強運だったんじゃないかと、ボクは思うよ。


「あんなに美しい人間(ヒューム)の方が...」

「ん~...美しいとかさ? 個人によって価値観は違うと思うから、ボクはなんとも言えないかな」


 特に、ボクの周りは美人さんが多いからね♪

 美形と判断するなら――ローゼを筆頭にエルミアとかカルアとか。

 可愛いと判断するなら――エリーとかフランとかアイナとか? アーニャも可愛いし♪

 ま、ボクが優柔不断なだけかもしれないけど!


「って訳で、治療するから....脱いで?」


 何を隠そう、迎賓館へボクが独りで忍び込んだ理由がソレだ!

 女性を剥いたとかバレたら、またローゼ達が五月蝿いしね?

 もう簀巻きは嫌なんじゃよ...


「...わかり、ました」


 忍者の忍び装束を脱ぎ始めた薊達。

 鎖帷子を脱ぐ時、一瞬躊躇いを見せたその理由。

 それは――本当に痛々しい姿だったから。


 削ぎ落とされた胸。

 歪に浮き出た全身の血管。

 そして、鼻も口も火傷の痕の様に爛れていて、聞けば『変装するのに的しているから』だって。


「お目汚しを....申し訳ございません」

「いいや、悪いのは薊達じゃないから。それに醜いなんて思わない。立派だと思うよ」


 頬に、肩に触れればビクッと怯える。

 拒絶される事を恐れた。

 だけど大丈夫。

 ボクは"その程度"で薊達を嫌いになんてならないからね。


「....目を、閉じて。ボクに全てを委ねるんだ。心配しないで? ボクは薊も、香澄も、小夏も、早苗も、柚も、受け入れると誓ったんだ」

「「「「「御意に」」」」」


 ああ...ボクはやっぱり傲慢だ。

 彼女達の存在が【ヤマヌイ国】を支えて来たんだってわかってるのに、全然許そうと思えない。

 国主も、風牙衆の長も、ボクにとっては仇に思える。

 だって、彼女達は....泣いているんだから。


「《聖治癒(リブリサナティオ)》」


 激しい光と風が怒る。

 目を開いて居られない程の光源と、密室内で荒れ狂う暴風。

 ボクの怒りの感情に、魔力が反応して暴れている。


 まだ、居るんだ。


 薊に寄れば、朱花は総勢40名近い。

 歳若い子から、老年の老婆まで。

 自身が醜いと思う身体を持つ女性がこんなにも大勢。


「...もういいよ? 目を開けてごらん? みんなの身体は元に戻った。だから、これからはその身体で強さを求めて」


 ボクはそう言い残し部屋を去った。

 後から聞こえた歓喜の叫びと涙声に、『ボクは間違っていない』と心で呟いた。




















「ああ!! 本当にモヤモヤするっ!!」


 宮殿や学校からも遠く、第三防壁内の海側。

 今はまだ更地ですらないただの原っぱで、ボクは大暴れしていた。


 拳打の<早打ち>から、急速循環させた気功――<練気拳(れんきけん)>――を放つ。

 振り向き様に<六禍閃(ろっかせん)>の6連撃を決め、仕上げとばかりに<破甲拳(はこうけん)>を大岩へ。

 爆散して吹き飛んだ石の礫へ、さらに空圧の<徒手空拳(としゅくうけん)>。

 空気の断層すらも圧し込み一瞬空間が歪む。


 だけどボクは止まらない。


 《魔法箱(アイテムボックス)》から白銀(ミスリル)のインゴットを取り出し、適当な槍を思い浮かべ《製作欲求(フォルマクピディタース)》で作り出す。

 出来た槍は突槍(パルチザン)。飾り気の無い単純な物。

 そうして今度は槍術を使い、ウサを晴らして自己満足に浸る。


 千影が使っていた<五月雨突き>からの<なぎ払い>。

 そのまま叩き下ろし、突き、抉る<無双三段(むそうさんだん)>へ移行させ、トドメに奥義<双龍破(そうりゅうは)>。

 イーナが言っていた『槍に気竜を宿せる』とはコレの事。

 蛇に似たまさしく龍が黄金色に輝き天へ昇る。

 魔術師以外の達人が使うに相応しい奥義だろう。


「でもボクの気は晴れん!!」


 今度は等身大の棍棒を作り、<回転撃><脳天割り><骨砕き>の三大棍棒術を行使する。

 叩き上げと叩き下ろしの<回転撃>に、頭をかち割る<脳天割り>。

 <骨砕き>はただの打撃技だ!


「はぁ...やっぱり"こっち"が性に合うよ...」


 棍棒をインゴットに戻し《魔法箱(アイテムボックス)》へ。

 そうして一剣一刀を左腰に帯びた。


 重さを感じさせない薄い露草(つゆくさ)色の曇り1つ無い剣身に、豪華な装飾の施された鍔や柄頭。

 交差させた紅漆(あかうるし)打刀(うちがたな)(こしら)えの打刀。

 他でもない"聖剣デュランダル"と、風竜から贈られた"桜花"だ。


「シッ!」


 神速の抜刀術を以って引き抜かれた銀線。

 空気が悲鳴を上げる事すら許されない速度で、ボクの右手に桜花が握られている。

 かと思えば、逆手でデュランダルを引き抜き、《速度強化(ウェーローキタース)》の恩恵を感じる。

 軽い身体――元々軽いけど! ちっこいし!――に神速の速度。

 目にも留まらぬ剣刀武術の連撃。

 読んで字のごとく<雷斬り>という技。雷速よりも速いボクに、何の価値もなかった。

 そして、<雷鳴剣>も同様。音が聞こえた瞬間に何物も両断できるとか、それはそれなりの武器があって初めてできる技だと思う。

 <十文字斬り><飛水断ち><龍尾返し>....


 どれもこれも、普通に使ってた。

 ローゼが名前を知らなかっただけで!


 天高く跳躍し、重力を利用して攻撃する<飛鳥(あすか)>。相手がその間に逃げたらどうするの?

 <残像剣>とか、遅いよ! 普通に攻撃しようよ!? その方がよっぽど速いよ!?

 <鏡心(きょうしん)>とか、居合いの格好で固まってカウンターするの? さっさと攻撃しようよ!

 <(やなぎ)>も、<天心(てんしん)>も、<木の葉返し>も! 全部対人技じゃん!

 魔物や魔獣とどう戦えと!? バカなの? 死ぬの?

 ちなみに、高速の抜刀術が<紫電之太刀(しでんのたち)>なんだって。雷速じゃないんだ? 光速じゃないんだ? 紫電なのに?

 まぁ...使えそうなのもそれなりにあるけど...対人に赴きを起きすぎてるんじゃないかな?

 ほとんどの流派の開祖が【ヤマヌイ国】人だもんね...そんな気はしてたよ...


 ひと通り試し、溜息を吐く。

 シヴがこの手の気闘術? に詳しかったらしく、記憶を盗んで覚えた。

 もちろん、エーファとイーナにも感謝だ。

 ローゼはチョップしたからもういい。

 後はコレを纏めて警護団のみんなとかにも教えないと...

 もちろん、"対人用に"だけどね。

 そこらへんの魔物や魔獣相手なら問題ないと思う。

 元々【聖騎士教会】所属の聖騎士だし、ヘルナ達は中級と言われる第二級冒険者だ。

 せめて得意な武器で今のローゼくらい強くなってもらわないと....


「そうは思わない? ヘルナ」

「いや、突然『そうは思わない?』とか言われても」

「ちゅうか、ものごっつぅ強いな...当主様は....」

「せやね。決闘の時はやっぱ手加減されとったんやね」

「...格闘術、教えて」


 定期巡回中だったのだろうヘルナ達アマゾネス組。

 聞けば、大岩を砕いた辺りで異変に気付き、天に龍が昇るところから見ていたんだって。

 ボクもとっくに気付いていたけど、ムシャクシャしてたからいいんだ。

 "間違っていない"と思うけど、一国の王に成る為には、薊達みたいな事も必要なんだろうか?


 ボクは――そんな国を造りたくない。


 『理想論だ』なんて百も承知だ。

 それでもボクは望んでしまう。

 誰も傷付かない王国を。


「ヨシ! ちょっと"稽古"してあげる。まずはサラ! 格闘術だったね?」

「...お願いします」

「うん! よろしくね!」


 お互いに武器を外し――ボクは《魔法箱(アイテムボックス)》へ仕舞い、サラは格闘剣(ジャマダハル)をヘルナに預けた――立ち合う。

 着ていた白いワンピースドレスから、サラの前でサラサラっと《聖闘衣(セントプグナクロス)》で"中華ロリ"服へ変身。

 チャイナドレスの生地にロリィタファッションを取り入れた"中華ロリ"。

 ボクが着ているのは、白生地のジャケットっぽいチャイナ服に、黒いレーススカート姿。

 ヒール無しのパンプスを履いて、ちょっとオシャレな拳法家をイメージしてみた!

 上品で清楚な優雅さを持つのじゃよ!


「またけったいな魔法をつこうてからに...」

「でもちょっと可愛い...」

「そやねぇ...」


 ヘルナ達にも好印象だ♪


「それじゃやろうか?」

「待って! 篭手(ガントレット)...」

「ああ、"そのまま"でいいよ♪」


 なにせ、ボクの身体は《多重(マルチプル)障壁(オーヴィス)》で覆われているからね♪

 常時もできるけど、そうするとローゼ達に触れる感触が...

 やましいんじゃなくて、寂しがり屋なだけだ!


「じゃ...行くねっ!」

「っ!?」


 認識出来ない速度で放つ<早打ち>。

 ボクは先の先を行く戦い方だから、相手の動きの先を行くのだ!


「今は寸止めしてるけど、慣れて来たら打ち抜くからね?」

「うん...はい!」


 その後、ありとあらゆる角度から連撃・乱撃をサラに浴びせ、闘志が続く限り拳打に蹴撃を繰り返す。

 もちろん最初は寸止めで、やがて目が慣れて来た頃からガードの上を打ち抜いた。

 後ずさり、吹き飛ばされ、泥と汗に塗れても、サラは決して挫けない。

 近距離からの<寸勁(すんこう)>。

 遠距離からの<徒手空拳(としゅくうけん)>。

 身長的にボクの方が低いから、さぞサラは悔しく思っただろう。

 なにせ、手足の長さが違うという事は、間合いの広さに直結する。

 全ての武術に言える事だけど、それぞれ一長一短あるんだよ?

 そろそろ気付いてい欲しいな。


「...はい。今日はここまで」

「あ、ありがとうございました」

「どういたしまして♪ 速度に目は慣れたみたいだね?」

「はい」

「じゃぁ、今度はもう一段階速度をあげようか♪」

「「「はっ!?」」」

「いや...今の、10段階中の3くらいだよ?」


 何を驚いているんだか。

 まだ高速ですらないよ?


「えげつないなぁ...ホンマ」

「でもさ? やっぱかっこええわぁ...」

「ちょっとイザベラ? 不敬になるわよ!」

「わかってるんやけどねぇ...」


 その想いはやめておくれ? 尊敬だけでいいんじゃよ?


「....ご当主様」

「なに?」

「強く成ったら、胸大きくなる?」


 物凄く真剣な眼差しで聞かれた。

 昨夜もそんな事を言っていたけど...エリーといい、サラといい...そんなに胸が重要か!?


「ん~...強さに胸の大きさは関係ないけど....夜間の巡回とかさせてるし、不規則な生活は身体の発育にはよくないからなぁ....

 どれ、サラ? 後ろ向いてくれる?」

「?」

「ほいっと!」


 (スケイル)(アーマー)の肩袖口から、スルっと手を入れ背中の中心。

 身柱(しんちゅう)を押してみる。

 首の付け根の出っ張ったところから、背骨へ窪み3つ目。

 正直効果があるかわからなかったけど、魔力を注ぐとあら不思議、ちょっと胸が大きくなった。


「うそやん!?」

「まじで!?」

「ありえへん!」


 いや、ボクも『ありえへん』と思う。

 だけど、実際できちゃった!

 ツボってすごいねぇ...魔力のせいだと思うけど。


「これが...胸....」

「そうだねぇ...2カップはサイズアップかな?」


 実際に揉んでみて計った。

 確かにAAからC....いやBプラスってところかな?

 アンダーとトップ差が14cmいくかどうか...まぁ16歳だし平均的じゃないかな?


「と、当主様!?」

「揉んどる...むっちゃ揉んでるで!?」

「うちのも揉んで!」

「ご当主様!? 何してるんですか!!」

「ん? 胸のサイズ計ってた。エ? もしかして、12歳の子供に胸を揉まれて恥ずかしいとか言うの?」


 フフン♪ 子供は何をしても怒られないんじゃよ~♪


「まぁ、サラはもう少し大きくなるかもね? 垂れない様にバストアップとキープを続けるといいんじゃよ!」

「は、はい! ありがとうございます!」

「うんうん。さて、ヘルナと、アガータと、イザベラは、3人一緒に"稽古"してあげるね?」


 記憶を消すくらいにね!


「「「ひぃ!?」」」

「にーがーすーかーー!!」


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