第二百六十話 守護勇士
「終わった終わった♪ ごっはん♪ ごっはん♪」
夕刻も過ぎ、晩御飯時。
ひと仕事を終えたボクは、陽気な気分で宮殿の食堂へ向かった。
「あな...たが...香月カオル様...」
「主君...」
「漆黒...髪....」
椅子から立ち上がり茫然とする3人。
遠く【ヤマヌイ国】からボクに会う為に出国し、【イシュタル王国】の政変を見届けた人物。
そして、一応メリッサを引き入れるのに尽力してくれた。
「ん? ああ、そうか。この姿では初めましてだね♪ では改めて。ようこそ! ボクの領地へ! ボクの名前は香月カオル。ここの領主だよ♪」
「ご主人様? もう少し威厳を発揮していただきませんと...」
「う~ん...ちょっとひと仕事終えた後でさ? 肩の荷が下りた感じなんだ♪ だから許して欲しいな~? なんて♪ ダメかな? オレリーお義母様?」
「まったく、仕方がありませんね」
なんとなく抱き付いてみたら許して貰えた!
可愛いって特だよねぇ♪
「それにしても...人多いね!」
宮殿の1階に在る食堂。
領民に家臣全員を招くだけの大きさはないけど、それでも50人程度は入れる。
なのに、ローゼ達家族と、メイドの4人。教皇アブリルにファノメネル。
駄女神はどうでもいいとして、新規家臣団のルル達守護勇士が加わり、メリッサと光希達と、くノ一含めて9名が参加。
給仕の人形も居るから、総勢――いっぱいやね?
「ご主人様の"客人"として対応したのですが、いけなかったでしょうか?」
「うぅん。夕食くらい一緒に食べた方がいいもんね♪ 大丈夫だよ。オレリーお義母様」
ボクを思い遣っての行為だから、嫌なんて事は無いんだよ。
ただ、『人が増えたなぁ』って思っただけだから。
『初めは小さな一雫。ソレも沫と成りて消え行くだろう。
それでも雫はやがて溜まり、池へ川へ流れ行く。
人の波はソレに乗り、いつかは大河を渡って行く。
大海原の真ん中で、気付けば仲間が大勢に。
そうして皆で笑い合い、ひとつの国が築かれる』
....昔、お父様が読んでくれた本に、そう書いてあった。
最初は風竜とローゼと出会い。次にカルアとエリーと出会った。
死に掛けたボクへ、エルミアが霊薬を運んでくれた。
色々な出会いがあって、沢山支えられてボクは今を生きてる。
救えなかった命。
今この瞬間にもそれはある。
だけど、ボクの掌は小さいから、受け止めきれずに零れてしまう。
それも...みんなが居れば、いつの日か無くす事ができるのかな。
「大丈夫ですか? ご主人様?」
「ん? うん、ちょっとボーっとしてただけだから平気。ごはん食べたい!」
「いえ、その前にあちらの方を...」
オレリーお義母様に代わってボクの心配をしてくれたフラン。
『あちらの方』って誰? なんて思わずともわかっているさー。
光希と、千影と、天音の3人だね?
「それで、三つ指ついてどうしたの?」
「香月カオル様にお願いしたき儀がございます」
「輿入れの件は、婚約者を交えてじゃないと無理だから」
「...それでも、どうか! どうかお願いできないでしょうか?」
くだらない寸劇。
ローゼ達も食事の手を止めて耳を傾けてる。
凡その予想は着いていたんだろう。
ボクが連れてきたんだからね。
「説明しないとわからないなら教えて上げる。薊? おいで」
「....ハッ!」
一瞬迷った薊。
他の香澄達くノ一も、壁際に控えて傅いていた。
「風牙衆の朱花。彼女達の身体の事を、光希は知っていたんだよね?」
「....はい」
「それは"いつ"知ったの?」
「...共に旅を始めた時でございます」
嘘は言ってない。
だって、ボクは相手の思考が読めるから。
即ち心が読めるんだよ。
「なんとも思わなかった?」
「...それが精鋭足る草の宿命だと」
「嘘を言うなよ。今『どうにかしたい。だけど私にはできない』そう、思っただろ」
「それ...は....」
「ボクは"そうやって嘘を吐く"人間が嫌いだ。本音を隠し、"逆らえないからと逃げる"人間がね。
まるで"あの時のボク"を見ているようだよ。大好きなお父様とお母様が殺され、自分の全てに嘘を吐いて逃げていた。あの時のボクと今の光希は同じだ」
"あの世界"で、お父様とお母様が殺された理由もゼウスだ。
自分の後釜にお父様を選んだから、ボク達家族は巻き込まれた。
ゼウスが望む筋書きの中へ。
「はっきり言ってやろうか? ボクの中で【ヤマヌイ国】の評価は最低だ。女性の身体を傷付け、無理矢理力を得る方法を取るなんて最悪だ。
だから光希の父親である国主を許す事はできない。いや、風牙衆の長も同罪だ。ボクは薊達に言った。『人は、"こんな事"をしなくても強く成れる』ってね。
現に、薊達よりボクやローゼ、なによりも光希自身の方が強いだろう? それなのに、未だにこんな方法を選んでる。
"草"だから? "奴隷"だから? 何が違うって言うんだよ。同じ血が通う人間だ。存在の重さに違いなんて無い。
それに――見ただろう? 【イシュタル王国】の惨状を。人間至上主義を掲げ、暴君は20万もの王国民を惨殺した。
同じ事が【ヤマヌイ国】で起こらないなんて誰が言える? 薊達を作り出すのに、どれだけの犠牲を払った?
一人二人なんて数じゃない。遡れば、それこそ数万人を越えるだろうね? その間、国主の一族は気楽に生きてた。草がどれだけ死のうが、誰も気付かずにね。
それが職務だから? 職責だから? だったら国主自らやれよ。民を護るのが国主の仕事だろう? 政? なんで家臣も陪臣も護れてないんだよ。
統治できないなら辞めろよ。無能な王のせいで、国民を殺すなよ」
「お父上様は無能じゃありません!」
「じゃぁ、なんで薊達はこんなに傷付いてるんだよ!」
「それは....」
ボクは怒ってた。
光希にではなく自分に。
ボクは愚かで浅慮だから。
彼女が何もできないなんてとっくにわかってるのに。
"籠の鳥"
リアと同じ、光希も狭い視野しか持てなかった。
だから外の世界を知らないし、必要悪にも気付いていない。
ボクだって必要悪に対して理解できてる訳じゃない。
だけど、ボクの手が届くなら、救いを求める手を握ってあげたい。
ボクにとっての家族と同じ様に。
「教えてあげる。ボクの領地がなぜ女性だけなのか。ローゼ達には前に言ったよね? だけど本当は違うんだ。
『奴隷文化の撤廃』を望む。その事は変わっていない。でも――ボクの本音は、大切で、大好きな女性を、他の男に見て欲しくない。
嫉妬してしまうから、ずっと、ずっと独り占めしたかったんだ。誰にも渡さない。ボクだけの大切な宝物だから」
「だがそれは...」
「うん。ローゼの言いたい事はわかるよ。傲慢なんだ。ボクは、傲慢で不遜な子供。そして、光希も同じ」
「えっ....」
「光希も気付いていないだけで、わかってるはずだよ。ボクの言葉に言い返せなかったのがその証拠。
誰だってわかってるんだ。ひとつの国を護るのに、影で支える人物が必要だなんて事は。
『光が強ければ強いほど、影は暗く淀むんでしまう』
色々な事柄に当て嵌められる便利な言葉でね? 意味は――もう説明しなくてもわかってるみたいだね。
ボクは知って欲しかった。光希が抱いた想いの意味を。光希が国を出てまで何を欲したのか。
純血の血が欲しいんじゃないんだ。そんな使命感は捨ててしまっていい。【ヤマヌイ国】を想う気持ちは大事だけど、その前に独りの女性だって気付いて欲しかった。
だから、強く言った。そして――光希は気付けたよね? 自分が何を為すべきか。これからの時代に、薊達の様な不幸を背負う人はいらないんだ。
だって、人は強く成れるから。ただ前を見て、隣を歩く人と手を取り合えば、いつか高みに登れる。そういう希望をボクはみんなに抱いて欲しい」
全部受け売りだけどね。
お父様とお母様。それにローゼ達の。
生きる術を身に付けられたのは、みんなが居たから。
だからボクは生きてる。
「でも...私は何をしたらいいのかなんて...」
「大丈夫。全部ボクがやるから。薊達の事も、【ヤマヌイ国】の事も。『悪いようにはしない』なんて言うと怖く感じるけど、"誰も不幸にならない未来"をボクは望んでいるから」
それは一種の縮図なんだ。
ボクが想い描く世界は、国家間の戦争なんて無い、奴隷なんて居ない幸せな世界。
不可能に近いなんてわかってる。
生きている間には無理だと思う。
だけど、希望は持ちたい。
いつの日か、ボクの子孫が同じ様に願ってくれる事を。
「私を...私達を救ってくださるのですか?」
「ん? 救うなんて大袈裟だよ♪ ただ――薊達みたいな子は、二度と作らせない。あとは国主次第じゃないかな? 国の行く末を決めるのが、国主の役目なんだからさ♪」
ボクがこれまで以上に背負わなきゃいけない運命。
領民。これからは国民の命を護らないと。
家族と、ボクを慕うみんなの力を借りてやっとできる偉業。
それがボクが造る新王国なんだ。
「私は...光希は...返しきれない程の恩をカオル様に受けました。見えぬ目と、聞こえぬ耳を今のいままで持っていました」
「私も、姫様と同じく"カオル様に尽くさなければいけない"と、そう想いました」
「天音も...やっぱり"着いて行くならカオル様以外"考えられません!」
あ...これはヤバイ感じだ....
「草の身で――いいえ、我等が"思慕の念"を抱いてはいけないのだとわかってはいるのです。ですが...」
「胸が焼ける程のこの想い...」
「せつなくて、苦しくて....」
「忘れようとしていたあの想いを...」
「"カオル様が"想い出させてくださいました...」
ヤッチャッタ?
「やはり――光希はカオル様に輿入れしとぅございます!」
「千影も同じく!」
「天音もです!」
「か、身体を癒してくださると...おっしゃっていたではございませんか?」
「つ、つまり肌を晒すわけで...」
「ぼ、ぼぼ、房中術は手習いはしましたけど...実戦はまだで...」
「き、きき、生娘でも...良いでしょうか?」
「はしたないのは承知なのです...だから――」
「「「「「「「「もらってください!」」」」」」」」
おっし! 逃げよう! お腹減ってるけどそれどころじゃない!
「....待て」
「...逃げられると?」
「思って~?」
「いたのですか?」
「ごしゅじんさま~?」
「メッ!」
捕まりました。
ぐきゅる~と、お腹が鳴いております。
目の前にはご馳走が。
オレリーお義母様や、フラン達が丹誠込めて作りあげた豪華な食事があるのです。
だと言うのに!
いつかの密偵君達の様に、ロープで簀巻きにされたボクは食べられないのです!
これは暴挙じゃないかと思うんです!
ボクは権利を主張します!
なぜなら、ここはボクの領地で、ボクが領主だからです!
お腹が...空きました.....
「ご主人!」
「アイナ!」
「メッ!」
「ハイ...」
膝の上に座るアイナも、いつの間にか自分で食事ができるようになりまして。
今まではアーンを強請る可愛い子だったのに。
子供の成長は、斯くも早い事なのかと。
そんな事をおじぃちゃんは思っているんじゃよ?
じゃなくて!
本当に1日で年老いた気分だなぁ...
そのローストビーフ美味しそうだねぇ...
というか、ローストビーフ率が高くないかな?
誰かの好物かね? 今度聞いてみなきゃ。
「ほほぅ? フェイとロリババァになぁ...」
「はい、ローゼ様。ご主人様は【カムーン王国】でそれはもう傍若無人で――」
裏切り者のダメイドめ!
フェリスの思考なんか読めてるんだぞ!
オシオキして欲しいだけじゃないか!
オアズケに決まってるだろうがー!
「あら...美味しいわね?」
「本当ね~♪」
「美味しいにゃ♪ 美味しいにゃ♪」
「あの...シヴ様? もしかして【聖騎士教会】で"清貧を重んじる"とお告げになられたのって...」
「え? ああ、アレね。なんとなくよ」
「そんな!?」
「だって、私達今まで味覚なんて無かったもの」
「そうねぇ...神力を使い果たしてしまっていたものねぇ...」
なんか物凄い事口にしてるけど...どこのシルフだよ!
その神力を回復させたのボクなんだけど!?
感謝しろー! ごはんよこせー!
「グレーテル? なんでもケチャップ塗れにするのは止めなさい」
「でも...美味しいですよ~?」
「いや、スープにまで入れるのはどうよ...俺は無理だ...」
「フラウ? 食べてますか?」
「うん」
「あの"ジジィ"のせいで....こんなにも美味しい料理を何百年も何千年も食べられなかったなんて...ぐやじい"でずわ"」
妙に馴染んでるね!? ボクの守護勇士達は!!
主の危機だよ!? 助けてくれてもいいんじゃよ?
「アッハッハッハ!! そうかい? あんた治癒術師かい!」
「はい♪ おねぇちゃんは治癒術師なんです♪」
「ちょっと、お姉ちゃん恥ずかしいよ」
「ハムハム...」
メリッサもあっという間に馴染んでるし。
カルアは胸を反らせて大酒飲んでるし。
エリーは...まぁ普通だけど...
エルミア? ボクの髪を『ハムハム』スルナー!
そして、なんか期待した目でこっちをミルナー!
光希も、千影も、天音も、薊も、香澄も、小夏も、早苗も、柚も!
あと、メイド4人衆もだー!
ボクはそんな節操なしに見えるのかー!
「ご主人?」
「アイナ...」
「メッ!」
「ハイ...」
うぅ...おなか減った...
だがボクはくじけないのだ!
さぁおいで...小鳥よ....約束は守らなければいけないんじゃよ....
「うんうん。アーニャ~?」
「は、はい!」
「ファルフに餌あげてくれる? 特に鶏肉!」
「エ? 小鳥が鶏肉を食べるのですか?」
「ファルフは雑食だからね~♪」
「わ、わかりました!」
本当は食べなくても生きていけるんじゃよ。
なにせエーテル体じゃからのぅ。
「あら? うふふ...よかったわね? 元気そうで」
ウェヌスが微笑ましい雰囲気でファルフを見てるけど、その一点だけは感謝しておくよ。
ファルフをくれたのは、他ならぬウェヌスだからね。
さーて...本格的にお腹空いてヤバイのですよぉ...
もうアレだね? 目の前の食事は諦めて、自分で獲って来るしかないね?
「アイナ?」
「ん!」
「ほっぺにソース着いてるから、こっち向いて?」
「ん!」
「チュッ」
「...ご主人!」
「あはは♪ 可愛いなぁ。"アイナは"」
それにしても、デミグラスソースハンバーグをグラタン形式で煮込むとは...
人形よ? キミの仕業だね? 味付けがまんまボクのだよ!
「さて、アイナ? ちょっと降りてくれるかな?」
「ん!」
ロープを極小の《雷衝撃》で焼き切り、そそくさと食堂からキッチンへ。
さらに裏戸から外へ逃げて、海へ向かう。
月夜の晩に海面に浮かぶ円い月。
狩猟、貞潔の女神にして、月の女神でもあるアルテミス。
処女神の1柱もボクの為に子供を生して、この世界から消え去った。
だけど因果は巡り、アイナの中に彼女は居る。
幽体、霊体の類ではなく、魂のひと欠片とでも呼べばいいのか。
ボクにもそこまではわからないけど、先代のアポロンに代わって好ましく思うよ。
また逢えてよかった。
我が実妹、アルテミスよ。
「天界に住まう1柱の神よ。絶遠の地より、その名を冠する極致の力を我に寄越せ!! 《暴風神》」
そして、第八階梯の風魔法が紡がれる。
この世界には存在し得ない天界の神。
その神力を魔力で再現させて、雷を伴う積乱雲の下で、地上から雲へと細長く延びる超高速な渦巻き状の上昇気流が発生する。ソレは《風竜嵐》を越える大竜巻。
何者にも抗えぬ、国すらも呑み込みズタズタに切り裂き全てを吹き飛ばす力。
ボクはただ――お腹が減ってムシャクシャしていただけなんじゃよ!
ついでに豊漁じゃー!
お魚をゲットするんじゃー!
巻き上げられた食料を《魔透糸》の先端で触れて認識。
急所の頭を一突きに、エラも削り取って即座に絞める。
見えない糸が血に染まり、まるで触手の様で、なんともウネウネ気味が悪い。
そうして《魔法箱》へ引き寄せ仕舞い、しめしめとほくそ笑む。
なにせ膨大な食料、様々なアイテム、鹵獲してきた魔導具が犇く《魔法箱》は、ひと財産どころの騒ぎではない。
【聖騎士教会】の国家予算四分の一を受け取ってある?
風竜からお小遣いを貰った?
シャンプー、リンスの売り上げ?
フフフ...今やボクの《魔法箱》の中身は、その云十倍もの資産を有しているのだ!
むしろなんでもできるんじゃよ?
これからも稼ぐんじゃよ?
"色々"造り作るんじゃよ?
子供に遺産を残すのじゃー!
「シュパパっとね~♪」
マグーロをシルさんの包丁――だと刃渡りが足りないので、鋼鉄のインゴットで錬成...も面倒だから《魔透糸》で解体だ!
《魔法箱》から簡素なテーブルを取り出し、3m近い小型のマグロを乗せて解体する。
頭に大トロ、中トロ、赤見に中落ち。
5枚おろしにするから、カマトロも...ハラスも...フフフ....
油で切れ味が鈍る包丁なんて無用なのじゃよ。
時代は糸じゃ!
なにせ、いつでも消せるし自由自在! 針金? てぐす? いいえ、魔力の糸です!
ま、使えるのはボクだけなんだけどねー。
宣言通り、シュパパっと捌いて魔導コンロで沸かせたお湯を使って湯引き&急速冷蔵漬け!
ソレは後の楽しみに、《魔法箱》から酢飯を取り出しサク切りにしたマグロをニギニギ。
もちろんアゥストリ考案、《魔透帯》で空中で。
糸より帯の方が握るのに適していたんじゃよ~。
「いただきます!」
中空に浮かぶ《光球》の明かり。
ズラリと並んだお刺身に、炙り。
お寿司ももちろん準備して、ハラヘリなボクは一心不乱に食い付いた。
口の中に広がるとろみ。
甘味、酸味、とにかく空腹というスパイスさんが大活躍し、「美味しい!」の一言。
そうしてマグロを満喫しつつ、緑茶で口内と喉を潤す。
だけど忘れていたんだ。
マグロって...油が多い事を。
(小食のボクでもさすがにキツイ...)
そこでとりいだしたるお茶碗君!
何をするのかって?
御茶漬けに決まってるじゃないか!
微妙な加減の漬けマグロを使ったマグロ茶漬け。
味の程は....普通でした。可も無く、不可も無く。
漬け時間が足りないね! せめてあと3時間...
ま、そんな事はどうてもいいんじゃよ~♪ 満腹満腹♪
残りのサクを急拵えの蒸し釜に吊るして、ボクの領地のどこにでも生えている――なにせ重税で見捨てられた領地だから、田畑が荒れ放題――ハンノキを細かく裁断!
アルダー(ハンモク)スモークチップとして、大活躍なのだ!
え? 花粉や喘息が気になる? 油が多いから乾燥させないと?
ハハハ! そんなものは、《浄化》で一発なのだ!
魔法って素晴らしい!
そして、ここ最近ボクの頭もおかしい....
まぁねぇ...理由はノワールの身体と交換してからだよねぇ....
あれだよねぇ...ボクの魂も穢れてしまったんだろうねぇ...
自作の燻製機の前で独り言を呟き続けるボク。
とても12歳には見えないだろう。
外見は女性寄りの男の子だけどね。
中身は老年のおじぃちゃんだけどね。
「出ておいで? クロ! アカ!」
影から這い出す2頭のドラゴン。
体躯20mの可愛い可愛い幼竜。
産まれ出でてもうすぐ1日。
無邪気に「グルル」と嘶く姿は、どこか可愛気があって大変結構!
「よーしよしよし。そんなにじゃれ付かないでいいんじゃよ?」
左右から頭を擦り付けるクロとアカ。
常人なら竜鱗で肉が抉られ致命傷。
それでも今のボクは全然平気。
なぜなら"神"なのだから!
ま、そのうち風竜とか土竜みたいに身体軟化を覚えるじゃろう。
そうすればみんなと遊べるね!
もっとも――害意に敏感だから、心許せる相手以外には近づかせる事もないだろうけど。
「うんうん♪ 仲間を増やしてあげるよ~♪」
そうして、《魔法箱》から2つの丸い珠を取り出す。
【マーショヴァル王国】で試験的に作られ、大失敗した代物。
アスワンの根城から鹵獲してきた、竜核。
クロとアカにも埋め込まれている、唯一の弱点にして逆鱗。
触れればこの子達は自我を失い暴れ回る。
ま、誰にも触れられないけどね。
「我ここに盟約を交わさん。我が名は香月カオル。森羅万象に存在せしマナよ。ここに命の息吹を与えたまえ。《使い魔生成》
唱えた魔法は土魔法の《建築創造》や、《不死乃土塊》。そして《製作欲求》に似ているけれど少し違う。
分類上は召喚魔法に属し、ノワールを作り出した魔法。
だけど、使用した核が桁違いの強さで、使い魔だけど使い魔じゃない。
立派な固体として自我を持ち、"血の盟約"ではなく、"知恵の盟約"。
この子達は、ボクの知恵を糧に育っていく。
だからこそ、幼竜なのに体躯20mもあるんだ。
いずれ、立派な成竜へ成長を遂げるだろう。
風竜や、土竜と同じ様に。
「おはよう? シロ? アオ? ボクは君達を歓迎するよ?」
オーシャンブルーの様に鮮やかな蒼いブルードラゴン。
白雲の様に純白のホワイトドラゴン。
属性竜と呼ばれる中級上級竜種とは違う、人工の色彩竜種。
元々、この子達はちゃんとした中級竜種だった。
それを駆逐し、無理矢理錬金術で竜核へ封じ込めた。
でも、失敗したんだ。
創造者が"正確な遺伝子情報"を持って居なかったから。
だからこそボクは作り出せた。
竜人の血が流れるボクが、ね?
「「グルル」」
クロとアカを見て、対抗心を燃やすシロとアオ。
この4頭がボクの国を護る守護竜にして、その名を冠する王国と名乗る。
"竜王国"。そう、"竜王国"と呼ばれる"魔科学文明"を持つ世界最先端技術の小国だ。
だって、ボクの手には余るから。
大国なんてムリムリ。そういうのは、ボクの子供達がやればいいんだ。
ボクはここで大好きな人に囲まれて一生を終える。
その前にやるべき事は沢山あるけど、そのあと――未来への希望は持ち続けたい。
欲深い人間だからね♪
「ほらほら! 喧嘩しないの! 遊ぶんだったら、海で遊んでおいで? 外壁壊しちゃダメだよ? あと、咆哮は禁止! 危ないからね♪」
「「「「グワァ!!」」」」
『行って来ます!』みたいに嘶いて、バッサバッサと飛び立つ幼竜。
産まれたてのシロとアオが覚束無い足取りで、クロとアカが『やれやれ』って引き摺って行った。
なんだか、お兄さんと弟君みたい。
ま、性別なんて無いけどね~。
「それで? いつまで隠れているのかな?」
防風林代わりに植林された海と街の境目。
もちろん宮殿からは距離もあるし、短時間でここまで来るには馬に乗る為り、飛ぶ為りしないといけない。
だからボクは《飛翔術》で飛んできた。
「マスターをお護りするのがルル達の使命」
「そうだぜ? マスター!」
「...マスター? 燻製食べたい」
「私はマスターをお護りする盾なのですから」
「マスター護る」
「ワタクシはマスターの物であって、存在意義なのですわ! ですから、マスターのお傍を離れるなんて事できませんわ!」
相変わらず話の長いソフィア。
ルルがグレーテルに注意して、エルザは踏ん反り返ってた。
マリアの忠誠心は嬉しい。でも、フラウはなんだか落ち着かない感じ。
理由はわかってる――というより、"読めて"る。
明日くらいには身体に馴染んでいるといいな。天羽々斬。
「まぁ丁度良かったよ。みんな? こっちへおいで。そして傅け。ボクじゃ身長が届かない!」
《魔法箱》から夕方に出来たばかりの首飾りを都合6つ取り出す。
5つは神鉄金属製の鎖に金・銀細工の意匠を凝らした小指ほどの長さの板。
もう1つは、魔鉄金属製の鎖で同様の物を。
彼女達だけの唯一の品。
「さて、では言ってみようか? 《心を高く掲げよ》」
「「「「「「《心を高く掲げよ》」」」」」」
一瞬、彼女達の身体がぼんやり光る。
そして次の瞬間姿は――装備は更新されていた。
「じゃぁ、手短に説明しようか♪」
そうしてボクは語り出す。
ルルの姿はノースシー色のドレスシャツに、ノクターン色のフレアスカート。
首のリボンに併せてその上から黒いコルセットドレスに腰へ帯剣した姿。
右腰に下げた革製のポーチとベルトに銀線細工を施してある。
グレーテルの姿は、うちの学校の制服をそのまま採用した。
色使いは違うけれど、白いシャツに紺色のブレザーとスカート。
ニーソックスにブーツを履いて、篭手と肩当、脛当は全て白銀製の軽い物に、神鉄金属を吹き付けコーティングされている。
なにより、背中の聖剣アスカロン。
小柄なグレーテルには大剣に見えてしまうほど大きい。
ソフィアは露出を多目に。
白いミニのワンピースに青糸と、金糸でラインを引いて、腰の白い飾り布は裏地を赤で少し長めに。
篭手と、腰当。爪先から太股まで一体式構造の脛当。こちらもグレーテルと同素材。
聖槍ガエボルグに相応しい装い。
フラウは――もう凄い事になった。
製作意欲が刺激され、上腕甲肩当、脛当。
髪飾りまで全て青で統一され、金線細工が茨の模様を描いている。
もちろん、死神の大鎌も同様に。
ただ...網タイツとコルセットドレスはやり過ぎたかもしれない...冷酷なエロスが誕生した。
マリアは物凄く純朴だ。
ドイツの民族衣装をモチーフに、白いドレスシャツとフラウに合わせた青いワンピースドレス。
腰から飾り布を巻いて、スカートの裾から白いレースが覗いたり。
ちなみに、聖盾イージスは持っていない。
思念だけで、《聖結界を発動できるから。
むしろ、この地からマリアが出る事も無いし。
最後にエルザ。
フフフ...やってやったんじゃよ?
「オイコラ! マスター! なんだよこれ!?」
「可愛いじゃろう?」
お願いされた通り、白い騎士服を用意してあげた。
篭手も、腰当も、脛当も。
おまけに騎士盾を付けてあげたのだ!
そして――
「可愛いとかいらねぇんだよ! カッコイイの寄越せよ! なんでこんな胸が強調されるデザインなんだよ!」
フハハハ! なぜなら、エルザを"女勇者風"にしてみたかったからじゃよ!
カワカッコイイよ?
「ま、エルザは放って置いて、ルル?」
「はい。マスター」
「聖剣デュランダルは、今まで通りボクの傍に置いておきたい。ルルはみんなと違い、彷徨い続ける運命を背負っていたから。先代のアポロンによってね。
だから、ボクはずっと腰にルルを帯びていたい。代わりに"その剣"を使ってくれる? 銘を打つなら、兄妹剣のジュワイユーズやカテーナがいいんだろうけど、ボクはこう呼びたい"聖剣カリバーン"と」
なにせデュランダルを模して作ったからね。
幅広の剣にそれらの名前は似合わない。
カリバーンだって、いずれエクスカリバーと呼ばれる代物でもある? んだ。
だから、ボクは敢えてそう命名したい。
「...畏まりました。ルルの願いをマスターに叶えていただけて感謝いたします」
「うん。ずっとボクの傍に居てね?」
「はい」
「みんなも、これからよろしくね?」
「「「「「おまかせください。マイマスター」」」」」




